学生 トヨシマ・アザミの日常
3-4
―― ゴールデンウィーク ――
溜まっていた全ての課題を終わらせ、総復習を兼ねた演習を無事にクリアし、無事に実機訓練に移れることになった。
そしてGWが来た。 そう、大型連休。 待ちに待ったゴールデンウィーク。
でもボクは、寮のラウンジで1人テレビを見ていた。
だって、課題を終わらせる事に集中し過ぎていたから、GWに何をするかなんて決めてなかったんだもん。
エリサさんは同人誌即売会。 トウマは友達と遊びに。
めったに話さない同じ班の男子【ホンダ・ユウゴ】は、買い物......としっかりと予定を組んでいた。
良いですよ。 ボクは1人で映画でも見てますから。
こういう時はラウンジのテレビを独り占めできるし。
「アザミ......居たのか」
聞き慣れた声がして振り向くと、ハルザが私服姿で居た。
「なんでここにハルザが居るの?」
「いや、エリサからアザミが暇してると聞いてな。 オレと一緒に出掛けないかと思って」
「だってハルザは?」
「オレに親しい友人は居ないぞ。 アザミ以外」
エリサさんは、何も予定を入れてなくて落ち込んでいたボクを気遣って、ハルザに連絡をしてくれたんだろう。
「どうせなら、GW前に聞いてくれればよかったのに」
「アザミはエリサ達と仲がいいだろ? 一緒に遊んだりするもんかと思ってたんだ」
「まあ、ボクも似たような考えをしたから、ハルザに連絡はしなかったけど」
ハルザはスマートフォンの画面をボクに見せ、一枚の画像を指差す。
そこは、士官学校の近くにあるショッピングモールに併設された遊園地のはずだ。
「ここに行ってみたい。 オレ、こういう所には行ったことがないんだ」
ボクも遊園地で遊んだりしたことはなかったな。
「この遊園地、結構混雑していると思うから、メジャーなアトラクションじゃ遊べないかもしれないよ?」
「園内を歩き回りながら食い物喰ってたって良いだろ?」
ハルザは子供のように笑いながら放していた。
「ああ......まぁ、いいけど。 とりあえず、着替えてくるよ」
「わかった」
――
―― 遊園地 ――
やはり遊園地は沢山の人で混雑していた。
家族連れやカップル、仲の良さそうなグループがボク達の周囲を歩いていて、男のエクサと男子学生の二人組でこんなところに来ているのは居ない。
並んで歩くボクとハルザが、周りから浮いている気がした。
「誰もオレたちのことなんか見てないさ」
ボクを気遣ってか、ハルザがボクの肩をトントンと叩いた。
「そう、だよね」
ハルザに気を遣わせないようにしないと。
ハルザは楽しんでいるんだから。
「アザミ。 たい焼き屋があるぞ」
ハルザが指差した方向を見ると、確かにたい焼き屋さんがあった。
ちょうど新しくたい焼きを焼き上げた所だったらしく、人は並んで居ない。
「食べる?」
「ああ、食べたことがないから楽しみだ」
「待ってて」
ボクはすぐにたい焼き屋さんに駆け寄り、こしあん味のたい焼きを二つ買った。
「お金くらい出したのに」
「いいんだよこのくらい」
ボクはハルザにたい焼きを手渡し、ハルザは一口だけたい焼きをかじった。
なるほど、ハルザは頭から食べるのか。
「うまいな。 ゼリーやスイーツとは違って、シンプルでさっぱりとした甘さだ」
「あんこはそういう甘さだからね。 ハルザの口に合ってよかった」
ボクは嬉しそうな表情でたい焼きを食べるハルザを見て、くすりと笑った。
ハルザは、強面な外見と違って、純粋な心の持ち主なんだ。
「なあ、アザミ」
ハルザは足を止め、何かを見ていた。
それは、遊園地の中心にある大きな観覧車だった。
「観覧車?」
「乗ってみたい。 オレ、乗ったことがないんだ」
「え......混んでるよ?」
「他も似たようなもんだろ」
ハルザはボクの手を引いて走り、観覧車の待機列に並ぶ。
観覧車を待っていた人は少なくて、2〜3分ほど待てば乗れそうだ。
でも、観覧車みたいな場所で2人きりになるのはなんというか......どきどきする。
「今日は快晴だし、いい景色が見られるかもね」
「そうかもな」
ハルザはじっと観覧車を見たまま呟く。
やがてハルザとボクが乗るゴンドラがやって来て、係員型ロボットの案内に従い、ゴンドラに乗り込んだ。
ボクたちが最後尾だったため、人の目を気にする必要はなかった。
同時に、ボクのスマートフォンがメッセージを受信する。
『例の話。 OKが出たわ』
それはミカミさんからのメッセージ。
先週、ボクが頼んだことについてだった。
『ありがとうございます。 ハルザに言っておきます』
ゴンドラの中、ボクはハルザの向かいに座った。
「誰からだ?」
「いや、ミカミさんから実機訓練のことで」
もうちょっと......ゴンドラが頂点に達するまでこのことは黙っておこう。
「なんか、静かな場所で二人きりになるのは......不思議な感じだな」
「そうだね。 この中が静かだからかな? 寮だって、就寝時間を過ぎても完全に静かになるわけじゃないし」
この中に流れる空気が、どろりと濃密なものに変わった気がした。
ああ、そうか......この観覧車は、ゴンドラが頂点に来てから一旦停止するんだっけ? 写真撮影とかができるように、きっかり3分間。
溜まっていた全ての課題を終わらせ、総復習を兼ねた演習を無事にクリアし、無事に実機訓練に移れることになった。
そしてGWが来た。 そう、大型連休。 待ちに待ったゴールデンウィーク。
でもボクは、寮のラウンジで1人テレビを見ていた。
だって、課題を終わらせる事に集中し過ぎていたから、GWに何をするかなんて決めてなかったんだもん。
エリサさんは同人誌即売会。 トウマは友達と遊びに。
めったに話さない同じ班の男子【ホンダ・ユウゴ】は、買い物......としっかりと予定を組んでいた。
良いですよ。 ボクは1人で映画でも見てますから。
こういう時はラウンジのテレビを独り占めできるし。
「アザミ......居たのか」
聞き慣れた声がして振り向くと、ハルザが私服姿で居た。
「なんでここにハルザが居るの?」
「いや、エリサからアザミが暇してると聞いてな。 オレと一緒に出掛けないかと思って」
「だってハルザは?」
「オレに親しい友人は居ないぞ。 アザミ以外」
エリサさんは、何も予定を入れてなくて落ち込んでいたボクを気遣って、ハルザに連絡をしてくれたんだろう。
「どうせなら、GW前に聞いてくれればよかったのに」
「アザミはエリサ達と仲がいいだろ? 一緒に遊んだりするもんかと思ってたんだ」
「まあ、ボクも似たような考えをしたから、ハルザに連絡はしなかったけど」
ハルザはスマートフォンの画面をボクに見せ、一枚の画像を指差す。
そこは、士官学校の近くにあるショッピングモールに併設された遊園地のはずだ。
「ここに行ってみたい。 オレ、こういう所には行ったことがないんだ」
ボクも遊園地で遊んだりしたことはなかったな。
「この遊園地、結構混雑していると思うから、メジャーなアトラクションじゃ遊べないかもしれないよ?」
「園内を歩き回りながら食い物喰ってたって良いだろ?」
ハルザは子供のように笑いながら放していた。
「ああ......まぁ、いいけど。 とりあえず、着替えてくるよ」
「わかった」
――
―― 遊園地 ――
やはり遊園地は沢山の人で混雑していた。
家族連れやカップル、仲の良さそうなグループがボク達の周囲を歩いていて、男のエクサと男子学生の二人組でこんなところに来ているのは居ない。
並んで歩くボクとハルザが、周りから浮いている気がした。
「誰もオレたちのことなんか見てないさ」
ボクを気遣ってか、ハルザがボクの肩をトントンと叩いた。
「そう、だよね」
ハルザに気を遣わせないようにしないと。
ハルザは楽しんでいるんだから。
「アザミ。 たい焼き屋があるぞ」
ハルザが指差した方向を見ると、確かにたい焼き屋さんがあった。
ちょうど新しくたい焼きを焼き上げた所だったらしく、人は並んで居ない。
「食べる?」
「ああ、食べたことがないから楽しみだ」
「待ってて」
ボクはすぐにたい焼き屋さんに駆け寄り、こしあん味のたい焼きを二つ買った。
「お金くらい出したのに」
「いいんだよこのくらい」
ボクはハルザにたい焼きを手渡し、ハルザは一口だけたい焼きをかじった。
なるほど、ハルザは頭から食べるのか。
「うまいな。 ゼリーやスイーツとは違って、シンプルでさっぱりとした甘さだ」
「あんこはそういう甘さだからね。 ハルザの口に合ってよかった」
ボクは嬉しそうな表情でたい焼きを食べるハルザを見て、くすりと笑った。
ハルザは、強面な外見と違って、純粋な心の持ち主なんだ。
「なあ、アザミ」
ハルザは足を止め、何かを見ていた。
それは、遊園地の中心にある大きな観覧車だった。
「観覧車?」
「乗ってみたい。 オレ、乗ったことがないんだ」
「え......混んでるよ?」
「他も似たようなもんだろ」
ハルザはボクの手を引いて走り、観覧車の待機列に並ぶ。
観覧車を待っていた人は少なくて、2〜3分ほど待てば乗れそうだ。
でも、観覧車みたいな場所で2人きりになるのはなんというか......どきどきする。
「今日は快晴だし、いい景色が見られるかもね」
「そうかもな」
ハルザはじっと観覧車を見たまま呟く。
やがてハルザとボクが乗るゴンドラがやって来て、係員型ロボットの案内に従い、ゴンドラに乗り込んだ。
ボクたちが最後尾だったため、人の目を気にする必要はなかった。
同時に、ボクのスマートフォンがメッセージを受信する。
『例の話。 OKが出たわ』
それはミカミさんからのメッセージ。
先週、ボクが頼んだことについてだった。
『ありがとうございます。 ハルザに言っておきます』
ゴンドラの中、ボクはハルザの向かいに座った。
「誰からだ?」
「いや、ミカミさんから実機訓練のことで」
もうちょっと......ゴンドラが頂点に達するまでこのことは黙っておこう。
「なんか、静かな場所で二人きりになるのは......不思議な感じだな」
「そうだね。 この中が静かだからかな? 寮だって、就寝時間を過ぎても完全に静かになるわけじゃないし」
この中に流れる空気が、どろりと濃密なものに変わった気がした。
ああ、そうか......この観覧車は、ゴンドラが頂点に来てから一旦停止するんだっけ? 写真撮影とかができるように、きっかり3分間。
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