未来の日本は、魔法国になっていました

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第九話 呪いの人形?

とある日の休み時間。
朝月 葵は同じクラスに通う氷美秋保に尋ねた。

「…ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「え!? ど、どうしたんですか、朝月さん?」

内緒話をする仕草で小声を出す朝月は、周囲の視線、特に男子たちの視線を気にしながら、


「あのハゲ教師の授業を受けてからなんだけど……男子たちが、やたらと私のこと見てくるんだけど、何か知ってる?」


と告げ、バッと朝月は後ろに振り返る。
すると、それと同時に男子たちも皆彼女から顔を逸らすのだ。

「………」

眉間にシワを寄せる朝月は、これは明らかに何かあった、と確信していた。
だが、対する氷美は、

「ぇーと、さ、さぁ?」

どこか歯切れの悪い言い方でそんな朝月の言葉を誤魔化したのだ。


その理由というのが、数日前に遡る。
それは魔法薬の授業の一環として、失敗作を飲まされた朝月が一時的な大人化を果たした。その授業の後、数分して女子たちが教室に戻ってくると、

「「「!?」」」」

そこには、男たち(激島ふくめ)が気絶した状態で教室の床に倒れていたのだ。
まさに、地獄絵図といった光景だった。
そして、この学園の校長でもあり、この地獄を作り出した木下は戻ってきた女子たちに、朝月の身に起きたことを内密にしてほしい、とお願いを下したのだった。

だから、言うに言えない。
それが、氷美の本音だった。
だが、

「本当に?」
「ぅっ、は、はい…」

ジト目を向ける朝月。
滝のように冷や汗を流す氷美は、何とか話題を変えようと次の授業で行われる実習を思い出し、

「そ、そういえば、次の授業で人形作るらしいんですけど、朝月さんは知ってますか?」
「え、人形?」
「はい。別名、マジックドールっていうものらしいんですけど、魔法の技術を人形に取り入れて動かす授業みたいなんです」
「人形……」
「今回の先生はしっかりした人ですし、用具とかもきっちり準備してくれるみたいなので、た、楽しみ、じゃないですか?」

と、無茶振りで方向修正を実行しようとする氷美。
そして、対する小さく唸り声を漏らす朝月はといえば、


「……うん、何か楽しみかも」


見た目通り、お子ちゃまだった。


「そうですね!(何とかなったーっ!)」


事態は回避され、氷美は内心で大きく溜め息をついた。





だが、この数時間後に氷美は後悔する。
朝月 葵に、その授業の話を振ったことを…。






魔法文字に関する三限目の授業を終え、短い休憩の後、次の四限目の授業が始まった。

「はい、それでは皆さん、これから今目の前に置かれている人形に魔法をかけいただきたいと思います」

講師の四隅見 秋よすみ あきの語るのは魔法によって動く人形。いわゆるマジックドールについてである。


魔力をこめることによって、人形を操る。
本来は色々な魔法を組み込み、調整するのがマジックドールのあるべき姿なのだが、今回は初めての授業という事もあって、誰でも簡単に作ることの出来る、簡易型の人形を作る授業内容になっていた。

「ちなみに、無理に詰め込んでしまうと動かなくなってしまうので、皆さん注意してくださいね」

そして。
それでは、はじめてください! の合図とともに、生徒たちは机の上にそれぞれ置かれた人形たちに魔法をかけていく。

「えーっと、これをこうして」

人形のジャンルは様々であり、大きさもバラバラだった。
だが、簡易型を作る今回の授業において、とくにこれといった問題はなく、教科書代わりの魔法陣を見ながら生徒たちは順序よく魔法をかけていく。
そして、皆が集中する中でも、朝月 葵はとくに誰よりも強く瞳を輝かせて熱中していた。


「何か、朝月さん楽しそうね」
「……そ、そうですね」

隣に座るクラスメートの女子に話しかけられ、氷美は引きつった笑みでそう答える。
だが、何故か分からないが。

ものすごく嫌な予感がした。





そうして、数分と時間が経つにつれクラスメートの大半が簡易型マジックドールを完成させていく。
歩かせる者もいれば、人形同士でダンスや取っ組み合いをする者もいたり、子供ながらの在り来たりな遊びに熱中する生徒たち。
だが、その中で、

「出来た!」

何故か一番に熱中していたはずの朝月だけが、一番最後に人形を完成させていたのだった。

何であんなに時間がかかったんだろう? と氷美がこっそりと朝月の後ろに近寄り、その人形に視線を向ける。
しかし、氷美がそれを見た直後、

「ひっ!?」


場の雰囲気にそぐわない、悲鳴をあげたのだ。


その場にいたクラスメートたちの視線がその声によって、朝月に集中する。
そして、そんな顔を向けた彼らも同時に同じような悲鳴を上げたのだ。

この授業において、人形の準備は教師である四隅見が用意したものを使用していた。だから、特段ヘンテコな人形が置かれているはずがない。
そのはずだった。
なのに、

「あ、あさつき、さん? そ、それは…」

それなのに、朝月の手元にあるものといえば、


「ユラユラちゃん一号の完成っ!!」


髪を模していた毛糸が何故か伸び、顔全体を隠すほどになっていた。
しかも、歩くことしか出来ないはずの人形は今現在、宙をユラユラと浮いている。

「あ、あれ…って、な、何っ」
「の、呪いの人形だっ…」

朝月の人形を見たクラスメートたちが怯える中、教師の四隅見も若干ビビった様子で朝月に尋ねる。

「あ、朝月さん…」
「はい? どうしたんですか?」
「…え、えーと。その、ユラユラちゃんについてなのですが………私の見間違えでしょうか…何か、色々と魔法がかかっているように見えるのですが」
「え? 人形には魔法を何重にもかけるものじゃないんですか? 校長先生がそう言ってたんですけど?」

と平然とそう口にする朝月。
その一方で、彼女が発した言葉に対し、皆の声が固まり沈黙が落ちる。
そして、数秒にして朝月を除く全員の思いが一致した。


(((あの人かっ!!!)))


いえーい! と笑う校長の顔が脳裏にむかつくほど過ぎった。
だが、そんな事を思っている間にも事態は更に異変を起こしており、

「ぎゃああ!? 俺のマイルドちゃんがあああああっ!!!!」
「来ないで!? こっちに来ちゃ嫌ああああ!!!」

ユラユラ一号が暴走を開始していたのだ。
同じ仲間でもある人形たちに、迫り寄りってはアッパーカットやら背負い投げを繰り広げ、さらには生徒だったにまで襲い掛かろうとしている。
朝月もこんな事になるとは思っていなかったらしく、オドオドとしている様子だった。

「っ、ここは私が!!」

生徒を守らなくてはならない。
その使命感を抱き、ユラユラ一号の前に立つ四隅見は手のひらをかざし、魔法を唱えようとした。
だが、その時だった。


「先生、魔法を使っちゃダメ!!」


朝月の言葉が響く中。
ユラユラ一号は瞳を光らせ、まるで瞬間移動をしたかのように四隅見の眼前に高速移動をした。

そして、その口元をゆっくり動かし、バックリと開かれた口で、

「…え?」

ガブリっ!! と、無防備な四隅見の鼻に噛みついたのだ。




「んきゃあ――――――っ!?!?」




噛まれたまま後ろに倒れる四隅見は、白目を剥き、気絶していた。
それからというのもの。

その後始末と言うのが、これはもう凄く大変だった。

「うわっぁ!!! 先生の鼻が噛まれたむ!?」
「引き離、いや慎重にしない先生の鼻がなくなるかも」
「ユラユラちゃん、そろそろ放そうねー」

先生の鼻、救出大作戦が生徒たちによって決行されている中。


冷たい目線を向ける氷美に対し、朝月は乾いた笑いを浮かべながら、

「えへへ、……か、可愛いでしょ?」

と、


「「「「どこがだっー!!」」」」


その場にいたクラスメート全員の思いが、同調するのだった。


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