子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第80話、砂漠の魔物2

僕が皆に結界魔法を掛けて回っている間に、ミカちゃんが2発目のサンダーを放ちます。


サンダーに体を貫かれた魔物は、ピクピク痙攣すると活動を停止します。


さて残りは5匹ですね。


フローゼ姫は魔法の発動体勢を取りながら、剣を取り出します。


エリッサちゃんも、子狐さんも馬車の後ろに隠れながら掌を翳し魔法を発動出来る態勢を取ります。


僕は最近覚えた、自分の体を銀に変える魔法を使い襲い掛かってくる魔物へと駆け出します。


僕が接近する前に、皆が放った魔法が着弾します。


一瞬、動きが鈍くなりますがそれだけです。


魔物は尚も、皆が集まる場所に足を向けています。


僕はこの魔物からすれば、犬と鼠ほどの差があります。


僕が鼠ですけどね!


僕はすれ違う瞬間に爪を硬そうな足にぶつけますが――。


ガキーン、と甲高い音がするだけで切断まで至りません。


魔物の足元を抜け尻尾の辺りに来ると、鋭利な尻尾が僕を貫こうと迫ってきます。


僕は横っ飛びにそれを避けます。


避けた所に、別の魔物の尻尾が襲い掛かり、僕のわき腹に当ります。


「子猫ちゃん!」


ミカちゃんが心配して大声で叫んでいます。


ですが、僕の今の体はその尻尾よりも硬かった様です。


僕のわき腹に当った尻尾の先が、ガツッと鈍い音を残し潰れました。


凄いですね。


僕の体がこんなに硬いとは、思いませんでしたよ。


この魔物の尻尾が武器になるなら、僕の今の尻尾も武器になるのでは?


僕はそう思い、ジャンプして魔物の背中に飛び乗ると尻尾をピンと張り、魔物の首目掛け飛び掛りました。


僕の体重を乗せた尻尾が首に深く突き刺さり、中から体液が噴出します。


どうやらこの攻撃は有効の様です。


僕はそのままの勢いで、横を走る魔物に飛び移ります。


当然、尻尾は張った状態のままです。


胴体に深く尻尾が突き刺さると、魔物は痙攣してもがきます。


これで残り3匹です。


もう皆がいる場所まで目と鼻の先です。


フローゼ姫が剣を構え、接近してきた魔物の鋏目掛け振り下ろします。


ギャン、甲高い音がなり響きますが傷すら付けられていません。


ただフローゼ姫を挟み込もうとしていた鋏は、勢いが弱められその隙にフローゼ姫が横に飛び退きます。


ミカちゃんは既に魔法の発動体勢に入りました。


僕はミカちゃんの邪魔に成らない様に、後方に飛び降り掌を翳します。


ミカちゃんのサンダーを間近で食らった魔物は、プスプス煙を吐き出し倒れます。


残り2匹です。


フローゼ姫は必死に剣で鋏をいなしています。


ですが、このままではジリ貧ですね。


僕がフローゼ姫の相手をしている魔物に魔法を放つのと、残り1匹がミカちゃんを捕らえたのは同時でした。


僕の魔法を受け1匹は、潰れ絶命しましたが、ミカちゃんを鋏で挟んだ状態で駆け抜けて行きます。


「みゃぁ~!」


ミカちゃんは僕が掛けた結界魔法の影響で、鋏に切断されずに済んだようですが、捕獲された状態でどんどん離れていきます。


僕はミカちゃんの名前を叫びながら、必死に追いかけます。


今僕の魔法を放てば、確実にミカちゃんにも当ります。


それだけは避けなければいけません。


ミカちゃんを攫った魔物の速度より、僕の方が速いです。


後10mの所まで接近した時にそれは起こりました。


突然、ミカちゃんを挟んで逃げた魔物が、凍りつきます。


エリッサちゃんが放ったブリザードではありません。


ミカちゃんが挟まれた状態で放った、これはオーガを倒した魔法。


――氷結ですね!


一瞬で凍らされたお陰で、前のめりに倒れます。


ミカちゃんはまだ魔物の鋏に捕まった状態のままです。


魔物は、ドンと土の上に倒れると砂煙を上げます。


ミカちゃんは無事でしょうか?


僕が追いついて、ミカちゃんを探すと……。


「げほ、げほ……酷い目にあったにゃ!」


砂煙の中から、体中が砂まみれになったミカちゃんが現れます。


「みゃぁ~?」


怪我は無い?


そう僕が尋ねると――。


ミカちゃんは全身を細い両手でパンパン叩き、砂を掃った後で、


「大丈夫にゃ! 倒れても砂の上だから平気にゃ!」


口の中にも砂が入ったのでしょう。


唾と一緒に砂を吐き出しながら、僕を安心させようと微笑んでくれます。


それにしても、本当に酷い目に遭いました。


砂漠とは過酷な場所なんですね。


僕達は倒した魔物から魔石を拾い、魔物の遺体は僕のファイアで燃やしました。


エリッサちゃんのファイアでは効果ありませんでしたが、僕の青い炎なら簡単に燃えます。


エリッサちゃんは悔しそうです。


でも仕方ありません。


その内強くなれますよ。


魔物を焼き終えた所で、僕達は休憩を取る事にします。


流石に連戦は魔力が厳しいです。


ミカちゃんも相当魔力を使う魔法を放った為に、顔色が悪いです。


「世の中は広いのだな……妾の剣がボロボロだ」


意気消沈して欠けた剣を掲げ見せてくれます。


フローゼ姫自慢の剣が、所々ひびが入っています。


これではもう使い物になりませんね。


早い所、もっと魔法を覚えて貰わないと……。


「みゃぁ~」


僕はこの先、どんな魔物が出るか分らないので皆に魔石を渡します。


前に倒した蜂と今倒した魔物の魔石です。


ミカちゃんに巨大ミミズの魔石を渡そうとすると、


「それは子猫ちゃんが食べるにゃ!」


自愛に満ちた笑みを浮かべそう言ってくれたので、僕は巨大ミミズの魔石を齧ります。


もう何度目でしょうか?


僕の体が仄かに光り輝きます。


「何か覚えたにゃ!」


ミカちゃんも嬉しそうです。


「ほぅ、子猫ちゃんの新たな魔法か……興味深いな」


「これでまた子猫ちゃんが強くなりますわね」


「アーン」


僕には今覚えた魔法がどんなものなのか理解できます。


攻撃魔法ですが……今は使いたくないですね。


魔力消費が高そうですから。


次はミカちゃんが食べました。


するとミカちゃんの体も輝きます。


「みゃぁ~!」


やったね!


僕がミカちゃんにおめでとうを言うと、はにかんで首肯します。


「また攻撃魔法を覚えたにゃ! これで次は苦戦しないにゃ!」


「ほう、興味深いな……妾もさっきの魔物を倒せる魔法を覚えられればいいのだが……」


そう言葉を漏らし、フローゼ姫が魔石を口に入れます。


魔石は馬車に積んである水でちゃんと洗ってありますから、まずくは無い筈です。


フローゼ姫の体も光ります。


「ふむ……攻撃魔法ではあるが……果たして使えるのかは疑問だな」


何やら意味深な言葉を残します。


エリッサちゃんの番です。


エリッサちゃんも、カリッと小気味良い音を立てながら齧ります。


当然、皆と同じで光ります。


するとエリッサちゃんは満面の笑みを浮かべました。


そんな強い魔法を覚えたのでしょうか?


エリッサちゃんの様子を窺っていた子狐さんが催促します。


「アーン!」


「うふふ、子狐さんも強くなりたいですものね」


エリッサちゃんが子狐さんの口に魔石をあてがうと、小さな口を大きく広げて魔石を齧ります。


僕でも一度では食べ切れません。


何度か齧ると、やっと光りました。


「アーン」


何か覚えた様ですが、どんな魔法を覚えたんでしょうね?


これで全員、新たな魔法を覚えました。


これで砂漠の魔物に効果があればいいのですが……。





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