子猫ちゃんの異世界珍道中
第109話、迷い人の……。
黒いローブの魔法使いが退散してからは、一切の動きが無くなり城の内部は静寂が包み込んでいます。一方で城下の炎は勢いが増し、僕が見つけた時は煙しか見えていませんでしたが、現在では誰の目にもはっきりと分るほどに炎が立ち上っています。こんな城主の街が消失しても僕には関係有りませんけどね。
暫くすると城から白いハンカチを木の棒に括り付けたローブの女が、それを上に掲げ左右に振りながら戦々恐々と近づいて来るのが見えました。
白い旗って何の意味があるんでしょうか?
僕は掌に魔力を集めると威嚇の意味を込めて、爪を飛ばします。
爪は首の周囲を、弧を描くように回り込むとローブの首から上を呆気なく切り裂きます。
「ひ、ひゃぁぁぁぁ~なぎさぁぁぁぁ~白旗なんて通じないじゃないのよぉ」
何か大声で叫んでいます。
もしかして僕と会話でもしにきたんでしょうか?
僕は意思の疎通を使い、言葉を喋ります。
「ねぇ、さっきはいきなり攻撃してきたのに、一体何の用なの?」
「ひゃっ、猫が喋った!」
何をしても驚かれるのには慣れているけど、一々大げさですね。お姉さん。
僕はうんざりしながらも馬車の近くまで接近してきた、ブロンズ色の髪を肩まで伸ばし、如何にも胡散臭そうな丸めがねをかけた女性を訝しむ眼差しで見つめます。
「それでお姉さん、何の用ですか?」
「は、話を聞いてくれるんですか?」
「いや、質問に質問で返さないで下さい」
何だか面倒臭い人みたいですね。
「それでは遠慮なく――城主様から提案なのですが、城下が現在過去に例が無い程の大火災に見舞われて民達が困っています。それで消火が終わるまでは停戦と致しませんか? と、城主であるマクベイラー侯爵様が申しております」
本当か嘘かはどうでもいいですが、僕はミカちゃんの意識が戻るまではここを離れるつもりはありません。馬車を動かすのも認めません。この馬車がお城の正門を塞いでいるのは分りますが、全ての元凶は侯爵の方ですから。
僕がそれを告げると、お仲間の安全が確保されれば問題は無いのでは? と言われます。でもそんな約束信じられません。ただでさえ獣人に対しての差別が激しい街ですから。
まるで押し問答の様にローブの女と会話していると、子狐さんが泣き叫びながら駆けて来ます。
あれ?
2人を救出に行った筈では?
「みゃぁ~?」
僕が尋ねると――目にいっぱいの涙を潤ませ2人が運び込まれた娼館に潜入したまでは良かったのですが、不用意に放った魔法のお陰でエリッサちゃんが意識不明の重体に、しかも何故かフローゼ姫が剣を持って子狐ちゃんに襲い掛かってきたのだとか……。ボロボロ涙を零しながらエリッサちゃんが、エリッサちゃんを助けてと懇願されました。
とは言われても、こちらも今ここを離れる訳には――。
すると何故か僕達の会話内容を認識していた胡散臭そうな丸めがねの女が、
「それなら私がこの獣人の娘さんをその娼館まで運びますわ!」
そんな提案をしてきました。
燃えているのも娼館だからそれなら一挙両得ですわ!とか何とか。意味は分りませんが……でも敢えて言うならお断りです。誰が大事なミカちゃんを他人に預けられると言うんですか。まして敵であるこの女に!
僕が子狐さんを宥めながら、ローブの女に言葉を吐き出します。
「では私が師匠から頂いたこのネックレスを預けますわ。売れば金貨30枚にはなるそうです。これなら問題無いですわよね?」
「あなた馬鹿じゃないんですか? ミカちゃんとそんな物比べるなんて……」
思わず普段使わないお婆さんの世界の、若い女性の言葉を真似て使ってしまいました。
所が、それを聞いた女はハッと気づいたように眉を上げるとある単語を声に出します。
「納豆、日本、迷い人これに聞き覚えはありませんか?」
聞き覚えも何も、全て聞いた事があります。
「まさかあなたが納豆の人ですか?」
僕が嫌そうな面持ちで伝えたからでしょうか? 女は必死に首を横に振ると、
「いえ。それを私に教えたのは迷い人のなぎさなのです」
てっきり納豆の人かと思ったら違った様です。
僕とエリッサちゃん達の様な関係だったそうで、数年前にお互い食文化の相違から言い争いをして袂を分けたそうです。まぁ、納豆好きと嫌いが一緒に食事をしてもね……その匂いで美味しい食事も不味くなりますから。気持は分ります。
この女の名前はミランダと言うらしく、袂を分かつまでに覚えた魔法は今でも使えるが、離れてからは他の魔法を覚える事は無かったと言います。これは良い情報を聞きましたね。でもこの女を信用出来るかどうかは別問題です。
「ではこうしませんか? 私が馬車の御者をしますので、貴方は馬車に乗って娼館に行くと。娼館まで行けば私は消火魔法を使える。貴方は重体の娘を救出にいけると思うのですが……」
そもそもそれだと娼館に近くなるだけで、ミカちゃんの安全が確保される訳ではありませんよね?
僕がエリッサちゃんにヒーリングを掛けている間に、ミカちゃんが襲われない保障は何処にもありません。
僕がそれを言うと――。
「これならどうでしょう? 私が消火魔法を使い、その後にその娘さんにヒーリングを掛ける。これなら馬車の中にいる子には危害は及びませんわよ?」
でもその場合は、エリッサちゃんを人質に取られる恐れが……。
僕が悩んでいると、アーン、アーン、アーン。と子狐さんが今にも壊れてしまいそうな位悲痛な鳴き声で早く、早く助けて。と訴えます。
流石に時間が経ちすぎですからね。
仕方ありませんか……。
僕はミカちゃんの側から動く気はありませんから、娼館では子狐さんがこの女をちゃんと監視しているんですよ!
僕がそう伝えると、首を縦にぶんぶん振りながら鼻水と涙を僕に飛ばしてきました。頷くのはいいのですが、今回の戦闘で初めて汚れましたよ――僕。
暫くすると城から白いハンカチを木の棒に括り付けたローブの女が、それを上に掲げ左右に振りながら戦々恐々と近づいて来るのが見えました。
白い旗って何の意味があるんでしょうか?
僕は掌に魔力を集めると威嚇の意味を込めて、爪を飛ばします。
爪は首の周囲を、弧を描くように回り込むとローブの首から上を呆気なく切り裂きます。
「ひ、ひゃぁぁぁぁ~なぎさぁぁぁぁ~白旗なんて通じないじゃないのよぉ」
何か大声で叫んでいます。
もしかして僕と会話でもしにきたんでしょうか?
僕は意思の疎通を使い、言葉を喋ります。
「ねぇ、さっきはいきなり攻撃してきたのに、一体何の用なの?」
「ひゃっ、猫が喋った!」
何をしても驚かれるのには慣れているけど、一々大げさですね。お姉さん。
僕はうんざりしながらも馬車の近くまで接近してきた、ブロンズ色の髪を肩まで伸ばし、如何にも胡散臭そうな丸めがねをかけた女性を訝しむ眼差しで見つめます。
「それでお姉さん、何の用ですか?」
「は、話を聞いてくれるんですか?」
「いや、質問に質問で返さないで下さい」
何だか面倒臭い人みたいですね。
「それでは遠慮なく――城主様から提案なのですが、城下が現在過去に例が無い程の大火災に見舞われて民達が困っています。それで消火が終わるまでは停戦と致しませんか? と、城主であるマクベイラー侯爵様が申しております」
本当か嘘かはどうでもいいですが、僕はミカちゃんの意識が戻るまではここを離れるつもりはありません。馬車を動かすのも認めません。この馬車がお城の正門を塞いでいるのは分りますが、全ての元凶は侯爵の方ですから。
僕がそれを告げると、お仲間の安全が確保されれば問題は無いのでは? と言われます。でもそんな約束信じられません。ただでさえ獣人に対しての差別が激しい街ですから。
まるで押し問答の様にローブの女と会話していると、子狐さんが泣き叫びながら駆けて来ます。
あれ?
2人を救出に行った筈では?
「みゃぁ~?」
僕が尋ねると――目にいっぱいの涙を潤ませ2人が運び込まれた娼館に潜入したまでは良かったのですが、不用意に放った魔法のお陰でエリッサちゃんが意識不明の重体に、しかも何故かフローゼ姫が剣を持って子狐ちゃんに襲い掛かってきたのだとか……。ボロボロ涙を零しながらエリッサちゃんが、エリッサちゃんを助けてと懇願されました。
とは言われても、こちらも今ここを離れる訳には――。
すると何故か僕達の会話内容を認識していた胡散臭そうな丸めがねの女が、
「それなら私がこの獣人の娘さんをその娼館まで運びますわ!」
そんな提案をしてきました。
燃えているのも娼館だからそれなら一挙両得ですわ!とか何とか。意味は分りませんが……でも敢えて言うならお断りです。誰が大事なミカちゃんを他人に預けられると言うんですか。まして敵であるこの女に!
僕が子狐さんを宥めながら、ローブの女に言葉を吐き出します。
「では私が師匠から頂いたこのネックレスを預けますわ。売れば金貨30枚にはなるそうです。これなら問題無いですわよね?」
「あなた馬鹿じゃないんですか? ミカちゃんとそんな物比べるなんて……」
思わず普段使わないお婆さんの世界の、若い女性の言葉を真似て使ってしまいました。
所が、それを聞いた女はハッと気づいたように眉を上げるとある単語を声に出します。
「納豆、日本、迷い人これに聞き覚えはありませんか?」
聞き覚えも何も、全て聞いた事があります。
「まさかあなたが納豆の人ですか?」
僕が嫌そうな面持ちで伝えたからでしょうか? 女は必死に首を横に振ると、
「いえ。それを私に教えたのは迷い人のなぎさなのです」
てっきり納豆の人かと思ったら違った様です。
僕とエリッサちゃん達の様な関係だったそうで、数年前にお互い食文化の相違から言い争いをして袂を分けたそうです。まぁ、納豆好きと嫌いが一緒に食事をしてもね……その匂いで美味しい食事も不味くなりますから。気持は分ります。
この女の名前はミランダと言うらしく、袂を分かつまでに覚えた魔法は今でも使えるが、離れてからは他の魔法を覚える事は無かったと言います。これは良い情報を聞きましたね。でもこの女を信用出来るかどうかは別問題です。
「ではこうしませんか? 私が馬車の御者をしますので、貴方は馬車に乗って娼館に行くと。娼館まで行けば私は消火魔法を使える。貴方は重体の娘を救出にいけると思うのですが……」
そもそもそれだと娼館に近くなるだけで、ミカちゃんの安全が確保される訳ではありませんよね?
僕がエリッサちゃんにヒーリングを掛けている間に、ミカちゃんが襲われない保障は何処にもありません。
僕がそれを言うと――。
「これならどうでしょう? 私が消火魔法を使い、その後にその娘さんにヒーリングを掛ける。これなら馬車の中にいる子には危害は及びませんわよ?」
でもその場合は、エリッサちゃんを人質に取られる恐れが……。
僕が悩んでいると、アーン、アーン、アーン。と子狐さんが今にも壊れてしまいそうな位悲痛な鳴き声で早く、早く助けて。と訴えます。
流石に時間が経ちすぎですからね。
仕方ありませんか……。
僕はミカちゃんの側から動く気はありませんから、娼館では子狐さんがこの女をちゃんと監視しているんですよ!
僕がそう伝えると、首を縦にぶんぶん振りながら鼻水と涙を僕に飛ばしてきました。頷くのはいいのですが、今回の戦闘で初めて汚れましたよ――僕。
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