子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第78話、そして砂漠へ

 エルフが矢を放つ直前に、こぶの付いた馬に跨っている兵達が、木で出来た盾を構えました。


 上空から飛来した矢の殆どは、盾に防がれています。


 数人のエルフが、ファイアの魔法を放ちます。


 あれ?


 僕のファイアと比べると、炎も小さく、色も赤いです。


 ファイアは着弾すると簡単に消火されてしまいます。


「無駄な足掻きは止めろ! 次は必ず大樹を燃やしてやる!」


 そういい残し兵達は去っていきます。


「木々を伐採し尽してからは、ずっとこんな感じなのじゃ」


 セロナがそう言葉を漏らします。


 あの砂漠の民達は何がしたいのでしょう?


 目的が分らないですね。


 最初からエルフの力が必要なら、話し合いの席で虐殺するなど意味はありません。


 最初は木々が目的で、途中で目的が変わったのでしょうか?


 やっぱり敵の懐に入り込まなければ分らないですね。


「みゃぁ~」


 僕は提案します。


 旅人を装って、彼等の国に潜入すれば目的も分るのでは? と……。


「それ良い考えかも知れないにゃ! 子猫ちゃんは賢いにゃ!」


 えへへ……久しぶりに賢い子猫ちゃんと呼ばれて僕はご満悦です。


 ですが……。


「妾はこの争いに介入は出来ぬぞ」


 フローゼ姫の立場は理解しています。


 仕方がありませんね。


「エリッサちゃんは?」


 僕達はエリッサちゃんを探します。が……どこにもいません。


 あれ?


 転移の部屋までは一緒だった気がしますが……。


 子狐さんもいません。


 すると――。


「すまぬ。こんな事はしたくは無かったのじゃ。じゃが……こうでもしなければお主達は力を貸してはくれぬじゃろう?」


 エリッサちゃんを人質にとられた様です。


 僕の腕には魔力が集まり始めます。


「迷い猫殿……その怒りを静めてくだされ。頼むのじゃ」


 そう言われても、エリッサちゃんを人質にとる様なエルフの言葉です。


 魔法発動の1歩手前で留め置くと、ミカちゃんが口を開きます。


「貴方達エルフの状況は理解したにゃ。でもエリッサちゃんを解放しなければ……皆、ただでは済まさないにゃ」


 僕達の威嚇を受け、セロナは僕っ子に指示を出します。


 直ぐに転移の部屋からエリッサちゃんが駆け寄ってきました。


「皆さん何処に行っていましたの? 私だけ迷子になったのかと思いましたわ」


 エリッサちゃんは、故意に迷わされたとは思っていないようです。


 まったく、こんな面倒な事をしなくても僕は手を貸す気なんですけどね。


 ミカちゃんは、僕に視線を投げかけるとウインクしようとして、また失敗しています。


 ふふ……せっかく高めた魔力が霧散しちゃいました。


「エリッサちゃんはどうするにゃ? 子猫ちゃんと私は砂漠の民が住む場所に様子を窺いに行こうと思っていたにゃ」


 人質に取られていた事に気づいていないエリッサちゃんの意見を聞いてみます。


 人質に取られた事を知れば、エルフに対し猜疑心を抱いてしまいますからね。


「そうですわね……私も人族が犯した犯罪ですもの。どんな事情があるのか知りたいですわ」


 これで決まりですね。


 でもこの場所にフローゼ姫だけ残して平気でしょうか?


 そう思っていると――。


「ん~皆が行くと言うなら仕方が無いな。だが、妾の素性は隠す事にするぞ」


 皆で砂漠に行く事に決りました。


 セロナは、エリッサちゃんの件で負い目を感じて腰を低くし、


「本当にすまぬ。宜しく頼むのじゃ」


 そう言って懇願してきます。


 伯爵の時みたいに簡単に済めばいいのですが……。


 その晩はエルフが他の国から取り寄せた食材を使った豪勢な晩餐会を開いてもらい、翌日の早朝に砂漠へ向け出立する事となりました。


 砂漠までは、徒歩で朝ここを発てば夕方には付く距離にあると聞きました。


 あの砂漠の民が乗っていた馬は、ラクダという動物で、砂漠の様な過酷な場所に強い生き物なのだそうです。


 生憎とエルフ達は馬しか持っておらず、馬を2頭と行商人が使うような簡素な馬車を借り受けました。


 大樹の地下まで見送りに着てくれたセロナは、


「本当に宜しく頼むのじゃ。砂漠の民の狙いが分れば手を打てるかも知れぬのじゃ」


 神妙な面持ちですが、頼む事はしっかり頼んでくる辺りは、やはりエルフの長だからでしょうか?


 僕達は来た時と同様に、船に乗り込み地上へと向かいます。


 地上からは砂漠の民が攻めてくる恐れがあるので、今は地下の出入り口しか使われていません。


 船は潜航し、洞窟を抜けると直ぐに浮上します。


 来た時とは対岸に横付けされ、馬車と一緒に船から降ろされます。


 砂漠の民が住む国は北西です。


 僕達は昨日やってきた砂漠の民達のラクダの足跡を頼りに、馬車を走らせました。


 川から離れれば離れる程、地面の土が乾き柔らかくなっています。


 照りつける太陽からの熱が、地面に反射して秋なのに真夏の様です。


 エルフから水が入った水筒という入れ物を貰って良かったです。


 これが無ければ、暑さで半日も持たないでしょう。


 草も木も生えていない。


 本当の砂漠。


 お昼にはもう周囲の土は柔らかい砂に変わっていました。


 流石にこの馬車では何度も車輪が地面にはまり、身動きが取れなくなります。


 僕達は馬車から降りて歩きます。


 馬車には水が入った樽も乗っているので、放置する訳にはいきません。


 砂に足を取られエリッサちゃんとフローゼ姫がきつそうです。


 僕とミカちゃんは鍛え方が違いますから、まだ幾分かマシです。


「それにしても暑いですわね」


「あぁ。これ程とは……大樹で待機していた方が……」


 若干弱音を吐き出す2人を横目に、周囲の様子を窺っていると――。


 突如、前方の地面から大量の砂が吹き上がりました。



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