学生 トヨシマ・アザミの日常
1-3
―― 放課後 ――
あれこれ考えながら過ごしている内に放課後になってしまった。
はっ、と気付いた時にはもうシミュレーションルームの前にボクは立っている。
「よう。 時間通りだな、アザミ」
声がしたので振り返ると、ハルザがスクールバッグを肩に担いだ姿で居た。
「ここ、ボク達の教室から近いですしね」
ボクが答えると、ハルザは何故かため息をつく。
「敬語はよしてくれ。 学年は違うが、お互い同い年だろうが」
「あ......すみません」
「敬語」
「ごめんごめん。 知らない人とか先輩相手だとさ、無意識に敬語で話しちゃうから、ボク」
ボクが恐る恐る素の態度で話してみると、ハルザはやれやれといったような表情になった。
「それでハルザさん。 これから何かするの?」
ボクが聞いた直後、ハルザはムッとした表情になってボクを睨む。
「呼び捨てでいい。 なんでお前はこう......他人に対して一歩引いた態度で接するんだよ。 オレが怖いのか? こんな見た目だから」
「違うよ。 いきなり初等部の3年に編入されて、クラスに馴染むのに時間がかかった時みたいになってるだけ。 先輩方とはほとんど顔を合わせてないし」
現在、中等部の生徒はみな茨城にある国連宇宙軍の基地に居る。
話によると、中等部は国連軍の部隊と合同で演習を行っている時期なのだそうだ。
一方、高等部の1年・2年は、国連軍の月面基地にて訓練をしているらしく、戻るのは10月頃になると聞いた。
「オレはまだ14なんだ。 他の奴と同じように接してくれ。 先輩って呼ばれるのは苦手なんだよ」
「そうなんだ」
特殊なコンピューターを持ち、生体組織で作られた肉体を持つアンドロイド、いやバイオロイド【エクサ】は、"最初から完成した姿"で誕生する。
だから、彼らの年齢は"製造されてからどのくらい経過しているか"を指していた。
でも、エクサ達はその"年数"を人間の"年齢"として扱ってほしいと、30年前のあの時に望んだらしい。
「精神年齢はどうなの? 外見とは少し差が出るって、昔聞いたけど」
「精神は18歳程度だ。 ボディの製造ラインがマシントラブルで止まった時に遅れたらしい」
「その時は順番待ちになってたってことね」
「そんなところだ」
シュミレーションルームに入り、ボクは自分が使っているシミュレーターとは違う所、校庭が良く見える位置にあるシミュレーターに来た。
「なんでここに?」
「いつもは入口すぐのシミュレーターだから、気分転換に」
シミュレーターにスマートフォンをかざし、ボクが乗っている機体のデータを呼び出した。
このスマートフォンは、士官学校に入学すると支給される機種で、軍用ラップトップ(ノートパソコン)と同等の耐衝撃性・防塵性・防水性を誇るものだ。
さらに専用の回線を使っているから、憎き通信制限に悩まされることもない。
そしてこのスマートフォンが、学生証や仮想通貨を使うための財布としての役割を果たしていた。
「じゃ、失礼」
「え」
シミュレーターのシートに座ろうとしたボクを押し退け、ハルザがシートに座ってしまった。
その後、ボクを見ながら自分の膝を叩く。
「座れ。 オレが後から直接指導してやる」
「えー......。 ハルザは男に座られて嫌じゃないの?」
「別に。 お前は美人だし、痩せてるから軽そうだしな」
「美人」と言われて少しドキっとした。
多分、ハルザは正直に思ったことを言っただけなのだろうけど。
「はいはい。 体重34kgしかありませんよーだ」
「怒るなよ」
「怒ってません」
ボクはムスッとした態度のまま、ハルザの膝の間に座る。
細いボクの体は、逞しいハルザの体にすっぽりと包み込まれてしまった。
「一応録画もしておくか。 というか、上着は脱がないのか?
シミュレーターの中だと暑いだろ?」
「別に平気だけど、熱中してたら汗かきそうだし、脱ぐよ」
ボクはジャケットを脱いで、シミュレーターの前方、サブモニターの上にかけた。
その時、ハルザが急に上体を起こしてくる。
突然、シミュレーターのコンソールとハルザの体に挟まれたボクは、気の抜けた声を出してしまった。
「悪ぃ。 予備のHUDを取りたかったんだ」
「だ、大丈夫だよ」
腰になにか柔らかいモノが当たった気がしたけど、気にしないでおく。
ボクもHUDを装着し、シミュレーター上でだが機体を起動させた。
まず、自動で操縦桿の位置とシートの位置、ペダルの位置が、事前に登録した最適なポジションに調整され、次にFCS(火器管制システム)やOSが起動し、機体のAIがそれのチェックを終わらせていく。
「オレ、このシートがスッと持ち上がる感触が好きなんだ」
「わかる。 ボクもこの全身が一瞬ふわっと浮く感じが好きなの」
シートの調整を行っているダンパーは、シトロエンと同じハイドラクティブIIIを使っていると本で読んだ。
最初、一瞬だけ意味も無くシートを浮き上がらせるのは、自動車に使われていた時の名残りとして残しているのかもしれない。
あれこれ考えながら過ごしている内に放課後になってしまった。
はっ、と気付いた時にはもうシミュレーションルームの前にボクは立っている。
「よう。 時間通りだな、アザミ」
声がしたので振り返ると、ハルザがスクールバッグを肩に担いだ姿で居た。
「ここ、ボク達の教室から近いですしね」
ボクが答えると、ハルザは何故かため息をつく。
「敬語はよしてくれ。 学年は違うが、お互い同い年だろうが」
「あ......すみません」
「敬語」
「ごめんごめん。 知らない人とか先輩相手だとさ、無意識に敬語で話しちゃうから、ボク」
ボクが恐る恐る素の態度で話してみると、ハルザはやれやれといったような表情になった。
「それでハルザさん。 これから何かするの?」
ボクが聞いた直後、ハルザはムッとした表情になってボクを睨む。
「呼び捨てでいい。 なんでお前はこう......他人に対して一歩引いた態度で接するんだよ。 オレが怖いのか? こんな見た目だから」
「違うよ。 いきなり初等部の3年に編入されて、クラスに馴染むのに時間がかかった時みたいになってるだけ。 先輩方とはほとんど顔を合わせてないし」
現在、中等部の生徒はみな茨城にある国連宇宙軍の基地に居る。
話によると、中等部は国連軍の部隊と合同で演習を行っている時期なのだそうだ。
一方、高等部の1年・2年は、国連軍の月面基地にて訓練をしているらしく、戻るのは10月頃になると聞いた。
「オレはまだ14なんだ。 他の奴と同じように接してくれ。 先輩って呼ばれるのは苦手なんだよ」
「そうなんだ」
特殊なコンピューターを持ち、生体組織で作られた肉体を持つアンドロイド、いやバイオロイド【エクサ】は、"最初から完成した姿"で誕生する。
だから、彼らの年齢は"製造されてからどのくらい経過しているか"を指していた。
でも、エクサ達はその"年数"を人間の"年齢"として扱ってほしいと、30年前のあの時に望んだらしい。
「精神年齢はどうなの? 外見とは少し差が出るって、昔聞いたけど」
「精神は18歳程度だ。 ボディの製造ラインがマシントラブルで止まった時に遅れたらしい」
「その時は順番待ちになってたってことね」
「そんなところだ」
シュミレーションルームに入り、ボクは自分が使っているシミュレーターとは違う所、校庭が良く見える位置にあるシミュレーターに来た。
「なんでここに?」
「いつもは入口すぐのシミュレーターだから、気分転換に」
シミュレーターにスマートフォンをかざし、ボクが乗っている機体のデータを呼び出した。
このスマートフォンは、士官学校に入学すると支給される機種で、軍用ラップトップ(ノートパソコン)と同等の耐衝撃性・防塵性・防水性を誇るものだ。
さらに専用の回線を使っているから、憎き通信制限に悩まされることもない。
そしてこのスマートフォンが、学生証や仮想通貨を使うための財布としての役割を果たしていた。
「じゃ、失礼」
「え」
シミュレーターのシートに座ろうとしたボクを押し退け、ハルザがシートに座ってしまった。
その後、ボクを見ながら自分の膝を叩く。
「座れ。 オレが後から直接指導してやる」
「えー......。 ハルザは男に座られて嫌じゃないの?」
「別に。 お前は美人だし、痩せてるから軽そうだしな」
「美人」と言われて少しドキっとした。
多分、ハルザは正直に思ったことを言っただけなのだろうけど。
「はいはい。 体重34kgしかありませんよーだ」
「怒るなよ」
「怒ってません」
ボクはムスッとした態度のまま、ハルザの膝の間に座る。
細いボクの体は、逞しいハルザの体にすっぽりと包み込まれてしまった。
「一応録画もしておくか。 というか、上着は脱がないのか?
シミュレーターの中だと暑いだろ?」
「別に平気だけど、熱中してたら汗かきそうだし、脱ぐよ」
ボクはジャケットを脱いで、シミュレーターの前方、サブモニターの上にかけた。
その時、ハルザが急に上体を起こしてくる。
突然、シミュレーターのコンソールとハルザの体に挟まれたボクは、気の抜けた声を出してしまった。
「悪ぃ。 予備のHUDを取りたかったんだ」
「だ、大丈夫だよ」
腰になにか柔らかいモノが当たった気がしたけど、気にしないでおく。
ボクもHUDを装着し、シミュレーター上でだが機体を起動させた。
まず、自動で操縦桿の位置とシートの位置、ペダルの位置が、事前に登録した最適なポジションに調整され、次にFCS(火器管制システム)やOSが起動し、機体のAIがそれのチェックを終わらせていく。
「オレ、このシートがスッと持ち上がる感触が好きなんだ」
「わかる。 ボクもこの全身が一瞬ふわっと浮く感じが好きなの」
シートの調整を行っているダンパーは、シトロエンと同じハイドラクティブIIIを使っていると本で読んだ。
最初、一瞬だけ意味も無くシートを浮き上がらせるのは、自動車に使われていた時の名残りとして残しているのかもしれない。
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