子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第49話、騎士団長と姫騎士

 王都からやって来た兵は1000人に及び、大群を率いてやって来たのは第一騎士団長のボルグ・ハイネと、第一王女で姫騎士のフローゼ・アンドレアであった。


 街の守衛は、この集団が現れた時にまた伯爵の兵が来たと勘違いをし、門を閉じようとしたのだったが、その様子を遠目で見た団長の指示で1人先触れを遣わせた事で、誤解が生じずに済むというハプニングもあったのだが、守衛からの知らせを受け子爵が急ぎ正門にやって来た。


「フローゼ姫、ボルグ団長、この様な田舎に足をお運び頂き、有難う御座います」


 子爵様も騎士団長と、姫騎士と名高いフローゼ王女が伯爵捕獲にやってくるとは予想外で、普段の温厚な表情は強張っていた。


「サースドレイン子爵、事の詳細は先程守衛の兵から聞いたが、伯爵の兵に街が襲われたのは確かか?」


 巌の様な巨体で強面の騎士団長が、瞳を細め審議を確認するべく窺うように問いただす。


「はい。誠で御座います。5日程前に1000人を超える伯爵の軍勢に街が囲まれ、それを撃退致しました。その折に伯爵軍の指揮を執っておりましたイグナイザーを捕まえまして御座います」


 子爵は真実を伝えたが――。


「1000人に囲まれたにしては被害が少ない様に思えるが……」


 実際に壊されたのは正門では無く、東門であった事からここからは確認出来ない。騎士団長が不思議に思うのも無理は無かった。


「はい、実際の被害としては東門が破壊された程度でしたので、5日間で修復いたしております」


「ほう、子爵領には1000人を相手に出来る戦力があるという事か?」


 騎士団長は細めていた目を大きく見開き驚いている。伯爵の軍勢よりもそれを討伐出来た事に騎士団長の関心が向いているようであった。


 子爵は苦笑いを浮かべながら、


「うちの兵士だけでは……半日も持たなかったでしょう。ですが、この街にはオーガを討伐出来る冒険者がおりますので、その方からお力沿いを得まして御座います」


 オーガを討伐出来ると聞いた騎士団長の目が獲物を見つけた猛獣の様にきらりと光る。


「その者は何処に……」


「はい。当家に滞在して頂き、娘の家庭教師をお願いして御座います」


 騎士団長と姫殿下が居る所で誤魔化す訳にもいかず、子爵はオーガ討伐の英雄の所在を明かす。


「では、これからの打ち合わせのついでに、俺も是非その英雄殿に合わせてもらおう!」


 如何にも楽しげに語った騎士団長を見て子爵の頬が少し引攣る。


「では、ご案内いたします」


 強張った表情の子爵を面白そうに眺めながら、騎士団長とフローゼ姫は子爵が乗り込んだ馬車へと乗車してきた。


「ふふ。サースドレイン子爵、その様な面白い人材を独り占めとは感心せんな」


 そう茶化すように語ったのは――銀髪を肩で切りそろえ、大きな青の瞳は透き通る海の如し、小さな顔に整った顔立ちは、まさに美の化身と呼ぶに相応しく、
 また剣術に関しても王都で開催された剣術大会で若干16歳ながら王国最強のボルグを後一歩まで追い込み、其れゆえに付いた通り名が姫騎士フローゼ。武と美を兼ね備えた王女その人であった。


 子爵が苦笑いを浮かべていると――。


「それ程の御仁なら是非、お手合わせをお願いしたいものだ」


 フローゼ姫が更に追い討ちをかける。


「今回の一件が片付きましたらご自由に……」


 騎士団長とフローゼ姫にせがまれれば、子爵の答えは限られていた。


 そんな話をしている内に、馬車は子爵城に到着する。


 濃いメンバーの中ではすっかり影が薄くなってしまったフォルブスターが先に馬車から降り、ドアを開けて主人と騎士団長、フローゼ姫が降りるのを恭しく手伝った。


 子爵の案内で、執務室へ通される一行。


「それで、英雄殿はどこだ!」
「むっ、騎士団長――私が先だぞ」


 執務室に入るなり2人から矢の様な催促が入るが、子爵はまずは先日の伯爵軍の件とイグナイザーを取り調べた結果の報告を素早く済ませた。


 報告を聞いた二人の表情は――口元は釣り上がっているが、目が笑っていなかった。


「まさかここまで王家の威光を蔑ろにされるとはな……」
「ふん。増長している貴族派へのいい誡めになろう」


 フローゼ姫は青い瞳を細め、騎士団長は、ふっと嘆息した後呆れた様に言葉を漏らす。


「――では」


「あぁ、明日にでも伯爵領に攻め込む。だが、その前に――英雄殿に会わせてもらおう」


 先程までの表情から一転、漸くお預けを食らっていたデザートが食せるとでも言うような微笑を浮かべフローゼ姫が告げた。



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