終わる世界の召喚者

kiiichan

幸先の見えないスタート

ーーまったく、俺には本当に運というものがないらしい
   部屋から出ようとした瞬間に光に包まれて訳の分からない場所にいるのだから。
   馬鹿みたいに広い部屋に豪華な装飾、日本では有り得ない光景に神代大輝はただただ呆然としていた。

「そんな馬鹿なっ!有り得ない!」

   後ろからした声に振り返ると、きらびやかな服を着た男性が驚愕の表情を浮かべていた。

「こ、こんにちは。えーと、これってどういうことですかね?」

   訳の分からない状況に困惑しつつ大輝はその男性に尋ねる。

「すみません。取り乱しました。私の名前はヴァルベル、ようこそ勇者様、こちらの世界へ」

   思い出したかのようにそう言うとヴァルベルは恭しく頭を下げた。
   その言葉に驚きながらも大輝の中二脳は、歓喜の声をあげる。

「俺が勇者!?これって異世界召喚系のチート主人公になっちゃったりした感じですかね?」

「そのチートとか言うものはよく分かりませんが、貴方には我が国アルバニア帝国の勇者召喚の儀によってこちらの世界へ来て頂きました」

  豪華な部屋で上下ジャージ姿というのもなかなかシュールな光景だろう。まずは着替えましょうと言われ、服を脱がされ防具やらを装備させられる。これで見た目だけは立派な勇者だ。

「伝えるべき事はまだたくさんありますが、まずはお仲間と顔を合わせてきてください。またその後に話をします」

 そう言ってヴァルベルはお辞儀をして大輝を見送る。聞きたい事は沢山あったが、ひとまずはその仲間とやらのもとに行くことにした。
 向かいの部屋に入ると男女合わせて3人が円形のテーブルを取り囲むように座って話していた。大輝が部屋に入ると3人は驚いたような顔で大輝を見ていた。この部屋には椅子が3脚しかないらしく、仕方なく大輝は壁に寄りかかり立っておくことにする。

「君の名前は?」

 1人が立ち上がり大輝にそう問いかける。明らかに大輝よりも勇者という肩書きが似合う男だ。金の短髪に整った顔立ちの彼は明らかに日本人ではない。

「俺の名前は神代大輝、よくわからねえけど勇者?として召喚されたらしい」

  その言葉を聞いてまた驚いたような顔をする金髪。

「勇者が二人いてもおかしくはない・・か?」

  頭を抱える金髪がこちらへ手を差し出した。

「僕の名前はリウィウス=コナー、僕も勇者だ。創造神の命を受けてこの世界に召喚された。よろしくなタイキ」

 どの世界でも最初の挨拶は握手なのか、と場違いな感想を抱きつつ大輝はリウィウスの手を握った。

「私の名前はサラ=ウェンディ、大賢者ホーテンの推薦を受けた賢者よ、よろしくね」

 リウィウスの自己総会を受け右隣に座る女が続く。 赤髪のロング、顔は綺麗で気の強そうな印象を受ける。

「わ、私の名前はハンナ=イーブリンですっ!王室からの推薦でここにいます。よろしくお願いします!」

  茶髪のボブカットに大きな目、こちらは可愛いといった感じがする。
  大輝は目の前の光景を見て、マンガやアニメでしか見たことがなかった異世界に召喚されたことを改めて実感した。

「ところでタイキ、君は何によって召喚されたんだい?」

あまりにも唐突で分かりきった質問にタイキは当然だろ?という顔をして

「俺は勇者として、ヴァルベルに召喚されたんだが?」

「そんな事は分かっているよ、召喚される前、あの暗闇の中で話を聞いただろう?召喚される世界、そしてその世界で何を成さなければならないのかを」

「暗闇・・・?」

  思い返せばそういうこともあったような気がする。ほんの一時間くらい前のことだが、記憶に薄いモヤがかかったようにはっきりと思い出すことができない。

「少女・・、黒髪の少女か?・・右の掌に何か難しい刻印があったような気がする」

  大輝が言うとリウィウスから答えは返ってくることなく、代わりにドアからヴァルベルをはじめとする男達が入ってくる。

「勇者様、その男から離れて下さい!」

 勇者、と呼ばれたのは明らかにタイキではなくリウィウスの方だろう。あまりの剣幕にタイキが驚く中、大輝の四方を男達が取り囲んだ。

「忌々しい悪魔め、何故お前が召喚された!お前の目的はなんだ!」

 勇者から一転、悪魔の子扱いされるタイキはそれが身に覚えのない話すぎて呆然とする。

「俺が悪魔の子?何がどうなったらそういう結論になるんだよ!」

「暗闇で黒髪の少女を見ただって?掌には刻印・・・?そいつは、・・・そいつは・・!!」

 あまりの怒りに顔を真っ赤に染め、ヴァルベルはタイキの顔を睨みつける。

「史上最大の禁忌を犯し処刑されたあの女だろう!!それによって召喚された者が勇者な訳がない!」

「知らねーよそんなもん!召喚されたもんはされたんだ!今更どうしろって言うんだよ!」

 タイキを取り囲む男達がなにやら分からない言葉を唱え始めた。タイキの周囲の空気が震え出すのがわかる。

「おいっ!何を!?」

「ここで自爆されても困る、どこか遠い場所で魔獣に食われて死ね」

 今まで味わったことのない明確な殺意を向けられ、タイキの体が動かなくなる。
ーーそして、来た時と同じようにタイキの体は光に包まれ、その場から消えた。




ーー強烈な風と、胃の中のものがひっくり返されるような浮遊感に襲われタイキは目を覚ました。
 どうやら転移させられたのは空の上らしい。眼下に広がる雲を見てそう判断した。

「って、うわああああぁぁぁ!!!!」

 やっと頭がはっきりしだし、自分がどれだけ絶望的な状況に置かれているか理解したタイキは絶叫する。雲を抜けぐんぐんと近づく地面を前に、タイキは固く目を瞑った。

「・・・・・・・あれ?」

 だがいくら待っても硬い地面の感触はない。目を開けたタイキは自分の体が地面スレスレで止まっていることに気がつく。安心して息を吐き出すと、体が停止状態から動き出し地面に落ちる。

「助かったのか・・?」

 辛うじて助かった奇跡に感謝するタイキ。冷静になったタイキは辺りを見回し、自分がどこにいるのかの確認をする。どうやらここは深い森の中らしく、開けた場所にタイキは落ちたというわけだ。周りを見渡す視線がある1点に集中する。森の奥、闇の中にギラリと赤く光る目が点在しているからだ。
 ゆらり、と暗闇から姿を現したのは真っ黒な体毛に赤い目を持つ犬。唸り声をあげるその犬は次々にその数を増やし、タイキの目の前に10匹ほど現れる。

「おいおいおい、泣きっ面に蜂ってまさにこのことなんじゃね?」

 そんな軽口を叩いてみるものの、この状況を打開するための策は何も浮かばない。通常の異世界ものなら手をかざせば魔法が使えるなんてことがあってもよさそうなだが、そんなことが起こりそうにない。迫り来る化け物達からタイキは背を向け走り出した。数拍遅れて犬達もタイキを追い走り出す。後ろからする足音はだんだんと近づいて来ていた。突然背中に衝撃が走り、勢い余って顔から地面に突っ込んでしまう。

「いってぇぇぇ!!」

 恐らく牙か爪でやられたのだろう。背中の燃えるような痛みに耐えきれず地面をのたうち回る。完全に命を奪おうと犬たちが一斉にタイキにとびかかる。
ーー瞬間、閃光が暗闇を白く染めた。

 そこでタイキの意識は暗転する。

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