子猫ちゃんの異世界珍道中
第175話、お婆さんの孫
渚さんの自己紹介に呆気にとられている僕を他所に、渚さんの話は続きます。
「お婆ちゃんが亡くなった日、私達親族は連絡を受けてお婆ちゃんの家に集まっていたの。今までずっと放置してきた癖に……お婆ちゃんが亡くなると知ると急にお婆ちゃんの遺産に目がいったのね。
でも結局お婆ちゃんは遺言を残さずにあの日亡くなった。
順当に行けば血縁の親族に法で決まった配分で遺産が相続されるはずだった。所が後日になってお婆ちゃんの遺言書が見つかったの。
弁護士立ち合いの元、それは開封されその中身を読まれた時に皆、騒然となったわ。遺言状によればお婆ちゃんが拾って育てていた子猫を引き取った者に全ての遺産を譲ると書いてあったの。橋の下に捨てられていた子猫に3億円よ。
お婆ちゃんの火葬が終わった後でそんな物が出てきたから親戚一同は誰もが遺産を手にしようと空き家になったお婆ちゃんの家に子猫探しにやってきたわ。
中には違う子猫をお婆ちゃんの子猫だと偽って連れてきた人もいたけど遺言書と一緒に君の写真も入っていた事で親戚はその資格を失ったわ。
君は既にあの家には居なかったようだけれど……もしかしたらそれがお婆ちゃんの狙いだったのかも知れないわね。
君が見つからなかった場合は3億円を野良猫や野良犬を保護している団体に寄付するとあったから。
親族の皆はほとんどお婆ちゃんの家には顔を出さなくなっていたけど、私はたまに顔を出していたの。君を見かけた事もあるのよ。
私はお婆ちゃんから君の行動を聞いていたから一人河原に行ったの。
捨てられていた河原をよく散歩しているって聞いていたから。
お婆ちゃんの遺産とかそんな物はどうでもよかった。
ただお婆ちゃんが最後まで気に掛けていた君に会いたかったの。
そうしたらいつの間にか河原が一面花畑に変っているでしょ?
驚いたわよ」
渚さんの長たらしい説明を僕は茫然として聞いていました。
お婆さんが死んだ――。
その言葉から先は覚えていません。
嘘だ、渚さんの言っている事は嘘です。
だって僕がこの世界に来たのはまだ数か月前で、渚さんがこの世界に来たのはもうだいぶ昔の筈だから……。
「渚さんは嘘つきです。お婆さんは死んでいません。だって僕がここに来たのはお婆さんが帰ってこなくなって数日後で――ここで半年も生活していませんから」
僕が悲痛な面持ちでそう伝えると――。
渚さんも沈痛な面持ちを浮かべ彼女なりの憶測を述べます。
「私も学者じゃないからはっきりとは言えないんだけれど……私達が落ちた穴は時間を狂わせるみたいね。あっちの世界では先に落ちた君が後から落ちた私の後にこの世界にやって来たのが何よりの証拠だわ」
「嘘だ、嘘だ――あの優しいお婆さんが死ぬ筈が無い」
僕は動揺を隠せずに心の思うままに言葉を吐きだします。
人間も動物も老化には勝てません。
お婆さんは高齢でした。
それでも認めたくなくて、渚さんの話を否定します。
すると渚さんは吐息を漏らし、スカートのポケットに手を突っ込むと中から定期入れを取り出します。
そして怯えた様に震える僕に見える様にそれを開きました。
そこには僕を膝の上に乗せたお婆さんの笑顔が写っていました。
駄々をこねる幼子をあやす様に渚さんは言います。
「私もお婆ちゃんにはもっと長生きして欲しかったのよ。こう見えても私、お婆ちゃん子だったんだから」
その言葉を聞き僕の涙腺は崩壊しました。
もう止め処なくあふれ出る涙を抑える事は出来ません。
僕が橋の下に捨てられ震えていた時に、優しく声を掛け家に連れ帰って温かな毛布で包んでくれた優しい人。
無知な僕に色々な事を教えてくれた賢い人。
そして僕が飢えない様に手作りの料理を毎日作ってくれた慈悲深い人。
そのお婆さんはもう生きてはいません。
お婆さんが帰宅する前に僕が迷子になってしまって、もう会えないと諦めてはいましたが、それでも会えなくとも生きていて欲しかった。
どこかで元気に笑っていて欲しかった。
そんな想いのすべてが涙に変り流れ続けます。
「君もお婆ちゃんの事が好きだったのね。良かった――君を拾ったお婆ちゃんも天国で笑ってるわよ。さぁ、泣くのは止めなさい」
渚さんも僕に吊られたようにその黒い瞳を潤ませていますが、そこに事情を知らない第三者が割り込んできました。
「お師匠様、いつまで敵と無駄話してるんっすか。さっさと片付け無いとお昼になってしまうっすよ」
僕と渚さんが今は亡きお婆さんを偲んで思い出に浸っていると、金髪を短く肩で切りそろえ、爛々と輝く真っ赤な瞳で僕を見下ろしてそんな言葉を吐きだします。
敵と言われてもお婆さんの孫と言われれば僕にその気はありません。
きっとあのお婆さんの孫である渚さんも同じ気持ちだと――僕は思いました。
でも、その考えは間違っていたようです。
今まで潤ませていた瞳を取り換えたかのように素に戻ると、
「そうだったわね。さっさと終わらせましょうか。何で君がアンドレアの残党と一緒にいるのかは後で聞くとして――君は私の味方に付くんでしょ?」
そう言いながら指先に魔力を溜め始めました。
僕はこの渚さんの変わり身の早さに呆気に取られますが、既に魔法を放つ寸前まで魔力を高められた事で正気に戻ります。
「渚さん、止めてください。ここには守りたい人が沢山いるんです!」
僕が願いを込めてそう告げると――。
「君はこんな国の奴等を助けると言うの? 無実の罪の者を幽閉する様な愚かな国の奴らを」
そう言い返され逆に睨まれてしまいました。
「お婆ちゃんが亡くなった日、私達親族は連絡を受けてお婆ちゃんの家に集まっていたの。今までずっと放置してきた癖に……お婆ちゃんが亡くなると知ると急にお婆ちゃんの遺産に目がいったのね。
でも結局お婆ちゃんは遺言を残さずにあの日亡くなった。
順当に行けば血縁の親族に法で決まった配分で遺産が相続されるはずだった。所が後日になってお婆ちゃんの遺言書が見つかったの。
弁護士立ち合いの元、それは開封されその中身を読まれた時に皆、騒然となったわ。遺言状によればお婆ちゃんが拾って育てていた子猫を引き取った者に全ての遺産を譲ると書いてあったの。橋の下に捨てられていた子猫に3億円よ。
お婆ちゃんの火葬が終わった後でそんな物が出てきたから親戚一同は誰もが遺産を手にしようと空き家になったお婆ちゃんの家に子猫探しにやってきたわ。
中には違う子猫をお婆ちゃんの子猫だと偽って連れてきた人もいたけど遺言書と一緒に君の写真も入っていた事で親戚はその資格を失ったわ。
君は既にあの家には居なかったようだけれど……もしかしたらそれがお婆ちゃんの狙いだったのかも知れないわね。
君が見つからなかった場合は3億円を野良猫や野良犬を保護している団体に寄付するとあったから。
親族の皆はほとんどお婆ちゃんの家には顔を出さなくなっていたけど、私はたまに顔を出していたの。君を見かけた事もあるのよ。
私はお婆ちゃんから君の行動を聞いていたから一人河原に行ったの。
捨てられていた河原をよく散歩しているって聞いていたから。
お婆ちゃんの遺産とかそんな物はどうでもよかった。
ただお婆ちゃんが最後まで気に掛けていた君に会いたかったの。
そうしたらいつの間にか河原が一面花畑に変っているでしょ?
驚いたわよ」
渚さんの長たらしい説明を僕は茫然として聞いていました。
お婆さんが死んだ――。
その言葉から先は覚えていません。
嘘だ、渚さんの言っている事は嘘です。
だって僕がこの世界に来たのはまだ数か月前で、渚さんがこの世界に来たのはもうだいぶ昔の筈だから……。
「渚さんは嘘つきです。お婆さんは死んでいません。だって僕がここに来たのはお婆さんが帰ってこなくなって数日後で――ここで半年も生活していませんから」
僕が悲痛な面持ちでそう伝えると――。
渚さんも沈痛な面持ちを浮かべ彼女なりの憶測を述べます。
「私も学者じゃないからはっきりとは言えないんだけれど……私達が落ちた穴は時間を狂わせるみたいね。あっちの世界では先に落ちた君が後から落ちた私の後にこの世界にやって来たのが何よりの証拠だわ」
「嘘だ、嘘だ――あの優しいお婆さんが死ぬ筈が無い」
僕は動揺を隠せずに心の思うままに言葉を吐きだします。
人間も動物も老化には勝てません。
お婆さんは高齢でした。
それでも認めたくなくて、渚さんの話を否定します。
すると渚さんは吐息を漏らし、スカートのポケットに手を突っ込むと中から定期入れを取り出します。
そして怯えた様に震える僕に見える様にそれを開きました。
そこには僕を膝の上に乗せたお婆さんの笑顔が写っていました。
駄々をこねる幼子をあやす様に渚さんは言います。
「私もお婆ちゃんにはもっと長生きして欲しかったのよ。こう見えても私、お婆ちゃん子だったんだから」
その言葉を聞き僕の涙腺は崩壊しました。
もう止め処なくあふれ出る涙を抑える事は出来ません。
僕が橋の下に捨てられ震えていた時に、優しく声を掛け家に連れ帰って温かな毛布で包んでくれた優しい人。
無知な僕に色々な事を教えてくれた賢い人。
そして僕が飢えない様に手作りの料理を毎日作ってくれた慈悲深い人。
そのお婆さんはもう生きてはいません。
お婆さんが帰宅する前に僕が迷子になってしまって、もう会えないと諦めてはいましたが、それでも会えなくとも生きていて欲しかった。
どこかで元気に笑っていて欲しかった。
そんな想いのすべてが涙に変り流れ続けます。
「君もお婆ちゃんの事が好きだったのね。良かった――君を拾ったお婆ちゃんも天国で笑ってるわよ。さぁ、泣くのは止めなさい」
渚さんも僕に吊られたようにその黒い瞳を潤ませていますが、そこに事情を知らない第三者が割り込んできました。
「お師匠様、いつまで敵と無駄話してるんっすか。さっさと片付け無いとお昼になってしまうっすよ」
僕と渚さんが今は亡きお婆さんを偲んで思い出に浸っていると、金髪を短く肩で切りそろえ、爛々と輝く真っ赤な瞳で僕を見下ろしてそんな言葉を吐きだします。
敵と言われてもお婆さんの孫と言われれば僕にその気はありません。
きっとあのお婆さんの孫である渚さんも同じ気持ちだと――僕は思いました。
でも、その考えは間違っていたようです。
今まで潤ませていた瞳を取り換えたかのように素に戻ると、
「そうだったわね。さっさと終わらせましょうか。何で君がアンドレアの残党と一緒にいるのかは後で聞くとして――君は私の味方に付くんでしょ?」
そう言いながら指先に魔力を溜め始めました。
僕はこの渚さんの変わり身の早さに呆気に取られますが、既に魔法を放つ寸前まで魔力を高められた事で正気に戻ります。
「渚さん、止めてください。ここには守りたい人が沢山いるんです!」
僕が願いを込めてそう告げると――。
「君はこんな国の奴等を助けると言うの? 無実の罪の者を幽閉する様な愚かな国の奴らを」
そう言い返され逆に睨まれてしまいました。
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