子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第98話、盗賊の出現

 僕達の進む先の空模様はどんより曇っていて、行先を案じさせる様です。


 馬車を動かすのはミカちゃんとフローゼ姫しか出来ない為に、2人交代で走らせていたのですが、今にも雨が振り出しそうな天候の中、早く人里に辿り着けるようにミカちゃんが手綱をふるい速度を速めていると渓谷になっている辺りまで来て正面の道を塞ぐように落石がありました。


「危なかったにゃ。この道は危険かも知れないにゃ」


 落石にぶつかる寸前で、馬車を停止させたミカちゃんが声を発し、進路を変えるように提案します。


「だがエルフに教えて貰った話では、この渓谷を通らねばガンバラ王国へは行けないのだろう? なら無理を押してでも進むしかあるまい」


 確かにエルフの話では、この渓谷を迂回する道の話は聞いていません。


 魔法で目の前の岩を壊して進むしか――そう皆で相談していると渓谷の上から矢が数本降ってきました。どう見ても当てる気の無い威嚇射撃です。


 すると背後から10人のお粗末な武具で身を固めた族が――馬車を囲みます。


 どうやら盗賊の様ですね。


 旅人がこの渓谷に訪れた時に、この方法で襲撃しているのでしょう。


 僕は馬車の荷台に隠れながらこっそりと全員に結界の魔法を掛けました。


 皆の全身が薄っすらと青く光りますが、生憎の曇り空のお陰か族は全く気づいていません。もしかしたら結界魔法を見た事が無いのかも知れませんね。


 結界魔法が掛かった事で、皆の表情も和らぎます。


 僕の結界がBランクのスコーピオンの鋏にも有効だったのは周知の事実です。


 これで状況的には不利に見えますが、実際には僕達を傷つける事が出きる人間はここには居ないと判断します。


 ミカちゃんが進行を邪魔され挟み撃ちされた事に対し、苦情を告げます。


「そろそろ雨が降りそうだから急いでいるにゃ。この落石もあなた達の仕業なのかにゃ?」


 族達は御者台に座り苦情を告げた人物を認めると、目をぎらつかせ舌なめずりすると薄く笑い脅すように大きな声を出します。


「ひっひ。そうだぜ譲ちゃん。その馬車に乗っているのは皆獣人か? こりゃ高値で売れそうだぜ! 大人しく馬車から降りな!」


 エリッサちゃんも、フローゼ姫も雨に備えて砂漠の国で購入した外套を頭から被って居た為に、獣人と間違われた様です。獣人差別の国で獣人が御者をしている馬車だからといっても奴隷に御者をさせる主人が居てもおかしくないと思うのですが、この人達は全員が獣人だと思った様ですね。


 威嚇の意味でフローゼ姫が外套を外すと――。


「ひゅー。こりゃついてるぜ! 獣人の主人は若い娘だ。たっぷり可愛がってやるからよ~ただし抵抗しないならだけどな! ぐはははは」


「僕でも見栄えなく盛ったりしませんよ!」


 僕は声を上げると、立ち上がり手を翳して前方の盗賊達にブリザードを放ちます。下品すぎてミカちゃんの教育に悪い発言は聞くに堪えません。


 まだ雨が降った訳でも無いのに、一瞬でずぶ濡れになり白く凍りつきます。


 両脇と背後の盗賊は、何が起きたのか分らずに呆けています。


 フローゼ姫が剣を抜き馬車から飛び降りると、漸く正気に戻った族が「魔法使いがいるぞ! 気をつけろ!」と声を上げます。


 あなた方が気をつけるのは僕ではありませんよ。


 馬車から飛び降りたフローゼ姫は既に間合いに族を捕らえます。袈裟懸けに振るわれた剣を族も剣で応酬しようとしますが――。


 ザンっ、と何かが切れる音がするとフローゼ姫の愛剣は族の剣を叩き切り、そのまま両手をあげた状態の族に切りつけます。


 あの剣、業物だったんですね。


 スコーピオン戦ではボロボロでしたが……。


 刹那の間に数人がやられ、何か指示を出そうとした様ですが遅いです。


「アーン!」


 僕がブリザードを放った事で、それに釣られた子狐さんが背後の族に氷の鏃を飛ばします。その3本の鏃は狙い違わず背後にいた3人の族の頭部に命中。呆気なく絶命させました。


 エリッサちゃん側に居た族は慌てて逃げ出そうとしますが、エリッサちゃんも既に魔法を放つ体勢を取っています。子狐さんと同じ氷の鏃を族の足に向け放ちます。逃走しようとした2人の背後から鏃は襲い、太ももの辺りに当り転げまわります。


 流石にエリッサちゃんは、人を攻撃するのはまだ抵抗があるみたいですね。


 でも完全に足がやられ這う事しか出来ません。


 2人の族を呆気なく倒したフローゼ姫が、這って逃げ様としている族に駆け寄ります。剣を振り上げ切り倒そうとした所でミカちゃんが声をあげます。


「ストップにゃ! 話を聞かないといけないにゃ」


「――む。だがこいつらは盗賊だろ? なら生かす理由はないのでは?」


 僕もフローゼ姫と同じ考えだったので、続くミカちゃんの言葉を待ちます。


「確かに盗賊にゃ。でも渓谷の上にも仲間がいるにゃ。人数とか情報はあった方がいいにゃ」


 確かに渓谷の上から矢が数本振ってきましたね。


 でも威嚇しただけで、実行部隊がやられたのを上から見ていた筈。もう逃げ出したと思います。


「この人達が少数の族なら問題は無いにゃ。でも大勢の仲間がいたら――途中で仕返しに待ち伏せされるにゃ」


 その考えはありませんでしたね。


 あれだけ呆気なく仲間が倒されて、尚も仕返ししようと思うものなのかは分りませんが……。


 ミカちゃんが馬車から降りて生き残っている2名に尋問します。


「あなた達は何人の集団なのかにゃ? 話してくれるなら命は助けるにゃ」


 足を押さえ血が流れ出るのを防ごうとしている族にミカちゃんが尋ねますが、睨まれるだけで口を割りません。


 ミカちゃんが優しいからと言って調子に乗っていますね。


 僕が刹那の内に2人の背後に回りこみ、止血していた足を爪で切断すると、


「ぐあぁぁぁぁぁー、いてぇ~喋る、喋るからもうやめてくれ」


 情け無いですね。もっとダンマリを決め込んでもいいんですよ?


 そうすれば両足を切り落としてあげたものを……。


 そもそも盗賊は死罪だと聞きました。


 ここで殺されても誰にもお咎めは貰いません。


 そう思っていると――。


「こ、こんな事をしてマクベイラー様が黙っていると思うなよ!」


 誰です?


 初めて聞いた名です。


 気配を探りますが、この周辺に僕達以外にもう人は居ません。


 謝罪するでもなく、情報を漏らす訳でもなく、だた恨み言を延々と喋られ鬱陶しく感じたフローゼ姫に2名は首を切られました。


 2名から聞き出せたのはマクベイラーという名前だけです。


 何者なんですかね。



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