【お試し版】ウルフマンの刀使い〜オレ流サムライ道〜
一章13
《FIGHT!》
「よーし、覚悟はいいか、イヌッコロ。俺様の剣のサビの一つに加えてやることを誇りに思うがいい!」
勝負開始の合図が出たというのに、男は重そうな鎧をガチャガチャと鳴らし、それなりに切れ味のある剣の刃先をオレに向けると、ごちゃごちゃと言い出した。
そんなことよりもう始めていいのだろうか?
システムはとっくに戦闘開始の合図を出しており、オレもさっきから構えを取っているのにこの男ときたら、いつまでたっても戦う気がないようだ。
「どうした、この武器の能力の高さに怖気付いたか?  降参するなら許してやらなくもないぞ。そのかわりお前の持っているアイテムと金を全部差し出すことが条件だ。俺様は優しいからな」
能力というのはよくわからない。なんせオレには闇影のような鑑定眼はないからな。
だが男の言い分も確かに、気前がいい。
ボロボロの皮297枚と1Zで許してくれるんならもうそれでいいんじゃないだろうか?  
しかし負けを認めるということはリネアを差し出すということになる。
彼女には鞘の仲介役を頼んでいる手前、差し出したら何かと因縁をつけられそうだ。それに刀を預けている。
因縁どころか売り飛ばされそうだ。
ここは未来のオレのためにもNOと言っておくか。
「残念だがその要件は飲めないな」
「そうかい。じゃあ覚悟をするんだな!」
男は変なポーズを決めると、何やらブツブツと独り言を言い始めた。
もう始めてもいいのだろうか?
周りから「ビビってんじゃねーぞ」「ほらさっさと戦えー」と野次が飛ぶ。
どうやらもう動いても良さそうだ。
オレはその場で軽く飛び跳ねると、その場で卒倒するように前傾姿勢で倒れこみ、四足歩行で地を蹴った。
野次が一瞬消える。
それと同時にさっきまでオレのいた場所に男が構えた剣とそっくりな剣が何本も突き刺さった。
なるほど、自信の原因はあの剣か。
だがホーンラビットの突進攻撃よろしく、動き出しに溜めがいるみたいだし、いくらでも付け入る隙はある。
「グアーハッハッハ、どうだ!  痛いだろ?  これに懲りたら……なっ!?」
男はひどく狼狽えた様子で周囲を見渡す。どうやらオレの串刺し映像がお望みだったようだが、生憎とオレにそんな趣味はない。
隙だらけな背後に忍び込むと左腕を取って両足を払い、背負いこむようにして投げ飛ばした。
「グッ!  重い」
男は鎧の重さを加味した落下速度で頭から地面に衝突した。
野次が飛ぶ。ただしその多くが悲鳴じみた声色だった。
転がっている武器を拾いあげると、男の仲間が声を荒げた。
「決闘中に武器を奪うことはできねーんだぜ?  それにその剣は持ち主を選ぶ、お前ごときに扱いきれるわけねーだろ、さっさとそいつを手放しな!」
ふむ。別に装備するつもりはないんだがな。決闘方法がどちらかの死で決まるため、自分のやり方で決着をつけることにしたんだが、言うだけあって対戦相手の男はとてもタフネスであった。
だからいつものスタイルで、剣を鞘に収めてから真上に蹴っ飛ばした。
男の仲間達から悲鳴と罵倒が強くなるが、無視。
卑怯だなんだのと言われるが、先にこちらの条件を蹴っ飛ばした相手に考慮してやるいわれはない。
「グッ……くそ。俺様の剣をどこへやった、イヌッコロ!」
オレは真上を指差し、柄の部分から落下してくる剣を示した。
男はキャッチの姿勢でその場に寝転がり、オレはその頭を踏んづけて空中に身を翻して剣の柄をキャッチ。抜刀の構えを取る。
「貴様!  何を!」
「こいつがオレの本来のスタイルでね!」
<払>で鞘を吹っ飛ばし、そのままの勢いで振り落とす。
あとは剣の能力次第だ!
ザンッ!
出た、空気のヤイバ!
それを真正面から受け止めた男は、そのまま左右に分かれて光の粒子に包まれた。
決闘による勝敗ではカルマ値と言うのが溜まらないらしい。
オレは着地と同時に剣を構え、真上から落っこちてくる鞘を納刀すると、カッコつけて決め台詞を吐いた。
「切り捨て御免」
勝負としては実にあっけないものだったが、得るものはあった。
剣を仲間であろう者たちの元へ投げ捨てると、それを大切そうに抱えて何処かへ逃げ帰っていく。その際愚痴を言うのを忘れないあたり、徹底的である。
「マサムネさーん」
リネアが涙ながらに駆け寄ってきて、オレの腹めがけてタックを仕掛けてきた。
「勝つって信じてましたよ~」
その声は大変嬉しそうで、小さな声で臨時収入だ~と喜んでいる。
抜け目のない性格をしているとは思ったが、このゲームを遊んでいるプレイヤーに期待をしてはいけないと言うことだろうか?
「いくら儲かった?」
「なんと5000Zが10倍ですよ!  ウハウハです!」
リネアは本当に嬉しそうに表情を綻ばせる。
確かに喜びに満ちた顔は可愛いが、目がZになっている。そこに目を瞑れば彼女は美少女であると言えるが、うーん……
深く考えるのはやめよう。きっと誰かいい相手が見つかるはずさ。
「そうか、身体張った甲斐があってよかったな」
「はい!  それじゃあ気を取り直して登録しに行きましょうか?」
「いいけど金ならないぞ?」
「そんな気にしなくても大丈夫ですよ~所持金の1/4を取られるだけですし」
「それが1Zしか無くてもか?」
「え?  そんなに無かったんですか? それはちょっと不味いですね。でも あんなに強いのに……もったいないですよ」
「知らないのか、リネア。いくら強くったって、種族的に器用が低いとボロボロの皮しか出ないんだ。そしてそれはどこでも買い取ってもらえないってことを」
「あはは~、そういえばそうでした」
「そうだぞ、うっかりさんめ。あの状態からモコモコ皮を剥ぎ取れたのはリネアだからだ。そこは誇っていい」
「でへへー。じゃあこれあげます」
リネアが何やらパネルを開くと、オレのメニュー欄が勝手に開いた。
[プレイヤーリネアから、プレイヤーマサムネへトレードの申請が来ています。受け取りますか?]
「これは?」
「諸々の護衛費。本来なら払う責任ないですけど、マサムネさんにはお世話になりましたから、受け取ってください」
「そう言うことなら」
[マサムネは4万Z手に入れた]
「ぶっ!」
「うわ、何ですか急に!」
「いや、済まない。どうやら桁を一つ間違えていたようだ」
「えー、しっかりしてくださいよ。40万じゃなくて4万ですよ?  あたしそんなお金持ちじゃないですから」
「…………」
初めてログインしたときを思い出す。
あの時は昼から夕方まで休憩を入れつつもぶっ続けでくたくたになるまで狩り続けて二人でたったの280Zだった。
それが素材を山分けしただけで初期費用の8倍と来た。
オレは自分の実力がよくわからなくなり、リネアに促されるようにして組合で登録を終えた。
登録は簡単で、指紋認証だけで終わった。そのカードは俗に言うギルドカードと同じ機能を有しており、よくこれなしで生活できていたな、と言うぐらいPCにとってなくてはならない必需品だった。
「良かったですね、マサムネさん!  これで依頼も受け放題ですよ!」
「ああ……そうだな」
オレはうな垂れるようにして返事をすると、そのままログアウトした。
何だか今日は疲れたな。
だけど……うん。
掌をじっと見つめ、それを握り込む。久しぶりに楽しいと思える充足感に包まれて、その日は次のログインが楽しみで仕方ないワクワク感に包まれて───寝不足で次の日遅刻しかけた。
「よーし、覚悟はいいか、イヌッコロ。俺様の剣のサビの一つに加えてやることを誇りに思うがいい!」
勝負開始の合図が出たというのに、男は重そうな鎧をガチャガチャと鳴らし、それなりに切れ味のある剣の刃先をオレに向けると、ごちゃごちゃと言い出した。
そんなことよりもう始めていいのだろうか?
システムはとっくに戦闘開始の合図を出しており、オレもさっきから構えを取っているのにこの男ときたら、いつまでたっても戦う気がないようだ。
「どうした、この武器の能力の高さに怖気付いたか?  降参するなら許してやらなくもないぞ。そのかわりお前の持っているアイテムと金を全部差し出すことが条件だ。俺様は優しいからな」
能力というのはよくわからない。なんせオレには闇影のような鑑定眼はないからな。
だが男の言い分も確かに、気前がいい。
ボロボロの皮297枚と1Zで許してくれるんならもうそれでいいんじゃないだろうか?  
しかし負けを認めるということはリネアを差し出すということになる。
彼女には鞘の仲介役を頼んでいる手前、差し出したら何かと因縁をつけられそうだ。それに刀を預けている。
因縁どころか売り飛ばされそうだ。
ここは未来のオレのためにもNOと言っておくか。
「残念だがその要件は飲めないな」
「そうかい。じゃあ覚悟をするんだな!」
男は変なポーズを決めると、何やらブツブツと独り言を言い始めた。
もう始めてもいいのだろうか?
周りから「ビビってんじゃねーぞ」「ほらさっさと戦えー」と野次が飛ぶ。
どうやらもう動いても良さそうだ。
オレはその場で軽く飛び跳ねると、その場で卒倒するように前傾姿勢で倒れこみ、四足歩行で地を蹴った。
野次が一瞬消える。
それと同時にさっきまでオレのいた場所に男が構えた剣とそっくりな剣が何本も突き刺さった。
なるほど、自信の原因はあの剣か。
だがホーンラビットの突進攻撃よろしく、動き出しに溜めがいるみたいだし、いくらでも付け入る隙はある。
「グアーハッハッハ、どうだ!  痛いだろ?  これに懲りたら……なっ!?」
男はひどく狼狽えた様子で周囲を見渡す。どうやらオレの串刺し映像がお望みだったようだが、生憎とオレにそんな趣味はない。
隙だらけな背後に忍び込むと左腕を取って両足を払い、背負いこむようにして投げ飛ばした。
「グッ!  重い」
男は鎧の重さを加味した落下速度で頭から地面に衝突した。
野次が飛ぶ。ただしその多くが悲鳴じみた声色だった。
転がっている武器を拾いあげると、男の仲間が声を荒げた。
「決闘中に武器を奪うことはできねーんだぜ?  それにその剣は持ち主を選ぶ、お前ごときに扱いきれるわけねーだろ、さっさとそいつを手放しな!」
ふむ。別に装備するつもりはないんだがな。決闘方法がどちらかの死で決まるため、自分のやり方で決着をつけることにしたんだが、言うだけあって対戦相手の男はとてもタフネスであった。
だからいつものスタイルで、剣を鞘に収めてから真上に蹴っ飛ばした。
男の仲間達から悲鳴と罵倒が強くなるが、無視。
卑怯だなんだのと言われるが、先にこちらの条件を蹴っ飛ばした相手に考慮してやるいわれはない。
「グッ……くそ。俺様の剣をどこへやった、イヌッコロ!」
オレは真上を指差し、柄の部分から落下してくる剣を示した。
男はキャッチの姿勢でその場に寝転がり、オレはその頭を踏んづけて空中に身を翻して剣の柄をキャッチ。抜刀の構えを取る。
「貴様!  何を!」
「こいつがオレの本来のスタイルでね!」
<払>で鞘を吹っ飛ばし、そのままの勢いで振り落とす。
あとは剣の能力次第だ!
ザンッ!
出た、空気のヤイバ!
それを真正面から受け止めた男は、そのまま左右に分かれて光の粒子に包まれた。
決闘による勝敗ではカルマ値と言うのが溜まらないらしい。
オレは着地と同時に剣を構え、真上から落っこちてくる鞘を納刀すると、カッコつけて決め台詞を吐いた。
「切り捨て御免」
勝負としては実にあっけないものだったが、得るものはあった。
剣を仲間であろう者たちの元へ投げ捨てると、それを大切そうに抱えて何処かへ逃げ帰っていく。その際愚痴を言うのを忘れないあたり、徹底的である。
「マサムネさーん」
リネアが涙ながらに駆け寄ってきて、オレの腹めがけてタックを仕掛けてきた。
「勝つって信じてましたよ~」
その声は大変嬉しそうで、小さな声で臨時収入だ~と喜んでいる。
抜け目のない性格をしているとは思ったが、このゲームを遊んでいるプレイヤーに期待をしてはいけないと言うことだろうか?
「いくら儲かった?」
「なんと5000Zが10倍ですよ!  ウハウハです!」
リネアは本当に嬉しそうに表情を綻ばせる。
確かに喜びに満ちた顔は可愛いが、目がZになっている。そこに目を瞑れば彼女は美少女であると言えるが、うーん……
深く考えるのはやめよう。きっと誰かいい相手が見つかるはずさ。
「そうか、身体張った甲斐があってよかったな」
「はい!  それじゃあ気を取り直して登録しに行きましょうか?」
「いいけど金ならないぞ?」
「そんな気にしなくても大丈夫ですよ~所持金の1/4を取られるだけですし」
「それが1Zしか無くてもか?」
「え?  そんなに無かったんですか? それはちょっと不味いですね。でも あんなに強いのに……もったいないですよ」
「知らないのか、リネア。いくら強くったって、種族的に器用が低いとボロボロの皮しか出ないんだ。そしてそれはどこでも買い取ってもらえないってことを」
「あはは~、そういえばそうでした」
「そうだぞ、うっかりさんめ。あの状態からモコモコ皮を剥ぎ取れたのはリネアだからだ。そこは誇っていい」
「でへへー。じゃあこれあげます」
リネアが何やらパネルを開くと、オレのメニュー欄が勝手に開いた。
[プレイヤーリネアから、プレイヤーマサムネへトレードの申請が来ています。受け取りますか?]
「これは?」
「諸々の護衛費。本来なら払う責任ないですけど、マサムネさんにはお世話になりましたから、受け取ってください」
「そう言うことなら」
[マサムネは4万Z手に入れた]
「ぶっ!」
「うわ、何ですか急に!」
「いや、済まない。どうやら桁を一つ間違えていたようだ」
「えー、しっかりしてくださいよ。40万じゃなくて4万ですよ?  あたしそんなお金持ちじゃないですから」
「…………」
初めてログインしたときを思い出す。
あの時は昼から夕方まで休憩を入れつつもぶっ続けでくたくたになるまで狩り続けて二人でたったの280Zだった。
それが素材を山分けしただけで初期費用の8倍と来た。
オレは自分の実力がよくわからなくなり、リネアに促されるようにして組合で登録を終えた。
登録は簡単で、指紋認証だけで終わった。そのカードは俗に言うギルドカードと同じ機能を有しており、よくこれなしで生活できていたな、と言うぐらいPCにとってなくてはならない必需品だった。
「良かったですね、マサムネさん!  これで依頼も受け放題ですよ!」
「ああ……そうだな」
オレはうな垂れるようにして返事をすると、そのままログアウトした。
何だか今日は疲れたな。
だけど……うん。
掌をじっと見つめ、それを握り込む。久しぶりに楽しいと思える充足感に包まれて、その日は次のログインが楽しみで仕方ないワクワク感に包まれて───寝不足で次の日遅刻しかけた。
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