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Heat haze -影炎-

石の森は近所です

第25話、移動

 学園がヒートヘイズの集団に襲われてから1週間が経過し、せつ達の身柄は大型の船舶の甲板の上にあった。何故、航空機では無く、船舶なのかは御理解出来ると思う。天羽々斬あめのはばきりを作り出せる大型の装置を運ぶには輸送機では重量があり過ぎる為、船舶を利用したのだが、その護衛も兼ねて、雪達3人だけ船舶での移動となったのである。他の生存している生徒の身柄は、既に富士の演習場付近の仮設庁舎へと移動済みであった。


「僕は船に乗るのは初めてなのだけれど……こうやって立っている間は酔わないんだな」
「雪くん、昨晩は戻しまくって大変だったものね」
「雪、大丈夫」
「あぁ、立っていれは胃に負担が少ないから平気みたい」


 雪の隣にいて温かい眼差しで見つめているのが、カジュアルショートの髪の美人系女子で雪と同じ歳の16歳。水楢 澪みずなら しずくである。また、その隣で雪のシャツを丁度、わき腹の辺りで掴んで寄り添っているのが、柔らかなボブにカットした可愛い系の美少女で、言葉少なめな感じが庇護欲をくすぐる。やはり雪と同じ歳の16歳、栗林 珠恵くりばやし たまえであった。珠恵の背が小さい事からシャツを掴まれた状態で二人並んで歩くとお父さんと娘にも見えなくは無い。一方で、澪の場合は雪より少しだけ背は低いだけなので、3人揃うと両親と娘といった感じに見受けられてもおかしくはないだろう。


「それにしても、さっき船内の立ち入り禁止区域に、楓先生に連れられて入ってきたけれど、天羽々斬の製造装置ってかなり大きいのな。まさか平屋の一軒屋ほどの大きさだとは思わなかったよ」


 液晶パネルの製造に携わった事がある人ならイメージも湧くだろう。仮設の住居位の装置で縦10m、横2、5m高さ3mはある巨大な装置が目の前に鎮座していたのだ。


「こ、こ、これ位大きくしないと天羽々斬が持つ力は出せなかったのですよ。遺伝子を掛け合わせ、それを形成させるのに――必要なのです」
「それにしても。僕の部屋より大きいんですけれど……」
「これがあった為に、直ぐに運び出す事も出来ず、聖ちゃんが自爆しようとしていたのです。この船が襲われた時に、対処出来るように――久流彌君、守りの方はしっかりお願いしますね」
「はい。とは言っても実際に戦うのは僕ではなく、ファウヌスですけれどね」


 雪は、立ち入り禁止区域で見た光景を、澪と珠恵に話して聞かせていた。


「禁止区域への立ち入りは、少尉以上からじゃないと駄目らしいから、あたしなんかは入れて貰えなかったのだけれど……いいわね。そんな凄い物が見られて」
「うん、いい」
「次に敵が現れて、それを撃退すれば……澪も環も少尉には昇格出来るんじゃ」
「流石に、早々敵もやってこないでしょう。今、来られてもあたしのヒートヘイズは龍しか出せないのだけれども……」
「そういえば、澪はペンタクラス――蛇、龍、虎、ケルベロス、ゴーゴンの5体か。海戦で使えそうなのは龍だけなんだな」
「そうなのよ。まだ珠恵さんのクラーケン、ギーヴルの方が使えそうじゃない」
「ギーヴル、飛べない」
「えっ、あの羽の生えた蛇飛べないの」
「飛べない、鶏」
「あぁ、鶏みたいに羽があっても飛べないって事なんだ」
「そう。使えない」
「雪くんのファウヌスは――聞くだけ無駄だったわね」
「僕にも良く分らないんだけれど、ファウヌスの話では2体とか同時の発現は出来ないらしいよ……その代わり種類は多いみたい」
「その種類が問題よね、ファウヌスの場合――その殆んどがランクSだもの」
「うん、雪、ずるい」
「そうは言っても、今回、万一にでも敵が来たら海戦だろう。何が飛び出すのか。僕にもさっぱりだよ」


 全ては、ファウヌスの意のままであった。


 だが、結局、船で28時間かけ横須賀に到着するまでに、敵からの襲撃は無かったのであった。船から降ろされた装置は、大型のトレーラーに乗せられ、夜中になってから道幅の広い国道を通行止めにして運ばれる事になっている。


「雪くんも寝ておいた方がいいわよ。夜中にならないと出発出来ないらしいから」
「0時に出発して、朝6時まで6時間走って、夜中まで休憩したらまた夜中に移動だっけ。面倒な事だな」
「仕方無いでしょ。これだけの規模の装置、積んで時速60kmとかで走れないのだから」
「富士まで何日掛かるんだっけ」
「えっと、計算では時速15kmで距離が150kmちょっとだから二日で着くわよ」
「自転車で走った方が速そうだな」
「仕方無いでしょう。それだけ大きな物を運ぶのだから」


 途中、中央高速自動車道のサービスエリアで休憩を挟み、2日後の早朝には、無事目的地の富士演習場に着いたのであった。着いた演習場の端には、鉄筋コンクリート製と思われる施設があり、設備はそこの地下に搬入された。


「く、く、久流彌君。設備の護衛お疲れ様でした。今日と明日は3人は休日となります。実家に一度戻るのもありですし、のんびり羽を休ませるのでも好きにしてください。2日後からは、また授業が始まります。だいぶ生徒も少なくなりましたが、頑張りましょう」


 そう言うなり、装置の調整とかで楓先生は建物の地下へと消えていった。


「今日と、明日、休みって言われてもな……到着が朝方で、今日これから夕方まで寝ると、休み1日しかねぇじゃん」
「仕方無いでしょう。社会に出ればそんな生活を送っている人も大勢いるのだし」
「そう」
「実家に戻ると言っても、都内まで何時間かかるんだよ」
「そうね、ここからハイヤーを使って近くの駅まで行って――そう考えると休みが短いわよね」
「だろう。せめて3連休とか無い限りは、支給品生活か……」
「雪、いいこ、いいこ」


 珠恵が雪の頭を撫でようとするが――立っている雪の頭には手が届かなかった。


 結局、その日は、寝て過ごし、次の休みも演習場を見回って施設の確認をして終わったのである。生き残った先輩達は、演習場でヒートヘイズを想定した戦闘訓練をしていたのだが、皆、一様に活気は無く、覇気が感じられるものでは無かった。

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