子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第123話、明かされた真実

 咄嗟の事で王子は反応出来ていません。


 王子に分ったのは、頭の頭頂部が若干ヒリヒリする事と、自慢の長髪が足元に落ちた事だけでしょう。


「ひ、ひぃぃぃぃぃ」


 腰掛けていた丸太から腰を抜かして、後ろにひっくり返ります。


「あぁ。やっちゃったにゃ」


「これで済んだだけで良かったですわね」


「妾達でさえミカ殿達、英雄の情報を先に知っていたからこそ、失礼な態度は取らなかったが……」


 知らなかったら虎の尾を、いや子猫の尻尾を踏んだ可能性もあったのか。とフローゼ姫が身震いしています。


「ミカちゃんを召使の様に使う等、僕が許しませんよ! 足置き台にしたお爺さんと同じ目に合わせますからね!」


 ミカちゃん、エリッサちゃん、フローゼ姫には馬車の中でお爺さんがミカちゃんに対し行った蛮行を話しています。


 当然、その末路も……。


 皆は仲間だからこそ、軽んじた発言も許容できます。


 でも全く関係ない人が、ミカちゃんの素晴らしさを知らない人が、それをするのは許容出来ません。


「お前達、坊ちゃまに対し何たる事を――」


 執事のお爺さんは絶句しています。


 僕が爪で攻撃したのが全く見えておらず、王子はひたすら髪が剃り落ちた頭頂部を撫でています。


 この王子には、誰がこの様な真似をしたのか見えていませんね。


 お爺さんも同様です。


 刃物を持っている人物を特定しようと、女性陣を隙無く窺っています。


「これに懲りたら迂闊な発言は慎むのだな」


 フローゼ姫が何事も無かったかのように、ハンバーグに口を付け始め、ミカちゃんも焼きあがったハンバーグを次々と違う葉っぱに装っていきます。


 あんな失礼な発言をした王子の目の前にもそれは置かれます。


 王子にミカちゃんの手料理は勿体無いですよ!


 執事のお爺さんの分も用意し、エリッサちゃん、僕、子狐さん、自分の分と装い終わるとそれを皆で食べ始めます。


「何度食べても美味しいですわね」


「あぁ、異世界の料理など初めて食べたがこれは店を開けるな」


「子猫ちゃんとの旅が終わったら料理屋さんをするのも良いかも知れないにゃ」


「それ楽しそうですね」


 僕達が和気藹々とハンバーグ食べていると、僕達を観察していたお爺さんと王子のお腹が鳴ります。


「そなた達も早く食え。冷めるとせっかくの味が半減するぞ」


 フローゼ姫が美味しそうに食べながら勧めると、恐る恐る2人は木のフォークを手に取り、ハンバーグを細かく切り分け口に運びます。


 最初に口に入れる際、なんだこの肉は――屑肉じゃ無いのか。などと失礼な発言がありましたが、ハンバーグはそう言うものです。誰もそれに対しては言葉を挟まず、王子達が口に入れるのを待ちます。


 王子はハンバーグを口に入れると、一噛み。そしてまた一噛み。


 眉が飛び跳ねるのを皆で面白おかしく見つめていました。


 大きく瞳を開けると――。


「何だ! この料理は……こんな旨い料理は城でも食った事が無いぞ!」


「まさに――」


 2人の驚きは、先日の女性陣と全く同じです。


「そうであろう。この料理の調理法はこの世界のものでは無いからな」


 フローゼ姫が種明かしをしますが、2人の頭上にはハテナマークが浮かんでいます。


 迷い人の話を知らなければ、無理もありません。


 この世界云々の話は置いておき、2人は一心不乱に葉っぱの上のハンバーグを食し、あっという間に食べ終わりました。


 女性陣は少食なのでこれで足りますが、育ち盛りの男性にはもの足りないようですね。ミカちゃんが気を利かせて、


「もっと焼くかにゃ?」


 優しく尋ねます。


 流石に先程、失言したばかりで2度は無いと思いますが、皆の視線は王子に注がれています。


「あぁ、ありがとう。もう1枚頼む」


 今度は横柄な態度では無く、ちゃんと対応出来ましたね。


 女性陣もホッと胸を撫で下ろしています。


 この後、王子はミカちゃんが追加で焼いたハンバーグもペロッと平らげ、更にもう1枚を食べた所で満足したらしくフォークを置きました。


 食後の紅茶を皆で飲んでいると――。


「先程の話だが、本当なのか?」


 王子が3枚もハンバーグを食べている間に、執事のお爺さんには事のあらましを伝えて有ります。当然隣でハンバーグを食べていた王子もその会話は聞いていました。その話の真相を問うてきます。


「本当も何も事実だ。この国は獣人と行動を共にしているだけで、その仲間も犯罪者にしたてあげるのか?」


「何を馬鹿な――」


 フローゼ姫が王子に真実だと告げ、この国のあり方を問います。王子が言葉を挟み馬鹿らしいと一蹴しようとしますが、その結果がこの有様なのは一目瞭然です。


「だが事実、妾達は事実無根の罪を捏造され、牢屋に入れられた後に隷属の首輪を嵌められたのだ。子猫ちゃんと子狐さんが居なかったら――妾も娼館で男共に春を売る仕事に付かされた事だろう。自分の意思など関係無くな!」


「――ぐっ」


 見目麗しい美少女のフローゼ姫に、辛辣な言葉を聞かされ王子は声も出せません。


「途中でワイバーンを見つけてそれを退治したにゃ。それに乗っていた人がこんな物を持っていたにゃ」


 ミカちゃんは伝令兵が持っていた書状を、王子の目の前に突き出します。


「これと同じ物を僕も読んだから、こうして討伐に――」


「でもこれに書かれている事は嘘にゃ。私達を無理に拘束しようとしたから反撃されて被害が出たにゃ。それが無ければただの旅人で一泊だけしてマクベイラーの街からは出て行く予定だったにゃ」


「では……本当に?」


「ええ。こうして勇み足で軍を起こした事に、同情を禁じえませんわ」


 育ちの良さそうな2名の少女と、獣人の少女から自分の考えが間違いであったと知らされた王子の表情は、落ち込み暗いものになっていきます。


 仕方無いですよね。


 誰でも自分の身内である貴族からの書状を信じますから。


 でも書状には賊と書いてありましたが、この少女達を見れば――。


 それが過ちなのは分りそうなものです。


 少女3人と子猫、子狐のメンバーで何処が賊ですか!


 結果的にはそのメンバーに王国軍が惨敗した訳ですが……。


 あれ?


 賊の定義って何でしょう。


 他人に危害を加えたり、財物を奪ったりする者。国家、社会の秩序を乱すものだそうです。


 王子の隣に座っているお爺さんが教えてくれました。


 前者は当て嵌まりませんが、後者に少しだけ掠った気がしなくもありません。


 社会の秩序を乱すほど強力な魔法を皆、使えますからね。


 でも普通に考えればただの旅人です。


 僕達は悪くありませんよね?

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