子猫ちゃんの異世界珍道中
第94話、団子虫との戦闘その2
「子猫ちゃんのグシャと雷の両方効果が無かったにゃ!」
ミカちゃんグシャじゃなくて、重力圧縮らしいですよ。
「まさか子猫殿の魔法が全く効かないとは……」
フローゼ姫、Aランクの魔物なんですから仕方無いですよ!
「あの魔法で効果が無いと、私の魔法でも結果は同じですわね」
エリッサちゃん、ミカちゃんには魔法で負けてもエリッサちゃんにはまだ負けていませんから当然です。
さて……僕が放てる魔法で効果がありそうなのは消滅魔法だけですか。
でも危険な感じがする魔法なので、使わない方がいいかもです。
僕は騎士団長を負かした、隕石の魔法を放ちます。
稲妻の雨が収まり、また暗くなっていた周囲に明かりが灯ります。
『ゴゴゴゴゥー』という轟音と共に真っ赤に燃え上がった隕石が空から降り注ぎます。
ですが団子虫に当ると思われた時――団子虫は器用に体をくねらせ隕石を街壁へと打ち返します。
隕石はまだ燃え盛ったままです。
壁を覆う大木に当ると、大木は一気に燃え上がりました。
なんて事するんですか!
僕には炎を消火する魔法は使えません。
僕が困っていると、さっき団子虫から逃げ出したキャデナさんが水の大砲を放ち、一瞬で水の勢いに押され炎が鎮火しました。
「迷い猫殿、貸し一つだぞ!」
何か偉そうに言いますね。初めて会った時の様です。
でも助かりました。
僕は団子虫のターゲットを取る為に、奴の視線の中を動き回ります。
最初は僕を追ってきていましたが、小さい肉はつまらんとばかりに直ぐに頭を左右に振り、エルフさんを認めるとそちらに移動しかけます。
狙われたエルフさんとの距離は少しあります。
僕からも距離を置いた事で、ミカちゃんが叫びました。
「子猫ちゃん近づいたら駄目にゃ!」
ミカちゃんが掌を団子虫に向けています。
その手の周囲が光ると、団子虫を包み込む様に青い光が振りそそぎ、一瞬で周囲を凍らせました。
頭から尻尾までが氷漬けになり、活動を停止した様に思えます。
そこに自分も攻撃するんだ! とばかりに掌を翳した子狐さんの手から、パチパチ音がなり氷漬けになった団子虫に当ります。
そんな弱い魔法では効果はありませんよ!
サンダーの劣化版でしか無い感電を受け、思考を停止していた団子虫が身をくねらせ始め――次の瞬間、バリン、と嫌な音と共に砕け散りました。
「アーン」
だから、アーンじゃないですから!
「すみません、うちの子が……」
お決まりとばかりにエリッサちゃんが謝りますが、そんな場合じゃなくなりました。
氷から抜け出した団子虫が先程燃え上がり脆くなった大木目掛けて、突進を始めたからです。
巨体が大木に体当たりすると、周囲が地震に見舞われた様に揺れます。
街壁の上にいた皆も大きく揺さぶられ、しゃがみ込みます。
まずいです……団子虫が目標を街の中に変えました。
「フローゼ姫、皆に貫通の魔法を――」
僕が下から伝えます。
中腰の姿勢でそれを聞いたフローゼ姫が、皆に掌を翳しています。
皆の体がほんのりと赤く照らし出されます。
やるなら今しかありません。
僕は自分の体も赤く光ったのを確認すると、団子虫に爪を飛ばします。
他の皆も同様に、鏃を飛ばします。
そのどれもが団子虫に命中し、突き刺さった鏃や爪は文字通り貫通し、団子虫に穴を穿ちました。
暗くて色までは視認出来ませんが、奴の体から体液が飛沫しているのが分ります。
壁に背を向けるように逃げ出しますが、僕が逃がす訳無いですよね!
街からも僕からも離れた所で、僕は消滅魔法を発動する体勢を取ります。
体中を黒い渦の靄が立ち込め、それが掌に到達すると――。
『ゴボゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーー』と耳を劈く爆音と共に漆黒の全てを飲み込むブレスが掌から吐き出すように放たれます。
暗闇を更に暗黒に叩き込む様な、暗い咆哮は砂漠の砂を巻き込みながら団子虫へと飛んでいき、その漆黒故に周囲に輝いていた星の光さえも見えなくなりますが、爆音が途切れ空に星が戻った時には、団子虫が居た方向へ砂を削り取った様な跡だけ残り――それは視認出来る範囲を超えて地上に溝を掘った様になっていました。
あれ?
燃えたのなら燃え滓や灰が残りますが、何もありません。
最後のお楽しみの魔石すら残っていません。
これ討伐した証明とか、何も無いのにどうなるんでしょうか?
そんな事を暢気に考えていると、壁の上から皆が下りて正門を開け飛び出してきます。
僕の元へ皆が駆け寄ってきます。
僕もミカちゃんの元へ駆け出しました。
すると――。
遠くから『ゴゴゴゴゴゴーーー』と水が流れる音が聞こえ、僕が作った溝に沿って一気に水が押し寄せてきます。
何でしょう……これ。
「まずいぞ……このままでは街まで水が入り込む」
フローゼ姫はそう言うなり、僕が掘った溝の出発地点に手を翳し魔法を行使します。
薄っすらと地面が黄色く光ると刹那、ゴボッ、と音がして直径50m深さ20mはありそうな穴を掘りました。
そこへ溝を伝って流れてきた水が入り込み、呆けた様にその光景を眺めていると気づいた時には目の前に大きな湖が出来上がっていました。
「凄いにゃ! 面白いにゃ!」
何故かミカちゃんには大喜びされています。
他の皆はまだ放心状態です。
しばらくすると騒ぎが収まった事を街壁の上から監視していた兵が、お城へ使いを出したらしく、ジェニファー王女とギルマスが門からやって来ました。
正門を出た場所に出来た大きな湖を見渡し――。
「まぁ、これは一体――」
「勇者殿、討伐は――」
ジェニファー王女は突如出来た湖に気を取られ、ギルマスは僕に結果報告を求めてきました。
証拠は残らなかったですが、確実に団子虫は仕留めた事を知らせます。
僕の知らせを受け、ホッと胸を撫で下ろすギルマスを他所に、ミカちゃんが何やらジェニファー王女に耳打ちしています。
一体何の話をしているのでしょう?
ジェニファー王女が首肯した後、ミカちゃんが湖に向けて掌を翳すと腕から緑の粒子が掌に集まり、その直後に緑の粒子は湖に飛んで行きその周囲にキラキラと輝く緑の雨を降らせました。
これあれですね。
女神様の様な奇跡の魔法です。
今までは水が地下水しか無かった為に、この街全体に緑の葉も木々、花々を見る事はありませんでした。
でもこの魔法のお陰で、湖を中心に周囲が豊かな台地に生まれ変ります。
「さすがミカちゃんですね!」
僕がミカちゃんを褒めると、頬を真っ赤に染め、
「私だけの力じゃ無いにゃ。溝を川に繋げた子猫ちゃんと、大きな穴を掘ったフローゼ姫のお陰にゃ!」
そういえば僕が消滅魔法を放った方角は、川のある方向でしたね。
まさかあの魔法が川まで到達していたとは……。
僕は嫌な予感が正しかった事をこの時に実感しました。
万一街の方向にあの魔法を放っていたら――。
それを考えると身震いが止りません。
そんな僕の気持を察したのか?
ミカちゃんが久しぶりに僕を抱き上げ、頭を撫でてくれました。
これから大変そうですが、何とかなりますかね?
ミカちゃんグシャじゃなくて、重力圧縮らしいですよ。
「まさか子猫殿の魔法が全く効かないとは……」
フローゼ姫、Aランクの魔物なんですから仕方無いですよ!
「あの魔法で効果が無いと、私の魔法でも結果は同じですわね」
エリッサちゃん、ミカちゃんには魔法で負けてもエリッサちゃんにはまだ負けていませんから当然です。
さて……僕が放てる魔法で効果がありそうなのは消滅魔法だけですか。
でも危険な感じがする魔法なので、使わない方がいいかもです。
僕は騎士団長を負かした、隕石の魔法を放ちます。
稲妻の雨が収まり、また暗くなっていた周囲に明かりが灯ります。
『ゴゴゴゴゥー』という轟音と共に真っ赤に燃え上がった隕石が空から降り注ぎます。
ですが団子虫に当ると思われた時――団子虫は器用に体をくねらせ隕石を街壁へと打ち返します。
隕石はまだ燃え盛ったままです。
壁を覆う大木に当ると、大木は一気に燃え上がりました。
なんて事するんですか!
僕には炎を消火する魔法は使えません。
僕が困っていると、さっき団子虫から逃げ出したキャデナさんが水の大砲を放ち、一瞬で水の勢いに押され炎が鎮火しました。
「迷い猫殿、貸し一つだぞ!」
何か偉そうに言いますね。初めて会った時の様です。
でも助かりました。
僕は団子虫のターゲットを取る為に、奴の視線の中を動き回ります。
最初は僕を追ってきていましたが、小さい肉はつまらんとばかりに直ぐに頭を左右に振り、エルフさんを認めるとそちらに移動しかけます。
狙われたエルフさんとの距離は少しあります。
僕からも距離を置いた事で、ミカちゃんが叫びました。
「子猫ちゃん近づいたら駄目にゃ!」
ミカちゃんが掌を団子虫に向けています。
その手の周囲が光ると、団子虫を包み込む様に青い光が振りそそぎ、一瞬で周囲を凍らせました。
頭から尻尾までが氷漬けになり、活動を停止した様に思えます。
そこに自分も攻撃するんだ! とばかりに掌を翳した子狐さんの手から、パチパチ音がなり氷漬けになった団子虫に当ります。
そんな弱い魔法では効果はありませんよ!
サンダーの劣化版でしか無い感電を受け、思考を停止していた団子虫が身をくねらせ始め――次の瞬間、バリン、と嫌な音と共に砕け散りました。
「アーン」
だから、アーンじゃないですから!
「すみません、うちの子が……」
お決まりとばかりにエリッサちゃんが謝りますが、そんな場合じゃなくなりました。
氷から抜け出した団子虫が先程燃え上がり脆くなった大木目掛けて、突進を始めたからです。
巨体が大木に体当たりすると、周囲が地震に見舞われた様に揺れます。
街壁の上にいた皆も大きく揺さぶられ、しゃがみ込みます。
まずいです……団子虫が目標を街の中に変えました。
「フローゼ姫、皆に貫通の魔法を――」
僕が下から伝えます。
中腰の姿勢でそれを聞いたフローゼ姫が、皆に掌を翳しています。
皆の体がほんのりと赤く照らし出されます。
やるなら今しかありません。
僕は自分の体も赤く光ったのを確認すると、団子虫に爪を飛ばします。
他の皆も同様に、鏃を飛ばします。
そのどれもが団子虫に命中し、突き刺さった鏃や爪は文字通り貫通し、団子虫に穴を穿ちました。
暗くて色までは視認出来ませんが、奴の体から体液が飛沫しているのが分ります。
壁に背を向けるように逃げ出しますが、僕が逃がす訳無いですよね!
街からも僕からも離れた所で、僕は消滅魔法を発動する体勢を取ります。
体中を黒い渦の靄が立ち込め、それが掌に到達すると――。
『ゴボゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーー』と耳を劈く爆音と共に漆黒の全てを飲み込むブレスが掌から吐き出すように放たれます。
暗闇を更に暗黒に叩き込む様な、暗い咆哮は砂漠の砂を巻き込みながら団子虫へと飛んでいき、その漆黒故に周囲に輝いていた星の光さえも見えなくなりますが、爆音が途切れ空に星が戻った時には、団子虫が居た方向へ砂を削り取った様な跡だけ残り――それは視認出来る範囲を超えて地上に溝を掘った様になっていました。
あれ?
燃えたのなら燃え滓や灰が残りますが、何もありません。
最後のお楽しみの魔石すら残っていません。
これ討伐した証明とか、何も無いのにどうなるんでしょうか?
そんな事を暢気に考えていると、壁の上から皆が下りて正門を開け飛び出してきます。
僕の元へ皆が駆け寄ってきます。
僕もミカちゃんの元へ駆け出しました。
すると――。
遠くから『ゴゴゴゴゴゴーーー』と水が流れる音が聞こえ、僕が作った溝に沿って一気に水が押し寄せてきます。
何でしょう……これ。
「まずいぞ……このままでは街まで水が入り込む」
フローゼ姫はそう言うなり、僕が掘った溝の出発地点に手を翳し魔法を行使します。
薄っすらと地面が黄色く光ると刹那、ゴボッ、と音がして直径50m深さ20mはありそうな穴を掘りました。
そこへ溝を伝って流れてきた水が入り込み、呆けた様にその光景を眺めていると気づいた時には目の前に大きな湖が出来上がっていました。
「凄いにゃ! 面白いにゃ!」
何故かミカちゃんには大喜びされています。
他の皆はまだ放心状態です。
しばらくすると騒ぎが収まった事を街壁の上から監視していた兵が、お城へ使いを出したらしく、ジェニファー王女とギルマスが門からやって来ました。
正門を出た場所に出来た大きな湖を見渡し――。
「まぁ、これは一体――」
「勇者殿、討伐は――」
ジェニファー王女は突如出来た湖に気を取られ、ギルマスは僕に結果報告を求めてきました。
証拠は残らなかったですが、確実に団子虫は仕留めた事を知らせます。
僕の知らせを受け、ホッと胸を撫で下ろすギルマスを他所に、ミカちゃんが何やらジェニファー王女に耳打ちしています。
一体何の話をしているのでしょう?
ジェニファー王女が首肯した後、ミカちゃんが湖に向けて掌を翳すと腕から緑の粒子が掌に集まり、その直後に緑の粒子は湖に飛んで行きその周囲にキラキラと輝く緑の雨を降らせました。
これあれですね。
女神様の様な奇跡の魔法です。
今までは水が地下水しか無かった為に、この街全体に緑の葉も木々、花々を見る事はありませんでした。
でもこの魔法のお陰で、湖を中心に周囲が豊かな台地に生まれ変ります。
「さすがミカちゃんですね!」
僕がミカちゃんを褒めると、頬を真っ赤に染め、
「私だけの力じゃ無いにゃ。溝を川に繋げた子猫ちゃんと、大きな穴を掘ったフローゼ姫のお陰にゃ!」
そういえば僕が消滅魔法を放った方角は、川のある方向でしたね。
まさかあの魔法が川まで到達していたとは……。
僕は嫌な予感が正しかった事をこの時に実感しました。
万一街の方向にあの魔法を放っていたら――。
それを考えると身震いが止りません。
そんな僕の気持を察したのか?
ミカちゃんが久しぶりに僕を抱き上げ、頭を撫でてくれました。
これから大変そうですが、何とかなりますかね?
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