子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第101話、獣人の扱い

 僕達を乗せた馬車は、ガンバラ王国で2番目に大きな街まで小1時間の距離まで進んでいます。


 この辺りになると気温も幾分か下がり、朝晩は寒く感じます。


 でもお昼を過ぎた今時分は、お日様の陽射しも強く気温は温かいです。


 そんな中を白銀の鎧を纏い、手綱を握るフローゼ姫は一種独特な雰囲気を纏っています。それもその筈。騎士の姿で行商人が使用する馬車を操っているのですから……見る人が見ればその違和感は半端無いでしょう。


 まぁ本人が気にしていないようなので問題はありませんが。


 ただミカちゃんの様に繊細な扱いでは無いので、途中何度も窪みに嵌り皆で馬車を押す羽目になりました。


 それでも馬車は壊れる事無く、無事に高く聳える街壁が見える所までやってきました。宿屋で聞いてはいましたが、本当に大きな街です。何でも侯爵様のおわす居城があるとかで、その位に見合った立派な街だそうです。


「ほう、これは……うちの王都並みに大きな街だな」


「こんな大きな街は初めてにゃ」


「サースドレインと比べると倍以上の大きさですわね」


 鉱山で潤っているとはいえ、小国のアンドレア王都と遜色無い位に大きい様です。流石は古くからある国といった所なんでしょうか?


 僕が驚くのは壁だけで、中に入ればお婆さんの住んでいた町の建物の方が大きかったので特に感じる事は多くはありませんが……。


 この世界の住人である3人にとっては感動ものの光景の様です。


フローゼ姫が馬車を正門前に進めると、入門待ちの人が列を成しています。


 目の前には長蛇の列で、僕達の番までは大分かかりそうです。


 1時間後、僕達の番になり門番さんの誰何を受けます。フローゼ姫が前回と同じく目的地を告げると、


「砂漠の国は知らぬが、エルストラン皇国へ向かうのか。滞在期間によって頂く入場料は変動するがどうする?」


 今までの街は滞在期間に関わらず銀貨1枚でしたが、ここでは滞在日数によって支払う代金が変わってくるようです。僕達は観光で来た訳では無いので、1泊2日の予定で銀貨3枚だけ支払い入場しました。


 滞在期間を無断で延長した場合は、3倍の追徴金が掛かると言われます。


 明日には出立する予定なので問題はありませんが……。


 そんな細々とした説明を聞き、馬車に乗り込み門を潜ります。


「凄いにゃ!」


「ほぅ!」


「綺麗な街ですわね」


 馬車がアーチ状の門を潜り中に入るとそこには、綺麗に敷かれた石畳と色とりどりに塗られた屋根をもつ建物が、大通りを挟み込むように並んで建てられていました。


 女性陣がキョロキョロと周りを見渡しながら少しずつ馬車を進めます。


 宿は3本目の大きな通りを右に曲がると見えてくると門番さんに聞いたので、取り敢えずは真っ直ぐ行きます。


 街が大きい為に、3本目の大通りが中々見えてきません。


 途中で道の両脇を露天がひしめいていて、鼻孔をくすぐる匂いの料理を出している店がいくつも並んでいました。時間があれば立ち寄ってみたいですね。


 暫く進むと漸く3本目の大通りが見えてきますが、この辺りまでくると周囲の建物も立派な佇まいをしており、庶民向けの様な感じは受けません。


 まさか、高級な宿を紹介されたのでしょうか?


「何だか場違いな場所に来た様な感じがするにゃ」


「妾もそんな気がしてきたぞ」


「周りの建物は皆3階建ですわね」


 大通りを右折すると――ずっと奥に5階建ての大きな煉瓦造りの宿屋がありました。


「ここ1泊いくらなのかにゃ? 流石に1泊金貨とかは払えないにゃ」


「どう見ても平民が泊る宿には見えんな」


「お値段を聞いて高いようなら、安い宿を紹介してもらえば……」


 流石に皆、困惑顔です。


 ミカちゃんも前回の報酬をギルド貯金にした為に、金貨は持ち合わせていません。


 そして馬車は5階建ての宿の前に到着します。


「では妾が降りて聞いてこよう」


 フローゼ姫が馬車から降りて、宿屋の正面入り口へ消えていきました。


 ミカちゃんはフローゼ姫が馬車を降りた為に、馬が暴れる事が無い様、御車席に移っています。


 しばらくするとフローゼ姫が戻ってきますが浮かない顔をしています。


 どうしたんでしょうか?


「人族の宿泊料金が銀貨2枚なのだが……獣人は泊められないと断わられた」


 なるほど……そういう……。


「仕方無いにゃ。皆で泊れる所を探すにゃ」


 ミカちゃんが気まずそうなフローゼ姫に気を使い、元気に語りますが……フローゼ姫は眉間に皺を寄せ俯いたままです。


 どうしたんでしょう?


「何か問題がおありなのでしょうか?」


 エリッサちゃんが、尋ねます。


 皆仲間なんですから、包み隠さず言って欲しいですよね!


 すると――。


「それが他の宿で獣人も泊まれる所を尋ねたのだが……この街で獣人を泊める宿は無いそうだ。獣人は奴隷扱いなので、万一獣人を部屋に通せば――その宿の品格に関わる為、厩に獣人用の藁が敷いてあると言われたのだ」


「――なんて事を」


「獣人を嫌っていると聞いて嫌な予感がしたにゃ。それは仕方無いにゃ」


 ミカちゃんが厩でもいいと説得しますが、皆は納得していません。


 品格だか何だか知りませんが、折れる必要ありませんよ!


「ミカちゃん、こんな街さっさと出て行きましょう!」


 僕がこの街に愛想を尽かしてそう言うと、


「でもせっかく入門料も支払ったにゃ。このまま出たら損にゃ」


 うーん。それを言われると困りますね。


「冒険者ギルドならば、獣人でも泊れる場所の当てがあるのではないか?」


 冒険者ギルドは各国にあっても実際はその国の傭兵部隊の様な扱いだと聞いた気がします。その国の法やしきたりが重んじられるという事です。当てには出来ないと思いますが、行ってみるだけなら良いかもしれません。


「それじゃ冒険者ギルドに行くにゃ!」


 ミカちゃんは皆の気持を汲んで、明るく努めています。


 立ち寄る予定は無いですが、一応門番さんに冒険者ギルドの場所を聞いていたので、来た道を戻る形で馬車を回します。


 冒険者ギルドは正門を抜け、1つ目の大通りを左に行くとあります。


 万一を考え、フローゼ姫に御者を代わってもらい、ミカちゃんには荷台に戻ってもらいます。


 さっき通った露天をまた通ります。冒険者ギルドでミカちゃんも泊れる場所が見つからなければ、露天で食べ物を買いこんで野営というのもありですね。


 行きと違い戻る時は時間の流れが早いもので、もうギルドを視認出来る所まで戻ってきました。獣人でも泊れる宿があればいいですが……どうなる事やら。



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