未来の日本は、魔法国になっていました

goro

第八話 魔法のお薬


朝月 葵はその日、初めて魔法を使うことが出来るようになった。
そして、その次の日にて、

「だ、大丈夫なんですよね…朝月さん?」

昼の休憩時間=昼休み。
いつもより酷い、目の下にクマを作らせ朝月は机の上にのし掛かるように倒れていた。
昨日の夜に特別、木下にレベルアップした勉強を叩き込まれた…わけではなく、その原因は初めての魔法を使えるようになった、その事自体に問題があったのだ。

朝月の症状はいわゆる『魔力酔い』によるものだ。

本来、こういった症状は幼少の頃、魔法の練習をした際には必ず発症し、数日もすれば完治する。
そんな軽い風邪に似た症状だった。
たが、

「(ぅぅ〜アタマが痛い〜)」

朝月の場合、12という歳で魔法を使えるようになった影響もあって、少し症状が酷い状態で表に出てきてしまったというわけだ。


「とりあえず、あと二時間は頑張ってみる…」
「…無理したらダメですよ?」


氷美の優しい言葉に癒される朝月。
その目にうっすらと涙を浮かべつつ、彼女は後十分後にして始まる五限目の授業、その科目が気になり、カバンに入れたメモを見る形でその科目を確かめた。

「えーっと、次は……魔法薬?」
「あ、その授業は初めてですよね。何でも先生が出張か何かでいなかったから、始めるに始めれなかったっていう」

ふーん、と内心で呟く朝月は、ふと魔法薬という言葉に対し、昔男子たちがゲーム機を手に騒いでいた際、よく口にしていた『ポーション』という言葉を思い出した。

(魔法の薬だから、ポーション? とか出てくるのかな?)

ポーション=回復薬。
確かそう男子たちが言っていたことを思い出し、次の授業でそれを作って飲めたらなぁ〜。
などと、そんな淡い希望を抱いていた。





まさか、その幻想がーーーーーその身に掛かってくるとも知らずに。





五限目の授業。
魔法薬。

教卓の前に立つ、若気の男性講師はハキハキとした口調で自己紹介を始めてた。

「はじめまして、この魔法薬という科目を授業を受け持つ事になった激島鶴目だ。いごよろし」
「ブフッ!?」

自己紹介最中。
盛大に吹いたのはーーーーーーーー朝月だった。
なぜ吹いたのかと聞かれれば、その男性講師。いや激島の頭部。

そこには毛根が一つもない、ハゲに等しいツルッぱげた頭が存在していたからだ。


そして、当然のごとくと朝月は激島に目をつけられ、

「ーーーーーーさて、私の授業を受けてもらう前に、まず魔法薬というものがどういうものか皆に見てもらわなければならない」

というわけで、と言いながら激島は朝月を指差す。
それも、笑顔で。





その数分後。
激島は紫色の液体が入ったガラスボトルを手に、語る。

「それではまず、彼女にじっけ、いや体験してもらうとしよう」
「いやぁああああーーーーーっ!?」

手足にベルトをつける、いわゆる拘束椅子に座らされた朝月の悲鳴が教室内に響き渡る。
とはいえ、これは仕方がないと教室の誰もが思った。
いつもは心優しい氷美でさえも、顔を背けてしまうのだから。

「心配するな。すぐーーーーー終わるから」
「すぐ終わるって何!? その手にあるの、見た目からしてヤバいやつだっー!!」
「むむっ? 確かに紫色だが何も毒じゃ」
「ぶくぶく言ってるしっ!!」
「これは調合した時の副作用だ」
「無茶苦茶臭いしっ!!」
「それは仕方が」
「先生も臭いしっ!!!」
「それは仕方がーーーーーいや待て。今なんて言った?」

あ、虎の尾を踏んだ。
とクラスメイト全員が思った。

「朝月葵。これは仕方ない。いわば、研究に失敗はつきものなのだ」
「失敗って何!? それ失ぱ」
「つべこべ言わずに飲めッ!!!!」
「っぷっ!?」

有無も言わさず、ボトルを口めがけて突っ込まれた朝月は目を見開きながら、液体をガブガブと飲んでしまう。
目がチカチカとして、更には体が無性に熱い。
視界がグラグラとして、後天に昇るかのように体が浮いた気持ちになる。

「ぅ…ぅぅ〜?」

自身の身に何が起きているかわからない朝月。だが、その一方で教室にいる全員が目を見開きながら驚愕の表情を浮かべていた。
何故なら、朝月の体が光を纏い出したと同時に変化しーーーー。


「あ、朝月…さ、ん」


彼女の体は、子供の姿から大人へと成長していたからだ。
しかも、子供の服を着た大人ということもあって色々とヤバい、卑猥な姿になり、

「だだ、男子っ!? 見るなっ!!」
「先生のチカン!!」
「いや、これは試作段階ということもあって、悪気わ」

と、教室内が大騒ぎを繰り広げている。
その一方で朝月本人は未だ目を回して気絶していた。
そんな時だった。


「どうしたの? こんなに騒いで」


その教室に、ドアを開け校長ーーーー木下理沙が入ってきたのだ。
その場にいた生徒たちが固まり、また木下も朝月の姿を見た瞬間、固まってしまう。
そして、

「………せ……ぃ……」

不意に木下が何かを呟いた。
だが、直ぐさま彼女は頭を被り振り、朝月に近寄り、そっと自身のコートを被せた。
そして、ゆっくりと息をついた彼女は生徒たちに振り返り、

「女子の皆さん。今から自習にしますので、葵ちゃんを連れて空き教室に移動してください」

と、続け。



「後、この場にいる男性全員はこのままで。私直々に特別授業をしてあげます」

そうニッコリと笑ったのだ。
そして、背後でこっそりと逃げようとする激島。
その鼻先すれすれに、魔法弾を掠らせるように飛ばした木下は、


「激島先生。今言いましたよね? ーーーー男性、全員って?」





その日、一つの教室で哀れな男たちの悲鳴が木霊するように響き渡ったと女子生徒たちは語った。

そして、朝月もまたその数分後にして元の姿に戻り、その日あった出来事は秘密にするよう木下の口添えがあった、のだった。



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