サヨナラ世界

こぶた

Tr2・横田ユウタの場合

一段、一段、ゆっくりゆっくり、僕は小さな階段を上る。



僕の運命は決まっていた。

「死にたい」と声に出したあの日に。

その後すぐに僕の死刑が決まった。



今僕がいるのはそういう世界なんだとわかった。



「言い残すことはあるか?」

ぶっきらぼうに看守が尋ねる。

「……」



僕は今までの人生を回想する。



小さい頃、僕はみんなと同じように生きるんだと思っていた。


小さかったから、みんなとの差なんて分からなかったから。

小学校も高学年になれば、少しづつ差が開いていた。

僕は気がついたら置いてかれていて、僕はみんなよりも劣っているんだと思い始めたんだ。


だから少しでも早く大人になりたいと思った。

そうすればみんなが大人になった時、先に大人になった僕は有利になると思った。少しでも差を縮めたかった。



そう思い始めてから何年も経った。
それなのに、みんな大人になって僕だけが子供のままだった。


どうしてみんな、出来て当たり前のことができるのだろう。

誰に大人のなり方を教わったのだろう。

どうしてみんな教わってもいないのに生きれるのだろう。


どうして……



……どうして僕だけが出来ないのだろう。


毎日毎日自分を叱咤して頑張っているのに。

出来ない自分を責めて罵倒して誰よりも自分に厳しくしているのに。



……どうして僕だけが褒められないのだろう。


やっぱり僕がみんなよりも劣っているからなんだと結論付けるまで、そう長い時間はかからなかった。


僕はそれから誰とも会わず、家の自室に引きこもり、一切の外の情報を遮断した。それからどれだけの時間が経ったのか分からないほど長い日々。


きっと僕はもう死んでいたんだろう。それなのに、僕の口から出た言葉は…


「死にたい」
だった。


……そこまで回想してやめる。無駄だ。



「最後に言い残すことはないんだな?」

もう一度看守が問う。
無駄だとわかっていても、どうしても言いたいことがあった。


「死にたいと思うことは……間違いなんでしょうか。弱い人間に……生きる価値は……ないのでしょうか。」



……気がついたら僕は泣いていた。

悔しかったんだ。

誰にも苦しみを理解されないことが。

みんなよりも劣っているとしても、必死だったんだ。その努力全てを否定されて、努力が足りないと突き放されることが。

そして弱い人間を切り捨てることで減らそうとするこの世界に負けたことが。


ガタン!と階段が外される音。


僕はこの世界に殺されるんだ。




サヨナラ世界:クズ

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