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Heat haze -影炎-

石の森は近所です

第13話、天羽々斬

 水楢 燈みずなら あかりは、今、雪と澪が暮らす部屋へと来ていた。今年から男女同室だとは知らなかった為に、大好きな妹の様子を心配して見に来たのだが……。


「――この部屋、何も無いのね」


 部屋の中に入るなり燈が言った一言がそれであった。
 荷物が無いのは、この島に来て間もない事と、雪の場合は金銭的な問題に、バイト先から真っ直ぐに、この島に連れて来られたからだが……その荷物を、親元に電話をして送ってもらおうとしていた矢先に、滝達がヒートヘイズを出して今回の騒動が起きたのだ。
 荷物が揃うのは、もうしばらく後になりそうである。


 だが、ここは軍の寮でもある事で、一般的なウイークリーマンション並みの家電は揃っている。
 ただしテレビだけは置いていないが……。
 恐らく勉学に励みなさいという意味で置かれていないのだろう。


 水楢は一通りの物を購入して揃えていたが、雪の場合は、石鹸から歯ブラシ、洗剤、タオル、下着に至る全てが支給品であった。


「所で、何でお姉ちゃんがこの島にいる訳」


 水楢がリビングの椅子に座り紅茶を飲みながら、燈が島に来た理由を尋ねた。


「それは、可愛い妹の顔を見に来たに、決っているじゃない」


 可愛い妹からぞんざいな態度で問われた燈は、意外そうな面持ちで語った。


「どうせ九州の部隊でする事が無いから、あたしの顔を見るついでに遊びに来たんじゃないの」


 水楢にしてみれば、管理職コース、いわばエリートコースに乗っている姉が以前実家に戻って来た時に、九州の部隊で時間を持て余している旨の話を聞いていた上での発言だったのだが……。


「ま、まぁそれもあるかな。でも先に学園に行くって言い出したのは栗林先輩の方だから」


 まさか更に上役の栗林が誘ったとは――。


「国土防衛の要の2人が、こんな所で油を売っていていいの」


 呆気に取られながらも姉に対し苦言を漏らしたもだが、


「大丈夫じゃないの、ヒートヘイズ遣いだって青森と九州に揃っているんだし。それに栗林先輩の妹さんも、澪と同じ歳だって聞いたら、会ってみたいじゃない」


 ヒートヘイズの研究が開始され早10年、学園が出来てからは既に8年が経過していた。
 その間に卒業していったパンの数は200はくだらない。
 半分ずつ割り振られても100は九州の部隊に残っている事になる。
 高次元帯のパンが敵なしである事で生じる油断が、栗林にも燈にも無いとは言えないようである。


「へぇ、それじゃあの8人の中に居たんだ……全然分らなかったよ」


 水楢も今回の臨床試験でパンを宿した全員に会ってはいたが、途中で雪の逃走が入り交友関係を築くまでには至っていなかった。


「あぁ、澪もあの新薬臨床試験に参加したんだものね」
「うん、ちょっと予定がずれて、前倒しになっちゃったけれどね」
「それって――彼の事が原因でしょう」


 そう言って、燈は隣の部屋の扉を見つめた。
 雪はと言えば、ただでさえ女性に免疫が無いのに、女2人に挟まれる格好になる事を避けたのである。
 だが、誰とでも気兼ねなく話せる燈は、雪が、澪の件で突っ込まれるのを避ける為に、逃げたと感じていたのであった。


「お姉ちゃんが、彼にガツンと言ってあげるから、安心していいからね」
「だから、お姉ちゃんの勘違いだって」


 澪の静止を振り切り、ノックもせずに雪の部屋へ入っていった。
 部屋に入るなり、何処から出したのか、薙刀を持ち雪へと突きつけた。


「ひっ、いきなりノックもせずに入って来たと思ったら――何なんですかこれは」


 部屋のベッドに横になり、以前にスマホで落したネット小説を読んでいた雪は、いきなり開いたドアに驚き目を見張る。
 次の瞬間には目の前に、刃先の鋭い薙刀の刃を突きつけられたのだ。
 動揺しても誰も文句は言うまい。


「君、雪くんと言ったわよね。ランクSのヒートヘイズ遣いだからって、澪に手を出したら、あたしがその首を貰い受けるから覚悟しなさい」


 雪を睨みつけながら恫喝する燈に、雪はすっかりびびってしまっていた。


「そ、そんな事、しませんよ。それよりその物騒なものを、早く仕舞って下さい」


 きょどりながら燈を何とか説得した雪であったが、この出来事の後、澪の部屋に燈が泊った為に、雪は生きた心地のしない夜を過ごす事になった。


 翌日は、通常通りに講義があるのだが、いつもとは少しばかり様子がおかしい。何故か、講義会場の視聴覚室には白衣を着た女性が参加しており採血の準備を始めていたのであった。


「え、え、えっと。今日はお2人が使うパン専用の武器を作る為に、採血を取ります。扱う武器によって採血する量も変わってくるので、各自慎重に選んで下さいね」
「楓先生、何で僕達が使う武器に採血が必要なんですか」


 雪が、不思議に思うのも無理は無いのだが、楓から詳しい説明が入る。


「ま、ま、まずパンは、ヒートヘイズに戦わせて――ただ見ているだけと言う事はありません。相手によっては、ヒートヘイズを動かしながら、連携を取って自らも戦わないといけないのです。もう貴方達は、ヒートヘイズ同士で戦った経験がありますが、戦った時に、ヒートヘイズが負けると煙になって消えますよね。ランクの低いヒートヘイズなら直ぐに再召喚する事が可能です。ですが、ランクが高いと、直ぐには再召喚は出来ません。それでもヒートヘイズは死ぬ事は無いので、最終的な勝敗はパンを倒すしかありません。ですが、原初の半獣神を宿したものは、半獣神の加護によって守られ、通常の武器では倒せない。それを倒す為の武器が、これから決めてもらう武器になります」


 この島に連れて来られた初日に、水楢からパンを宿した者は死なないと教えてもらったのに、それを倒すと聞いて眉を顰めながら質問した。


「それって、人殺しをする為の武器って事ですか」
「雪くん、お姉ちゃんに突きつけられた薙刀の事は覚えているよね」


 燈が昨晩、雪の部屋に乱入してきた時に、燈の後ろから付いて来ていた水楢はその光景を見ていた為、雪に詳しく説明するつもりで例に出すが、


「あぁ、しっかり目に焼き付いちゃったけど――」


 昨晩の話だ、雪は唾を飲み込みそれから返事を返す。


「あれがその武器なのだけれど、あれは自分のヒートヘイズが倒された時に自分の身を守る為の武器でもあるんだよ」
「えっ、どういう事」


 ヒートヘイズ同士の戦闘は雪も経験しているが、ヒートヘイズから襲われたのは水楢の発現させた蛇だけである。
 ヒートヘイズが日本独自の技術で他国には無い以上、味方同士で戦う事もあるのかと不思議に思い雪は困惑していた。


「い、い、今、澪さんからも説明がありましたが、ヒートヘイズを唯一倒せる武器が、この天羽々あめのはばきりなのです。これを用いる事で、万一、自分のヒートヘイズが倒された場合でも、相手のヒートヘイズを殺せる武器になり、パンをも殺せる武器になります。ちなみに余談ですが、この天羽々斬を開発したのは――私です」


「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇー」」


 雪の困惑よりも、この天然ボケを再現した様な教師が研究者と知り、先程の疑問よりもそちらの方に注目が集まったようである。


 栃 楓とちのき かえでは、牧田博士の助手をしていた関係で、この学園に教員としてやってきた。
 牧田博士亡き後、独自で研究をしていた楓は、ヒートヘイズが実体化している時に採取したDNAとパンの血液を掛け合わせる事で偶然、神殺しの武器を作ってしまったのである。


 これにより、今までは暴走したヒートヘイズを殺すのに、それより強いヒートヘイズを当てていたのだが――この天羽々斬の登場で、必ずしもヒートヘイズで対応しなくても良くなったのであった。


「楓先生って、ただの幼女じゃ無かったんですね」


 雪が動揺すると思った事をすぐ口に出すのは、水楢に対してだけでは無かったようである。
「わ、わ、若く見られるのは嬉しいですが、幼女は余計ですよ。久流彌君」


 楓もこれまでは若く見られすぎた事はあったが――幼女扱いは初めてであった。唇を尖らせながら、雪に苦言を呈する。


「そもそも楓先生と学園長は何歳なんですか」


 むきになった楓を見つめ、嗜虐心がそそられたのか、雪は尚も失礼な言葉を連発した。
「雪くん、女性に歳を聞くのは……」


 楓の目の奥がきらりと光ったのを認めた水楢が、雪の暴挙を止めようと口を挟むのだが……。


「く、く、久流彌君は2リットル位、採血しないといけないようですね」


 楓はニヤリと口を吊り上げ笑うと、雪の致死量の血液を要求してきた。


「それじゃ、僕、死んじゃうじゃないですか」
「え、え、ええ。女性に歳の事を言うのは、それ程に罪深い事なんですよ。澪さん、久流彌君が逃げないようにちゃんと押さえていて下さいね」


 こんな馬鹿な会話を、生徒と出来る程に親しみやすい楓であるが、年齢は学園長と同じ歳である。
 出世頭の栗林 未来くりばやし みくが、22歳で大尉である事から、少佐の歳は大よそ予想できるだろう。


 その後、無事に採血は終わり、雪は刀を、澪は弓の矢を天羽々斬とした。
 雪の刀は消耗品では無いが、澪の矢は使用後に回収して再利用するか、もしくは使用した分、採血をしないといけなくなるのであった。


「すげぇな――何で血が、こんな鋭利な刀になるのか不思議で仕方が無いよ」


 午前中に採血が終わり、午後の授業が終わる前に楓から手渡された天羽々斬の刃先を指でなぞりながら、隣を歩く水楢へ天羽々斬の感想を告げた。


「雪くんは、何度使っても消耗しないからいいわよね。あたしのは、消耗品よ、消耗品」


 一方、部活動で慣れ親しんだ弓の天羽々斬を選択した水楢は、その効果よりも都度の採血を嫌って吐き捨てるように感想を漏らした。


「それって、使ったら使った分だけ採血するって事だよな」
「そうよ……」
「澪も大変だな。月一の他に、採血までするなんて」
「ひゃ、な、何を言っているのかしら」


 女性に免疫が無さ過ぎて、デリカシーの欠片も無い雪であった。



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