パラディン・フリード  この狂った世界は終わることなく回り続ける

ノベルバユーザー46822

カゲトという名の少年

 僕は何にもできないわけじゃない。
 勉強ができて、運動神経もいいのだが、ずば抜けて良いわけではない。
 ただただ普通。
 そう、ただ普通なだけ。
 だけど1度いじめられて、人間が嫌いになって、自分が分からなくなって、何もかも嫌になって。
 僕なんか誰も救ってくれやしない。
 そう思うようになっていった。
 人前では、普通の人を演じて、独りになると苦しんで。
 だんだん自分が嫌いになっていった。
 でも、心の奥では、誰かに助けを求めていたんだ。
「こんな僕を救ってくれ!」
 そう叫んでいたんだ。






 ある朝、目が覚めた。
 小鳥の囀る声が聞こえ、僕の睡魔を消し飛ばす。
 僕は人が嫌いになってから、鳥類や猫を好むようになった。
 見ていてとても落ち着く。それに、可愛らしい。
 僕の家は、周りに大きいな木があり、その下では、草が元気に生い茂っていた。都会では珍しい自然もありかだ。
 僕の家族は僕と姉、父と母の4人家族だ。
 僕の父は、ある研究グループに就いている。
 その研究グループは、何やら少し凄い物を発明中らしい。何と、世界を変えるかもしれないという。
 そんな父も家の中では、僕の優しいお父さんなのだが。
「おはよう。カゲト」
 とても明るい笑顔で僕を迎えてくれたのだが、父の片手には、見ただけで気が狂いそうな量の資料があった。
「おはよう」
 一言返して、僕は木製の椅子に座った。
 そして、ため息を1つ。
「今日も学校か・・・」
 小声で呟き、テーブルに置いてあるいい具合に焼けたパンをかじった。
「なんだ?影斗は学校が嫌いなのか?」
 父がそう訊いてきた。
「うん」
 パンをもう一口かじりながら答え、お茶を喉に流し込んだ。
 最近の学校では、「おまえらの将来のためだ!」なんて言って、教師が筋トレだの、基礎体力だの1日の半分以上が運動系の授業なのか、訓練なのかわからないことをしている。
 なぜこんなことをするかというと、国の命令らしい。
 その命令には、剣の使い方とか、銃の使い方とか、魔法を使うための複雑な魔法式などを覚えさせろ、という訳の分からないことも入っているそうだ。
 自分は今、ゲームの中にいるのか?と、錯覚してしまうほど非現実的だ。特に、魔法は最初聞いたとき、何だよそれ!?子供かよ!?と、思った。けど、実際に出てきて、言葉を失ったのだが。
 訓練のような授業に、周りのみんなも「なんだよ!?これ!?」なんて、情けない声で不満の声を漏らしていた。
 僕はその訓練が嫌いなわけではない。むしろ、どちらかといえば、座って、何の役に立つのか分からない授業をしているよりは、今の役に立つかもしれない授業の方が良い。
 だけど、僕は何かを心配している。
 何かは、はっきりとは分からない。ただ、これだけは分かっている。
「僕にとって、嫌なことが起きる・・・」
「え?」
 いつの間にか、ぽつりと呟いていたらいく、父に「どうした?」と言われたので、「な、何でもない!あ!もうこんな時間だ!学校行かなくちゃ!」と、不器用に誤魔化した。
 家を勢いよく飛び出し、ため息を吐いた。
(何なんだろう?)
 自分でもよく分からない、もどかしい感情にむしゃくしゃしていたら、後ろから名前を呼ばれた。
「おはよ。カゲト」
「あ~おはよう、シン」
 今、目の前でカバンを背中に背負っている、友人のシンは見た目がチャラくて、実際少しチャラくて、でも、本当は良いやつなんだけど、首元まである白髪が見た目を一層チャラく見せている。
「早く行こうぜ、学校」
 シンに促され、僕は足早に学校へ向かった。
 この町はビルが多く、人口密度が高い。さらに、全国で五本の指に入るほど、都会らいし。今はこれが普通に感じているのだが。
 きちんと整備された道路は、いつも人が多く行き来しており、たまに気分が悪くなったりする。
「今日もあの授業するのかな?」
 シンが周りのことを気にしないように独り言を言い、その時に、にやっとしたのが気になった。
「あの授業楽しみなの?」
「まあな、ためになる授業だからな、あれは」
「本当にためになるの?」
「ああ。根拠はないけど、俺はそう確信してるよ」
「ふ~ん・・・」
 シンと会話をしていると、前に同じ学校の制服(肩に青色のラインが入った黒の上下セット)を着ている人たちを見つけた。
「あれって」
「お?」
 僕がシンにその人たちを指差すと、シンが無言でその人たちのところまで駆けだした。
(おっ、おい!?)
 僕も急いでシンの後を追ったが、さすが、鍛えられております。追い付けません。
(大丈夫かな!?)
 すごく焦っていたので、とりあえず、シンが何かやらかさないように、と心の中で連呼し、ついにシンがその人たちに声をかけた。
 よく見ると、女子だ。髪も長いし、何よりスカートを着ている。
(あ・・・)
 後悔した。けど、もう遅い。彼女たちは振り向いている。
「あれ?どうしたの?シンとカゲトじゃない?」
「ほんとだ。仲良し組だ」
「おはよう、クロナ、ユズ。カゲトが2人を指差したからさ、行ってこいみたいな感じだったから、話しかけた。」
 振り向いた彼女たちは、腰ぐらいまである黒い髪のクロナと、黄金のような金髪ショートのユズだった。
 この二人はそんなに話づらいわけではないので、少し、いや、とても安心した。
「なんだ、コロナとユズか・・・」
 僕が安堵のため息を吐くと、
「私たちで悪かったわね」
 と、ユズに嫌な顔をされたので、
「いやそうじゃなくて。二人で良かったって思ってるんだよ。知らない人かと思ってひやひやしてたんだよ」
 誤解を解こうと発言すると、
「そうなんだ・・・」
 と、ユズの顔が少し赤くなり、俯いた。
「ユズってよく勘違いするよね」
 と、クロナが言ったので、また一層ユズの顔が熱を帯びた。
 四人で喋りながら、愚痴のようなことを聞かされていあたら、
「さあ、呑気に話す時間は終わりだ。今日も訓練の時間がやってきたぞ」
 シンがそう言うまで、全く気が付かなかったが、学校が高々と目の前に聳え立っていた。
「本当に何なの、あの授業は・・・」
 クロナががくっと肩を落としたので、とりあえず笑っておいた。








「もっと速く!速く!強く!剣を体の一部だと思って!」
 今は剣の稽古だ。
 先生がけっこう熱血的なので、みんなは頑張って剣をひたすら振っている。
 剣と言っても本物ではなく、木で作った木刀を、剣道のように一対一で剣合わせをするような稽古だ。
 僕はかなり剣筋が良いそうだ。だから、勝負は今のところ負けなし。剣道部の子にも勝ってしまったので、みんなから注目を浴びている。
「なんで、僕こんなに強いの?」








「は~い。的をよく狙って~いけるって思ったら撃つ」
 昼前に銃の稽古。
 この稽古は先生がけっこう呑気な先生なのだが、女の先生が色々、銃についてのやばいことを教えている。
 なんでそんなに銃に詳しいんだよ!?ってなるほどに。
「ふ~・・・」
 深呼吸をして心を落ち着かせ、風を予測して照準を合わせて、引き金を引く。
 僕の手に持っている、小型の黒い拳銃から弾が飛んでいき、30メートル先にある、アーチェリーの的に似ている大型の的のど真ん中に当たった。
「お、当たった」
 僕が呟いたのと同時に、周りがざわついた。
「カゲトはエイム(照準を合わせる)がいいね~。お見事!」
 そう言って、先生は手を叩きながらニコッと笑った。
 こんな風に笑うとかわいいのに、と男子生徒が良く言っているが、全くその通りである。
 多分、いや絶対、この銃の知識によって、少し引かれてしまうのだろう。
「ど、ども・・・」
 一応礼を言い、マガジン(弾丸を入れる弾倉)を新しいのに変えた。
(なんかこういうのは、できるのかな?)
 そう思ったのだが、口には出さなかった。








「え~、魔法には基礎となる魔法式を頭の中で、詠唱しなければなりません。そして、脳内で魔法の姿を想像し、手を使ってその魔法を実体化させます。何回も言っていると思いますが、想像力と集中力が大切です」
 昼からは、魔法という、なんとも不思議な力の練習。
 教科書のような本を片手に持ち、それを見ながら、もう片方の手で魔法を目の前に出現させるという稽古だ。
 魔法式と呼ばれる、文字列を脳内で唱えるのだが、早口言葉みたいだ。
 暗記してしまえば、魔法式の本は必要ないので、僕は両手が空いている状態だ。
 頭の中で十ほどの単語を高速で唱え、手に魔法が出てきた姿を想像する。
 するとーー
 ーーブォッ
 と、空気が燃える音と共に、両手ほどの大きい火の玉が、手の平の約10センチ前に出てきた。
 手を前に突き出して、その火の玉を勢いよく飛ばす。
 火の玉は素早く一直線に飛んでいき、魔法の威力を軽減する壁に直撃した。
 爆発音と爆風がそこら中で起こっている中でも、一際大きな爆発音が轟き、強烈な爆風が吹き荒れた。
「カゲトくんは魔法のコントロールが上手だね」
 コントロールはしていないけど、また褒められた。僕には戦闘に関しての才能があるのかもしれない。あんまり嬉しくないけど。
「ど、どうも・・・」
 僕が頭を少し下げ、礼を言うと、誰かが舌打ちをした。








「いや~、今日も疲れたな~」
 シンが窓側の壁に体をもたれさせ、伸びをした。
「そうだね。いつ役に立つのか・・・」
 僕が途方に暮れた声でそう言い、椅子を前後に揺らした。
「けど、カゲトはいいじゃん。剣も銃も魔法も優秀だし」
「シンだって、上手いじゃないか。それに・・・」
「それに?」
「手を抜いているような気がする・・・」
「さあ、どうだかね・・・」
 いつも気掛かりだったのだが、シンは授業は真剣に聞いているけど、実習になると少しおちゃらける。
 僕にはそれが、手を抜いているように見えたのだ。本当はもっと実力があるように感じる。
 他人から自分の存在を消しているようだ。
 僕には却って存在をアピールしているのだが。
「まあ、これだけは言っておいてやる。この授業はお前の父さんに関係している」
「え?」
 シンがいきなり僕のお父さんを話に出してきた。
 シンのお父さんも、僕のお父さんと同じ研究グループで働いている。
 つまり、シンはシンのお父さんから、研究のことについて何か聞いたということだろうか。
 それがシンの戦闘技術を隠す、戦闘に関することに興味を持たせている、ということか。
 ということは、
「お父さんの研究は、戦闘系のことなのか・・・?」
 僕がそう呟いた瞬間、
 きぃぃぃぃぃぃぃぃんーーー
「っ!」
「なんだ!?」
 甲高い金切り声のような、耳障りな音が大音量で鳴り響いた。
 鼓膜が破れそうなほど大きく、普通に耐えられるものじゃない。
 みんな耳を手で覆い、その場で蹲っていた。
 音は十秒ほど鳴ると、鳴り始めた時と同じように、唐突に消えた。
「何だったんだ?今の?」
 教室が騒がしくなり始め、その混乱を予期していたかのように先生が教室に滑り込んできた。
「大丈夫か!?」
「ええ、何とか」
「大丈夫です・・・」
「はい」
「何なんですか今の?」
「うるさすぎだろ・・・」
 皆、口々にさっきの音についての想いを言い始め、多少安心感が湧いてきた。
 そんな中、シンだけ顔がとても険しかった。
「シン?」
 僕が彼の名を呼ぶと、シンはこちらに振り返り、若干引きつった笑顔で、僕にこう言った。
「来るぞ。訓練が役立つ時だ」
 シンの後ろに見える窓の景色が、瞬間的に変わった。
 土が宙に舞い、轟音と、地中からモンスターと一目で分かる巨大な生物が大量に出現、というよりは、生まれた、という表現のほうが正しい。
 その異様な光景に、僕は時が遅く感じられ、声も出せずに固まっていた。
「逃げろぉ!!!」
 先生が叫んだのと、装甲のような、茶色の甲羅を背負った五メートルほどのモンスターが、こちらに突っ込んできたのが同時だった。
 シンは急いで、反対側に向かって走り、椅子に座ったままの僕を引っ張って、窓から離れた。
 次の瞬間、学校が崩れ、ガラガラとコンクリートが、瓦礫になる音と共に、浮遊感に襲われた。
「うわあぁぁ!!」



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品