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Heat haze -影炎-

石の森は近所です

第06話、新たなヒートヘイズ

 僕達が、この島に着いてから、3日が経過していた。
 ひたすら拷問の様な授業を聞き、それにも慣れてきた。
 そして今日は土曜日。


「昨日、楓先生が土日は休みだって言っていたでしょ。どうせならショッピングセンターにでも行ってみましょうよ」


 この満面の笑みを浮かべた水楢の一声で、僕の週末の予定が決ってしまった。
 どちらにしても、給料日まではまだ先で、何も予定が無かった僕にとっては、有り難いお誘いではあるのだが……。


 水楢は、バッグを持ってきており、前もって支度を用意してきていた。
 僕はといえば――着替えも無く、授業は学園指定の制服を着用している以外、外出着は1着しかなかった。勿論、下着は軍からの支給品を貰ってはいるのだが。


 そんな訳で、綺麗で可憐な、水楢らしいノースリーブのピンクのブラウスに、膝丈の白いスカートを履いて、それをエスコートするような形で、僕等はショッピングセンター内を歩いていた。


 このショッピングセンターは、島の東側にあり、商品や食べ物は、南鳥島の飛行場から船でここまで運んでいるらしい。
 何故、小笠原村からではないのか聞いた所、ここは軍の極秘研究施設も兼ねている為に、軍関係者以外は基本、この島には存在しないとの事であった。


 ショッピングセンターの店員さんを見ても、とても軍関係者には見えないのだが……あんな渋谷の若者の店に居そうなギャルの格好をした店員さんがまさか軍関係者だとは。驚きである。


 一文無しの僕は、もっぱら水楢の買い物の荷物持ちをさせられていた。
 女の買い物は時間が掛かるとは聞いていたが――1店での時間はそれ程でも無いのだが、多店舗を回られたのは非常に疲れた。


「なぁ、まだ何か買うのか」


 流石に小さな島でも午前中いっぱい荷物持ちをさせられ僕はうんざりしながら水楢に訪ねると……。


「うーん。だって雪くん、給料が入ったら買い物に付き合ってくれなさそうじゃない。だから今の内に買える物を買って置こうかと思って……」


 小首をかしげ、意味深な微笑みを浮かべると、水楢はまるで今を逃すと買えなくなりそうな勢いでそんな事を言ってくる。


「いや、別にテレビも無いあの寮で引き篭もりになれる自信とか僕、無いから。給料出てからも付き合えると思うけど」


 僕だってこんな綺麗な女性と2人で出歩ける機会は今まで無かった。本音を言えば一緒につるんで歩きたい願望はあるのだ。そんな気持を隠し素っ気無く伝える。


「それなら――今日はここまでにしときましょう」


そんな思いが通じたのかは分らないが、やっと買い物から解放されたようである。


「じゃ、買い物に付き合ってくれた、お礼に、お昼を奢るから食べに行きましょう。しかもデザート付きね」


 綺麗な顔立ちで茶色に薄っすら青み掛かった瞳をキラキラ輝かせ、そんな事を言ってくれた。
 だが、誤魔化されてはいけない。
 これは水楢の作戦である。


 ただ、本人が食べたいだけなのは、これから始まるお店探しで良くわかった。
 出展してある店を回り、あれじゃない、これじゃないと、食べに行こうと誘ってから決るまで結局1時間は掛かっていたのだから。


 僕達は、結局、海の見えるオープンカフェに決め、そこでパスタとケーキのセットを頼んだ。
 主食であるパスタを食べ終わり、デザートのケーキを食べようと思っていると、丁度、テラスから見える路地から3人の柄の悪い男達が現れた。
 出来るだけ関わり合いに成らない様に視線を逸らしていたのだが、何故かこちらに向かってきた。目と鼻の先までくると――。


「よぉ、冴えない僕ちゃんには不釣合いな女を連れているじゃねぇか。良かったら彼女だけでいいから、俺達に付き合ってくれねぇかな」


 はぁ。まったく付いていない。僕1人なら完璧スルー出来た筈なのに、水楢が目立つせいで不良達に目を付けられてしまった。


 すると水楢が、


「何よ、貴方達。悪いけど今は取り込み中だから。何処かに行ってくれないかしら」


 僕は、内心焦る。流石にあんな柄の悪い連中相手に、その口の聞き方はあまりに無謀に思えたのだ。


「はぁ、お前誰に物を言っているんだ。このショッピングセンターの従業員じゃねぇだろ。て事は、学園の生徒って訳だ。そんなお前が、何、調子くれちゃっている訳」


 男の胸からオーガが飛び出してくる。


「こんな場所で何を」


 水楢が驚いて声を漏らす。


「これでもオーガ使いの滝って言えば、学園じゃ知らねぇ者は居ないんだけどな。知らないって事は、新入生って訳だ。いいから痛い目を見る前にちょっと顔貸せよ。痛いのは最初だけだからよ。寮に入ったなら聞いているんだろ」


下卑た薄ら笑いを浮かべ滝と名乗った男は半ば脅しとも取れる言葉を吐き、僕にでは無く、水楢を標的に定めたようだった。


「ええ、聞いたわよ。強姦や、犯罪紛いの事をすれば、即、最前線送りだってね」


水楢も負けてはおらず、挑発するような口調で忠告するが、


「そんな物は、被害届が出なければ問題にはならねぇ。て事は知らないみたいだな。俺達が気持ち良くさせてやるよ。忘れられないくらいにな」


 滝は力ずくで水楢を手に入れようと、下舐めずりをしながらひひっと気持の悪い笑い声を漏らした。




 男達に聞こえないように、水楢が、やるけど雪くんも出せる、と聞いてきた。
 だが、僕は、まだ自在に操る事が出来ない。
 困っていると――胸から黒い煙が湧き出してきて、『ご主人、また困っておる様だな。助けは必要か』そんな事を言い出した。


「ちょっと、雪くん、本当にヒートヘイズが喋った……」


 水楢が驚いているが、今はそれ所ではない。まずあのオーガだ。僕は、このオーガに困っているから何とかしてくれ。そう告げた。


 『ご主人の願い、確かに了承した』


 僕の前に湧き出た黒煙は一瞬で実体化する。
 だが、現れたのはグリフォンでは無く――。


「ひぃぃぃぃー。ふ、フェンリルだと。何でこんな所にランクAが湧くんだよ」


 突然湧き出した、Aランクのフェンリルに恐れ慄き滝が恨み言を叫ぶ。


 そう、僕の中から飛び出したのは、グリフォンでは無く、漆黒のフェンリルだった。フェンリルの全身からは、バチバチ、と稲妻の様な電流が走っていて、それが一層、恐怖を撒き散らす。


 『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー』腹の中に響き渡る程の雄叫びをあげ、次の瞬間には、オーガへと飛び掛った。
 オーガが、必死に両手を前に突き出しフェンリルの上顎と下顎を押さえようとするが、フェンリルが首を左右に振っただけで、簡単に手は外れてしまった。
 オーガが、後ろによろめいた瞬間――フェンリルがオーガのわき腹に喰らい付いた。


 水楢も、僕も、3人の男達もただジッと見ている事しか出来ない。
 噛み付いた状態でフェンリルがまた左右に首を振ると。悲鳴をあげオーガが煙となって消えてしまった。


「お、覚えてろ。次に遭ったら殺してやる」


 滝と名乗った青年、恐らく先輩は捨て台詞を残し、立ち去ってしまった。


「雪くん、あなたはいったい――」


 水楢も綺麗な瞳を大きく見開き焦っている様である。
 ここに着いた初日に、寮のリビングで、レベルとクラスの話を雪に説明したのは水楢自身である。
 その彼女が、雪確保の時に、3体出して雪を漸く確保したのが、此処へ来て雪はランクAの半獣神の2体目となるフェンリルを出したのだから。
 最低でも雪はランクA2体、グリフォンとフェンリルのヒートヘイズを体内に宿している事になる。


 そんな2人を興味津々とでも言う様に――。


 漆黒のフェンリルが見つめていたのであった。

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