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Heat haze -影炎-

石の森は近所です

第09話、獣神の発現

「ちょっと待て、久流彌くるみ。お前、今、自分でもフェンリルを発現出来たのは予想外だったと言ったな」


 あれ――あ、確かに言った。やばい。口が滑った。目元を下げ和やかな雰囲気で催されていた食事会から一変、学園長の視線が探りを入れるようにジッと僕を見つめていた。


「は、はい。言いました」


 仕方なくそう答えると――。


「お前、自分の言っている意味を、分って言っているのだろうな」


 学園長は渋面を浮かべながら僕を問い詰める。


「あれですよね、暴走させたのではないのか。という事ですよね」


 前に水楢からも指摘されていたので、学園長の危惧している事は理解できる。
 僕は当りを付け口頭で伝える。
 既に僕の背中は汗でびっしょり濡れていた。


「うむ。そうだ」


 学園長が首肯してくれた事で嘆息していると水楢から援護が齎された。


「学園長、その心配は無いかと思われます。私は目の前で様子を見ておりましたが、ちゃんと雪くんの指示に従って、滝先輩のオーガと戦っていました」


 水楢のフォローを受けて僕は一瞬、学園長の顔色を窺っていると頭は動かさず目線だけを向けられ、


「今、水楢みずならが行った事は本当か、久流彌」


水楢の言葉の審議を確認された。


「はい。僕の意思に反してフェンリルは出ましたが、その後の制御は出来ておりました」


 ここで指示は僕が出したのは確かだが、フェンリルが勝手に戦闘を行ったとは口が裂けても言えない。表情を取り繕い粛々と誤魔化した。


「ふむ。久流彌、お前もこの3日間の授業で習ったと思うが、パンを宿し、ヒートヘイズを発現させる事が出来るのは基本的に、宿主である筈なのだ。それが、本人の意思以外で発現した事がどれだけ重い事態なのか、それは理解しておいてくれ。牧田博士の様な事態は、もうこりごりだからな」


 刹那の時間学園長は考え込んでいたが、表情を和らげると諭す様な口調で僕に念を押し、過去の事件への想いを吐露した。


「はい。肝に銘じます」


 窮地を何とか乗り切り、僕は恐縮しながら短く宣言した。
 僕にとっては波乱万丈な食事会を終え、水楢と2人で談話室を後にした。


「それにしても雪くん、学園長の前であれは不味かったわね」


 談話室から少し歩いた廊下で、水楢が先程の僕が迂闊に漏らした内容を指摘する。少なくともここなら正直に話しても問題無いと判断したようだ。


「やっぱり」


 自分でも後になってから思った事だったので短く同調した。


「雪くんのヒートヘイズが、意思を持って、喋れる事を知っているから私は納得もしているし、理解出来ているけど、知らない人が聞いたら、暴走させたと思われるのも仕方が無いのよ」


 僕のヒートヘイズが異常なのは水楢や学園長との会話でよく理解出来た。水楢が心配そうな面持ちを浮かべて語ってくれる。


「あぁ、そうだよな」


 面倒事の片棒を担がせてしまった水楢には、真摯に向き合い深く頷く事しか出来なかった。


「これからは本当に、気をつけてよね」


 心配そうな面持ちで再度念を押された僕は、自分の迂闊さを噛締めながら、水楢の半歩後ろを歩き寮へと戻ってきた。




      ∞      ∞      ∞      ∞


――雪達が去った後の談話室


「なぁ、かえで――あれをどう見る」


 生徒達が居なくなって、すっかり気が抜けた学園長がテーブルの上に上半身を突っ伏しながら楓の見解を求めていた。


「うーん、ひじりちゃんの考えすぎじゃないのかなぁ」


 おかっぱの髪を揺らし横に首を傾げ、のんびりとした口調で答える。


「だが、自覚無しに発現する事の重要性を鑑みれば……」


 恐らく学園長は雪達の嘘を看破していたのであろう。渋面を浮かべテーブルを睨みながらも心配事を漏らす。


「確かにそうなんだけれどね、でも私は教え子を信じたいかな。聖ちゃんも信じてあげて」


 逆に楓は本来持つ性格ゆえか、慈愛に満ちた表情を浮かべ学園長に同意を求めた。


「なぁ、楓、いい加減その呼び方は止めないか。もう子供じゃ無いんだから」 


 突っ伏していたテーブルから首だけ上げ隣に座る楓を睨む……。
 会話の中では語られていないが、この2人実は親戚同士である。
 幼い頃に学園長の両親が事故で死亡し、それからは楓の両親が学園長を引き取り一緒に育てられたのである。
 学園長の心配性は、おっとりした楓を悪い者達から守ってきた事で培われた性格でもある。
 当事者である楓は、そんな事情を知ってか知らでか、暢気なものだが……。


「えぇぇぇーそれは、ちょっと嫌かも。聖ちゃんは聖ちゃんだし」


 楓はソプラノ口調の高音で甘えるように反論した。


「はぁ。しかし、フェンリルにグリフォンとは……まだ何か隠しているのでは無いだろうな」


 雪達の隠し事を見守る事に決めはしたが、Aランク2体を発現させた事に変わりはない。短く嘆息し胃を抑えながら恨み言を口にする。


「うーん、それは観察していくしか無いかな。でも悪い子じゃないのは私が保証するよ」


 紅茶を傾けながら楓が口にした言葉を信用し――。


「しばらくは様子見か――」


 再度テーブルに突っ伏した学園長は小さな声音でそう漏らした。




      ∞      ∞      ∞      ∞


 寮に帰ってきても、日曜の午後である。
 テレビの無い部屋で、何もする事は無かった。
 せつが暇だな……と思っていると、雪の部屋のドアがノックされ、水楢が部屋に入ってきた。


「この部屋って本当に何も無いわね」


 部屋に入るなり、無遠慮に辺りを見回し呆れ口調で、そんな失礼な言葉を吐かれた。


「あぁ、だって仕方無いじゃないか突然ここに連れて来られたのだから」


 自分を捕獲した張本人が何をと、少し怒気を込めて語ると、


「私もそれに1枚噛んでいるから、申し訳無いとは思うのだけれど、荷物なら実家に連絡をすればちゃんと届けてくれる筈よ」


 微かに目を見張った後でいい情報を教えてくれた。


「そうなのか、でもここの事も、ヒートヘイズの事も極秘なのだろう」


 卒業までは島からは出られないと聞いていたので、連絡も駄目なのだと思っていた僕は、不思議に思って問う。


「勿論、極秘よ。でも、国が雪くんを雇用した事は、ご家族には伝えてある筈だから、荷物は防衛省宛に送ってもらえれば、ちゃんとここに届くわよ」


 水楢の言葉を今一つ理解出来ない僕は、自分の圏外になっているスマホを手に取り水楢に見せながら告げる。


「でも、ここ――スマホの電波が通じないじゃないか」


 この島についてからスマホが使えない事で退屈を持て余していたのだ。僕は水楢に食って掛かると――。


「そりゃね。偵察衛星や、上空、海上からのレーダーに傍受されるような迂闊な施設じゃないもの。ジャミングの影響がスマホに出ているのは仕方が無いわね。でも、島の公衆電話からなら、海底ケーブルでラインを引いてあるから電話をすれば通じるわよ。ただし、100%傍受されているらしいけれどね。国に……」


 圏外になっている訳を淡々と告げられた後、苦笑いを浮かべながら傍受の話を聞かされ僕の表情も渋いものに変わる。


「うわぁ、何か、知らなければ良かった情報だね。それ」


 電話は出来るけど100%他者に聞かれている会話とか――気が滅入るだけであった。


「こうでもしなければ、今の日本は、周りに敵しか居ないのだから仕方ないと思うわよ」


 真剣な表情で今の日本が置かれている状況を教えられたが、僕が知っている話とはだいぶ差異があるようだ。


「周りって西の大国と、北の大国だけじゃ」


 誰でも知っている、沖縄、北海道を侵略した国名をあげると、


「雪くんって、新聞とか読まない人なのね。今やステイツすら敵なのよ」


 何度目かになる呆れ口調でふっと嘆息した後、教科書では同盟国扱いになっているステイツの名前を出された。


「一番の同盟国じゃん」


 何か納得がいかず、訴えかけると、


「それいつの時代の話よ。沖縄から撤退したのも、裏で西と経済関係で協力関係を結んだからって言うのが本音らしいわよ。お陰で手薄になった沖縄は、ステイツが撤退してから半年で占領されちゃった訳だし」


 教科書には事後報告の様な事実しか書いていない。
 水楢が話してくれた裏事情は記載されていないのである。


「水楢って色々詳しいんだね……」


 眉目秀麗、文武両道で博識とか完璧超人ですか。そんな思いを込め呟くと――。


「そりゃ、お姉ちゃんが、軍人やっていれば詳しくもなるわよ」


 軍人なら何でも知っているかのように告げられた。現代の若者は自分の事ばかりでそんな世界情勢に興味持つ者は珍しいと思うのだが……。


「でも、貴重な話を聞けてよかったよ」


小首を下げ水楢にお礼を言うと、


「そ、そう。現在の世界状況なんて売店で新聞買って読めば分るけど……」


 何故かしどろもどろに成りながらそう語られた。


「あ、そっちの話じゃなくて――公衆電話の話ね。それに無一文で、新聞すら買えないから。僕」


 水楢はお礼の理由を話すと、苦笑いを浮かべ部屋から退室していった。


 公衆電話は、学園と寮の間に並んでいて、お金を入れなくても通じると水楢から教えてもらった。
 雪は早速、実家に電話をして荷物を送ってもらおうと考えた。
 だが公衆電話の前にくると――そこには退学が決り、最前線送りの命令書を正式にもらったばかりの滝先輩と、その仲間達がウンチングスタイルで座っていた。


「おい、お前やっぱり俺達を売りやがったな」


 ウンチ座りのまま上目遣いで睨み、怒気を含めた口調でそんな事を言われても、僕にその自覚は無い。仕方なくふざけて応対する事にした。
 すると――。


「売るも何も。僕はそんなお金貰っていませんが……」
「何をすっとぼけてんだ、お前」
「いや、僕、本当に無一文でお金すら持ってないのですが……」
「一々頭にくる奴だぜ。お前らも出せ。Aランクだからと言っても、数で押されりゃ、勝てる訳がねぇ」


 3人の先輩達は、最前線送りが決まり、相当苛立っていた様である。
 そんな所へ、のこのこと雪が現れたのだ。
 こうなる事は分りきっていた。
 幸いだったのは、この先輩達は皆、モノクラスであったという事だけだろう。


 3人の先輩達の正面には、オーガ、虎、龍が発現していた。
 ランクで言えば、B、C、Bで、ポイントで表すと――14である。
 雪のAランクの2倍のポイントが相手では、雪が例えグリフォンとフェンリルを発現させても数値の上では互角であった。


 周囲の様子を感じ取ったかの様に、雪のヒートヘイズが声を掛けてきた。
 『ご主人、どうやらピンチの様だな』相変わらず僕のヒートヘイズは飄々とした口調で告げてくる。


「あぁ。まったく困ったものだ――」


 『なら我に任せるか』そう告げられ刹那考えたが相手は3体だ、ここで僕がヒートヘイズを出さない理由は無い筈だ。放って置けば僕が怪我をする。


「あんまり派手にはやってくれるなよ」


 『うむ。分っておるわ』食事会での学園長からも釘を差されたばかりだ。大事にならなければいいと判断したのだが――。


 何が分っているのか、全く理解出来ないが、雪から発現したヒートヘイズは1体であった。しかも――。


 また、見た事の無い姿で……。


 『ぐわぁぁぐるぐるぐわぁぁぁぁぁぁー』前回以上の咆哮をあげ、発現したのは、頭の1つは獅子、もう二つは山羊、そして尻尾が蛇の獣神であった。
 そう、半獣神では無く、獣神だったのであった。
 そのランクはS。


「おい、滝、あれなんだよ――」
「俺に聞くな、俺だって知らないんだからよ」
「何かやばくないか」


 3人の先輩達が、目を見開き混乱しているが、その間にもキマイラは、腰を低く下げ攻撃体勢へと入ったようである。
 ジャンプすると思われた瞬間――獅子の口から『ゴゴゴゴォォォォー』と言う音と共に、炎のブレスを吐き出す。
 地上に居たオーガ、虎は一瞬で消し炭となり姿を消す。
 更にキマイラの攻撃は続く、山羊の目から何やら光の線が上空で待機していた龍へと伸びていくと、龍は、まるで飛ぶ事を忘れたただの大蛇の様に、地面へ向けて真っ逆さまに落下してきた。


「「「なっ」」」


 大口を開けて驚いたのは先輩達だけではない。
 雪すら、この自分が発現させた未知の生物に恐れおののいていた。



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