子猫ちゃんの異世界珍道中
第179話、逆転
「これで私の勝ちっすね」
アッキーは先程地面に突き刺したタガーを拾うと、ゆっくりミカちゃんの方に歩いてきます。
ミカちゃんの顔色は寒さの影響で唇は紫色に変っています。
「それにしても思ったよりは強くなかったっすね。門を修復された時にはどうなる事かと思ったっす」
タガーを両手に持ちお手玉の要領で交互に持ち替えながら余裕綽綽で、鼻歌交じりにミカちゃんに近づいていきます。
まるでこれから訪れる処刑を焦らして弄ぶかのように――。
魔法の通じない結界に閉じ込められ、僕はその様子を見守る事しか出来ません。
僕がミカちゃんの変化に気づいたのはそんな時です。
背中を僕に向けアッキーと対峙していたミカちゃんの尻尾が微かに魔力を帯びて光りました。
渚さんもそれに気づいたようですが、油断しているアッキーに教える前にそれは発動されます。
尻尾から飛び出した粒子はアッキーの頭上に降り注ぐと、今まで鼻歌を口ずさんでいたアッキーの口を凍らせ縫い止めます。
「――んぐっ」
魔法を使って逃げ出そうにも無詠唱で魔法を撃てないアッキーでは逃げ出す手立てはなく、粒子は次第に体全体へと及びミカちゃんと同じように地面に固定され固まります。
「やってくれるわね」
渚さんはミカちゃんがこっそり放ったアイスサークルを見て呟くと、指先に魔力を纏います。
すると――。
次の瞬間にアッキーを囲い込む様に真っ赤に燃え盛る炎の牢屋が出現しました。
これには渚さんも開いた口が塞がりません。
「こんな余力が何処に――」
ミカちゃんが魔法を放ったと勘違いした渚さんが言葉を漏らしますが、僕には分かります。これはエリッサちゃんの使う魔法ですね。
炎の牢屋から迸る熱気のお蔭でミカちゃんを凍らせていた氷も次第に溶け出します。それはアッキーを凍らせた氷をも解かす行為ですが、氷が解けた所でこの炎の牢屋からは逃げ出せません。
僕はガンバラ王国でこの牢屋を壊そうと魔法を放ちましたが、消滅魔法でしか破壊できない程強固なものでしたからそれも頷けます。
先にミカちゃんの氷が解け、ミカちゃんが街の方にアイコンタクトを向けるのを確認しました。恐らくそこにエリッサちゃんが待機しているのでしょう。
こちらの戦力を全て曝け出すのはまだ早いですからね。
ミカちゃんを覆っていた氷が完全に解けると、彼女は熱さから逃れる為にその場を離脱しました。アッキーと僕が見える所に移動するとすかさず自身にハイヒールを掛けています。
僕はホッと胸を撫でおろすと、渚さんに告げます。
「僕をここから出してください。さもないと――あの人が焼け死にますよ」
あの牢屋の中がかなりの高温になっているのは、氷の解ける速度を見ていれば分かります。交渉するなら今しかありません。
僕が渚さんを急かす様に語ると、彼女は短くため息を吐き出し――。
「――それはどうかしらね」
「それはどういう……」
僕が渚さんの漏らした言葉に反応し問いかけると、アッキーを覆っていた氷が解け切った瞬間に燃えさかる牢屋の中に居た筈のアッキーの姿が消えました。
いくら高温の炎でもこんな一瞬で消滅するのはありえません。
誰も居なくなった牢屋をただジッと見つめていると、
「いやぁ~危なかったっす。油断し過ぎたようっすね」
僕と渚さんしか居ないこの場所に第三者の声が届き、目の前にアッキーが現れました。
「なっ――」
突然現れたアッキーに驚いていると、
「隠し玉があるのは猫娘だけじゃないっすよ」
「残念だったわね。これで振り出しに戻ったけど?」
どうやってあの燃え盛る牢屋から逃げ出したのかは分かりませんが、突然僕達の目の前に現れた事から転移系の魔法を使った様に思えます。
アッキーが脱出した魔法の存在を仄めかし、渚さんがそれを呆れた様に見つめながら僕に問いかけてきます。
確かに今の状態は先程と似ています。
でもさっきまでと本当に同じですかね?
あの場にエリッサちゃんがいるという事は――。
僕がそんな考えを巡らせていると、突然僕を包み込んでいる白い繭に向かって魔力の大砲がサースドレインの街から放たれました。
その魔法は目に見えず、ゴゴゴゴゴー、っと音だけを残し繭に迫るとその上部に激突し貫通しました。
繭の中から外を見ると薄っすらと白く霞んで見えていましたが、それが当たった個所だけはくっきりと空の景色が見えています。
繭が壊れたと判断した僕は一気に繭から逃げ出します。
「私の結界が――壊された」
余程この結界に自信を持っていたのか、呆気に取られる渚さんを横目に繭から飛び出すと僕は渚さんの後方に控えている馬車と補給の為の荷車に対し重力圧縮を放ちました。
さっき昼飯がどうとか言っていましたからね。
これでその予定もご破算ですよ!
僕の重力魔法を受け渚さんが乗って来た馬車も、補給物資も全て――鈍い音と共に縮まります。
「こ、この魔法は――」
アッキーが驚いて叫びますが、そんなに食料を潰されたのがショックだったんでしょうかね。
「食料も潰しました。これでもまだ戦いを続けますか?」
僕が降参するように告げると渚さんは瞳を細めて僕を睨み、
「まだ終わって――」
「お師匠様、ここは引くっす!」
渚さんが抵抗の意思をしめそうと声をあげると、それを遮りアッキーが撤退を進言します。この2人の関係、なんだか変ですね。
弟子の方が作戦参謀の役割を担っているんでしょうか。
アッキーの言葉を聞くと呆気なく渚さんは引き下がり、人差し指を顔の前で1本立てると神速で僕の前から姿を消し、フローゼ姫が掘った穴に落ちた騎士達の正面に移動していました。
アッキーも同様に後方に控えていた兵達の元へ移動すると、2人ほぼ同時に何か丸い玉を地面に投げつけます。
丸い玉は地面に落ちると粉々に砕け散り、次の瞬間には周囲を眩い光が包み込み、それが収まった時――敵兵の姿は1人残らず消えていました。
アッキーは先程地面に突き刺したタガーを拾うと、ゆっくりミカちゃんの方に歩いてきます。
ミカちゃんの顔色は寒さの影響で唇は紫色に変っています。
「それにしても思ったよりは強くなかったっすね。門を修復された時にはどうなる事かと思ったっす」
タガーを両手に持ちお手玉の要領で交互に持ち替えながら余裕綽綽で、鼻歌交じりにミカちゃんに近づいていきます。
まるでこれから訪れる処刑を焦らして弄ぶかのように――。
魔法の通じない結界に閉じ込められ、僕はその様子を見守る事しか出来ません。
僕がミカちゃんの変化に気づいたのはそんな時です。
背中を僕に向けアッキーと対峙していたミカちゃんの尻尾が微かに魔力を帯びて光りました。
渚さんもそれに気づいたようですが、油断しているアッキーに教える前にそれは発動されます。
尻尾から飛び出した粒子はアッキーの頭上に降り注ぐと、今まで鼻歌を口ずさんでいたアッキーの口を凍らせ縫い止めます。
「――んぐっ」
魔法を使って逃げ出そうにも無詠唱で魔法を撃てないアッキーでは逃げ出す手立てはなく、粒子は次第に体全体へと及びミカちゃんと同じように地面に固定され固まります。
「やってくれるわね」
渚さんはミカちゃんがこっそり放ったアイスサークルを見て呟くと、指先に魔力を纏います。
すると――。
次の瞬間にアッキーを囲い込む様に真っ赤に燃え盛る炎の牢屋が出現しました。
これには渚さんも開いた口が塞がりません。
「こんな余力が何処に――」
ミカちゃんが魔法を放ったと勘違いした渚さんが言葉を漏らしますが、僕には分かります。これはエリッサちゃんの使う魔法ですね。
炎の牢屋から迸る熱気のお蔭でミカちゃんを凍らせていた氷も次第に溶け出します。それはアッキーを凍らせた氷をも解かす行為ですが、氷が解けた所でこの炎の牢屋からは逃げ出せません。
僕はガンバラ王国でこの牢屋を壊そうと魔法を放ちましたが、消滅魔法でしか破壊できない程強固なものでしたからそれも頷けます。
先にミカちゃんの氷が解け、ミカちゃんが街の方にアイコンタクトを向けるのを確認しました。恐らくそこにエリッサちゃんが待機しているのでしょう。
こちらの戦力を全て曝け出すのはまだ早いですからね。
ミカちゃんを覆っていた氷が完全に解けると、彼女は熱さから逃れる為にその場を離脱しました。アッキーと僕が見える所に移動するとすかさず自身にハイヒールを掛けています。
僕はホッと胸を撫でおろすと、渚さんに告げます。
「僕をここから出してください。さもないと――あの人が焼け死にますよ」
あの牢屋の中がかなりの高温になっているのは、氷の解ける速度を見ていれば分かります。交渉するなら今しかありません。
僕が渚さんを急かす様に語ると、彼女は短くため息を吐き出し――。
「――それはどうかしらね」
「それはどういう……」
僕が渚さんの漏らした言葉に反応し問いかけると、アッキーを覆っていた氷が解け切った瞬間に燃えさかる牢屋の中に居た筈のアッキーの姿が消えました。
いくら高温の炎でもこんな一瞬で消滅するのはありえません。
誰も居なくなった牢屋をただジッと見つめていると、
「いやぁ~危なかったっす。油断し過ぎたようっすね」
僕と渚さんしか居ないこの場所に第三者の声が届き、目の前にアッキーが現れました。
「なっ――」
突然現れたアッキーに驚いていると、
「隠し玉があるのは猫娘だけじゃないっすよ」
「残念だったわね。これで振り出しに戻ったけど?」
どうやってあの燃え盛る牢屋から逃げ出したのかは分かりませんが、突然僕達の目の前に現れた事から転移系の魔法を使った様に思えます。
アッキーが脱出した魔法の存在を仄めかし、渚さんがそれを呆れた様に見つめながら僕に問いかけてきます。
確かに今の状態は先程と似ています。
でもさっきまでと本当に同じですかね?
あの場にエリッサちゃんがいるという事は――。
僕がそんな考えを巡らせていると、突然僕を包み込んでいる白い繭に向かって魔力の大砲がサースドレインの街から放たれました。
その魔法は目に見えず、ゴゴゴゴゴー、っと音だけを残し繭に迫るとその上部に激突し貫通しました。
繭の中から外を見ると薄っすらと白く霞んで見えていましたが、それが当たった個所だけはくっきりと空の景色が見えています。
繭が壊れたと判断した僕は一気に繭から逃げ出します。
「私の結界が――壊された」
余程この結界に自信を持っていたのか、呆気に取られる渚さんを横目に繭から飛び出すと僕は渚さんの後方に控えている馬車と補給の為の荷車に対し重力圧縮を放ちました。
さっき昼飯がどうとか言っていましたからね。
これでその予定もご破算ですよ!
僕の重力魔法を受け渚さんが乗って来た馬車も、補給物資も全て――鈍い音と共に縮まります。
「こ、この魔法は――」
アッキーが驚いて叫びますが、そんなに食料を潰されたのがショックだったんでしょうかね。
「食料も潰しました。これでもまだ戦いを続けますか?」
僕が降参するように告げると渚さんは瞳を細めて僕を睨み、
「まだ終わって――」
「お師匠様、ここは引くっす!」
渚さんが抵抗の意思をしめそうと声をあげると、それを遮りアッキーが撤退を進言します。この2人の関係、なんだか変ですね。
弟子の方が作戦参謀の役割を担っているんでしょうか。
アッキーの言葉を聞くと呆気なく渚さんは引き下がり、人差し指を顔の前で1本立てると神速で僕の前から姿を消し、フローゼ姫が掘った穴に落ちた騎士達の正面に移動していました。
アッキーも同様に後方に控えていた兵達の元へ移動すると、2人ほぼ同時に何か丸い玉を地面に投げつけます。
丸い玉は地面に落ちると粉々に砕け散り、次の瞬間には周囲を眩い光が包み込み、それが収まった時――敵兵の姿は1人残らず消えていました。
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