未来の日本は、魔法国になっていました

goro

第十二話 適正検査



魔法使いにとって、それぞれ個人にあった属性というものがある。

そして、どの系統が自分に適切であるかどうか、それを知ることは魔法使いにとって一番重要なことであった。





とある日のマファル学園。
一学年全員は今日、この日。
適正魔法を検査する日となっていたのだが、

「それで、朝月さんは受けないんですか?」
「う、うん」

朝月葵はただ一人、その検査を受けることが出来ない状況に陥っていた。
というのも、校長である木下が彼女の検査についてストップをかけたのだ。

『一応、過去から来た身でもあるから、もしもの事を考えての処置なのよ?』

と木下は言ってはいたが、

「残念ですね、朝月さん」
「ま、まぁ、仕方がないし」

そう言って笑い顔を作る朝月。
だが、氷美から見た彼女の後ろ姿はどこか寂しそうに見えて仕方がなかった。






そうして、一学年全員の適正魔法の検査が終わった頃。
職員室では、

「どういうことか説明してもらえませんか? 校長」

魔法実技の教師。
清近聖良が今、校長である木下に抗議を訴えかけていた。
それは、朝月 葵に対してだ。

「一体何がかしら?」
「何故、朝月に検査を受けさせなかったのか、その件についてです!」

検査を終え、記録を調べる担当だった清近は偶然とこの事実を見つけてしまったのだ。
さらに継ぎ足せば、

「そもそもの話。朝月 葵が過去から来たこと自体、大都市に伝えなくてはならないもの。貴方はそれすら隠していると私は聞きました」
「………」
「何故彼女にそこまでこだわるんですか!
貴方と朝月、いったいどういう」

と、清近が声をさらに荒げようする。
だが、その時だった。



「!?」



ゾッ、とその直後。
その場一体に突如と悪寒が突き走った。
ーーーーーそして、




「今日はよく喋るわね、清近先生?」
「っ!?」



校長である木下は、そう口にしながら目を細め清近を見据えている。
ただ、その仕草をしているだけなのに、まるで眼前に巨大な化け物がいるかのような威圧感を感じた。

自身の体がガクガクと震えていることに息を飲む清近。
そんな彼女に木下は続けて言葉を告げる。


「私が校長だから。それだけの理由じゃダメかしら?」
「……っ」
「ねぇ、どうなの?」
「…っ、は…はい」

脅しに屈したようにそう言葉を言ってしまった清近は悔しげに唇を紡ぐむしか出来なかった。
そして、対する木下はというと、納得のいった返事を受け取り、ニッコリと口元を緩ませつつ、



「これ以上の詮索はやめなさい。ね?」


そう言って、清近の隣を通り過ぎてその場から去っていった。


誰もいなくなった職員室。
その中で清近はその場で膝から崩れ落ちるようにしゃがみこむ。


「…本気、だった」


今までの温厚が嘘だったかのように、清近は木下の逆鱗に触れかけていたのだ。
手汗が未だ治らず、全身の震えが未だ止まらない。


歯を噛み締め、悔しくさを滲み出させる清近。
本来であれば、そこで終わる。



そうなる結末になるはずだった。




ーーーーープライドで出来た一人の魔法使い、清近聖良でなければ。











学園の授業を終え、皆が寮に戻る頃。
朝月の元に一人の女性講師が訪ねていた。

「朝月、いるか?」
「っ? えっ、清近先生?」

そして、彼女に言われるまま、清近に続くように寮を出ていく朝月。
そんな彼女の後ろ姿を、


「朝月さん?」


氷美は首を傾げながら、見つめていた。







それから一時間ほど経った頃。
氷美のいる寮に、校長である木下が訪れていた。

「どうしたんですか、校長先生?」
「そのごめんなさいね、氷美さん。ちょっと葵ちゃんを探してて、その見かけたりしなかった?」

その問いに対し、氷美は怪訝な様子で首傾げつつ、

「え、朝月さんなら、確か清近先生と」
「!?」

その瞬間。
木下の表情は驚愕に染まり、同時に氷美もまたその異変に不安が心を染めた。








清近に連れられてやってきた場所。
そこは、今朝方。一学年全員が適性検査を行った空き教室でもあった。


そして、適性検査は机の上に置かれた水晶へ、手をかざす事で検査することができる。

上空に魔法陣が展開され、その適性の結果が文字として表示される仕掛けとなっているのだ。



水晶に手を躊躇いつつ、朝月は不安げな様子で清近に振り返りながら、もう一度尋ねる。

「本当にいいんですか?」
「ええ、校長の許可はとってはあるから」

清近はそう言って笑みを浮かべ『嘘』をついた。

許可など降りるはずがなかった。何故なら、あの職員室での一件以降、木下とは一度も出会っていないのだから、


(あの人が何を隠しているはわからない。だが、貴方と共に、朝月 葵。その化けの皮を羽交いてあげるわ)

木下の忠告によって、そのプライドを汚された清近は、腹いせも含め朝月に適性検査を受けさせる。
そして、その結果で出た弱みを手に、木下の地位を貶めようと…、



「で、出ました」



そこまで考えた時。
適性検査の結果が上空の魔法陣に展開されようとした。
それと同時に、



「貴方たちっ!!何をやっているのっ!!」



木下と氷美がテレポートの魔法で空き教室に姿を現したのだ。



だがーーーーーーー既に、手遅れだった。



朝月が瞳を見開く中。
魔法陣の枠内にはーーーーーある一文が展開されていた。
それはーー





「ーーーーーーーー時の、魔法使い?」






その直後。
朝月の体が薄く光を発したと同時に、

「…………ぅ」

そのまま気を失って、床に倒れてしまった。氷美は直ぐ様駆け寄り、

「朝月さん! 朝月さん!しっかりしてっ!!」

そう何度も声を呼びかける。



だが、その一方で。
パシンッ!! と乾いた音が空き教室に鳴り響いた。
それは、

「どういうことか、説明しなさい。清近先生」

木下が清近の頰を叩いた為に鳴り響いた音だった。
その勢い負け、床に倒れる清近。
だが、そんな彼女の顔は怒りに染められることはせず、それとは真逆に驚愕に染められていた。

「…清近先生。私は葵ちゃんにあの検査をさせないようにと言っていたはずです。それなのに」
「……私は…貴方が何を隠しているのか、気になって仕方がなかった。…だが、今…ようやくその意味がわかりました…」

その意味ありげな言動に対し、朝月の側にいた氷美もまた顔を振り向かせる。

その中で、清近は言葉を木下にぶつけた。



「私の方がっ、貴方に問い詰めたいぐらいです! 何故、朝月葵が時の魔法使いになる素質があるのですかっ!!この意味がわからない貴方じゃないでしょっ!!」
「………」


時の魔法使い。
その言葉の意味を、この時の氷美は一人理解することが出来ずにいた。



だが、その言葉はのちに彼女自身。
いやーーーーーーこの世界全体に深く関わってくることになる。



そして、その中心点に立つ者。それがーーー朝月 葵だった…。



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