無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
三章 44 『無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。』
リーダーであるエレボスと狂魔六将の全てを失った邪神教徒達は戦力の衰えにより、すべて撤退していった。
多くの傷跡を残したがタクミ達はアーバンカルを守り抜くことが出来た。戦いを終えたタクミ達は魔法騎士団本部へと帰還した。
「ふぅ・・やっと戦いも終わったな。」
「帰ってきたようだなタクミ。」
帰ってきたタクミ達をサリスや他の魔法騎士団員が迎えてくれた。
「おう!ちゃんと帰ってきたぜ!」
「その様子ならもう大丈夫みたいだな。こっちもケガ人の治療はあらかた目途はついたよ。」
「ホントか!?ジュエルも無事なのか!?」
「安心したまえ。ケガはひどかったがもう命の心配はないよ。しばらくは安静が必要だけどね」
「そっか!サリスも手伝ってくれてありがとうな!・・・っとあれ?フェルの奴が見当たらないけど?」
「あの可愛い神獣様は、タクミの戦いが終わったのを感じたら帰っていったよ。長居は無用だってね。」
「マジかよ!相変わらずだなフェルのヤローも!」
「ふっ。まあそう言ってやるなよ。あの神獣様もここで私と一緒にケガ人の治療を手伝ってくれたんだからな。さすがは神獣と呼ばれるだけある魔力だったよ。そのおかげで私も治療に専念できたんだからね」
「そうだったのか。まあフェルにもまたどこで会えるだろうよ。・・・団長。もう邪神教徒達は攻めてこないよな?」
「そうだな。まだ完全に殲滅したわけではないが、その主力達を今回の戦いで失ったんだ。もう今までのような戦力も残っていないだろう。しばらくすれば邪神教徒は無くなるだろうな。」
「そっか・・・ならとりあえずは安心だな。安心したら一気に疲れが出て来たな。」
「あれだけ連戦すれば無理もないわね!タクミは本当に頑張ったもんね。今日はもうゆっくり休んだら?」
疲れを見せるタクミにローゼが労いの言葉をかける。
「いや俺だけ休むわけには行かないだろ?まだ街の復興とかもこれからあるんだからさ。」
「その件なら大丈夫だ。ドズール隊長を筆頭に街の復興に向けてのチームを編成して動いてもらっている。だからタクミやベルトール家の方々も部屋を用意しているから今日はもう遅いから休んでくれ。」
「そういうことなら団長の言葉に甘えさせてもらうわ。結構もうクタクタだからな・・・」
「そうね。私達もお言葉に甘えて今日はここで休んでいきましょう!ね?ラザリー姉さん?」
「ええ。今日は一緒に休もうかしらね。」
「やった!久々にラザリー姉さんと一緒に寝られるのね!」
ローゼが甘えるようにラザリーの右腕に抱き着いた。
「フフ、もうローゼったら。」
それをラザリーも嬉しそうに受け入れた。それぞれが部屋で休むことにした。自分の部屋に着くなりベットにタクミは倒れこみ仰向けになった。
「ふぅ・・・。やっと終わったんだな。」
天井に手をかざし、今日一日の戦いを振り返るタクミ。
この世界には俺以外にもたくさん異世界から来た人たちがいるんだな。アイズやエレボス以外にもきっと
いるに違いないよな
もしそうなら・・・・
そんなことを考えるうちにタクミはあることを決心した。 そして眠りについた。
「朝か・・・。ヨシッ!」
珍しく自分で起きたタクミ。自分でもびっくりするくらいスッキリした目覚めだった。ベッドから起き上がり身支度して部屋から出た。
「あら?タクミ自分で起きてくるなんて珍しいわね。今起こしに行こうと思ってたのよ!」
タクミの姿を見て驚いた様子のローゼ。そこにはローゼだけではなくラザリーやアイズ、サリスにクリウス達の姿もあった。
「俺だって自分でちゃんと起きられるよ。にしてもみんな揃ってどうしたんだ?」
「ん?いや別にどうってことはないんだけど、これからみんなどうするのか話してたのよ。」
「なるほどね。それでみんなどうするんだ?」
「そうね、私はラザリー姉さんと一緒にしばらくアーバンカルに残って復興を手伝おうかなと思ってるの。ウルガンドの時に助けてもらったんだから今度は私達が手伝う番かなって!」
「へぇ。アイズとサリスはどうするんだ?」
「私たちも特に行く当てはないからな。しばらくはこの街に滞在するだろう。」
「そうだね、村に戻っても特に何もないしね。」
「そっか・・・」
「タクミ?どうかしたの?」
どこか様子の違うタクミにそこにいた皆が気づいた。
「何か言いたそうだな?」
クリウスがタクミに聞いた。
「団長・・・その、急にいなくなって帰ってきてばっかりでこんなことを言うのは本当に申し訳ないんだけど・・・」
少し間を開けるタクミ。皆がタクミの言葉を待った。
「俺、魔法騎士団をやめさせてもらうことって出来ないっすか!?」
「えぇ!?タクミ!?」
ローゼがタクミの言葉に驚きの声を上げる。クリウスは動じることはなかった。
「それはどうしてかな?」
「今回の戦いで思ったんだ、この世界には俺以外にもアイズやエレボスみたいな異世界から来てる人間ってたくさんいると思うんすよね!その皆が訳も分からずこの世界に来てるはずなんすよね」
「それで?」
「そしてエレボスはたまたま初めて会った人間が悪人だったためにあんなことになってしまったと思うんすよ。そして今も助けを必要としている人がきっといると思うんすよね、だから俺はそんな異世界から来た人達を助けたいと思うんすよ!だからそのためにしばらく旅に出ようかと思って・・・」
タクミの言葉を皆黙って聞いていた。そしてクリウスが口を開いた。
「・・・・なるほど。二度とエレボスのような存在を生み出さないためにということだな?」
「まあ簡単にいうとそんなとこです。俺はこの世界で初めに会えた人間がローゼだったから救われたんです。一歩間違えば俺もエレボスのようになっていたっておかしくはなかったんすよね。そしてこんなことが出来るのはやっぱり同じ異世界から来た俺にしか出来ないと思うんすよね。だからお願いします!」
クリウスに向かって深々と頭を下げるタクミ。
「その必要はないさ。」
「団長・・・!?」
「第二のエレボスを出さないということは、この世界の平穏を護るということにつながっている。だからタクミは魔法騎士団の一員として旅に出ると良いさ。魔法騎士団の肩書は、活動していく上で色々と手助けになるだろう。タクミは堂々と自分のやりたいことを成し遂げるといいさ。」
クリウスは優しく微笑みかけた。
「・・・団長!本当にありがとうございます!」
タクミはまた深々と頭を下げて、クリウスに礼を言った。
「なるほど。そういうことならば私もタクミを手伝おう!」
そう言ったのはアイズだった。
「え?アイズいいのか?」
「もちろんだとも。私もこの世界でサリスによって助けられたんだ。タクミのいうこともわかるよ。そういうことなら私も力になろう。」
「本当か!助かるよ!」
「おいおい、二人だけで楽しそうな話してんじゃないよ。そういうことなら私も行くよ。」
今度はサリスだった。
「サリスまで・・・いいのかよ?」
「フフッ。異世界人を探して世界を旅するんだろ?そんな面白そうなことほっとくわけないだろ?それに私がいればケガ人だったとしても十分な治療をしてやることができるんだ。必要な人材だと思うぞ?」
「ああ!サリスが来てくれるなら頼もしいぜ!ありがとうな!」
「あ、私は・・・えーっと・・・」
ローゼがちょっぴり慌てた様子でキョロキョロしていた。そんな様子を見たラザリーがローゼの背中を押した。
「タクミ。よかったらこの子も一緒に連れて行ってくれないかしら?」
「え?ラザリー姉さん!?ちょっと・・・!」
「ローゼも?俺は来てもらうと助かるけど、いいのかよ?」
「ええ。この子には私のせいで色々と迷惑をかけてしまったからね。しばらくは自由に世界を見て回ることがローゼにとって良い経験になると思うの。ねっ?ローゼもそれでいいでしょ?」
「ラザリー姉さん・・・うん!ありがとう!タクミって無茶するところあるから心配だしね!私も世界を色々と見てみたいしタクミに着いていくわ!よろしくね!」
「おう!本当にみんなありがとう、俺のわがままに付き合ってくれて!これだけのメンバーなら心強いぜ!」
こうしてタクミ達はまだ見ぬ異世界人を助けるために世界を旅することにした。身支度を整えたタクミ達は皆に見送られアーバンカルを後に旅立った。
それぞれグリドラに乗りアーバンカル出てしばらく森の中を走っていた。
「それにしても俺に着いて来るなんてなんていうか物好きだな!」
「そんなことはないさ。タクミのしようとしていることは必要なことだ。いつか誰かがしなくてはならない事だったんだ。」
「そうそう!それに一番の物好きはタクミだと思うしね!」
「ふうーーーー。まったくそのとうりだな。」
「なんだよそりゃ!言いたい放題言いやがって!」
「ハハハ・・・っとそんな話してるうちにお客さんみたいだ。」
アイズが何者かの気配に気づいた。どうやら盗賊の類のようだった。
「オラオラ!死にたくなかったらお前ら、その荷物を置いていきやがれ!」
ぞろぞろと出てくる残党たち。
「やれやれ・・・このメンバーに喧嘩を売るとは命知らずな奴らだな。」
タクミがグリドラから降りた。
「あぁ!?何をブツブツ言ってんだよ!?一人だけ冴えない顔してるくせによ!出しゃばってんじゃんーよ!この無能野郎が!」
タクミの顔を見て盗賊の一人が言い放った。
「このやろぉ・・・よりにもよって俺が無能やろうだとぉ!?」
盗賊の言葉に怒るタクミ。後ろでサリスがくすくす笑っていた。
一歩一歩ゆっくりと盗賊に近づいていくタクミ。
「・・・大体こんな異世界に来て魔法を覚えて、悪党倒してよ・・・まるで俺がゲームとか映画の主人公みたいじゃねーかよ。」
「あぁ!?何訳わかんねーこと言ってんだよ!」
盗賊の一人がナイフを出して威嚇している。それにたいしてタクミが右の拳を振り上げて叫んだ。
「こんな主人公みたいな俺が無能なことあるわけがない!!」
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