子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第163話、奪還

「子猫ちゃんこれでは台無しではないか」
「何が台無しなんですか! これだけ追い詰められた状況でまだ説得を試みるとか、そんな悠長な事をしていたら本当に死んでしまいますよ!」
「あの兵達にも家族が居たんだぞ!」
「そうでしょうね。でもその覚悟があるから戦いに身を置いたんじゃ無いんですか?」
「そ、それはそうだが……」
「フローゼ姫この国に戻ってからおかしいですよ。家族が皆処刑されたのも、国王派が奴隷になったのも、子爵城を守って大勢亡くなったのもあなたのせいじゃない!」
「だが――妾があの時にあの穴に落ちなければ、他国に付け入られる隙は与えなかったのだ!」

 ここに来るまでに上の空だった事が多かったフローゼ姫ですが、何を考えているのかと思えばそんな事を考えていたんですね。
 遅かれ早かれオードレイク伯爵を討伐した段階で、貴族派は危機感を抱き行動に移したと思いますよ。
 僕は今いう事では無いと思いながらも、救い出した3人から教えてもらった子爵様と騎士団長の所在を話します。

「救い出したフェルブスターさん達の話では、子爵様も、騎士団長も僕達の捜索に森に入ったまま戻っては来なかったそうですよ。まさかとは思いますが――」
「――っ。まさか!」
「ええ、その可能性は高いですね。万一森の中でオーガの様なAランクの魔物が現れてもあの騎士団長の事です。きっと子爵様だけは助けた筈です。となると考えられるのは、捜索隊が戻って来られない事態に陥った。あの穴があった場所に目印を残して来たって以前言っていましたよね? それを追って捜索隊も穴に落ちたと考えると現状で行方が分からない理由も付けられますよ」
「それでは騎士団長も子爵殿も――」
「はい。多分……ルフランの大地です」

 確信に近い考えをフローゼ姫に告げると彼女は、

「それではやはり全て妾のせいではないか」

 そう言ってうな垂れその場に頽れてしまいました。
 さて余計な口出しをするフローゼ姫は大人しくなりました。
 さっさと悪党退治をしましょうかね。

 僕はフローゼ姫に結界を上掛けするとその場から逃走した兵達を追って城内へと駆け出しました。
 ここの城の中なら全く知らない兵達と比べ内部の把握は一日の長があります。
 エリッサちゃんの案内で城中回って遊びましたからね。
 城中隈なく駆け回り隠れていた兵を爪で切り裂いていきます。
 後でミカちゃんに叱られるので自重して足を切断するに留めました。

 僕も成長するんですよ!

 逃げた兵は100人程。
 城の中を駆けまわって倒した兵も100人。
 さて――残るは一番偉そうだった人だけですね。
 偉い人が居る場所と言えば――子爵様の書斎か、執務室ですかね。
 僕はかつて初めてこの城にやってきた時に招かれた、豪華な木彫りの装飾がされた扉がある部屋を目指します。
 執務室までそう時間を掛けず到着し、爪で扉を破壊しようと思いましたがここが敵の城では無くエリッサちゃんの家だった事を思い出します。
 重厚な扉は僕が頭突きで押してもびくともしません。
 さて、どうしましょう?
 中に人がいる気配はしますが、おかしいですね。
 攻め入られて逃げた人がこんな場所に一人で立て籠もるでしょうか……。
 扉を壊すのは気が引けますが、後でミカちゃんに直してもらえばいいですね。
 僕はジャンプすると爪とぎの要領で扉に切り込みを入れました。
 呆気無く扉は壊れ中にいた人が姿を現します。
 中にはソファーに座り優雅に紅茶を嗜んでいるメイドの姿が――。
 あれ、この人何処かで……。

「あらこの猫は、この猫がここに居るという事は、お嬢様が戻られたんですね」

 主人が留守の間にこのメイドは何をやっているんでしょうね。
 僕達がここに滞在していた時にエリッサちゃんにずっと付き添っていたメイドさんがそこにはいました。

「こんな所で何してるんです?」
「猫が喋った――」

 この展開、もういいですから。それより何でこのメイドさんがここに居るのか問いたださないといけませんね。

「あなたは何でここに、子爵家のメイドさんですよね?」
「そうですよ。でもお嬢様も子爵様もご不在ではお仕事が無いんですもの。暇だったのでここを占拠した将軍に取り入って雇ってもらいましたの。それも猫様がいらしたという事は――失業ですわね」

 はぁ。この人、逞しい女性ですね。
 普通は城に敵が入ってくれば逃げ出すものだと思うのですが……。

「それで何故メイドの貴女がソファーに座って優雅に寛いでいるんですか?」
「主人が居ない時のメイドなんてこんなものですよ」

 ぶっ――この人真面目で堅物だと思っていたらとんでもないですね。

「それじゃ、ここを使っていた偉い人は何処にいったんですか?」
「さぁ? 一度戻って来たと思ったらすぐに荷物を持って裏口の方へ走って行かれましたわよ」

 逃げられたんじゃないですか!
 それを早く言って欲しかったです。無駄な時間を使ってしまいましたね。
 僕は未だにソファーで寛いでいるメイドさんをその場に残し、裏口へ駆け出しました。
 裏口から庭に出ると、そこには誰も居ません。
 ただ馬の蹄の後だけ城門に続いて伸びていました。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品