異世界王政〜Four piece stories〜

桜井ギル

現世に縛られた命達

彼女は慣れた手つきで俺を馬車までエスコートした。


本来なら女が男をエスコートなんて有り得ないのだが、彼女にはそれなりに事情がありそうだった。



「この度は誠に申し訳ないことをしたと思っています。私の監督が行き届いてなかった責任です。この償いは死んで償います!」



「いやいや、ちょっと待って!」



「はい?」




目の前でいきなり彼女は鞘から剣を取り出し、それを自身の首元に突きつけた。そんな行動に黙っていられるわけがない。




「それくらいの事で自害なんてしないでください!死んだら何も解決しないじゃないですか!」


「ですが…。いえ、私は死のうと思っても死ねないのですよ。こんな剣ではね…」




そう言って彼女は剣を鞘にしまう。



彼女が言い放った言葉に興味を持つがあまり追求しない方がいいだろう。



「…暁人さんは永遠の命を信じますか?」



「永遠の…命?」




永遠とは命の事?この人はいったい…




「私は彼ら…エドとカイと同じ『ヴァンパイア』なんです。」


「…はい?」


「いきなりそんな事言われても信じないのは分かります。スピアも最初はそんな反応でしたからね。」


「…」



馬車に乗ってから本物のスピアはキングの隣に座り、俺を睨む。



『我が主の話をちゃんと聞きなさい。』



そう言っているように思えた。



「…暁人さんのいた世界ではヴァンパイアはどんな存在だったのですか?」


「俺がいた世界では…ヴァンパイアはおとぎ話でしかありませんでした。人の血を食糧として生き続けて。弱点はニンニク、十字架…あと太陽だと聞きました。それって本当ですか?」


「弱点が…ですか?」


「はい…。」


「私はエドとカイとは違って純血種ではないので少し人間の要素が残っているのですよ。私はヴァンパイアと人間のハーフ…『ダンピール』という種類ですかね。」


「ですから、暁人さんが仰った弱点は私には関係ないのです。現にほら…昼間でも普通に活動出来ているでしょう?」



そう言って彼女は微笑んだ。



こうして見ていると彼女が人間ではない事を信じることは出来ない。1人の人間としてしか見えない。



「…暁人さん?どうかしましたか?」


「…!」



違う…何かが違う!
俺があの時助けを求めていた少女と何かが違っていた。
顔は合っているはずなのに…。



彼女は右目を眼帯で隠していたのだ。今の今まで前髪で隠されていたため気づかなかった。



「暁人さん、まさか今頃になって眼帯の事に気づいたのですか?」



彼女の左目は何でも見透かすかのように美しかった。



「…はい」



「そんなに強ばらないで。この眼帯は…昔、通り魔事件に遭いまして…。その時に右目を…」



これは聞くべきではなかった。
そう思いながらも彼女を見つめていることしか今の俺には出来なかった。

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