子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第35話、これが子猫ちゃんの力だ!

僕達は、テーブルの上のご飯を全て平らげ、果物を搾った、美味しい飲み物を飲んでいました。


ギルドマスターの視線は、あれからも度々、僕に向けられています。


すると、ドアが開き、優しい門番のおじさん、優しそうな顔に白髪を七三分けにした執事服のおじさん、警備兵のおじさんが入ってきます。


白髪の執事服のおじさんだけ椅子に座り、門番のおじさんも、警備兵のおじさんも立ったままです。このおじさん……偉い人なのでしょうか?


「では、取調べを再開します。その前に、こちらの方をご紹介いたします」


門番のおじさんが、真剣な表情で、唯一座った白髪のおじさんを紹介します。


「こちらの方は、このサースドレイン子爵領の、全ての管理統括をされている――サースドレイン家筆頭執事のフェルブスター様でございます」


「グレゴリー子爵様から今回の件の調査を任されました。フェルブスターです。何、緊張せずともよい。楽にしてくれていいからのぉ」


そう言って、席を立って挨拶を受けていたミカちゃん、ギルドマスターに着席を促しました。


「まず、先程までの取調べの調書は拝見致しました。直ぐにこちらからも調査の諜報の者を現地へ派遣しました。早馬を使っても調査結果は、4日は掛かります。それまでは不自由ではありますが、ここでの軟禁生活になると思われます。その所はご理解下さい」


僕も、ミカちゃんも4日間はここから出られないようです。


「オードレイク伯爵領の件が本当なら、事は、この国全体を揺るがす大問題です。証人であるミカ殿の、身の安全も考えましての配慮とお考え下され」


「分りましたにゃ」


何か、問題が一領地の問題だけでは無くなって来たようです。


「それで、この街の路地で3人に襲われた事までは調べが進みましたが、ではその3人を誰が殺したのか。それに移りたいと思います。ミカ殿は、マタタビによって壁の上で苦しんでいた事は、その服装と証言から分りました。では、誰が彼等を殺したのでしょうか?」


ミカちゃんは、一瞬息を飲み込みました。


ミカちゃん、僕がやったのですから。僕が言いますよ。


「みゃぁ~!」


「ん?この猫は何でしょうか?」


「はっ、ミカ殿のペットだと聞き及んでいます」


「違いますにゃ。お友達ですにゃ!」


「まぁ、おしっこでもしたくなったのでしょう、ミカ殿、お願いします」


「子猫ちゃん……」


「みゃぁ~みゃぁ~!」


「おしっこじゃないって言っていますにゃ」


「では、何事ですかな?」


「みゃぁ~!」


「子猫ちゃん……言ってもいいのかにゃ?」


「みゃぁ~!」


「わかったにゃ。子猫ちゃんは、自分が3人を殺したと言っていますにゃ」


「何を馬鹿な……そんな嘘を付くと、後でお咎めが下りますよ!」


白髪のフェルブスターさんは、僕を侮っている様です。仕方ありませんね。
僕は、部屋の中に置かれた置物へ手を翳し、3人に使った魔法を発動させました。


置物は、木製でしたが、細かい細工が中にまでしてあったようで、圧縮され、グシャボコ、と鈍い音を立て潰れ丸まりました。


「うっ、うぉぉぉー」
「す、すげぇ~」
「ま、ま、まさか!」


「これが子猫ちゃんの力ですにゃ」


「「「………………………………」」」


「みゃぁ~!」


僕は、驚いている皆に胸をはり、どうだ!とでも言うように鳴きました。


最初に声をあげたのは――やはりこの人でした。


「いやぁ~~さっきも聞いては居たが、まさか本当だとは。これならオーガを倒したと言うのも納得だぜ」


「イゼラード殿、オーガを倒したと言うのは……報告に上がっておりませんが」


「あ~~すまねぇ。フェルブスター様。昨日の話なんで、流石にまだ報告書をまとめて居なかったんですよ」


「それで、オーガをこの猫が倒したと言うのですか?」


「正確には、2人で倒したと言っていましたがね」


「なんと――Aランクの魔物がこの領内に居た事も問題ですが、そんな魔物を討伐した冒険者の情報を領主に直ぐに報告しないとは、ギルドの対応に問題がありますぞ!」


「だから、昨日の話でまだ書類が出来てねぇ~んだって。勘弁してくれよ」


何か、僕達を放り出し、言い合いを始めてしまいました。


少ししてから、漸く言い合いは終わり、隣を見ると、何やら疲れきった表情のギルドマスター、先程始めて名前が出ましたが、イゼラードさんの口から、


「それじゃ~お譲ちゃんを守るために、猫ちゃんが3人を魔法で殺したって事が確定した訳だ」


「普通なら、そんな危険な猫は処分されかねないのだが……この領内に出たオーガを倒した功労者となると、また話が変わりますな」


「だろうな。この街の冒険者でもAランクのオーガを倒せる奴はいねぇ。それこそ子爵様の騎士を数十人は用意しなければな。それでも損耗無しで倒せるかといえば……無理だろうな」


「はぁ。猫と獣人のお譲ちゃんの2人は、この街の英雄と言うわけですね」


難しい話は僕には分りませんが、どうやらお咎めは無さそうです。

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