未来の日本は、魔法国になっていました

goro

第二話 転入生

40XX年が経った日本は魔法国家となっていた。
そして、子供達は原則として魔法使いを育成する学園に入学させられている。
小中高に分かれた各区の学園。
子供達は、立派な魔法使いになるために日々授業に精進しているのだった。

そして、通称マファル学園中学区、一年二組の教室にて。


「…こ、この学園に転入してきました、朝月 葵です。よ、よろしくお願いします!」

青色一色に決められた魔法使いの制服に身を包む朝月 葵はカチコチで挨拶をする。

「こほん。この時期に転入生というのは、ほとんどないのですが、今回は稀に見るケースといいますか…まぁ、色々あって彼女はこの学園に入学することになりました」

朝月の隣に立つ数分前まで取り調べ室にいた遠闇は補足するのように言葉をつなげた。
何故彼女がこの場にいるのかというと、それは彼女がこの一年二組の担任教師だからだ。

そして、彼女たちの目の前には、並べられた席に座る二組の生徒達の姿がある。
だが、その誰もが少し驚いた表情を浮かべている。
というのも、夏に近づくこの時期。本来なら、春の入学を出来なかった生徒は再び来年の春が来るまで学園に立ち入ることができない決まりとなっている。
それは機密情報を守るための決まりであり、それは魔法学園における原則のはずだった。
のだが…、

(もう、………なんでこんなことにー
っ!!)

心の中で叫ぶ朝月は、数時間前の取り調べ室での一件を思い出す。





「ま、魔法使い!?」

驚いた表情を浮かばせる朝月に、校長の木下はニッコリと笑みを浮かばせる。
一方の遠闇もまた驚いた様子で声を上げた。

「こ、校長!?」
「いいじゃない、生徒の一人増えたって」
「いや、いやいや、こんな得体も知れない不審人物を魔法使いって、まさか入学させるつもりなんですか!?」
「うん、そうよ」

なんせ私は校長よ? と平気で言う木下に頭痛を覚える遠闇。

「それに、なんでこの時代に来たのかもわからないっていうのに、殺されちゃうなんて、かわいそうでしょ?」
「いや、しかし」
「その場の勢いでいっているわけじゃないのよ? …それにね、私は見てみたいのよ」

木下は視線を戻し、すぐそばで戸惑った様子の朝月を見つめながら、


「過去の世界で生きていた人間が、今のこの世界を見て、どう思うのかを」
「?」


その言葉の裏に、どういう真意が含まれているのかはわからない。
ただ朝月を優しく見つめる木下はそのまま両手をパン! と合わせ、


「と、いうことで決まり! こっちで物品は調達してあげるから」
「え、ちょ」
「入学おめでとう、朝月 葵ちゃん」

そうして、朝月 葵は有無言わさずして、魔法の学園。


「……ぅえええええええええええっ!?」


マファル学園の一年二組へと入学させられることになるのだった。



 

そうして再び時間は戻り、現在に至るのだが、

「それではまず昨日の予習として、魔法陣六章を開き」

初っ端から、朝月に問題はぶつかった。
生徒全員が手のひらから宙に向けて魔法陣を出す。
この世界において、ノートや教科書類といった文明はなく、魔法陣がその代わりをしているのだ。
だが、転入初日の朝月にとっては、


「え……、き、教科書とか…ないの?」


無茶振りにも程があった。
まぁ、そうなるだろうなぁ〜…。と内心で呟く遠闇。

「こ、こほん。そこ、氷美さん。朝月さんに、貴方の魔法陣を見せてあげてください」
「は、はい!」

遠闇が言った言葉に返事を返したのは、朝月の隣、その席に座っていた一人の女子生徒だ。
彼女の名前は、氷美 秋保。水色の瞳に加え、短髪の眼鏡女子だ。

「ど、どうぞ」
「…あ、ありがとう…ございます」

席を横付けし、氷美の目の前で展開された魔法陣を覗き込む朝月。
だが、

「…み、見えます?」
「……あー、はい。見えます。見えます……よ…」

朝月の視界に映った、魔法陣に書き記されていた、見たこともない文字の数々。
日本語など、すでに皆無なほどに微塵もなかった。

「っ!!」

涙目で遠闇を睨みつける朝月。
対する遠闇は全力で顔を背けた。

(こんなので、どうやって生活していけばいいのよっ!!)

こうして、前途多難の朝月 葵の学園生活が開始されていくのだった。



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