子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第74話、スヴァルトアールヴヘイム

 エルフの少女が去った後で、僕達は焚き火の準備を最初からやり直します。


「あのエルフの娘も、もっと他に遣り様があったんじゃないか?」


 フローゼ姫が鎧や武具を外し、ショーツ姿の格好で言い放ちます。


 なるほど……ミカちゃんとは来ている服が違いますね。


 胸の大きな人は、お椀型の下着をつける物なのでしょうか?


 それにかぼちゃパンツとか始めて見ました。


 ミカちゃんは毛糸のパンツを穿いていましたが、王女様は違うようです。


 エリッサちゃんは恥ずかしいからか?


 服を着たままです。


 ミカちゃんは毛糸のパンツに肌着姿で、枯れ木で作った物干し竿を使って衣服を乾かしています。


 ミカちゃんとフローゼ姫が魚に木串を刺し、焚き火で炙ります。


 エリッサちゃんは家事を一切した事が無いので、皆の作業を観察中です。


 フローゼ姫は野営経験があるからか? 


 見ていて手馴れた感じを受けます。


 ミカちゃんは……言うに及ばずですね!


 飛ばされてから味気ない肉、肉、肉だったのでちょっと嬉しいです。


 でも塩が無いから、味気無いのは変わらないですね。


 サースドレインの街では日が暮れると、かなり肌寒いですが、ここは南国だけあって肌寒い感じはありません。


 魚から零れ落ちる油が焚き火の中に落ち、パチパチと小気味良い音がします。


 そろそろ食べ頃でしょうか?


 僕がそう思っていると――。


「ちょっと味見をしてみるにゃ!」


 ミカちゃん、味見とか言いながら涎が垂れていますよ。


 魚のお腹の部分からガブリと齧りつきます。


 魚の香ばしい香りが、僕の鼻腔を刺激します。


「ちゃんと焼けているにゃ!」


 ミカちゃんから許可が下りたので、皆が手に取り食べ始めます。


 僕と子狐さんは葉っぱを皿にして、そこで食べます。


 ――うん。


 やっぱり味気無いですね。


 でも油が乗っているので、不味くはありませんよ。


 僕達は食べながら、明日の予定を考えます。


「ミカ殿は何で今晩のエルフの招待を断わったのだ?」


 フローゼ姫は、エルフの少女の僅かな態度の差に気づかなかった様です。


「――多分なんだけれど、エルフは人間が嫌いにゃ」


 ミカちゃんは刹那言いよどみますが、思った事を口にします。


 フローゼ姫を見た時に呟いた言葉と、エリッサちゃんを認めた時の表情は明らかに人間に対して敵対心を抱いている者のそれでした。


 大昔にあった種族間の戦争が、未だに尾を引いているのでしょうか?


「――ふむ。アンドレア国は曽祖父の時代に建国された事で、種族間のわだかまりは無いのだがな」


 フローゼ姫の話では、曽祖父の初代国王は過去に起きた種族間の戦争を嫌い、人種による差別の無い国を建国。それを教訓とし現在に至る為、獣人に対しても人間と同じ扱いであるそうです。


 言葉が通じない子狐さんと、僕でさえ仲良くやっているのに当然です。


 でも他国では未だに獣人を奴隷にしている国は多いそうです。


 帰路に通る予定の、ガンバラの国も獣人差別をしている国の筆頭だと教えてくれました。


 そんな所をこのメンバーで通っても平気なのでしょうか?


 ちなみにアンドレア国まで帰るのに、アルフヘイム、ガンバラ王国、エルストラン皇国の順で通る事になり、エルフの少女の様子を見る限りでは、エルフは人族を、ガンバラは獣人を忌み嫌っている様です。


 では、エルストラン皇国はと言うと……。


 差別は無いけれど、宗教色の強い国家でこの国の象徴たる君主が神であると誰はばかる事なく国民に教え統一している国だそうです。


 人間とは面倒な生き物ですね。


 お婆さんが良く見ていたテレビでは、猫も犬も仲良しです。


「それで明日のエルフの件にゃ」


 まずはアルフヘイムを通らない事には始まりません。


「当って砕けろと言うからな」


「砕けちゃ駄目にゃ」


 本当に王女様なんでしょうか?


 色々な意味で心配です。


 そうして良い方法が見つからないまま、朝を迎えたのでした。


「迷い人殿、迎えに参りました」


 日がまだ昇りきらない朝靄の中、昨日同様に突如川から浮上してきた船の船首に仁王立ちになり、僕っ子が声を掛けてきます。


 エリッサちゃんとフローゼ姫はまだ寝ています。


 今、起きているのは、僕、ミカちゃん、子狐さんだけです。


 子狐さんが慌てて、エリッサちゃんの体に乗っかり起こしています。


「随分早いにゃ!」


 ミカちゃんは突如現れた船を察知し、起こされたので不機嫌です。


 僕もいつもの日課で、ミカちゃんを見ている途中で邪魔された格好なのでご機嫌は斜めです。


「それ程早くは無いよ? もう朝日が昇ったからね」


 あんな高い木の上で生活していれば、朝日が昇るのも早いでしょう。


 でも平地ではまだ薄暗いし、朝靄で視界も悪いですよ!


 どの道、帰る為にはこの川は越えないといけません。


 子狐さんに起こされたエリッサちゃんが、フローゼ姫を起こしている間に話を済ませましょう。


「みゃぁ~?」


 僕は僕っ子エルフに、エリッサちゃんとフローゼ姫に酷い事をしないか確認します。


「勿論だとも。昨日戻ってから長老会に話は通した。人間が居ても迷い人の仲間ならば快くお迎えするように仰せつかったのだ」


 2人に危害を加えないなら問題は無いですね。


 僕達は川端に横付けされた大きな船に乗り込みます。


 全員が乗った事を見定めると、船が水中に潜っていきます。


 川の中だというのに、服が濡れても居なければ、ちゃんと息も出来ます。


 まるで船全体に結界が張られている様に、甲板が空気の塊に覆われています。


 これで日中なら、川の中を泳ぐ魚が良く見える事でしょう。


 対岸まで潜航すると、水中に洞窟があります。


 船は穴の中に入っていきます。


「ここがアルフヘイムの地下でスヴァルトアールヴヘイムだよ。ここの上階が
アルフヘイム。そしてこの大樹がユグドラシルって訳さ」


 難しい名称を早口で言われ、困惑していると船が船着場に到着しました。


 この船着場には、色黒で背丈が大きい髭の男性が他の船から積荷を降ろしています。


「あの髭を生やしているのがドワーフだよ」


 僕っ子が指し示したのは、荷降ろしをしている人種でした。



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