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Heat haze -影炎-

石の森は近所です

第15話、撃墜

『メーデー、メーデー、メーデー、こちらはCH-47J、CH-47J、CH-47J。メーデー、CH-47J。位置は北緯27度40分、東経142度08分。ワイバーンから攻撃を受けている。すぐに救援を求む。搭乗人数は10名。メーデー、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ 』ボンっと言う爆発音の後――通信は途絶えた。


「おい、CH-47J大丈夫か、連絡を求む。CH-47J……」


 教官室にある、通信室からもCH-47Jのパイロットの悲痛な悲鳴が鳴り響いた。


「くそっ」


 学園長が、顔を顰めながら足元のアルミ製のゴミ箱を蹴る。
 無理も無い。なす術が無いまま10人もの犠牲者を出してしまったのだ。


「無線傍受からの流れと、状況報告を本州の軍本部へ至急打電しろ。生徒達はまだ生まれたばかりとはいえ、パンを覚醒している者達だ。無駄に死なせるなと伝えろ」


 学園長の苛立ちが伝わってくるようである。今日から入学する予定の8人が海の真ん中に取り残されたのだ。
 いくらパンに覚醒していても、冷たい海の中でそう長時間生きられる訳が無い。海上戦闘用のヒートヘイズでも発現出来るものが居れば――だが、事前報告書ではその様な者は居なかった筈である。
 救助用のヘリはこの学園には配備されていない。


 学園長は、何か進展がしたら報告を入れるように教官室の人員に指示し、学園長室へ戻ったのであった。戻ると既に、楓が来ており――。


「大変な事になっちゃったね、聖ちゃん」
「あ、あぁ。今は生徒達の無事を祈る事しか出来ないが……恐らくは、絶望的だろう」


 泣きそうな声で、そう語った学園長を、楓は優しい眼差しで見つめる事しか出来ない。それでも研究者としての意見を述べなければと思い声に出す。


「聖ちゃん、今回の件だけどね。どう考えてもおかしいよ。 通信ではヒートヘイズに関しては言っていたけれど、パンが乗っていたという話は無かったもん。そもそも、ヒートヘイズはパンと離れた場所で、単独で発現は出来ない筈だから。それがあんな座標で現れた事が、そもそも不自然なんだよ。最低でも目の届く範囲でしか発現出来ないから――船か、航空機か、潜水艦から発現させたと考えるのが妥当かなと思う訳ですよ」


 楓のその言葉にハッとした学園長は直ぐに電話を取り、本州にある軍本部へと周囲に航空機、船舶、潜水艦が潜んでいないか調査を依頼したのであった。






   ∞      ∞      ∞      ∞




「なぁ、水楢。今の無線の悲鳴って――やっぱりあれだよな」


 教室の黒板には自習の文字か書かれており、それを呆けて眺めながら、さっきスピーカーから漏れてきた通信の様子について水楢に確認する。


「そ、そうね。私も人間の断末魔なんて始めて聞いたけれど……攻撃をかわせなかったとしか思えないわね」


 水楢にしても、人が死ぬ瞬間の通信など聞いたのは初めてなのだ。
 声に現れるほど動揺しているのが雪にも伝わってきていた。


「だよな」
「でもおかしいわね、ヒートヘイズはパンと共にある。お姉ちゃんから聞いていた話からすると、犯人も現場に居た筈なのだけれど……」


 おでこに掌を当て、雪に犯人についての見解を話していたが、奇しくも楓と同じ結論に達していた水楢だった。


「じゃ、これは暴走じゃない可能性が高いのか」


 水楢の見解を聞き、好奇心から雪が結果を先走るが、


「まだ分らないけど、暴走なら、これからそのヒートヘイズが何処に向かうかで分ると思うわよ」


 雪の好奇心を満たすのはお預けになったようである。
 その好奇心は敵ヒートヘイズに移ったが――。


「ワイバーンって強いのか」
「ふっ。雪くんに比べたら可愛いものだわ」
「なんだ、雑魚なのか……」
「ランクSと比べられたら、あたしも雑魚なのだけれど……」
「……………………」


この2人、こんな緊急事態でも、平常運転の様であった。






   ∞      ∞      ∞      ∞




そして、現場に向かった栗林、燈の両名はといえば――。


「栗林大尉、そろそろ現場海域です」


 上空から海上を見渡しながら、燈が栗林に現場に到着した事を報告する。


「そう、でも空には何もいないわよ。まさか、落とされた――」


 不安そうに周囲を飛行している物体を探すが、栗林の視認出来る場所にそれらしきものはない。
 思わず最悪の結果を漏らしてしまう。


「まだ決った訳じゃ無いですよ。でもこんな時に不便ですよね。軍と連絡が取れないって言うのも」


 燈が元気付けようと、愚痴を漏らしながら栗林を励ます。


 それからしばらく、両名は現場海域を捜索したのであったが、2人の額にポツリ、ポツリと冷たい雫が落ちてきた。
 いくら夏場でもここは海上。地上程、温かくは無く、2人の体温を一気に奪い去っていく。


「燈さん。一度戻りましょう」


 栗林は、短くそれだけ告げた。


 彼女としては、ずぶ濡れに成ってでも捜索を続けたかっただろうに、燈の体を気遣ったのである。
 九州方面部隊の、NO1とNO2が、揃って体調を崩すのは国土防衛を考えたら、あっては成らない事であった。
 妹の事が気がかりだろうに、それでも軍の事情を優先する所はやはり責任感からなのだろう。


「分りました」


 栗林の気持を考えると、胸が締め付けられる思いを現場に残しながら、二人を乗せたペガサスは学園へと戻ったのである。


 学園に着くと、栗林は学園長室へ――。燈は寮の澪の部屋へと戻ってきた。
 ドアを開けるなり、リビングの椅子に座りお茶を飲んでいた妹に、


「シャワー借りるわよ」


 そう矢継ぎ早に伝え、後ろで妹が何か言っていたが、気にせずに浴室のドアを思いっきり開けたのであったが。
 中を開けると、雪が全身に石鹸を付け身体を洗っている最中であった。


 ガシャ――――――ひっ、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー。


 扉を脱衣所側に全開に開けたまま、リビングに戻っていった。


 雪はといえば、ガシャ――――――ひっ、の長い――の間、観察するように全身を見られたのである。
 この姉妹、声質は姉の方が高いが、行動が本当に似ていた。
 姉妹に息子を見られた雪は、深い溜息を吐きながら、ドアを閉めようと脱衣所に足を踏み出した時に、更なる悲劇が襲う。


「えっ――――きゃぁぁぁぁぁぁ」


 気を利かせ、ドアを閉めようとしてくれた水楢に、今度は真正面からばっちり見られたのだから。
 しかも……今回も見る所はしっかり見られたのであった。
 ダブルで見られた雪の方が、余程……ショックが大きかろう。


「叫びたいのはこっちの方だよ……」


 しょぼくれた面持ちで、ポツリと愚痴を漏らす雪であった。


 雪が浴室から出ると、リビングには顔を真っ赤に染めた姉妹が、気を落ち着かせようとお茶を飲んでいた。
 雪は、2人の表情を目を細めながら見つめた後、こそこそと部屋へと戻っていったのであった。


「男の人って、ああ成っているのね――じゃ、シャワー借りるわね」


 意味の分らない感想を述べて燈は、浴室に入っていった。
 その後、水楢が溜息をついたのも当然であろう。


 燈が浴室から出て、タオルを頭と身体に巻きつけお茶を飲んでいると、雪が部屋から出てきた。
 お互いバツが悪そうな表情をするが、雪は気になっている事を燈に尋ねた。


「水楢のお姉さん、現場には行って来たんですよね、今日来る予定だった生徒達はどうなったんです」


雪は、裸の上に巻かれたタオルを出来る限り見ないように、顔を見ながら話していたのだが、何を勘違いしたのか――。


「あたしをそんなにジッと見つめても、あたし、年下には興味ないから」


そんな事を、言われたのであった。


「何、言っちゃっているんですかねぇ、そんな気は無いですよ。その貧弱な裸の上に巻かれたタオルを、極力、見ない様に顔を見ていただけなんですけれど」


 燈に見当違いの指摘をされムカついた雪は、思いの丈を吐き出したのであるが、さらに火に油を注ぐ結果となった。


「何ですって、あたしの何処が貧弱だって言うのよ」


 普段からコンプレックスを抱いていたパーツを指摘され、燈も切れだす。


「お姉さん、水楢より胸無いじゃないですか。だから貧弱って言ったんですよ」


 頭に血が上った雪の暴言は留まる事を知らない。


「ちょっと雪くん、いったい何時、あたしの胸を見たのかしら」


 自分の胸の話を出され、少し引き気味の面持ちで雪に言い寄る水楢。


「えっ、この前、僕の部屋に来た時に、今のお姉さんと同じ格好だったでしょうに。その時ですよ」


 流石童貞、すっかり水楢のバスタオル姿を拝んでいた様だった。


「あんた、やっぱりそう言う卑猥な視線で妹を見ていたのね」


 シスコンの姉がついに本性を出したかと、雪を睨みながら更に言い募る。――もうグダグダであった。


 結局、騒ぎが収まる事は無く、雪は、用件を聞く事も出来ずに、早々に部屋へと戻ったのであった。

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