第178話、ミカちゃんＶＳアッキー

　ミカちゃんは子猫ちゃんが敵に捕まった事で、刹那皇国軍に攻撃していいのか迷いましたが、きっと子猫ちゃんなら自力で何とかする。そんな期待を胸に敵の騎士達に魔法を放ちました。
　『ゴゴゴグワァーン』ミカちゃんの狙い通り彼女が放ったサンダーは騎士達を気絶させ勢いを付けて突進していた騎士達は折り重なるように倒れますが、安堵したのも束の間――騎士達は後方からやって来た人にはね飛ばされ、建設中の湖に落ちていきます。
　そしてミカちゃんと対峙する様に、金色の髪を肩で切りそろえ真っ赤な瞳を爛々と輝かせたエリッサちゃんと同じ年位の人族の少女がやってきました。

　――そして。

「お師匠様の命が下ったっす。猫娘、お前の命は頂くっす」

　そう宣言したと思った次の瞬間には両手に漆黒のタガーを構えてミカちゃんに迫っていました。ミカちゃんは咄嗟に神速で後方に逃げ、次に透明化で姿を消します。

　すると――。

「猫娘、中々やるようっすね。でも姿を消して見えないのは魔力の扱いに長けていない奴だけっす。魔法を制御出来る者にはバレバレっすよ」

　そんな会話をしながら姿を消したミカちゃんの位置を正確に把握し迫っていました。

「――にゃっ」

　姿を消して攪乱を試みたミカちゃんでしたが、自身の位置を正確に捉えられている事に気づき逸早くその場からユニーク魔法の跳躍を使い街壁の上に飛び退きました。

「そんな高く飛べるっすか！？　流石獣人っすね」
「褒めてもらってもあげられるものはこれしかないにゃ――サンダー！」

　『ゴゴゴグワァーン』と、轟音と共に稲妻がアッキーに迫りますが彼女は咄嗟に武器を投げ捨て避雷針に変えると横っ飛びして避けました。
　地面には雷を帯び帯電したタガーが突き刺さっています。

「そんな避け方があったにゃ？」
「お師匠様に鍛えられているっす。その程度の攻撃なら食らわないっすよ！」

　街壁の上でミカちゃんが唖然としていると、今度は自分の番とばかりにアッキーが懐から短い木の杖を取り出しミカちゃんの方へ向けます。
　すると、先程と全く同じ『ゴゴゴグワァーン』轟音と共に稲妻がミカちゃんに襲い掛かります。
　ミカちゃんは魔法が放たれた瞬間に街壁から地上に飛び降り難を逃れました。

「サンダーを使えるのは猫娘だけじゃないっすよ！」

　子猫ちゃんの結界が掛かっているのならまだしも、今のミカちゃんには結界は掛かっていません。直撃すれば――最悪の事態も考えられます。
　ミカちゃんの綺麗な顔にも若干疲れの色が見え始め、額には薄っすらと汗も掻いています。

「あの猫獣人の子も中々やるわね。あの子が子猫の彼女さんなの？」

　２人の戦闘を遠くから眺めていた渚さんがそんな事を言ってきますが、その話に乗る余裕は僕にはありません。ミカちゃんはどちらかというと僕達の中ではヒーラーの役割が多く、攻撃魔法はそれほど多くは使えません。今の状態が続けば――いずれ負けてしまいます。

　僕が渚さんの所に乗り込む前に結界を掛けていれば――そんな後悔が湧きますが、今の渚さんの結界に閉じ込められた現状ではどうする事も出来ません。

「猫娘の魔法はそれだけっすか？　ならこちらから行くっすよ！ アイスダスト！」

　アッキーが上空に杖を向けると、空からキラキラ輝く氷の粒が舞い降りてきます。
　それはミカちゃんを中心に降り注ぐと、接触した途端に氷の膜を張っていきミカちゃんの動きを完全に封じ込めてしまいます。
　ミカちゃんは降り注いだ瞬間動こうとしますが、予想以上に範囲が広かった事で遂に捉えられてしまった格好です。

「あ、足が……動かにゃい」

　僕達が良く使うブリザードも効果としてはこれと似ています。
　でもミカちゃんがそれを食らうのは初めてです。
　ミカちゃんの体を覆った氷の粒は全身に纏わりつき、粒同士が接触した瞬間に一気に固まりました。

「ミカちゃん！」

　僕はその様子を見て声を漏らします。
　渚さんは自分の弟子の勝利を喜び、微かに微笑みを浮かべました。