子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第70話、秘密の共有

 アンドレア国に戻る為の方角をまだ聞いていません。


 僕が主さんに確認してみましょう。


『エルストラン皇国へ行くにはどの方向へ行けばいいんだい?』


 主さんが首の向きで教えてくれた方向は、意外な方向でした。


 何故って?


 太陽の向きを参考にして昨日は散々、皆で歩きました。


 でも教えて貰った方向は――真上だったからです。


 つまり北に向かわないと行けないようです。


 ちなみに太陽が昇るのは東です。


 東に行くとどこへ辿り着くのか聞いてみると――。


『東は魔族領と、竜が生息する山脈があるぞ』


 この主さんと出会わなかったら、不味い事になっていたかも知れません。


 過去から続く禍根は、今も尚、残っていて人族が侵入すれば命は無い。


 間違えてもそんな場所には足を踏み入れるな。


 ――と、忠告されました。


 この地はこの世界で一番大きな大陸で、他にも3つの大陸があると言います。


 でも僕達が帰るアンドレア国は陸続きなので、関係は無さそうです。


 僕と主さんが会話をして情報をご教授してもらっている間にエリッサちゃんは子供達と戯れ、フローゼ姫はミカちゃんの通訳で僕と情報共有しています。


 僕が迷い人だと言う話を、皆に話してもいいのでしょうか?


 ミカちゃんには、主さんとの会話から知られたとは思いますが……。


『迷い人というのが特殊な存在なのは分ったよ。でも勇者で無いなら、僕が迷い人だという事を仲間の皆に話しても平気なのかな?』


 僕が気になっていた事を話していいのか?


 主さんの意見を聞いてみます。


 ミカちゃんは通訳を止めて、僕と主さんの会話に耳を傾けています。


『仲間の中で共有するのなら問題は無かろう。だが、これが権力者などに知られれば利用しようとする輩も出ないとは限らぬ』


 僕は悩みます。


 ミカちゃんやエリッサちゃんに知られるのは問題無い。


 でもフローゼ姫は1国の王女様です。


 僕が悩んでいると、ミカちゃんが僕を両手で優しく持ち上げ、


 僕を胸の前で抱き締めます。


 そして小声で……。


「今はまだ話さなくてもいいにゃ」


 僕だけに聞こえるように、そっと耳元で囁きました。


 この先、危険な事があった時に力があるのと無いのとでは有る方が有利に働きます。


 僕達の会話をミカちゃんの通訳で先程まで聞いていたフローゼ姫が、雰囲気を感じ取ったかの様に口に出します。


「子猫ちゃんの秘密なら妾も共有したいものだ。子猫ちゃんが勇者だと言われても……騎士団長を負かした猫だ。今更驚きはせぬぞ!」


 この王女様、ドジッ子属性の割に育ちのお陰か?


 ここ一番の勘だけは鋭い様です。


 僕はフッと吐息を漏らすと、語りだします。


「みゃぁ~みゃぁ~みゃぁ~」


 ミカちゃんは首肯しながら、子猫ちゃんが決めたのなら……。


 そう言ってフローゼ姫に説明をしてくれます。


「子猫ちゃんは恐らく――この土地の者ではないにゃ。子猫ちゃんの住んでいた場所は動物は人間の前には滅多に現れず、馬も見ない。牛も見ない。でも人を乗せて走る箱はある。地面も硬く、土の地面が少ないそんな不思議な場所から来たにゃ」


 ミカちゃんの説明を受け、フローゼ姫が考え込みます。


 しばらく眉間に手を置いて考え込んでいましたが、瞑っていた、透き通るような青い瞳を見開くと語りだします。


「それと似た話を何処かで聞いたと思って考えておったが……昔、我が国で腐った豆を流行させようとした女が、幽閉される前に同じ事を漏らしておった。もっとも幽閉された塔から何故か忽然と姿を消し、以降その消息は途絶えたままだがな」


 御伽噺は作り話だと思っていたら、史実だったようです。


「みゃぁ~!」


 僕が批難すると――。


「子猫ちゃんの住んでいた場所では、納豆と言って、腐った豆の料理があったみたいにゃ」


 フローゼ姫が目を点にし、ミカちゃんの言葉を聞き終わると言います。


「彼女には申し訳ない事をした。だが幽閉をしたのは妾の父君なのだ。妾はその当時まだ10歳であったのだ」


 どうやら御伽噺でもそれ程昔の話では無いようです。


 話が大分逸れたので、修正しましょう。


「みゃぁ~!」


「子猫ちゃん達、迷い人は特殊な能力を持っているにゃ」


 漸く確信に近づくと、フローゼ姫の目にも力が入ります。


「特殊なのは、その強さの事か? 幽閉された娘は……そんな力は無かった様に見えたが?」


 煩いですね。


 今は僕の話をちゃんと聞いて欲しいものです。


「みゃぁ~!」


「その話は後にするにゃ。今は子猫ちゃんのお話が先にゃ!」


 僕は軽く注意をした後で、言の葉を漏らします。


「みゃぁ~みゃぁ~みゃぁ~!」


 僕が持つ能力は、仲間に魔法を覚えさせるという事。僕と接していれば、次第と僕の話が理解出来る様になるという事を話します。


 僕は勇者では無いけれど、それに近い存在だとも――。


 それをミカちゃん越で聞いていたフローゼ姫は、目を点にした状態で固まってしまいました。


『この者、人族の王女なのだろう? そんな者に秘密を打ち明けて良かったのか?』


 主さんが心配して言葉を投げかけてくれます。


『魔石で魔法を覚えるのが、僕が認めた仲間だけなら話しても良いと思うよ。王女様が他の人に漏らしても、効果は無いんでしょ?』


 僕は主さんに確認します。


『魔石は、我も含め人や魔族が食べても腹を下すだけなのは確かじゃ』


 なら問題は無いですね。


 アンドレア国が僕をどうこうしようとするならば――逃げ出せばいいだけです。


 そんな会話をしていると、漸く正気に戻ったフローゼ姫が声を出します。


「子猫ちゃんは迷い人で、特殊な力を持っている。それこそ勇者の様に」


 自分に言い聞かせるように確認してきます。


「みゃぁ~!」


 僕がそうだよと告げると、大きく首肯して。


「それで納得出来た。獣人であるミカ殿の強さと、エリッサ譲の魔法習熟速度の秘密は――やはり子猫ちゃんにあったのだな」


 胸の痞えが取れて、晴れやかな面持ちで語ります。


 僕達と共にこれから旅をするんですから、当然フローゼ姫にも強く成って貰います。


「みゃぁ~!」


 王女様がこれ以上強くなったら手に負えないにゃ、とミカちゃんが言葉を零しますが、僕の発言を伝えてくれます。


「子猫ちゃんは、これからは王女様にも魔法を覚えてもらうと言っていますにゃ」


 それを聞いたフローゼ姫はまたもや、フリーズしたのでした。

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