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Heat haze -影炎-

石の森は近所です

第37話、誘拐事件

『ご主人はいつまで寝ておるつもりじゃ?』


 雪は確かにわき腹に温かい感触を受け、倒れた。


 だが、レーザーが当った場所からは血が出ている訳でも怪我をした訳でも無い様である。


 冷ややかな視線で見下ろしていたのは、無傷なのに倒れた雪を呆れ眼で眺めていたかららしい。


 でも一体どこからの攻撃なのか?


「あれ? 確かに体を熱が通った気がしたんだけど……」


 雪は上半身を持ち上げわき腹の辺りを手で触るが、服が破れているだけで一切の怪我が無い事を知ると、周囲を見回した。


『レーザーも次元の関係でパンには効果は無い。だが……その熱の片鱗だけは伝わった様だな』


 ファウヌスの説明で納得はしたものの、他の皆は呆れて冷たい眼差しを向けている。


「雪、心配した」


「まったく驚かせないでよ!」


「はぁ、本当ね……久流彌少尉は……」


 えっ? 栗林大尉、途中で言葉を止められると不安になるんですが――。


 女子達からの説教を貰っている間、ファウヌスは周囲を隈なく監視していた。


『余程、射程の長い攻撃だった様じゃな。我の監視の外から放たれた』


 ファウヌスも、今の攻撃には反応出来て居なかった。


 まったくの予想外だった様である。


 ステイツのヒートヘイズを全滅させた事で、軍の監視衛星からこの様子を窺っていた軍本部から栗林大尉達が乗ってきた高級車へと無線が入る。


『――ザーザー……こちら保土ヶ谷、栗林大尉聞こえますか?』


 栗林大尉が無線を取ると、今回の事情説明に軍本部まで出頭せよ!


 そんな命令が下ったのである。


 幸いにもファウヌスのお陰で都内への被害はゼロであった。


 雪達が車に乗り込んでいる最中に、雛を近くのシェルターに送り届けた燈が戻ってきた。


 到着するなり――。


「あれ? 敵のヒートヘイズは?」


 一同、苦笑いを浮かべながら、燈を見つめて居たが、


「それなら久流彌少尉のファウヌスが全て片付けたわよ」


 栗林大尉がおどけた様に、燈に説明した。


「えっ、だって1000は居たんでしょ? どうやって……」


「どうやってかしらね……。あんな戦闘を見せられた後では言葉も無いわね」


 答えになっていない説明を聞かされ、燈は妹の水楢に尋ねているが、まずはいつまでもここに居る訳にもいかない。


 またいつレーザーで狙われるか分らないのだから。


 全員で高級車に乗り込み、お台場から首都高を通って保土ヶ谷へ向かった。


 保土ヶ谷の軍本部では、蜘蛛の子を突っついた騒ぎとなっていた。


 雪達を出迎えたのは、神軍の総責任者である武田中将閣下であった。


「まずはヒートヘイズの迎撃ご苦労だった。まさか那珂の島に続いてまたしても被害をだす所だったが、君達のお陰で難を逃れる事が出来た。これで都内に被害が出れば、我が神軍に対する風当たりが益々酷くなる所だった。だが、今回の事で平和ボケした頭のおめでたい連中もパンの増強を考えざるを得なくなるだろう」


 武田中将閣下からお褒めの言葉を賜り、早々に退散しようと扉に向かったのだが、それを閣下に止められた。


「あぁ、言い忘れていたが……今回の功績を鑑みて4人を昇格させようと考えている。追って連絡が行く。楽しみにしていいぞ」


 栗林大尉が敬礼を行い、皆もそれに倣った。


 軍本部から外に出ると、ハイヤーが用意されており雪達はそれで浅草まで戻る事になった。


 栗林大尉と燈は明日も軍本部での仕事があるらしく、近くのホテルへと向かっていった。


「しっかし本部の雰囲気は、僕には合わないな……」


「うん。私も」


「そう? あたしはそんな感じは受けないけど……」


 水楢の様な優等生からすれば、エリート集団の雰囲気の中でも呑まれる事は無いらしい。


 雪からすれば、優秀な人材の中にいるだけで落ち着かないのだが……。


 そんな会話をしている内にも、ハイヤーは浅草に到着した。


 既に戦闘終了から4時間が経過し、夕方に程近い時間になっていた。


 雪達が実家に戻ると、店の奥から小走りに雛がかけて来る。


「お兄ちゃん! 大丈夫だったの?」


 一応は心配してくれていたらしい。避難命令が解除されシェルターから地下鉄を使い浅草に戻ってきた雛は、状況を知る為にテレビのチャンネルを変えまくってお台場の様子を知ったらしい。


 今回の襲撃の模様は、お台場にあるテレビ局がほぼ独占で録画しており、そこにはステイツの1000を超えるヒートヘイズ相手に戦う、ファウヌスの姿がはっきりと映し出されて居た様だ。


「それがね雛ちゃん、あたし達の出る幕が無いほど、雪君のヒートヘイズが凄かったのよ……」


 水楢が雛にそう漏らす。


「あのおっきなヒートヘイズがお兄ちゃんのヒートヘイズなんだ……」


 当然、テレビで情報を仕入れていた雛も、誰のヒートヘイズかは分らなくとも、味方の分別くらいは出きる。


 一方的な強さを見せ付けたヒートヘイズが兄の操るそれと知り、嬉しそうである。


「なぁ雛、パンになるとあんな怖い思いをしなければいけなくなるんだぞ。今回は勝てたけど、次も勝てる保障なんて無いんだ」


 雪は嬉しそうな面持ちを浮かべている雛に釘を刺す。


 先日の雛であれば、反抗期か! という位、ここで雪に食って掛かった筈であるが、テレビでヒートヘイズの大群を見て恐れを抱いたのか?


「うん。分ってる。雛ももう少し考えてみるね」


 そう言葉を告げ、部屋へと戻って行った。








   ∞    ∞    ∞    ∞    ∞


 ――ネバダ州エリア51


「まったくなんたるザマだ! 那珂の島に続いて、東京侵攻作戦までも失敗に終わるとは……」


 牧田博士にパンの研究をさせ、ヒートヘイズを軍の柱へと成長させた立役者のアダムス大佐は偵察部隊からの報告を受け憤っていた。


 事故で牧田が死ななければ、こんな無様な失態を晒す事も無かった。


 だが牧田が先の暴走で死んだと目されている以上、残された研究員を使いヒートヘイズ、パンの研究を進めるしか無い。


 日本と技術協力を結べれば、こんな真似をせずに済んだ。


 だが虎の子の天羽々斬の技術だけは、日本はどうあっても手放さない。


 今回の侵攻失敗で多くのパンが死んだ。


 恐らく、今後同じ様に侵攻してもSランクのヒートヘイズによって敗れるのは目に見えている。


 アダムス大佐は、今回の失敗で降格が決った。


 万一このまま増強が出来ない事態に陥れば……更なる責任を取らされ、せっかく築いた地位を全て失いかねない。


 牧田博士の研究は資料で、ある程度は知っている。


 最後の賭けに出るか……。


 アダムス大佐はパン同士の子供を急遽増やすべく、行動を開始した。


 それが何を巻き起こす事になるのか、理解もしないままに……。




   ∞    ∞    ∞    ∞    ∞




 お台場侵攻作戦から2日が経ち、雪達の日常も戻ってきていた。


 この冬休みに雪が行ったのは、横浜、お台場であった。


 次は何処がいいか?


 そんな話題が昨夜あがり、癒しを求めて水族館とアトラクション等を楽しめる大型のテーマパークに行く事に決った。


 今度の場所は、お台場から程近い舞浜である。


 雪、水楢、珠恵、雛の4人は早起きをし電車を乗り継いで、目的地の舞浜にやってきた。


 冬休みだというのに、先日お台場が襲撃された事で観光客が少なく、普段は1時間待ちのアトラクションも10分も並べば乗る事が出来た。


「やっぱり人が少ないわね」


 何度も来た事がある水楢がそう言葉を漏らすが、雪、雛、珠恵は初めてで、現在の来場者が多いのか少ないのか分らない。


 ただ水楢がそういうならそうなのだろうと、皆あわせて首肯していた。


 朝から昼までアトラクションで楽しんだ一行は、このテーマパーク内の食堂で軽めの昼食を取っていた。


「それにしても朝ごはんを抜いてきて正解だったな」


 雪は絶叫系の乗り物を水楢から勧められ、朝から顔色が悪くなる程のGを感じまくった。


 朝食を食べていれば、もどして居たかも知れない。


 雛と珠恵は運動が得意なだけあり、楽しそうであった。


 4人の中で唯一、運動部でなかったのが雪なのだ。


 げんなりした面持ちを浮かべ、雪が言葉を零す。


「雪君って本当にこういう乗り物とか苦手なのね」


 水楢がからかう様に告げるが、苦手なものは仕方無い。


「あぁ。真っ直ぐ進むだけならまだしも、アップダウンが激しいと胃にくるんだよ」


 絶叫系が苦手な人の殆どは、落下時の胃へのダメージが堪える人である。


 胃が揺さぶられても平気な人は、絶叫系向きといえるだろう。


 そんな会話をしながら、午後に回るパンフレットを皆で見ていると、


 少し離れたテーブルに座り、サングラスをかけた3人組の社会人と思しき男女が視界に入った。


 サングラス越ではっきりとは分らないが、日本人の顔つきとスーツ姿である事からここのテーマパーク関係者かと思われた。


 大晦日を明後日に控え、連休前の挨拶回りでもしているのだろうと雪達はいぶかしみながらも視界から外した。


 午後になり、雛が希望したおばけ屋敷探検や、キャラクターと遊ぶイベントに混ざり雪達4人が記念写真を撮影してもらっていると――。


 先程、食堂で見かけたスーツ姿の3人をまた目にした。


「なぁ、世の中のサラリーマンってこんな所で油売っていていいのか?



 会社員が仕事をサボって居る様にしか見えず、雪が水楢に問うが……。


「さぁ、最近関西に出来たテーマパークのスパイとか? あれでも仕事中なのかもよ?」


 他店舗の状態を観察するストアコンパリゾンは、外食産業では普通に行われている。


 そんなものかと思い、雪が3人に視線を向け憐憫のまなざしを送る。


 この時に雪達が本当の意味で軍属であったなら、彼等の立ち居振る舞いで一般人でない事に気づけただろう。


 雪達はまだ学生の身で、諜報や軍にそこまで深入りしていない。


 よってこの連中の狙いが、このテーマパークでは無く、雪達だった事には気づけなかったのである。


 夕方になり、夜からは豪勢な花火が打ち上げられるイベントが始まる。


 既に乗り物は終了しており、来場者は一斉にテーマパークの目玉である、お城の背後から打ち上げられる花火を特等席で眺めようと場所取り合戦が始まっていた。


「じゃ雪君、ここの場所お願いね!」


 4人で座てれ、かつ見晴らしの良い場所を確保した一行であったが、場所を確保するのを優先させた為に飲食物を購入していなかった。


 それで水楢と珠恵と雛で、買いに行く事になった。


「あぁ。心配しなくても場所取り位、僕にだって出きるさ」


 水楢に念を押され、子供じゃ無いんだからと雪が苦笑いで答えた。


 3人が離れていく様子を、席に座りながら眺めていると偶然にもスーツ姿の3人をまたしても見かける。


 こんな時間まで仕事か……サービス業も楽じゃ無いんだな。


 そんな風に、気楽に考えていたのだが……。


 最初に雪の元に戻ってきたのは、珠恵だけであった。


「ごめん、雛ちゃん。消えた」


 雪の元へ戻るなり、額に大汗を掻いているのに青い顔色で謝罪を口にされた。


 一瞬何の事か分らず、呆けるが――。


「澪、探してる」


 そこで雛が迷子になったのだと思い立つ。


「迷子になったんなら放送で呼び出してもらえば……あ、雛も携帯もってるよ。掛けて聞いてみよう」


 だが珠恵の表情は変わらない。


「電話、通じない」


 既に試した後だったらしい。


 それでも雛だってもう中3だ……その歳で迷子は無いだろうと思って雪は楽観的な気持で構えていたのだが。


 背後から人が駆けてくる足音が聞こえ、振り向くと――。


「ごめん、雛ちゃん見つからなかった。そっちは?」


 水楢も珠恵と同様に大汗を額に浮かべながら、戻ってきた。


「どこかでお土産でも買っているんじゃないのか? 花火の後は閉館だろ?」


 雪が気楽にそう答えたが――。


「そうなら良かったんだけれどね……これ」


 水楢が言葉の途中で雪に手渡した物は……雛のショルダーバッグであった。


「ジュースを買っている間に、雛ちゃんが化粧室に行くって言って……。中々戻って来ないから様子を見に化粧室を覗いたんだけれど、そこにこれが落ちていたの。悪いんだけれど、中を確認させてもらったわ。中に財布も入っているから買い物に行ったとは考えられないのよ――」


 こんな人混みの中で、雛が消えたと言われても実感が湧かず……。


「いや、有り得ないから。こんな大勢の人が居る場所で、まるで誘拐でもされた様な口ぶりじゃん」


「だって普通にありえないでしょ。バックだけ置いて消えるなんて――」


「取り敢えず、誰か1人は此処に残って、再度探しに行くしか無いよ」


 雪と水楢が言い争っていると、雪のスマホが鳴った。


 すかさず雪がモニターを認めると、ふっ、と吐息を漏らす。


「ほらな。雛からだ」


 雪が着信を通話に切り替える。


「雛、お前何処にいるんだ――」


『妹さんは預かった。詳しくは後でまた連絡する』


 女性の声で一方的に告げられ、通話を切られた。


 再度、雪が掛け直しても、電源が切られた後だった……。



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