子猫ちゃんの異世界珍道中
第100話、犬獣人の奴隷さん
翌日、宿で早めの朝食を食べた僕達は、野営用の食糧や調味料を買い込みスベルダンの街を後にします。
獣人差別が酷いと聞いていたので心配していましたが、国境に程近い事もあり思ったよりも普通でした。それでもミカちゃんは外套を頭から被ったままでしたけどね。
ここから馬車で2日北東に進むと、この国で王都に次ぐ2番目に大きな都市があると宿屋で教えてもらいました。
このまま何事も無く、通過できればいいのですが……。
砂漠の影響はあの渓谷までで、この周辺は刈り取られた麦畑と林、森が割拠しています。
馬車はのどかな道をひたすら走ります。
「ここはサースドレインの領地に似ていますわね」
「あぁ。森と林が豊富という意味ではな……」
エリッサちゃんも、フローゼ姫も退屈そうですがそれも仕方ありませんね。
ここで遊んでいく訳にはいきませんから。
ミカちゃんは御者席で手綱を握り、馬が道を逸れないように上手く操っています。ミカちゃんの御者ももう慣れたものです。道に深いくぼみがあるとそれを上手く避けて走らせる事も出来ます。
「道が広いのはいいけど、窪みが多いのが問題にゃ」
国境を越える人が元々少ないために、交通量の少ないこの道は道の形はしていますが左程手入れはされていないようです。
ミカちゃんが愚痴を漏らします。
僕はミカちゃんを励ますように、ミカちゃんの腰に頭を摺り寄せます。
そんな僕をミカちゃんも、ありがとう、と言って左手で撫でてくれます。
移動初日は何事も無く、野営用に広く作られたスペースに馬車を止め、小川近くの木に馬を繋ぎ焚き火を用意します。
あまり贅沢は出来ないので僅かな調味料を使い、煮込み料理を皆で作り食べていると前方から乗合馬車がやってきます。
乗合馬車は基本、御者が2人で交代して操る為滅多に止まる事はありませんが、食事の為か? 僕達の焚き火の明かりを目に留め立ち寄る事にした様です。
馬車は僕達が焚き火をしている場所から少し距離を置いて停車します。
夕暮れ時で少し暗くなってきていますが、僕とミカちゃんには良く見えます。
乗合馬車が停車すると中からは、10人程の人々が下りてきます。その中の1組に犬獣人の首に鎖を繋ぎ身の回りの世話をさせている老人がいました。
老人は犬獣人の奴隷の手際が悪いと直ぐに、殴る蹴るの暴行を働いています。
僕もミカちゃんもその様子をジッと見つめていると、殴られている雄の犬さんと視線が合いました。でもその獣人さんの瞳はじっとりとしており、まるで生き甲斐を失った人の様な有様です。僕達を認めても瞳を俯かせるだけで直視はしてきませんでした。
僕は乗合馬車の人達に聞こえないように、小声で尋ねます。
「あの犬獣人さんは何であんな死んだ様な目をしているんでしょう?」
「子猫ちゃん、それは……」
「うむ、それは言わぬが、というものだ。奴隷に落ちる者はそれなりの理由があるからな。貧困、犯罪者、生まれつきというのもある」
「父の領地では奴隷は見た事がありませんわ」
「子爵殿の領地だけでなく、基本犯罪奴隷は鉱山送り。貧困で貧しい者は農園の作業員、若い女であれば娼館と普通は目立たない場所にいるからな」
奴隷の扱いでも国が変われば、待遇も働く内容も様変わりするようです。
犬の獣人さんは何度も殴られているのに、悲鳴は愚か一言も声を発しません。
普通はあれだけ殴られれば声に出してでも、許しを得ようとするのにです。
良く見ていると――犬の獣人さんには舌がありません。
奴隷とは声を出しても駄目なんでしょうか?
僕が舌を出して、うんざりした面持ちを浮かべるとそれに気づいたミカちゃんも犬獣人さんの舌が無い事に気づいた様です。
「酷いにゃ……あの犬さん舌を切られているにゃ」
「――何!」
フローゼ姫はミカちゃんの漏らした言葉を聞き、目を凝らして犬さんを見つめますが、首を横に振っています。暗くて見えなかった様です。
「アンドレア国では奴隷に対してでも人権を保障しているが、この国には人権すら無い様だな。この先ミカ殿も下手に姿を見せない方がいい」
フローゼ姫の提案で、この国を出るまでは御者をフローゼ姫が1人で勤める事に決りました。ミカちゃんは奴隷ではありませんが万一を危惧しての事です。
早朝、僕達が出立する頃には既に乗合馬車の姿はありませんでした。
獣人差別が酷いと聞いていたので心配していましたが、国境に程近い事もあり思ったよりも普通でした。それでもミカちゃんは外套を頭から被ったままでしたけどね。
ここから馬車で2日北東に進むと、この国で王都に次ぐ2番目に大きな都市があると宿屋で教えてもらいました。
このまま何事も無く、通過できればいいのですが……。
砂漠の影響はあの渓谷までで、この周辺は刈り取られた麦畑と林、森が割拠しています。
馬車はのどかな道をひたすら走ります。
「ここはサースドレインの領地に似ていますわね」
「あぁ。森と林が豊富という意味ではな……」
エリッサちゃんも、フローゼ姫も退屈そうですがそれも仕方ありませんね。
ここで遊んでいく訳にはいきませんから。
ミカちゃんは御者席で手綱を握り、馬が道を逸れないように上手く操っています。ミカちゃんの御者ももう慣れたものです。道に深いくぼみがあるとそれを上手く避けて走らせる事も出来ます。
「道が広いのはいいけど、窪みが多いのが問題にゃ」
国境を越える人が元々少ないために、交通量の少ないこの道は道の形はしていますが左程手入れはされていないようです。
ミカちゃんが愚痴を漏らします。
僕はミカちゃんを励ますように、ミカちゃんの腰に頭を摺り寄せます。
そんな僕をミカちゃんも、ありがとう、と言って左手で撫でてくれます。
移動初日は何事も無く、野営用に広く作られたスペースに馬車を止め、小川近くの木に馬を繋ぎ焚き火を用意します。
あまり贅沢は出来ないので僅かな調味料を使い、煮込み料理を皆で作り食べていると前方から乗合馬車がやってきます。
乗合馬車は基本、御者が2人で交代して操る為滅多に止まる事はありませんが、食事の為か? 僕達の焚き火の明かりを目に留め立ち寄る事にした様です。
馬車は僕達が焚き火をしている場所から少し距離を置いて停車します。
夕暮れ時で少し暗くなってきていますが、僕とミカちゃんには良く見えます。
乗合馬車が停車すると中からは、10人程の人々が下りてきます。その中の1組に犬獣人の首に鎖を繋ぎ身の回りの世話をさせている老人がいました。
老人は犬獣人の奴隷の手際が悪いと直ぐに、殴る蹴るの暴行を働いています。
僕もミカちゃんもその様子をジッと見つめていると、殴られている雄の犬さんと視線が合いました。でもその獣人さんの瞳はじっとりとしており、まるで生き甲斐を失った人の様な有様です。僕達を認めても瞳を俯かせるだけで直視はしてきませんでした。
僕は乗合馬車の人達に聞こえないように、小声で尋ねます。
「あの犬獣人さんは何であんな死んだ様な目をしているんでしょう?」
「子猫ちゃん、それは……」
「うむ、それは言わぬが、というものだ。奴隷に落ちる者はそれなりの理由があるからな。貧困、犯罪者、生まれつきというのもある」
「父の領地では奴隷は見た事がありませんわ」
「子爵殿の領地だけでなく、基本犯罪奴隷は鉱山送り。貧困で貧しい者は農園の作業員、若い女であれば娼館と普通は目立たない場所にいるからな」
奴隷の扱いでも国が変われば、待遇も働く内容も様変わりするようです。
犬の獣人さんは何度も殴られているのに、悲鳴は愚か一言も声を発しません。
普通はあれだけ殴られれば声に出してでも、許しを得ようとするのにです。
良く見ていると――犬の獣人さんには舌がありません。
奴隷とは声を出しても駄目なんでしょうか?
僕が舌を出して、うんざりした面持ちを浮かべるとそれに気づいたミカちゃんも犬獣人さんの舌が無い事に気づいた様です。
「酷いにゃ……あの犬さん舌を切られているにゃ」
「――何!」
フローゼ姫はミカちゃんの漏らした言葉を聞き、目を凝らして犬さんを見つめますが、首を横に振っています。暗くて見えなかった様です。
「アンドレア国では奴隷に対してでも人権を保障しているが、この国には人権すら無い様だな。この先ミカ殿も下手に姿を見せない方がいい」
フローゼ姫の提案で、この国を出るまでは御者をフローゼ姫が1人で勤める事に決りました。ミカちゃんは奴隷ではありませんが万一を危惧しての事です。
早朝、僕達が出立する頃には既に乗合馬車の姿はありませんでした。
コメント