魔獣騒ぎ

 目覚めると目の前の天井がいつもと違うことに気づき困惑する。だがすぐに昨日の出来事を思い出して再度、異世界に来たことを実感した。


 ソフィアはベッドで寝て、タイキは少し離れたところに来客用の布団を床に敷いて寝た。
その時になって初めて異性と一つ屋根の下ということを意識してソフィアの方を見るが、もう深い眠りについていたので少し残念な気持ちで目を閉じたことを覚えている。


「はーい、タイキ起きてー！」


 いつものようにもう1度寝ようとしていたタイキをソフィアはフライパンのような調理器具を打ち鳴らし強制的に目覚めさせる。


「ここはどこだ？天国かどっかか？」


 目を開けるとら目の前に美少女の顔があり、お世辞でも何でもなくタイキはそう言った。


「なに馬鹿なこと言ってるの？早く起きて！ご飯食べましょ」


「分かった分かった、とりあえずもう一回寝るから後五分後にまたお願いします」


「ああもうっ！起きてったら！」


 肩を揺らされるタイキは、美少女と接触する興奮で目を完全に覚ます。


「ありがとうございます」


「意味わからないけど、早く食べましょ」


 ソフィアは何故か自分を拝みだしたタイキをスルーすると、テーブルの上にある朝食指し示す。
会って二日目だというのにここまで親切にしてくれるソフィアに感謝しつつ、タイキは布団から起き上がった。


 朝食を食べ終わると、二人でこれからのことを話し合う。


「私今から結界の更新に行ってくるけど、どうする？またついてくる？」


 昨日は魔獣はあまりでなかったが、今日はどうなるかは分からない。二日目で死にたくはないと思い、俺は村の中をブラブラしとくよ、と誘いを断る。


「分かった、けどあんまり変なことしないでよね？」


「今まで俺のどこ見てたの？そんなことするように見える？」


「そんなに断言できるほど一緒に過ごしたわけじゃないけど・・・、見えなくもないわよ？」


「まじか！？」


 まだ全然上昇しない信頼度パラメーターは時間をかけて上げていこうと決心して、ソフィアを見送った。


「さてと、これからどうしようか」


 ソフィアにはブラブラしとくとは言っておいたが、店がただ一つのこの村で、どう時間を潰すか悩む。


「とりあえず、ネイソンさんのとこに行ってみるか」


 この村唯一の知り合いのもとに行くことにし、家を出た。


ーー家を出た途端、子供たちの集団とバッチリ目が合った。
 タイキは好奇心に目を輝かせる子供たちと正反対の、見つかってしまったという表情を浮かべる。
そっと家に帰ろうとしたタイキに群がる子供たち。コミュ障というのはどんな人にも反応するもので、取り囲む集団を見て、タイキは冷や汗を流す。


「ねーねー！お兄さん誰？」
「どこから来たのー？」


といった声がそこかしこからあがり、あまりの元気の良さに目が眩む。


「俺の名前はタイキだ！こんな時間に何してるの？とかは聞かないでくれよ？自分でもこんなにヒモになってていいのかなとか考え始めたとこなんだから！」


 聞かれてない質問まで一方的に語り出すタイキ。意味はわかってはいないだろうが、それが逆に子供たちには受けたようで笑いが起こる。


「タイキー！遊ぼー！」


「おう！いいぜ！」


 タイキは自分自身のことをコミュ障だと思っているが、初対面の子供たちと遊べる人を世間一般的にそう は呼ばない。


 推定年齢9～12才の子供たちと鬼ごっこやかくれんぼをして遊ぶタイキ。傍から見ればかなり怪しい人だ。
 だが、本人は全く気にしておらず無邪気に遊んでいた。




「どうしたの！？まさか魔獣が！？」


 結界の更新を終え帰ってきたソフィアがまずはじめに目にしたのは、ボロボロになったタイキの姿だった。服は少し破れたり、泥汚れなどがついていてソフィアがそういう結論に至るのもおかしくはない。


「あー、こんなはずじゃなかったんだけど、あまりに子供たちが元気すぎてな」


 あの後、子供たちに缶蹴りを教えてあげてやっていると、どこでどうルールを間違えたのか鬼であるタイキを包み込み動きを止め缶を蹴る、という強行手段に出られ、抑え込まれたタイキは現在のような状態になった。


「ずっと子供たちと遊んでたの？」


「あー、まあそうだな、一日中遊んでたことになるな」


 正直自分でもあそこまで楽しく遊べるとは思っていなかった。


「まさか俺って精神年齢メチャ低い感じ！？」


「そうかもしれないわね」


「そこは否定していいところだよ！？」


 返ってきた答えが予想に反するもので思わず突っ込んでしまう。


「タイキ、聞いて欲しいんだけど・・・」


「どしたのソフィア？この感じってまさか告白とか？」


 急に真面目な調子に変わるソフィアにタイキはふざけた様子で応える。


「ふざけないで。今結界の更新してきたんだけど、気になることがあってね」


「気になること？」


「結界の効力が落ちてきてるみたいなの・・・」


魔獣を寄せ付けない結界の効力が落ちてきてるという事は、魔獣が村に入ってきてしまうということだろう。
最悪の状況が想像でき、タイキは息を飲んだ。


「結界を張り直せばいいんじゃ？」


きっとそれが出来ないから忠告を自分にしてきたのだと、分かってはいながらも聞かざるを得ない。


「ずっーーーと昔の闇祓いが張った結界だから、構築式が難しくてね、張り直すまでに5日はかかりそうなの・・・。今の結界が持つのが後4日くらいだから、私が急いでやっても間に合わない可能性の方が高いの」


でも、とソフィアは付け加える。


「今から張り直しに行くから、この家自由に使ってくれていいわよ」


「は！？間に合わないんだろ？なんで行くんだよ！」


「私がやらないと村の人達全員が犠牲になることになっちゃうから、ただそれだけよ」


止めてもソフィアは行ってしまうだろう。それほどまでに強い意志をその瞳に宿らせていた。
荷物をまとめソフィアは出ていってしまう。タイキは自分の無力さを嘆く。


「何か能力さえあれば俺だって戦えるのに・・・！」


タイキの呟きは静かに部屋に消えていった。