子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第72話、フローゼ姫の初体験

 昼食を食べ終えた僕達は、先程覚えた魔法のお披露目をする事にしました。


 最初はミカちゃんがお手本を見せてくれる様です。


 近くに立っている枯れ木を的にしようと最初に決めていたのですが、ミカちゃんが掌を向けたのは、赤茶けた大地です。


 一体何が始まるのでしょう?


 皆が興味津々という様子で見つめています。


 ミカちゃんの掌から7色の光が溢れ、空に登って行くと、今度は大雨の様に降り注ぎました。


 見た感じでは攻撃魔法では無さそうです。


 すると――。


 魔法が止み少し時間が経つと、赤茶けた枯れた大地から新芽がにょきにょき生えだしました。


「――うわぁ」


「みゃぁ~!」


「な、なんだ……この魔法は」


「アーン」


 皆がミカちゃんの放った魔法に釘付けです。


「これが今回覚えた魔法ですにゃ。名前はオーロラの輝きにするにゃ!」


 どうやら枯れた大地に、芽を生やし再生する魔法の様です。


 まったくミカちゃんは何処まで規格外なんでしょうか?


 でもこれがあれば、一面が枯れた土地でも生き返らせる事が出来そうですね。


「この様な魔法は妾は始めて見た。使い道は限られておるが、凄いな」


 フローゼ姫がミカちゃんの新魔法に賞賛を送ります。


「本当に、ミカさんは凄いですわ」


「アーン」


 エリッサちゃんと、エリッサちゃんに抱きかかえられた子狐さんも同じ意見の様です。


 生き物を殺すのでは無く、何も無い土地に命を育む魔法ですか……。


 やっぱりミカちゃんは女神様の様ですね。


 ミカちゃんの規格外な魔法の後はフローゼ姫です。


 フローゼ姫は枯れ木に手を翳しています。


 という事は……攻撃魔法ですね。


 手の周囲が渦を巻きます。


 皆が静観して息を飲み込んで見守っていると、『ゴォー』っという音と共に、渦が正面の枯れ木に飛んで行き、当った箇所に大きな穴を穿ちました。


「おぉ、凄いにゃ!」


「私の魔法よりも威力がありそうですわ」


 初回に覚えた魔法がこれだけの威力とは、僕も驚きです。


「使い方と効果は分るのだが……初めての魔法だ。名前を考えなければな」


 嬉しそうに青い瞳を細めフローゼ姫が語ります。


 あーでもない。こうでもないと呟いていたフローゼ姫が何かを閃いたように顔を上げると声に出します。


「決めたぞ! ストームドライバーだ!」


 さっきの魔法の名前を決めた様です。


 ミカちゃんがオーロラの輝き、フローゼ姫はストームドライバーですか。


 面白そうな魔法を覚えましたね。


 さて次は子狐さんの番です。


 僕と大きさは同じですが、一体どんな魔法を見せてくれるのでしょう?


 エリッサちゃんが子狐さんを地面に降ろします。


 すると僕の真似でしょうか?


 前足の片方を掲げ、枯れ木に向けて翳します。


 すると――。


 氷の刃が3本手の周りに浮かび――次の瞬間には枯れ木に突き刺さっています。


 威力はまだ小さい様ですが、何度も魔法を覚えると威力も上がってきます。


 これはきっとこの子の武器になるでしょう。


 子狐さんが繰り出した魔法は、エリッサちゃんが最初に覚えた魔法と全く同じものでした。


 エリッサちゃんとの絆が、早くも出来上がっているのでしょうか?


 子狐さんが魔法を放った瞬間の、エリッサちゃんの破顔した表情は印象的です。


 まるでお母さんが、我が子の成長を見守る様でした。


 きっとエリッサちゃんが良いお母さん役になってくれるでしょう。


 魔法のお披露目も済みました。


 僕達はまた歩き出します。


 道は川に沿って北東へと続いています。


 これから先は水の心配はしなくても良さそうですね。


 僕達はさっき覚えた魔法や、魔物の話をしながら道を進みます。


 僕達が歩いてきた方角に行くと、魔族領らしく、未だに剣呑な雰囲気なので人は通りません。


 向かい側からやってくる人が居たら、気をつけないといけないですね。


 この道を真っ直ぐ進めばアルフヘイムらしいのですが、森も木々すらありません。


 どういう事でしょう?


「みゃぁ~?」


 ミカちゃんに尋ねてみます。


「うーん、私にも分らないにゃ。でも親狐さんは森があると言っていたにゃ」


 それは僕も聞いていました。


 でも、前方には何もありません。


 右側のずっと遠くはお花畑。


 左は太い川です。


 不思議に思っていると、意外な人が教えてくれます。


「アルフヘイムは御伽噺ではエルフの森ですわ」


 僕達がこの場所に来る事になった、切っ掛けを作ったエルフが住んでいるらしいです。


 でも何処にも森は見えませんよ。


 日が西へ大きく傾き、僕達の影が左前方へ長く伸びていきます。


 流石に暗くなってから歩くのは、夜目の利かない女性陣には厳しいです。


 今夜眠る場所の確保と、焚き火をする場所を作ります。


 流石に味気ない肉も、4度続くと飽きてきます。


 僕は川に向かって、隕石を落とし魚が驚いて浮かんでこないか試してみます。


 でも浮かんできません。


 僕が魔法を行使していると、ミカちゃんも試しにサンダーの魔法を使ってくれました。


 『ゴゴゴグワァーン』と、いつもの轟音が鳴り響くと――。


 川の中から魚達が感電して浮かび上がってきました。


 流石ミカちゃんですね!


「やったにゃ!」


「みゃぁ~!」


 僕が泳いで魚を取ってこようとすると――。


 水中から得体のしれない魔法が放たれます。


「子猫ちゃん、あぶにゃい!」


 ミカちゃんが僕に注意を呼びかけます。


 それは魚達を渦で絡めとり、その勢いのままこちらに向けて放たれました。


 渦を巻いた水の大砲は僕達が準備していた、焚き火を消し去ります。


 地面は水浸し、当然僕達もびしょ濡れです。


「みゃぁ~!」


 僕が怒って水中に向け怒鳴ると――。


 魔法が放たれた水中から、何かが浮かび上がってきます。


 僕達全員で息を飲みその物体を睨みます。


 水中から浮かんできたのは――大きな船でした。


 船とは水の上を走るものです。


 水の中から現れるものではありません。


 僕達は尚も、それをジッと見つめ注意を払います。


 すると、船の甲板に人が現れて言葉を投げかけました。


「君達は恩知らずだな!」



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