無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

四章 11 『懸念』

 「・・・タクミ大丈夫かしら?」

 心配そうに呟いたのはローゼだった。

 ローゼ、アイズ、サリスそしてシャムミルの四人はタクミと離れシャムミルの故郷であるキャトルの村を目指してグリドラを走らせていた。

 「タクミなら大丈夫だろう。しかっりしている・・・とはいえないかもしれないがそれなりに戦いも経験してきているんだ、そう簡単に負けるなんてことはないはずだ」

 アイズがまるで見透かしたように言った。ローゼとアイズが並走する。

 「アイズさん・・・タクミのことを信用しているんですね」 
 「タクミだけではないさ。サリスもローゼだって私は信用しているとも、三人とも私は背中を預けるに足る人物だと私は思っているよ。ローゼは違うのかい?」
 「私・・・?私ももちろん皆のことは信用してますよ!でもこういう時に一人残していったりすることが抵抗があるというか、仲間なら一緒に戦った方が良かったんじゃないかって思ってしまうんです・・・」
 「なるほど・・・ローゼは優しい子だ。その考えだって間違えではないはずだよ。きっと、どうするのが正解だなんて本当は誰にもわかりはしないんだよ。正解を選び続ける生き方なんて困難なうえに成長も出来そうにない生き方は私はあまりしたくはないかな?」

 アイズがローゼに微笑んだ。

 「ただ今回はタクミを信じて先に行くことが大事だと思ったから、私はあの時振り向かなかったんだ。それを後悔もしていないよ。私たちの使命はこの先にあるシャムミルの故郷に少しでも早く辿り着くことだと思っている。それをタクミも理解しているはずだ・・・だから今は前だけを向いて進もう」
 「そうですね・・・タクミなら必ず追い付いてきますよね!ありがとうございますアイズさん!」

 アイズの言葉を聞いて元気を取り戻した様子のローゼだった。

 「フフッ、私は別に何もしていないよ。ローゼの力は頼りにしているよ」
 「はいっ!私頑張ります!」

 はりきった様子のローゼがグリドラの足を速め先陣を切るように走った。

 「・・・ずいぶん優しくなったなアイズ」
 「なんのことだ?サリス」
 「フッ、別に?ただ初めて会った時のことを思い出していただけだよ」
 「サリス・・・君は初めて会った時から変わらないな」
 「まあね、私は私の思うように生きるだけだからね。それで実際のところはどう思っているんだ?」
 「さっきの言葉に嘘はないよ。タクミがあの狼人族に負けるとは思っていない。あのボルスという方はタクミにとって問題はないはずだ。もう一人の方はかなりの力を持っているようだったがタクミが全力で戦えば勝てるはずだと私は思っている」
 「それについては私も同意見だ」
 「・・・ただ今回の一連の出来事、ただの亜人族同士のいざこざでは終わりそうにないと思う。もっと大きな事件が・・・もしかしたら邪神教徒の件よりももっと大きな戦いに巻き込まれることになるかもしれない」

 アイズは深刻そうに言った。それを見てサリスは口にくわえていたタバコを一吸いした。

 「ふぅー・・・なるほど。それはその瞳で見えたのかい?」
 「いや・・・私の瞳はまだ何も映してはいない・・・これはまだただの勘だよ」

 アイズは左右で色の違う瞳の左の赤い方を手のひらで押さえた。

 「・・・アイズさん?どうかしたんですか?」

 そのただならぬ様子を心配してシャムミルが声をかけた。

 「大丈夫だよシャムミル、不安にさせてしまったようですまない」

 アイズは心配そうに見上げていたシャムミルの猫耳を優しく撫でた。シャムミルは気持ちよさそうにしている。

 「サリス・・・私は大丈夫だ。心配させたようですまないな」
 「アイズ、あんたは私の一番の患者だよ。まだ完治したっていう診断書出した覚えはないからね?すこしでもおかしいと思ったらいつでも私に言いな?どこにいても駆けつけてやるからね」
 「・・・ああ、その時は遠慮せずそうするよ」

 アイズはサリスの言葉を聞いて目を閉じ少し笑みを見せて礼を言った。

 「さあシャムミル、キャトルの村はあとどのくらいだ?」
 「は、はい!たぶんもうすぐ見えてくると思うんですけど・・・・あっ!あれ!」
 「アイズさん!サリスさん!あれ見てっ!」

 シャムミルとローゼが同じタイミングで叫んだ。

 目に入ってきたのは夜空の中でも見えるほどの黒煙だった。丘の向こうで何かが燃えてるようだ。

 黒煙が上がっているのはシャムミルの故郷の方角だった。

 「わ、私の村が・・・!」
 「これは・・・予想以上の事態のようだ」
 「こうしちゃいられないね・・・」
 「みんな行こう!!シャムミルの村を助けなくちゃ!!」

  ローゼ達は全速力でシャムミルの故郷に向かってグリドラを走らせた。



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