チャイムは異世界転移の合図でした

ノベルバユーザー46822

チャイムって異世界転移の合図でしたっけ?

「え~なにこれ?」
 とある一軒家に住む、木実凜花(このみりんか)中学三年生は、学校から送られてきた、それはそれは綺麗なお手紙を見て、不満の声を漏らした。
 その手紙の内容は、


 ~明日、緊急訓練をするため、朝の六時に学校に集合するべし!~
 今、この世の中、いつ何時何が起こるかわからないので、その日に限っては携帯の持参を許可、および所持している生徒は強制します。
 そして、犯罪者撃退訓練もするため、武器になりそうなものはできる限り持ってきてください。持ち物は携帯、武器になりそうな物、そして金目の物硬貨、紙幣を除くを持ってくること。
 かばんは何でも構いませんが、服装は必ず!必ず制服以外の服で。それでは時間厳守で登校するように。


 あの~ふざけてるんですかね?明日休みですよ?武器?金目になるもの?制服はダメ?意味が分かりません!
 その手紙を見たときは、「なんかめんどくさそうなの来たな~」なんて呑気なことを言っていたが、内容を見たら言葉すら出てこなかった。
 ただただ呆れるばかり。書いてることも訳が分からないし、まず明日土曜日だし!朝六時とか早すぎだし!文句しか出てこなかった。
 学校の三の一のグループチャットでも、「なにこれ?ふざけてんの?」とか、「武器とか軍隊かよ!」とか、「金目の物ってパクられないかな?」とかカオス状態です。
 凜花は面倒なので無視をしているが、明日どうしよう、と頭を悩ませていた。






 まあ、学校の命令なので行きますけどね?武器になりそうなものと金目のものも持っていきますけどね?
 朝早くに起きて、紫色のバッグに持ち物を入れて、家族にばれないようにこそこそと家を出発した。
 こんな早くに学校へ行くなんて修学旅行みたいで少しワクワクしているが、眠気でほとんど消失している。口に手を当て、道路で盛大なあくびをしていると、後ろから誰かに頭を叩かれた。
「おはよ~」
「おはよ、挨拶はもっと丁寧にしようか」
「あっはは、ごめんごめん」
 今、隣で左手を縦にして、ふざけた様子で謝っている金髪の優しそうなイケメンは黄金耕太(こがねこうた)。
 凜花の親友だったりする人だ。
「いやさ~ほんとにこれなんだと思う?」
 さっきの無礼を全く気にしていない口調で喋ってきた耕太の言葉に、思考が半分止まっている凜花は、
「訓練じゃないの?」
 と返したが、耕太は難しい顔をして凜花に言ってきた。
「訓練にしては異常だから訊いたんだよ!武器を持参なのおかしくない!?」
 大げさに手をぶんぶん振り回し、凜花に訊いてくるまで気付かなかったが、確かにそうだ。
 別に生徒たちが武器は持ってくる必要はない。学校が用意すればいいだけの話なのだ。それなのにあえて生徒に持ってこさせるということは何らかの意図があってのものだ。
「くそ・・・!眠かったから気付かなかった・・・!もしかして耕太は武器とか持ってこなかったのか!?」
 頭を両手で抑え、はっとして耕太に訊いたが、返ってきた答えは、
「え?できる限り持って来いって書いてあったから持ってきたよ」
「そんなことも書いてあったのか・・・やべ・・・全然見てなかった・・・」
 凜花が露骨に落ち込んでいると、耕太が肩をバシバシ叩いてきた。
「別に気にしなくていいじゃん!持ってきたんだから!」
「分かったから叩くの止めて!?結構痛いから!」
 さっきまでの眠気がどこかへ吹き飛び、思考が覚醒してきた。
「何事もなく終わればそれでいいよな」
「終わればね」
 なぜかシリアスな感じになり、変なフラグを立ててしまいそうだったので、慌てて話を変えて、そこからは無益な話をして学校まで歩を進めた。


 やがて学校につき、学校のシンボルである桜の花が入った、鉄製の校門をくぐり、杉並木が生えたグラウンドを通り、靴をスリッパに履き替え、一階のクラスに入って、自分の席に着く。
 クラスのみんなも私服で、いつもとは違う雰囲気でなんか新鮮でいい。特に女子の私服がかわいい。
 いやいや、自分は何を思っているのだ。しかも六時だし。
「は~い登校お疲れさま~」
 クラス担任の美興みおき先生(女性)がクラスに入ってきた。それも私服で。どうやら教師も制服禁止なのだろう。それからはいつも通り出席確認をしたのち、グラウンドへ出て訓練だそう。
 意味が分からない訓練とやらに付き合わされて、生徒たちはとても不機嫌だ。
「それじゃあ荷物を持って外に出て!」
 先生の令で、生徒たちがやる気のない、ゾンビのような重たい足取りで外に向かった。横を見ると、他のクラスも出てきたようだ。
 この学校の三年は、一クラス三十人の四組の構成になっているので、百二十人の生徒が生徒用玄関に密集するのはなかなか気分的に萎えるので、凜花は耕太と雑談でもしながら、玄関が空くのをのんびり待った。
「何もないな」
「そうだね。普通すぎて逆につまんないかも・・・」
「耕太~なんだよそれ?非日常に憧れる系男子?」
「そ、そんなこと思ってないよ!」
「何話してるの?」
「やっぱ仲いい」
 二人があまりにも楽しそうに話をしていたので、クラスの女子二人が話しかけてきた。
 先に話してきた女の子は、桐本涼葉きりもとすずはという名前で、ショートの若干赤みがかった黒い髪の毛をしていて、かなり長いシャツに、膝くらいのズボンを着ていてかなりかわいい。涼葉は少し活発な子で、隣で涼葉の肩に掴んでいる、肩下まである水色の髪の毛の女の子、青山静奈あおやませいなといつも一緒にいる。
 静奈は涼葉とは対照的な消極的な性格で、涼葉とはとても仲良しコンビ、別名<百合コンビ>とも言われており、小さいころからずっと姉妹みたいだな、と凜花は思っていた。
 まあ、二人ともナイスでふくよかな女性の象徴の持ち主で、私服のせいか、いやおかげでとても目立ってしまっているので、目のやり場に困っている。
「そっちこそ仲いいじゃん~」
 耕太がめっちゃ普通の調子で二人と話してくれたおかげで、凜花もいつもの調子を取り戻すことができた。
「そうだよ。そっちの方がよっぽど仲いいよ」
「へへっ、凜花ありがと」
 静奈が純粋な笑顔で感謝してきたので、こちらも必死で純粋な笑顔を作って「どういたしまして」と返事をした。凜花は平然を装ったのだが、正直ドキドキした。そんな気軽に眩しい笑顔を見せてはいかんぞ、静奈。
 気付けば玄関が空いてきたので、靴に履き替え、外へ出た。
 そして、グラウンドにクラスごとで集まり、説明を待っていた時に、ふと視線を感じた。
 そちらを向くと、小学生くらいの小さい女の子が杉並木の陰に隠れて、顔だけ出してこちらを見ていた。
 しかし、凜花と目を合わせた瞬間、恥ずかしそうにして、ゆっくり木の陰に顔を隠した。


「あれ?今日登校するのって三年だけなのに・・・」
 凜花はそう呟いて、声を掛けるか一瞬迷ったが、答えが出る前にメガホンで拡大された声が響いた。
「えぇ~今日は集まっていただき、ありがとうございます。それでは早速訓練を始めたいと思います」
 頭が寂しい校長先生が、お立ち台に立って話していたが、みんな近くの人と話しているし、体すらそちらに向けていない人もいた。
「うわぁ~・・・ひでぇなこれ・・・」
 耕太がかわいそうな目で校長先生を見ており、やる気のやさからか、肩の位置が下がっていた。
 そんなこんなで担任の先生がクラスの場所に来て、訓練を始めようとしていたところに、


 キーンコーンカーンコーン!


「え?チャイム?」


 そう口にしていた時には、凜花の視界に学校はなかった。
 映像でしか見たことのない巨大な宮殿に、石レンガで作られたヨーロッパにありそうな住居が立ち並ぶところに凜花は立っており、少し古い服を着た人が話したり、歩いてたりしている、全く別の世界を映し出す自分の目を疑った。
 何度眼をこすっても見えるものは変わらず、自分が異世界に来たことを嫌でも実感せざるを得なかった。
 そして、この瞬間凜花は悟った。
 今日何のために学校へ登校させられたのか、なんで武器になりそうなものや金目の物を持ってこさせられたのか。自分たちの日常はどこかに消えてしまったことを。


 キーンコーンカーンコーン!


 もう一度凜花の胸に刻みつけるように、学校のチャイムがこの世界に鳴り響いた。



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