チャイムは異世界転移の合図でした

ノベルバユーザー46822

あるパーティーの完成

 ギルドに向かう途中、凜花は頭の切れる耕太を手招きして先頭に来させ、ある話をした。
「なあ、なんで武器とか金目になるものとか持って来い、って言われたのか分かった」
「そうだな。まさかこんなことになるなんて・・・」
 凜花の隣で耕太が肩を落としていたので、おばちゃんからもらった言葉をかけてやる。
「下を向くな。前を見ろって、ここの住民に言われたよ」
 その言葉を聞き、耕太は鼻で笑うと、顔を上げた。
「だな。何事にも前向きで取り組んでいかないと。それで、武器は冒険者になったときに使うと分かった。金目のものもここでもしものことがあったら、それを売って食い繋げってことだな」
「その通り。流石は耕太だ。でも、俺はさっきもっとすごいことを見つけてしまった」
「な、なに・・・?」
 凜花が不気味な笑い声を発していたので、耕太が控えめで訊いてきた。そう。ギルドへ向かう途中に考えていて、ふと気付いてそれを見てみると、まあえげつないことで。
「なんと、ケータイが使えます」
 凜花が美興先生に負けないくらいのどや顔で耕太に言うと、耕太は急いでポケットに入っているケータイを取り出した。
「嘘だろ!?・・・ほんとだ!使える。ってなんでこのケータイ充電百パーセントなの!?」
 耕太も自分のケータイを見て気付いたのか、アンタシュツはケータイが自動で充電されるのか、充電が減る気配がない。しかも、画面を開けると、あるサイトに自動で行きつき、そのサイトには自分の名前が登録された、チャットルームになっている。他には誰もいないが、画面右上に、<登録>という場所があり、そこを押すと水色の画面に<相手も登録を押し、携帯を近付けてください>という文字が出てくる。しばらく時間が経つと<近くにオンラインの人はいません>という赤い文字が浮かび、元のチャットルームに戻る。
 この謎すぎるサイトしか開くことはできず、後は明かりと、日の出沈みが同じようなので、ホーム画面に表示されている時計で時刻確認程度にしか、ケータイは使えないだろう。
 でも、このバグダルの技術がどこまで発展しているかにもよって、ケータイの価値は変わってきそうだ。
「チャット登録しましょうか」
 凜花は自分のケータイのチャットの画面を、後ろで歩いている人たちに笑って見せた。


 美興先生と別れて、十七人が一塊になってギルドに入ってきた時は、少し騒がしくなったが、今はだいぶ落ち着いている。
 ダイアモンドのような、無色透明の宝石で作られた発光物体が、だだっ広いギルドのエントランスを照らしている。テーブルの上に座り、食事をしたり、お酒のようなものを飲んだり、武器の手入れをしたり、雑談したりと、冒険者には自由が多く、その自由を捨てずに使っているのが冒険者なのだろう。
 中にはまじめに作戦会議をしているグループもいるが、稀だ。
 床は木製なのだが、赤色のじゅうたんが敷かれていて、バグダル一の建造物、ということが中を見て確信した。
 そのどこでもレッドカーペットを歩き、別室で冒険者の登録をして、凜花たちは冒険者となった。
 こんなに簡単でいいの・・・?ちょっと簡単すぎて引いてしまったが、これも自由の一つだ。逃がしはしない。
 冒険者の証である、剣が二つ交差したエンブレムの付いた、緻密な作業で作られたと一目で分かるバッチを、首から下げた。安全ピンはないそうで、鎖で繋いであった。
 町でもこのバッチを下げた人はちらほらいたが、みんなブラッドホールにはいかないのだろうか?
 武器は肌身離さず持っているっぽいが、その割にモンスターと戦っていない。気ままな人たちだ。
「それじゃあ一時解散する?俺はブラッドホールに行ってくるけど・・・」
 いつも間にか凜花がリーダーになっていて、凜花が話さなければ、誰もここのことについて話さず、無駄話をしている。
「俺も行くよ。稼がないとダメっぽいしね。他の人は?」
 耕太はブラッドホールに入るらしいが、他は誰一人として入らないらしい。まあ、武器はないし、危険だから仕方ないのだが、二人で倒せるのか、という不安はある。でも行かないのなら、強制はさせない方が良いだろう。
「じゃあ後の時間は他の生徒を探すなりして、適当に過ごしといて」
「うん。じゃあ、気を付けてね」
 涼葉にまんざら笑っていない顔で言われたので、手を振って気合を入れなおす。こんな早くに死ぬわけにはいかない。ちゃんと稼いで、食っていけるほどのお金と、おっさんに返すため、おばちゃんにお礼をするためのお金もしっかり稼ぐ!
「お、おい・・・・!?お前ら二人で行くのか・・・?」
 耕太と並んで、ブラッドホールに行くための通路に行こうとしたのだが、後ろから誰かに声をかけられた。
 後ろを向くと、軽装で、背中に大きな剣を指している男性に声を掛けられたようだ。
 その男性はオレンジ色の髪に、黄色の瞳で、なんというか出来るやつみたいだった。
 問題の、なぜその男性が凜花たちを止めたのかというと、
「初心者で二人は危ないから、こっちの初心者育成クランと一緒に行かない?」
 こういうことだからだった。
 ブラッドホールは本当に危険で、一人で行くものはよほどの手練れか、モンスターの区域に入らないところで、消耗品などを売る商売人だけだとか。
 そんなブラッドホールについさっきギルドに入ったばかりの冒険者で、なおかつ二人で行こうとしていると、これは止めるしかない、と判断して止めに来たそうだ。
 大人数で指導をしてくれる人たちがいたのなら、みんなも連れて来るべきだったかな、と凜花は後悔をした。ケータイで呼び戻そうかとも考えたが、やっぱり止めておいた。


 この初心者育成クランは、ギルドに入ったばかりの冒険者が早くにして命を落とさないように、しっかり戦闘だけでなく、生活で必要なことなどを教えるクランだと、さっきのオレンジ色の髪の人、ジェイルさんは言った。
 まず<クラン>だが、ギルドの中のグループという扱いで、冒険者同士で協力している、協力できるグループで、大人数なだけ色んな人と関わらないといけないけど、その分だけ、得意な分野の動き方、他の分野の特徴などを知ることができ、大人数だからこそできる、強化合宿のような遠征に参加しやすい、という利点がある。
 初心者はかなり危なっかしいので、このクランが使命感を背負って教えているのだ。やっぱりこの世界にはいい人がたくさんいる。
 ジェイルさんにエントランスに連れ戻され、初心者と初心者育成クランに入っている、先輩冒険者たちの元に入れられた。
「それじゃあ、このクランの育成方法は六人一パーティーに、一人のクランの冒険者が顧問として就く形だから、もう四人連れてくるね」
 どうやら、凜花たちは迷惑を掛けてしまったようだ。あと四人連れてくるということは、もう他のパーティーは揃っていたのだ。
 二人とも他の冒険者の方に頭を下げていると、「問題ないよ~」とか、「気にすんなよ~」とか誰も不満を言わなかった。クランの人でさえ、凜花たちの行動に笑ってるし、ていうか大笑いしてる。そんなに面白かったんですかね?
 けど、嫌がられるよりは何百倍もましだ。
「お~い!みんな行くぞ~!」
 ブラッドホールに行くための、薄暗い通路からジェイルさんの声が聞こえて、待機していた冒険者たちが何かに引き寄せられるように、金属で出来たトンネルのような通路を歩き、十分ほど歩くと、先に明かりが見え始めた。
 そして、ついに通路を抜けると、そこは冒険者のたまり場だった。
 モンスターと戦って疲れて休憩している人、他の冒険者と笑い合っている人、露店に寄って、冒険に必要なものを買っている人、武器の手入れをしてもらっている人などが、ここは平和極まりなかった。
「あの~・・・よろしくお願いします・・・」
 いきなり近くでか弱い女の子が聞こえ、そちらに視線を向けると、女の人たち四人組がこちらを見ていた。その人たちは、凜花たちと一時的にパーティーを組み人たちだ、と予想できたがこれは少し酷いんじゃないか、と凜花は思った。
 これはパーティーが二分割してしまい、連携のれの文字もない感じになりそうな予感がする。そう思ったのだが、挨拶をされたら返すのが基本!
 凜花は自分の中にある勇気を全部出して、口を開いた。
「こちらこそよろしくお願いします」
 業務連絡か、と思うくらい堅苦しい挨拶になってしまったが、他の人たちは凜花のこの態度で緊張が解けたのか、笑って「よろしく~」と言ってきた。
「よしよし。パーティーの基本、仲間同士の絆は何があっても大切にするべし!」
 この六人(耕太を除く)のやり取りを見ていた先輩の人が、深く二回頷きながらそう語りかけてきた。みんなこの人誰?みたいな顔をしていたので、先輩はその顔を見て盛大に笑うと、自己紹介をしてきた。
「俺はこのパーティーの面倒を見ることになっているユッカだ。パーティーの基本、仲間の名前と顔は覚えておくべし!」
 ユッカ先輩は、銀色の鎧を着ており、髪も黒髪で丸いから情熱的かな?って思ったのだが、実際は少し違うようだ。
「このパーティーの冒険者は全員ここに来るのは初めてだから紹介するけど、<パーク>というこの工場みたいなホールは、冒険者が休憩したり、これからブラッドホールに行くための準備をしたり、武器やポーション、いわゆる回復品などを購入したり、武器の手入れをしたりと、冒険に行く前の準備場所だ。ここは外と違って物々交換も可能だ」
 ユッカ先輩が説明してくれたパークは、天井が分厚そうな金属で覆われており、光る玉断じてやましいものではないを中心に置くだけで、照明はほとんどないため、雰囲気が冒険、という変な感覚を凜花は覚えた。
 でも、今回は育成してくれるので、ポーションもクランが負担してくれるらしいので、初心者一行はパークをほぼガン無視で、直線に柵の中へと入っていった。パークはブラッドホールを囲むように円形で作られていて、間違って落ちないように、頑丈な鉄の柵が天井にまで伸びていた。
「それじゃあ、このゴンドラで移動するからパーティーで一つのゴンドラに乗って」
 柵を越えると、ガタガタと鉄製のゴンドラが一定のスピードで左から右に回っていた。動力源は謎だが、ゴンドラを吊るしている線が、異常なほどに太かった。密度も高そうで、かなり高級な鉱石が使用されていることが分かった。
 この薄暗い場所といい、音を立てるゴンドラといい、遊園地のジェットコースターに乗る気分だ。
 地面はゴンドラがUターンする弧の部分しかなく、その部分だけでゴンドラに乗りこむのだ。扉も手動で、全員乗れたら、最後に乗った人が重そうな扉を閉め、鍵を掛けるという、新幹線、電車を乗ったことのある凜花たちからすれば、何と面倒な、と思ってしまうのだった。
 慣れている人はひょいっと乗るが、まだ数日しか来てなさそうな人は若干時間を食っている。
 というかこの女子四人組大丈夫かな?
 凜花が心配していると、ついに凜花たちのパーティーが乗り込む番が来た。最後尾だったけど。
 ユッケ先輩が一番先に乗り込み、他の人の乗り込みを補助してくれるらしい。だがしかし、女性陣はなかなか乗り込めない。運動神経が良さそうな子が一人、ユッケ先輩と同じくらいのスピードで乗り、弓を持った女の子が手を扉の接続部分に置いて、少し間をあけてから乗っただけで、後二人の女の子が震えていた。
 レディーファーストを重んじた凜花と耕太は不安に駆られていた。
 このままだと俺ら乗れないんじゃね!?
 先に乗った二人が手を差し伸べているが、怖いそうだ。なんとか一人が引っ張られる形で乗ったが、杖を持った魔法使いのような女の子はいつまで経っても乗り込もうとする気配がない。
「押してあげようか?」
 あまりにも足が震えていたので、後ろから凜花が声を掛けた。すると、その女の子は杖をぎゅっと握り、顔を赤らめて小さく「うん・・・お願い・・・」と言った。
 素直な子が言うのであれば~やらなければならぬ。と女性へのスキンシップの誤魔化しに、侍のような言葉を頭の中で唱えた。
 慎重な足取りで、ゴンドラに近付き、手を置いて、運動神経が良さそうな女の子がもう一方の手を掴み、杖を持った女の子が跳んだ瞬間、凜花が上へ背中を押して、持ち上げる。
 そして、また引っ張られ、やっと女性陣が乗ることができた。
 もうそのころには出発寸前。
「凜花どいて!」
 後ろから耕太の声が聞こえ、ここにいてはまずいと直感で悟った凜花は、足音の速さに驚いて、左に転がった。
 そのすぐ後に、耕太がゴンドラへ跳び込み、足を引っかけて転んだ。体の前を打ち付けて、女性の前でとても残念で痛そうな耕太くんでした。
 ってそんなこと言ってる場合じゃない。
 気付けばゴンドラは地面がないところまで進み、降下し始めている。もうこうなれば・・・
「みんな扉から離れて!」
 そう言い放ち、助走を開始する。
「お前!?」
「まさか!?」
 耕太とユッケ先輩が見事なリアクションを取り、急いで扉付近から全員距離を取る。
 そう。そのまさかだ。
 しっかり勢いをつけて、跳躍。
 結果、案外あっさりと乗れた。余裕があったので、着地の衝撃をできるだけ和らげて、揺れを軽減させた。
 その後、忘れずに扉を閉め、木の板を扉の出っ張っている部分にかけて、ロック完了。
 鍵を掛けた後、正面へ向き直ると、パーティーメンバー全員驚いていた。
「すご・・・」
「かっこいい・・・」
「わぁ・・・」
「え・・・」
 女性陣から目を真ん丸にして、お褒めの言葉をいただき、凜花は大層ご機嫌になった。この世界はやはりいい人が多い。
 そんな女性とは違い、耕太は凜花に、鼻を赤くして叫んできた。
「凜花お前危ないだろ!?」
「鼻赤くしてるお前に言われたくないよ」
 何気なくそう言ったつもりなのだが、耕太は悔しさのあまり頭を抱えて呻き声を漏らし、さっきのを思い出したのか、女性陣はけっこう笑ってる。
「君!すごいな!」
 ユッケ先輩は褒めてくれた。凄い子が来たものだ、と言って腰を後ろに曲げて高笑いをしていた。
 その後は自己紹介をして、ブラッドホールにつくまでの時間を潰した。


 運動神経が良さそうな、青い瞳と髪を持った女の子は<キキ>。武器はナイフで、めっちゃ短いショートパンツを着ていて、上着も露出が多い。性格も明るく、怖いもの知らず、といった印象だ。
 弓を持った赤髪の長い小さい子は<カナミ>という名前で、<カナ>と呼ばれていた。天然っぽい子供のような顔をしてるが、笑顔を良く見せる女の子だ。
 三番目に乗った、長剣を持つ女の子は<シャージュ>。背が高いわりに臆病で、頼りない感じだった。口数も少なく、大人しい性格の持ち主だった。
 杖を持った魔法使いの女の子が<フィーナ>。黒いローブを羽織っていて、この中で一番美人だ。容姿端麗といった言葉が良くあてはまる。
 この四人はバグタルにある、<バグタル学戦施設>に入っているらしく、とても仲が良い。今日は冒険者になったばかりで、凜花たちと同じ新米冒険者だ。
 バグダル学戦施設は、この都市にある冒険者になる前の子供を育てる施設で、入学はいつでもOKで、無料。宿も学食といった食事もできるが、その分だけ、冒険者となってお金を稼ぎ、目標金額を収めると卒業といったルールらしい。
 そこで学べるのは戦闘技術や護身術の他に、魔法というものがあった。
 フィーナは魔法が得意らしく、どうやってるのか訊いてみると、「体の中にあるパワーをドカーンってする感じ」という擬音語交じりの説明を輝かしい笑顔で答えてくれた。
 そして、このバグタルは貧富の差が激しいため、子供も冒険者となって稼ぐのが基本だそうだ。だから、レンガで出来た簡易的な家と、ギルド周辺の円形地帯にある、木造の二階建ての住宅の二種類あるわけだ。
 この雑談で得られた情報は大きい。美興先生にも伝えておかなければ、と肝に銘じて、ブラッドホールに着いた。
 案外、楽しいなと思い、フィーナが下りるのをまたもや手伝った凜花だった。





コメント

  • 有林 透

    とても面白いです!頑張ってください!

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