子猫ちゃんの異世界珍道中
第124話、本隊
王子に僕達の身に起きた事を説明した晩、僕達は穴の近くで野営をします。
王子は――迎えに来た執事と馬車に乗り城へと戻っていきました。
僕は帰すのには反対したのですが、王国軍の半数を拘束している現状で無茶な事は仕出かさないだろうと、フローゼ姫からの提案で決りました。
獣人に差別的な考えを持っていても、所詮植えつけられた思想です。
真実を知った王子が、どうするのか王子を試したともいえます。
王子という人質が戻った事で、王家が徹底抗戦を仕掛けてくる可能性も否定は出来ません。
それでも王子から聞いた話では、ガンバラ王国には優秀な魔法師は居ない様なので、仮に残っている騎士を総動員されても対処は可能だろうと、フローゼ姫に押し切られました。
確かに今回の作戦と似たような攻撃を何度繰り返されたとしても、僕達をどうにか出来るとは思えません。
規模は違えども、国という巨大な組織を運営する立場の人間として、まだ若い王子を応援したい気持は分りますが、国王や貴族達が若い王子の考えで改心出来るとは思えません。そんなに簡単に改心出来る程柔軟な発想力を持っているなら、獣人差別に凝り固まった思考など続かないですからね。長い間、その考えが維持され続けているという事は、それなりの理由があるはずです。
王子を戻した事で、騒ぎが大きくならなければいいのですが……。
その晩は王国側も動きは無く、翌朝日が上りきる前に僕達は捕虜にした王国軍を穴の中に入れたままの状態で移動を開始します。
直ぐに助けは来ると思いますが、念の為に縄をいくつか垂らし、抜け出せる様にしてきたので我先に抜け出そうとしなければ時間は掛かるでしょうが、ちゃんと穴からは出られるでしょう。
馬車も馬も投石で失った為に、徒歩での移動です。
僕達は警戒しながら街道を進みます。
朝早くに出発し、昼まで誰とも会いません。
昼食を食べた後で前方に出来た砂煙に気づきます。
上空には偵察でしょうか、ワイバーンの姿も視認出来ます。
やっぱり王子だけでは役不足でしたね。
上空のワイバーン部隊は20体、地上にいる部隊は5000人もいます。
「ほぼ無傷で2300もの騎士を拘束したというのに、数を倍用意すれば勝てると踏んだのか……」
「王子が率いていたのは本隊じゃ無かったにゃ。これが本隊かにゃ?」
「私なんだか眩暈がしますわ」
ワイバーンは王子の助言でもあったのでしょうか?
上空で待機したまま様子を窺っています。
地上の部隊は、僕達の姿を認めると広範囲に広がって行きます。
鶴翼の陣を取ると一糸乱れぬ動きで一気に歩を進めてきます。
なるほど――翼部分を僕達の背後に回し、回り込もうとしているようです。
中央の凹んだ部分の更に奥に本陣らしきものも見て取れます。
あんなに分り易く本陣を置いたら、狙って下さいと言っている様な物です。
「まったく懲りないにゃ……」
「ただ昨日と違って固まってはおらぬからな、これでは囲い込みは難しい」
「昨日の牢屋でさえ範囲が狭くて捕らえ切れませんでしたのに――」
ミカちゃんが先日同様、濃霧を発生させて敵を混乱させています。
広がる陣形を選択したのは感心させられましたが、濃霧の影響で足並みが総崩れになり始めました。
「僕がこっそり本陣に攻め込んで、指揮している人を倒せば終わりますね」
「でも殺しちゃだめにゃ」
「分ってますよ。両足位は大丈夫でしょうか?」
「それで死ななければ……いいのかにゃ?」
「いいのか! そんな簡単な作戦で」
「子猫ちゃんですし……」
僕とミカちゃんの打ち合わせを聞いた2人が、苦笑いを浮かべています。
「じゃさっさと終わらせてきますね」
僕はミカちゃんが発生させた濃霧に隠れ一気に敵の本陣へと進みます。
前回は霧の中を偵察するだけでしたが、今回は違います。
中央に集まっている集団の足元を潜り抜け、後方まで一息で駆けると――いました。一際豪華な椅子に座って、扇を振りかざしている太ったおじさんです。
椅子の後ろには、情け無い面持ちで眉を下げている王子の姿もあります。
王子の頭の上には先が尖った帽子が乗せられています。
河童の様な髪型では人前に出たくない様ですね。
僕が接近しても誰も気づきません。
僕が神速で近づき、椅子に座っている偉そうなおじさんの両足を足首から切断します。切断して直ぐに僕は王様の後方に置かれている樽の影へと身を潜めました。
「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!」
突然、椅子に座って踏ん反り返っていた指揮官が悲鳴をあげ、その足元が真っ赤な血で染まります。
僕の今回の役目はこれだけです。
指揮官に騎士達が集まって来るタイミングで一気にその場を離れました。
指揮官は自分の身に起きた出来事は分っても、いつ、どのように攻撃されたのか分らず、ただただ苦痛に顔を歪め悲鳴をあげています。
さてここからはミカちゃんの出番ですね。
王子は――迎えに来た執事と馬車に乗り城へと戻っていきました。
僕は帰すのには反対したのですが、王国軍の半数を拘束している現状で無茶な事は仕出かさないだろうと、フローゼ姫からの提案で決りました。
獣人に差別的な考えを持っていても、所詮植えつけられた思想です。
真実を知った王子が、どうするのか王子を試したともいえます。
王子という人質が戻った事で、王家が徹底抗戦を仕掛けてくる可能性も否定は出来ません。
それでも王子から聞いた話では、ガンバラ王国には優秀な魔法師は居ない様なので、仮に残っている騎士を総動員されても対処は可能だろうと、フローゼ姫に押し切られました。
確かに今回の作戦と似たような攻撃を何度繰り返されたとしても、僕達をどうにか出来るとは思えません。
規模は違えども、国という巨大な組織を運営する立場の人間として、まだ若い王子を応援したい気持は分りますが、国王や貴族達が若い王子の考えで改心出来るとは思えません。そんなに簡単に改心出来る程柔軟な発想力を持っているなら、獣人差別に凝り固まった思考など続かないですからね。長い間、その考えが維持され続けているという事は、それなりの理由があるはずです。
王子を戻した事で、騒ぎが大きくならなければいいのですが……。
その晩は王国側も動きは無く、翌朝日が上りきる前に僕達は捕虜にした王国軍を穴の中に入れたままの状態で移動を開始します。
直ぐに助けは来ると思いますが、念の為に縄をいくつか垂らし、抜け出せる様にしてきたので我先に抜け出そうとしなければ時間は掛かるでしょうが、ちゃんと穴からは出られるでしょう。
馬車も馬も投石で失った為に、徒歩での移動です。
僕達は警戒しながら街道を進みます。
朝早くに出発し、昼まで誰とも会いません。
昼食を食べた後で前方に出来た砂煙に気づきます。
上空には偵察でしょうか、ワイバーンの姿も視認出来ます。
やっぱり王子だけでは役不足でしたね。
上空のワイバーン部隊は20体、地上にいる部隊は5000人もいます。
「ほぼ無傷で2300もの騎士を拘束したというのに、数を倍用意すれば勝てると踏んだのか……」
「王子が率いていたのは本隊じゃ無かったにゃ。これが本隊かにゃ?」
「私なんだか眩暈がしますわ」
ワイバーンは王子の助言でもあったのでしょうか?
上空で待機したまま様子を窺っています。
地上の部隊は、僕達の姿を認めると広範囲に広がって行きます。
鶴翼の陣を取ると一糸乱れぬ動きで一気に歩を進めてきます。
なるほど――翼部分を僕達の背後に回し、回り込もうとしているようです。
中央の凹んだ部分の更に奥に本陣らしきものも見て取れます。
あんなに分り易く本陣を置いたら、狙って下さいと言っている様な物です。
「まったく懲りないにゃ……」
「ただ昨日と違って固まってはおらぬからな、これでは囲い込みは難しい」
「昨日の牢屋でさえ範囲が狭くて捕らえ切れませんでしたのに――」
ミカちゃんが先日同様、濃霧を発生させて敵を混乱させています。
広がる陣形を選択したのは感心させられましたが、濃霧の影響で足並みが総崩れになり始めました。
「僕がこっそり本陣に攻め込んで、指揮している人を倒せば終わりますね」
「でも殺しちゃだめにゃ」
「分ってますよ。両足位は大丈夫でしょうか?」
「それで死ななければ……いいのかにゃ?」
「いいのか! そんな簡単な作戦で」
「子猫ちゃんですし……」
僕とミカちゃんの打ち合わせを聞いた2人が、苦笑いを浮かべています。
「じゃさっさと終わらせてきますね」
僕はミカちゃんが発生させた濃霧に隠れ一気に敵の本陣へと進みます。
前回は霧の中を偵察するだけでしたが、今回は違います。
中央に集まっている集団の足元を潜り抜け、後方まで一息で駆けると――いました。一際豪華な椅子に座って、扇を振りかざしている太ったおじさんです。
椅子の後ろには、情け無い面持ちで眉を下げている王子の姿もあります。
王子の頭の上には先が尖った帽子が乗せられています。
河童の様な髪型では人前に出たくない様ですね。
僕が接近しても誰も気づきません。
僕が神速で近づき、椅子に座っている偉そうなおじさんの両足を足首から切断します。切断して直ぐに僕は王様の後方に置かれている樽の影へと身を潜めました。
「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!」
突然、椅子に座って踏ん反り返っていた指揮官が悲鳴をあげ、その足元が真っ赤な血で染まります。
僕の今回の役目はこれだけです。
指揮官に騎士達が集まって来るタイミングで一気にその場を離れました。
指揮官は自分の身に起きた出来事は分っても、いつ、どのように攻撃されたのか分らず、ただただ苦痛に顔を歪め悲鳴をあげています。
さてここからはミカちゃんの出番ですね。
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