天才科学者の異世界生活~だからヒモだっていったじゃん!~

石の森は近所です

第08話、怪しいメイドと金貨とステータス

階段から下りて来たのは、冒険者ギルドの受付嬢ミリーさんだった。


いつもは茶色い髪を後ろで縛って、ポニーテールにしているけど、
今日は髪を下ろして肩をすっかり隠したミディアムにしていた。


「あれ、ここってミリーさんの家なの?」


俺が尋ねると――。


「お姉ちゃんから聞いてなかったんだ?」


いや……全然聞いてないし。


「この前はそんな余裕無かったからね――お互いに」
「ふぅ~ん。話はお姉ちゃんから聞いたよ!助けてくれてありがとうね!」
「偶然通りかかっただけだしね……」


「ミリーもう行かないと遅刻しちゃうんじゃない?」
「あっ、そうだね。それじゃぁ~キラ君、またねっ」


何か慌しく駆けて行った。


「ラミリーさんに、ミリーさんね……似た名前だとは思ったけど――」
「冒険者をやっていれば知っていて当然よね~店の2階が住居になっているんだけど、丁度この前は留守だったのよね……」
「そうだったんですね、でも良く見れば本当に似ていますね!髪の長さも瞳の色も」
「まぁ~これでも姉妹ですからねぇ」


ウインクしながらそう言う、ラミリーさんはとても魅力的に見えた。
いやぁ~ミリーさんも可愛いけど、大人の魅力満載のラミリーさんも捨てがたい!
そんな話をしていると、またお客さんが入って来て忙しくなった様なので俺も御暇する事にした。


「それじゃ、ラミリーさんそろそろ帰りますね。今日はご馳走様でした。本当に美味しかったです」
「ごめんねぇ~もっと話したかったんだけど……」


そう言いながら、他のお客さんを見回す。


「いえ、また来ますね!」
「絶対ね!次は色々お話しましょう」


名残惜しい気持を振り切って、お店を後にした。
俺ってもしかしたら……姉さん女房とかそっち系がタイプなのかも?
ニヤケながら暗い路地をしばらく歩いた。
この暗がりで誰かに見られる心配も無いしね!


しばらく余韻に浸りながら夜道を歩いていると――。
いつの間にか貴族街を歩いて居た様で……流石に貴族に見られたら勇者だとバレルかも知れない。
そう思い光学迷彩を発動させ歩いていると、目の前から人が歩いてきた。
流石に、透明化していても足音までは消せない。
俺は、その場でやり過ごす事にしたのだが――。
月明かりに照らされた顔を正面から見ると、何処かで見た覚えのある女性だった。
あれ?
何処で見たんだっけ――。
あっ、今朝じゃん!
俺にパンを持ってきた女性だった。
でも、何でこんな暗くなってから王城から外に出ているんだ?
俺も人の事は言えないけどさ……。


すれ違い様に、他心通を使ってみると――。


≪はぁ~こんな夜道、歩くの嫌だなぁ。頼まれた仕事の報告を毎日しなくちゃいけないなんて……大体、旦那様は何であんな勇者を気にしているのかしら?王様でさえ感心が薄れたのに……≫


へぇ~これからあのパンをくれた旦那様っていう人の屋敷に行くのか……。
これは、後を付けるしか無いよね!


俺は、透明化を維持したまま神足通を使って3m位飛び上がった。
流石に、透明化、飛行、他心通の3つ同時発動は出来なかった。
もう少し、この女性の心を読んでみたかったけどこればかりは仕方無い。


女性は大通りにある、かなり広い屋敷に入っていった。
流石に、屋敷の中に入ったらばれそうだ……。
しばらく外から見ていたが、カーテンの閉まっている部屋ばかりで誰に会いに来たのかまでは分らなかった。


今日は、ガルムの相手をしてかなり神経も使い疲れているから。
また今度、ここに来る事を決めてそのまま小屋に帰った。


ベッドに横になると眠気も限界で、あっさり意識を手放したのだが……。
眠って少しすると体中に激痛が走った。
ベッドにうつ伏せになり、顔をシーツに付けた状態でジッと我慢する。
この前より強烈だな……。
そう、レベルアップである。
かなり高レベルの魔物だった為に、成長に体が悲鳴を上げていた。


そんなに時間は経っていない筈だが、痛みは永遠にも感じられる。
俺は、そのままの体勢で気絶した。


目が覚めると、朝になっていた。
寝ていても体は勝手に成長していた様で……。
体中に汗をびっしりと掻いていた。
一先ず顔を洗おう。そう思い、井戸に向かった。
桶に汲んだ水で自分の顔を見てみると――げっそりしていた。
俺まだ16歳なんだけど……なんか疲れきった親父みたいじゃね?
そんな馬鹿な事を考えながら、顔を洗っていると……。


「おお、勇者殿。大分お疲れの様ですな」


誰?このチビ――。


「申し遅れました。私、ミラー伯爵家のドレスヴェン・ミラーと申します。陛下からこの国の西南地区を任されております」


うわぁ~俺より10cmは小さい上に、禿げてるよ!
俺の身長が168だから……日本の一般的な女子とかわんねぇ~。
この世界でも小さい方なんじゃねぇ~のか?


「それで、その伯爵様が何の用で?」
「私は勇者様の価値を見誤ってはおりません。付きましては何か有用な技術などありましたらお教え頂きたいのです。無論、ただでとは申しません」


成る程ね……。


「この世界に何があるかは知らないけど、ワイヤーとか金属で曲げられる程細いものはあるの?」
「私共貴族の服に使っている、柔らかい金属なら御座いますが――」


それなら早い。真鍮で出来た釘がこの世界にあるのは街に出かけていて気づいていたからな。


「じゃ~それを30cm程と、レモンを1個。後は真鍮の釘を10本用意してくれ」
「それで何が出来るので……?」
「口で言っても分らないと思うからさ――」
「わかりました。明日までに用意しておきましょう」
「今日はパンは無いのかな?」
「おぉ、そうでした。直ぐにメイドに持たせましょう。それではまた明日」


そう言ってミラー伯爵は王城の方へ歩いて行った。
え?何をする気だって?
それは……明日のお楽しみでしょう!


昨晩の寝汗で体がべた付いて気持悪い。
体も拭いとくか。
湯屋で買ったタオルを濡らして体を拭いた。
これ朝やるものじゃないね。
かなり寒いんだけど……。


さて、昨日の報酬を貰いに冒険者ギルドに行くか!
俺は、光学迷彩を使って一気に城を飛び越え、冒険者ギルドの建物の裏手に降り立った。


正面のウエスタンドアから中に入ると、受付には茶色い髪をポニーテールにしたミリーさんが座っていた。
クリクリしているブルーの瞳は何か眠そうで、目の周りには若干のクマまで出来ていた。


「あれ、ミリーさんもう遅番は終わっている時間じゃ?」
「あっ、キラ君おはよう。昨日は有難うね――もう聞いてよ、エリッサさんが急にお休みしちゃって、もう大変なんだから……」
「あ~やっぱり?」
「そう言えば聞いたわよ!何でも凄く強い魔物を倒したんですって?」
「倒したというか……勝手に倒れたといいますか……」
「とにかく、昨日案内した倉庫で副ギルドとギルド長が揃ってキラ君を待っているから――そっちに行ってみてくれるかなぁ?」
「うん、分った」


ギルド長とか――異世界ものの定番来ちゃったよ!


俺は一度外に出て、建物の横手に向かった。
昨日入った扉を開け中に入ると、そこにはレイブンさんと――。
綺麗なギルド長を期待していたのに、白髪の髪を短く切ったお爺さんがいた。


「おぉ、待っていましたよ。キラ君。昨日はうちのエリッサが失礼したね、ギルド長こちらがガルムを討伐したキラ殿です」
「ほぉ~この少年がのぉ~」


白く伸びた眉毛の隙間からのぞく茶色い瞳が、探るような視線で俺を見る。


「初めまして、キラと言います」
「うむ。とてもBランクの魔物を倒せる様には思えんが、ああして証拠もあるしのぉ~認めよう。それで報酬の件じゃが、今は出ていないが依頼が出ると金貨3枚の報酬になる。他に皮の買い取りと爪、牙の買い取りを全て合わせると、金貨で8枚じゃ。魔石も売ってもらえると更に金貨10枚を追加で支払うんじゃが……どうする?」


それって日本円に換算すれば80万って事か?
この世界では金貨1枚が銀貨10枚、銀貨1枚が銅貨100枚らしい。
なので、金貨1枚は10万円相当となる。


魔石の売却は今の所、考えていない。


「魔石以外は売却いたします。宜しくお願いします」
「魔石はダメか?」
「すみません、俺も珍しい魔石らしいので手元に置いておきたいのです」
「それは……致し方無いのぉ~無理強いは出来ん。では後は、レイブンから話を聞いてくれ。次も期待しとるぞ」


ふぉふぉふぉと、軽い口調で笑いながら奥の通路から中へ戻って言った。


「では最初に、こちらが金貨8枚になります。それと、流石にガルムを討伐出来る冒険者をこのまま最低ランクには置いておけないと、ギルド長が仰いまして――特例ですがFからCに昇格となります。それに伴ない受けられる依頼のランクも上がりますので、お気をつけて……」


依頼の件はミリーさんから聞いてくれと言い残し、ギルド長の後を追う様に奥の扉へと入っていった。


一気にお金持ちになった訳だが……昨日のスライム討伐がまだ未達成なので、ミリーさんにその事を伝えてギルドを後にした。


ギルドの裏手に回り、姿を消して飛び上がった。
さぁて、今日は何も無ければいいけどねっ。












         ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞




「どうであった?」
「はい。この建物の裏手へと歩いていきましたが――途中で姿が消えました」
「ふぉふぉふぉ。やはり勇者殿であったか……。あちらはわしの姿を見ても覚えては居なかったようじゃが」
「では、彼がギルド長が会った勇者で間違い無いのですね」
「うむ。ヒモだなどと変な噂が先行しておるが、中々どうして――陛下も他の貴族達も一杯食わせられたと言う訳じゃの。ふぉふぉふぉ」
「では、ギルドとしては如何いたしましょう?」
「うむ。波風立てる事もあるまい。この国に謀反を起さない限りは静観致そうではないか。勇者殿は何か面白い事をしてくれそうな予感がするでのぉ~」
「ギルド長のお心のままに――」


ギルド長は、陽気に笑いながら手元の羊皮紙に視線を落とした。










         ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞






俺は、昨日と同じ草原に来ていた。


レイブンさんの話では、この林にガルムが居たのは偶然で普段はこの辺りにはいないらしい。
そんな話を聞かなければ――。
2度と、ここの林には足を踏み入れなかったけどね!
そうと決れば、サクッとスライムさんを倒しちゃうよ!


上空10m辺りから、不自然に林が揺れ動くのを探す。
おっ、動いた……ゆっくり降下し近づくと緑色の固まりが見えた。
俺は剣を逆手に持ち、着地と同時に突き刺した。


すげ~簡単じゃん!
こんな楽な狩りでお金が稼げるなら、いう事無いね。
実際は、昨日ガルムを倒してレベルアップしているからなのだが……。


ちなみに今の俺のステータスはこれだ!




●鷺宮 煌
年齢 ――16
レベル―― 28(270)
生命力――1430/1430
魔力 ――2260/2260


力  ――30
敏捷 ――15


ユニーク――『神足通』『他心通』『観察眼』『……』『……』


取得魔法――『なし』『なし』『なし』『なし』『なし』『なし』




すげ~俺、滅茶苦茶強くなってねぇ?
生命がこれだけ高かったらまず死なないでしょ?
魔法がまだ使えないから、魔力が高くても使い道が無いけどさ――。
レベルの横の数字は何やらポイントの様だ。
ポイントを強く意識して力に150、敏捷に120と考えると……。
あら不思議?
力が30⇒180に。
敏捷が15⇒135にあがった。




●鷺宮 煌
年齢 ――16
レベル―― 28
生命力――1430/1430
魔力 ――2260/2260


力  ――180
敏捷 ――135


ユニーク――『神足通』『他心通』『観察眼』『……』『……』


取得魔法――『なし』『なし』『なし』『なし』『なし』『なし』




魔法ってどうやったら覚えられるんだ?
後で、ギルドで聞いてみよう。



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