デュエル・ワールド・オンライン

ノベルバユーザー46822

オーガ討伐ミッション!④

 HPの減少に伴い、ボスのステータス上昇、攻撃パターンの変更が起こる。このシステムはデュエル・ワールド・オンラインに限ったことだけじゃなく、他のRPGでも同様に起こりうることで、冒険者たちはボスのHPが残り少なくなると、細心の注意を払う。
 しかし、敵のHPが確認できないデュエル・ワールド・オンラインは、目安がないため、急に起こったと錯覚してしまうのだ。そのため、一部のプレイヤーは混乱してしまう。


「うわぁぁぁぁ!!」
「目が光ってるぞ!!」
「落ち着け!攻撃パターンが変わっただけだ!」
 今、ジャイアントオーガの討伐に当たっているプレイヤーは、ホワイトパラディンズと他にも十五人ほどが駆け付けてくれている。その中でも、RPGのこのシステムを知っていたのはたったの四人だった。その人たちは一度距離を置いて武器を構えなおしたので、適切な行動を取ったとして、シオンは知っていると理解した。
 他のプレイヤーは慌てて攻撃して、ダメージが入らないことに仰天したり、背中を見せて一目散に離れてしまったので、カイトが怒鳴って落ち着かせた。
 ジャイアントオーガの状態は、シオンに攻撃されなかった左目が赤く光り、殺気を帯びている。しかも、折れたはずの右足が復活してるし、全身から軽く湯気が出ている。
 オーガは歓喜の叫びを放ってプレイヤーに襲い掛かっている。オーガたちはここにいては危険だとは思わないのか、ジャイアントオーガが暴走したことがそんなに嬉しいのか、全くの謎だ。
 シオンはジャイアントオーガが動き出す前に、周辺のオーガを狩らないと挟み撃ちになってしまう。


 正面にいたオーガの棍棒を避け、首目掛けて刀を振り、右から来た別のオーガの横の薙ぎ払いをしゃがんで避け、足を切断する。続けて、バランスが取れなくなったオーガの心臓を刺し、素早く引き抜く。
 二人揃って前と後ろから来た棍棒を跳んで、ぶつかった時に棍棒に乗って前のオーガの顔を一太刀で斬り飛ばす。そして、放置されたオーガは憤って、縦に棍棒を振り下ろしてきたのを、刀でなぞるように躱し、棍棒を持っている手を斬り、胸を斬り刻む。
 ジャイアントオーガの後ろには、シオン、エレナ、シーナ、ツバキが距離を置き、それ以外は正面、カイトと薙刀を持った男性プレイヤーが、右と左に構えていた。
 ここら辺にいるオーガは数体になったが、遠くにはまだこちらに寄って来るオーガは数え切れないほどいる。
 正面の方はゼロだろうか。誰も戦っていない。
 ほんの少しだけ余裕ができたので、キングオーガの方を見ると、プレイヤーが押し始めていた。これはいけるんじゃないか、と思った瞬間、クイーンオーガの動きにあっと驚かされた。
 防御を考えず、ただひたすらに魔法を唱えていたのだ。それもジャイアントオーガに向かって。
 魔法を放つときは、杖に円形の魔法陣ができ、その魔法陣の色によって魔法が変わってくるのだが、今は杖に魔法陣ができておらず、足元に魔法陣ができている。
 足元に魔法陣ができるのは、ナナミがジャイアントオーガと戦う前に使ったような、バフを使用するときだ。
「警戒!!」
 ありったけの声で叫び、刀を正面に構える。それと同時に、ジャイアントオーガの体を魔法陣が通っていき、光の粉がきらきらと舞った。魔法陣が通ったキャラは、そのバフの対象になっていると分かるので、嫌でもクイーンオーガの意図が読めた。クイーンオーガはジャイアントオーガの暴走を精一杯利用する気だ。
 バフをかけ、思う存分暴れてもらい、こっちを楽にする作戦だろう。
 そんなことは許さない。何があってもここでジャイアントオーガを仕留め、相手に逆転されたくない。やっとキングオーガの方が押してきたのだ。この好機を逃すわけにはいかない。
「グオアァァァァァ!!」
 ジャイアントオーガの雄叫びで、ジャイアントオーガの湯気が吹き飛び、戦闘モードに入ったことを表した。第一の関門だ。
 さっそくジャイアントオーガが長剣を引いて、溜めに入った。足はそのままなので攻撃目標は正面。だが、前までと違うところは、溜めに全身を使っているところ。前は腕を引いただけの、腕の力での振りだったが、今は左手を前に置いて、体を少し横に開いている。
 正面以外にいたプレイヤーは距離を詰めているが、正面のプレイヤーは威圧に負けたのか、逆に後ろに下がっている。
 限界まで引き絞られた右腕が、弓矢のように飛んでいき、ど派手な爆発音を発生させた。砂埃がジャイアントオーガの首くらいまで上がり、続いてジャイアントオーガの顔がこちらに向いた。
「イィ!?」
 エレナが奇妙な声を発して、肩を揺らす。
 ジャイアントオーガの瞳はシオンを真っ直ぐ捉えており、シオンは右にずれた。
 左足を擦らせ、流れるように繰り出された縦の斬撃は、このまま進めばシオンを真っ二つに両断するルートだ。
 シオンはこの攻撃を予測していたので、ステップを踏むように左に跳び、危機一髪で回避し、左手をついて体制を起き上がらせ、接近を再開する。
 長剣を勢いよく振り戻す癖は直っていないらしく、気付けばジャイアントオーガは次の構えを取っていた。
 剣を左に引く、スキルの構え。わずか三秒で整え、威力の高い攻撃で何度も襲ってくるジャイアントオーガは、最初のボスとは思えないほどの強さだ。
 最初は攻撃力が高いだけのボスかと思っていたが、誤解だった。素早く斬撃を繰り出し、時にはオーガを呼び、自分に有利な状況を作れる賢いボスだった。


 膝を曲げた状態で放ったスキルは、地面すれすれを通過し、正面から近付いていたプレイヤーを数人直撃させた。
 光の欠片を撒き散らせて、宙を舞ったプレイヤーは、地面に強く体を打ち付け、ピクリとも動かなくなった。デュエル・ワールド・オンラインは、デスした場合、体の意識が飛び、脳内だけの意識となる。この状態は二分間続き、その間なら蘇生ができ、デスペナルティーを受けることなく戦線復帰ができるのだが、まだ序盤なので、蘇生アイテムも蘇生魔法もない。
 残念ながら、ここでデスしたプレイヤーは二分間、ボス戦を三人称で観戦し、ペナルティーを受けて大神殿で復活することになる。
 そして、こっちでもデスをさせようとジャイアントオーガが睨んでいる。
 振り戻したままの体制で、もう一度溜めを入れ、正面と同じことをしてきた。しかし、こっちのプレイヤーは一人も当たらず、空振りに終わった。
 シオン以外のプレイヤーは一度止まって回避したのだが、シオンだけはスライディングをして、長剣の下を潜り抜け、芝生を滑って回避と同時に接近もした。
 プレイヤーをもう少し減らしたいのか、ジャイアントオーガは長剣を地面に刺して、手を大きく広げてプレイヤーを押し潰そうとしてきた。
 右手がシオンの進行先と被り、シオンは上を見て、綺麗に指と指の間を通り抜け、もう一回手に上った。角度はほぼ九十度なので、上ることは不可能だが、手を斬ることくらいはできる。
 すると、左手の方から苦しそうな悲鳴が飛んできた。
「がっ!」
 聞こえた方を見ると、ツバキの下半身が左手に押されていて、ツバキが苦しそうに顔を歪めていた。
「ツバキ!」
 エレナのツバキを呼び声で、意識がはっきりしたのか、ツバキが手に持っている刀をジャイアントオーガの薬指に刺したが、それだけではびくともしない。
 だが、シーナが急いで駆け寄り、剣で薬指を斬り飛ばし、ツバキを回収した。
 ひとまずツバキの無事が確認できたところで、逆襲に入る。
 ひたすらに手首を斬り、ダメージを与えていく。それに怒ったのか、ジャイアントオーガは左手でシオンを潰そうとしてくるが、シオンはタイミングを合わせて跳躍し、ジャイアントオーガの腕を蹴って、スペースがある薬指の場所を横になって通った。
 後ろでパシンッ!と叩く音が聞こえ、心の中でこえぇぇぇぇ!!と叫び、手首をゴロゴロと転がり、本日二度目の、ジャイアントオーガの腕の綱渡りを行った。
 その時に、刀はちゃんと皮膚に通し、一秒も無駄にせずHPを減らしていく。
 さすがに学習したのか、ジャイアントオーガは虫を払うかのように、腕を勢いよく地面に突き刺してある長剣にぶつけた。
 シオンはその前に腕から滑り落ち、足から着地、勢いを殺さず前に転がり、落下ダメージを減少させた。
 その間に側面に陣取っていた薙刀の人と、カイトはジャイアントオーガに攻撃し、それぞれの足に粘着している。
 もう八方ふさがりかと思ったのだが、ジャイアントオーガはその巨体を宙に浮かせた。巨人がジャンプするのを間近で見るのは迫力満点だが、着地が物凄く怖い。
 下手をすればぐしゃりと踏まれるし、振動が半端ないだろう。これはスタン確定、とシオンは思い、着地の少し前に思いっきり縦に跳んだ。
 他のプレイヤーも同じことをして、スタンを食らわないようにしていたのだが、振動が大きすぎた。
 地面が盛り上がるような振動に、足の裏から衝撃が全身を走り、若干ふらついた。
 かろうじてスタンはもらわなかったが、接近できなかった。というか、シオン以外全員スタン状態になっていて、しりもちをついている。
 しかも、足の裏がじりじりと焼けるような痛みがある。振動だけでダメージが入るとは意味が分からない。
「馬鹿げた力だ・・・」
 シオンは強がって笑ったが、正直ジャイアントオーガの暴走した時の力がこれほどとは思ってなかった。
 普通のRPGなら、ボスがバフをもらうことすらないし、こんなに強力になることもなかったのだ。そう。普通のRPGなら。
 このゲームは異常すぎた。システムも。ストーリーも。敵の強さも。
 でも。だがらこそシオンは胸の奥の興奮を抑えることができず、戦闘中に笑みを零したのだ。
「グオォォォォ!」
「勝負だ!」
 ジャイアントオーガの咆哮とシオンの雄叫びがぶつかり合い、シオンはもう一度走り出した。

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