学生 トヨシマ・アザミの日常
3-3
―― 3日後 ――
ハルザの体調はすっかり良くなり、ハルザの回復を待っていたボクは、その間に課題のほとんどを終わらせた。
そして今は、課題が残っているエリサさんの演習に付き合っている。
「エリサさん、格納庫方面から来てるよ」
国連宇宙軍の基地がズーシャルに襲撃されたという設定で、シミュレーションは進行していた。
「うそっ!? 速すぎじゃない!?」
「そりゃあ、クモは脚が速いのが自慢ですから」
エリサさんはアサルトライフルを改修した専用のスナイパーライフルで前衛を援護する選抜狙撃手(マークスマン)。
このマークスマンは、長距離で1人ぼっちになって狙撃するスナイパーとは違い、ボク達のような遊撃部隊に混ざって活動するスナイパーだ。
「ていうか、ボクより先に気付きなさいよ」
「うるさいわね! あたし、索敵は苦手なのよ」
「なんでマークスマンになったし」
「仲のいい先輩がマークスマンだから!」
マークスマンは、前衛の味方を的確にサポートできないと務まらない。
切り込み役のボクの背中を、エリサさんに任せるのが普通なのに、立場は逆転していた。
「エネミーインサイト!」
エリサさんはライフルを構え、目の前に出て来たクモを狙った。
狙われたことに気付いたクモは、飛び退いて物陰に隠れてしまう。
「音速でアウトサイト」
「なんで避けるのよー!」
「ズーシャルにも最低限の知能はあるって、座学で習ったでしょうが」
ボクがまともに動けていなかったら、エリサさんはこの課題をクリアできなかっただろうな。
ボクは隠れたクモの後ろに回り込み、クモをアサルトライフルで破壊した。
「どう? あたしとアザミのこの連携! あたしが動きながらの射撃で追い詰め、アザミがトドメを刺す!」
「いや、動きながら狙撃銃撃つのは論外だから。 もっと基本から勉強し直してこい」
ボクの機体が、エリサさんの機体の頭を軽く叩く。
「いや〜、あたし合流したばっかだし」
「どっかから移動してきました風に言うな」
「VIPからキマスタ」
「やかましい」
エリサさん、よくそんな古いネットスラングを使えるな。
年を間違われるぞ。
「あっ」
その直後、もう1匹のクモにエリサさんの機体が取り付かれた。
ボクは周りを警戒していたのに、エリサさんは慢心してたなこりゃ。
「ぎゃー! き、機体が......機体が壊されちゃう! 鎌が、クモの鎌が鋭いのー! 機体が、壊れるわ......機体が壊れるわー!」
妙なテンションでエリサさんは叫び、じたばたと機体が暴れていた。
というかその台詞の元ネタはやばすぎるし、ボクの地雷なんだが。
「助けてアザミー!」
「地雷踏んでたしー、どうしようかなー」
敵に取り付かれたのはエリサさんの油断が原因だし、ボク的にはその辺の弱さを改善してほしいのよね。
ボクが迷っていると、エリサさんのズムウォルトがクモを引き剥がして蹴り飛ばした。
コックピットの装甲にはひどい傷があるが、エリサさんは生きているようだ。
「アザミが助けてくれないなら、あたしは1人で脱出するもん!」
「てめぇ、緊急脱出(ベイルアウト)して1人で離脱する気かよ」
「悪いわね。 あとは任せるわ」とエリサさんは言い、ズムウォルトのコックピットを覆う装甲が吹き飛ばされた。
そして、特殊な装甲に包まれたコックピットブロックが射出される。
だが、ズーシャルはそれを見逃さなかった。
ボクが足止めしていたサソリ型のズーシャルが突然上を向き、口からトゲを発射する。
サソリの狙いは極めて正確で、細く鋭いトゲは、空中に放り出されていたコックピットブロックを撃ち抜いていた。
「魂の脱出してんじゃん」
エリサさんの死亡と同時にシミュレーションは終了した。
課題の方は、死亡前になんとかクリアした判定になっていた。
脱出があと1秒遅れていたら、もう一度シミュレーションをやり直すはめになっていただろう。
「アザミ。 このあとあたしの友達とハルザを呼んで、人狼ゲームしない?」
ボクがシミュレーターから出ると、エリサさんがバイザーを外しながら聞いてきた。
「いいねー。 ルールは?」
「第一犠牲者配役なし、初日占い無し。 村人2、共有2、人狼3、狂人、占い、霊能、狩人だけど、追加役職に猫又、狐と恋人1組」
「うわ......13人でそれは荒れそう。 恋人いる猫又が人狼に噛まれたら、人狼は猫又の道連れで死亡して、恋人は後を追い、占いが狐踏んだら狐が死ぬから......最悪1人処刑後に4人も一気に死ぬパターンがあるかもね」
初日占い無しは、占われると死亡してしまう狐の事故死防止のためか。
恋人は、一方が死ぬと、残された方も後を追って自殺してしまうし、猫もかなり癖のある役職だな。
人狼ゲームのルールはかなり複雑なので、知らない人に教えるのには苦労する。
その点、エクサの人たちは自分でデータをインストールするから、説明の手間も省けて楽だ。
「あたしはどんな役職でも、みんなに媚び売って生き残るわ。 そう、さながら国民的アイドルみたいに」
ぐっと握り拳を作りながら、エリサさんは宣言した。
国民的って言うより、売れ残りアイドルの間違いじゃない?
「人気投票1位で霊界へのチケットゲットだね!」
ボクはサムズアップしながら、明るく言ってみる。
「吊られ、呪われ、噛まれてあたしは輝くお星様に......って、それじゃ死んでるじゃん!」
「どっちにしろ異常な自己アピールは即吊り安定でしょ。 狐ですって宣言しても、人外扱いか狐占い事故防止のために吊られるわ」
「ひど」
「それが人狼ゲームってもんですよ」
上手く嘘をついて人を騙すのが人狼ゲーム。
......ハルザに対して自分の本心を隠しているボクもまた、嘘つきなのかもね。
ハルザの体調はすっかり良くなり、ハルザの回復を待っていたボクは、その間に課題のほとんどを終わらせた。
そして今は、課題が残っているエリサさんの演習に付き合っている。
「エリサさん、格納庫方面から来てるよ」
国連宇宙軍の基地がズーシャルに襲撃されたという設定で、シミュレーションは進行していた。
「うそっ!? 速すぎじゃない!?」
「そりゃあ、クモは脚が速いのが自慢ですから」
エリサさんはアサルトライフルを改修した専用のスナイパーライフルで前衛を援護する選抜狙撃手(マークスマン)。
このマークスマンは、長距離で1人ぼっちになって狙撃するスナイパーとは違い、ボク達のような遊撃部隊に混ざって活動するスナイパーだ。
「ていうか、ボクより先に気付きなさいよ」
「うるさいわね! あたし、索敵は苦手なのよ」
「なんでマークスマンになったし」
「仲のいい先輩がマークスマンだから!」
マークスマンは、前衛の味方を的確にサポートできないと務まらない。
切り込み役のボクの背中を、エリサさんに任せるのが普通なのに、立場は逆転していた。
「エネミーインサイト!」
エリサさんはライフルを構え、目の前に出て来たクモを狙った。
狙われたことに気付いたクモは、飛び退いて物陰に隠れてしまう。
「音速でアウトサイト」
「なんで避けるのよー!」
「ズーシャルにも最低限の知能はあるって、座学で習ったでしょうが」
ボクがまともに動けていなかったら、エリサさんはこの課題をクリアできなかっただろうな。
ボクは隠れたクモの後ろに回り込み、クモをアサルトライフルで破壊した。
「どう? あたしとアザミのこの連携! あたしが動きながらの射撃で追い詰め、アザミがトドメを刺す!」
「いや、動きながら狙撃銃撃つのは論外だから。 もっと基本から勉強し直してこい」
ボクの機体が、エリサさんの機体の頭を軽く叩く。
「いや〜、あたし合流したばっかだし」
「どっかから移動してきました風に言うな」
「VIPからキマスタ」
「やかましい」
エリサさん、よくそんな古いネットスラングを使えるな。
年を間違われるぞ。
「あっ」
その直後、もう1匹のクモにエリサさんの機体が取り付かれた。
ボクは周りを警戒していたのに、エリサさんは慢心してたなこりゃ。
「ぎゃー! き、機体が......機体が壊されちゃう! 鎌が、クモの鎌が鋭いのー! 機体が、壊れるわ......機体が壊れるわー!」
妙なテンションでエリサさんは叫び、じたばたと機体が暴れていた。
というかその台詞の元ネタはやばすぎるし、ボクの地雷なんだが。
「助けてアザミー!」
「地雷踏んでたしー、どうしようかなー」
敵に取り付かれたのはエリサさんの油断が原因だし、ボク的にはその辺の弱さを改善してほしいのよね。
ボクが迷っていると、エリサさんのズムウォルトがクモを引き剥がして蹴り飛ばした。
コックピットの装甲にはひどい傷があるが、エリサさんは生きているようだ。
「アザミが助けてくれないなら、あたしは1人で脱出するもん!」
「てめぇ、緊急脱出(ベイルアウト)して1人で離脱する気かよ」
「悪いわね。 あとは任せるわ」とエリサさんは言い、ズムウォルトのコックピットを覆う装甲が吹き飛ばされた。
そして、特殊な装甲に包まれたコックピットブロックが射出される。
だが、ズーシャルはそれを見逃さなかった。
ボクが足止めしていたサソリ型のズーシャルが突然上を向き、口からトゲを発射する。
サソリの狙いは極めて正確で、細く鋭いトゲは、空中に放り出されていたコックピットブロックを撃ち抜いていた。
「魂の脱出してんじゃん」
エリサさんの死亡と同時にシミュレーションは終了した。
課題の方は、死亡前になんとかクリアした判定になっていた。
脱出があと1秒遅れていたら、もう一度シミュレーションをやり直すはめになっていただろう。
「アザミ。 このあとあたしの友達とハルザを呼んで、人狼ゲームしない?」
ボクがシミュレーターから出ると、エリサさんがバイザーを外しながら聞いてきた。
「いいねー。 ルールは?」
「第一犠牲者配役なし、初日占い無し。 村人2、共有2、人狼3、狂人、占い、霊能、狩人だけど、追加役職に猫又、狐と恋人1組」
「うわ......13人でそれは荒れそう。 恋人いる猫又が人狼に噛まれたら、人狼は猫又の道連れで死亡して、恋人は後を追い、占いが狐踏んだら狐が死ぬから......最悪1人処刑後に4人も一気に死ぬパターンがあるかもね」
初日占い無しは、占われると死亡してしまう狐の事故死防止のためか。
恋人は、一方が死ぬと、残された方も後を追って自殺してしまうし、猫もかなり癖のある役職だな。
人狼ゲームのルールはかなり複雑なので、知らない人に教えるのには苦労する。
その点、エクサの人たちは自分でデータをインストールするから、説明の手間も省けて楽だ。
「あたしはどんな役職でも、みんなに媚び売って生き残るわ。 そう、さながら国民的アイドルみたいに」
ぐっと握り拳を作りながら、エリサさんは宣言した。
国民的って言うより、売れ残りアイドルの間違いじゃない?
「人気投票1位で霊界へのチケットゲットだね!」
ボクはサムズアップしながら、明るく言ってみる。
「吊られ、呪われ、噛まれてあたしは輝くお星様に......って、それじゃ死んでるじゃん!」
「どっちにしろ異常な自己アピールは即吊り安定でしょ。 狐ですって宣言しても、人外扱いか狐占い事故防止のために吊られるわ」
「ひど」
「それが人狼ゲームってもんですよ」
上手く嘘をついて人を騙すのが人狼ゲーム。
......ハルザに対して自分の本心を隠しているボクもまた、嘘つきなのかもね。
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