無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 41 『アーバンカル総力戦 10』


 エレボスから事実を聞かされたタクミは怒りを露わにする。感情が高まるのと同調するようにタクミの魔力も高まっていった。

 「ほう。これはなかなか・・・」

 そんなタクミを見てエレボスはどこか感心したような表情を見せる。立ち上がったタクミは一歩一歩エレボスの方に近づいていく。

 「お前そんなもんまでこの世界に持ち込んで一体何がしたいんだよ!?お前のせいでこの世界の人がどれだけ迷惑したと思ってんだ!?」

 「私の事が理解できないか。まあそれも仕方ないことだが・・・私には君の方が理解できないがね?」

 「なんだと!?」

 「なぜ異世界人である君がこの世界の事でそこまで感情的になれるのかね?別に君の故郷でもなければ血のつながった家族がいる訳でもないだろうに。そんな他人の事をいちいち気にして何になるというのだい?全く理解できないね。」

 「お前・・!たとえ他人だったとしても仲の良い奴とかいるだろうが!お前にはいなかったっていうのかよ!?」

 「ああ、そんな存在は一人もいないね、出来たこともないな」

 エレボスはその黒い瞳で見下すようにタクミを見ている。そしてさらに続けた。

 「少し昔話をしてやろう。私はこの世界に突然連れてこられた、17年前にな。その時私はまだ15の子供だった。突然異世界に体一つで連れてこられた私は何の力も持ってなくてな。食べる物さえ無かった。その時私は近くを通りかかったこの世界の住人に助けを求めた。だが・・・その時の住人は私に食べ物を与える素振りを見せて、私を盗賊の一味に売り飛ばしたのだ。」

 「なんだと・・!?」

 「驚くことはないさ。この世界でもそういう行為は行われているのだよ。それから私は盗賊の奴隷となりもはや人として扱われることはなかった。それはもう酷い扱いだったな・・・私は自分の運命を呪ったさ。来る日も来る日も憎悪を募らせていた。そして何年も過ぎたある日、憎しみからか私は魔力に目覚めたのだよ。それがこの力だ!その時だけは盗賊共に感謝したものだ。盗賊共の仕打ちに耐えることによってこの力に目覚めたのだからな!」

 高笑いをしているエレボス。さらに続ける。

 「この力を手に入れた私は誓ったのだ。私にこのような仕打ちをしたこの世界を許さないとな。私をこの世界に連れて来たことを後悔させてやるとな!そして私は邪神教徒を生み出した!わかるか!?これこそが私の復讐なのだよ!」

 エレボスの話を聞いてタクミは自分の事に置き換えて考えていた。

 俺もこの世界に来た時何も頼りになるモノは無かった・・・俺はあそこでローゼに出会ってなければ俺もエレボスと同じ道をたどっていたかもしれないんだな。

 だがそれでもタクミはエレボスの行いを認めるわけには行かなかった。

 「確かにお前の復讐したくなる気持ちもわからなくはない・・・だけど!それでもお前が他の人間を傷つけていい理由にはならないはずだ!もうこんなことはやめるんだ!」

 「ふっ・・お前に私の気持ちがわかるはずもない。無駄話はここで終わりだ。ここで朽ち果てるがいい!・・・ん?」

 次の瞬間、エレボスのいた所に強力な炎が降りそそいだ。

 「クックックッ・・・死にぞこないがわざわざ殺されに来たのかな?ラザリーよ?」

 そこにはラザリーとローゼの姿があった。

 「エレボス・・・貴方のせいで私の父上は死んだ。その罪償ってもらうわ!」

 「おやおや、自分で殺めておいて随分な言いぐさだな」

 「あんたがラザリー姉さんを操ってそうさせたんでしょうが!覚悟しなさいよ!」

 ラザリーとローゼが共に戦闘態勢になった。

 「お、おい!二人ともよせって!なんで来たんだよ!」

 二人を止めようと叫ぶタクミ。その声にローゼが振り向き、軽くウインクをした。

 「は?一体何の合図だよそりゃ・・・」

 「二人はお前の為に時間を稼いでくれているのじゃよ」

 後ろで突然声がした。振り向くとそこにはエドワードとワールド、そしてニーベルの姿があった。

 「おわっ!ってなんでここにいるんだよ!?」

 「このまま戦ってもタクミじゃエレボスには勝てぬよ。それだけに魔力の差は大きいものじゃ」

 「はぁ!?だったらどうしたらいいんだよ!」

 「だから私たちが来たんだよ!タクミ!」

 「ニーベル?どういうことだ?」

 「お主につけた刻印を解放するために来たんじゃよ。」

 「・・・解放?」

 エドワードの突然の提案にキョトンとするタクミ。

 「そうじゃ。お主につけた刻印の本当の意味は魔法を使えるためにするものじゃなく、お主の力を抑え込むためのものだったのじゃ。」

 「は?なんだそりゃ?この刻印のおかげで俺は魔法を使えるようになったんだろ?」

 「そういう風に見せていただけじゃよ。お主の中にある魔力は強大でな。それが暴走すればそれこそエレボスと同じようになっていた可能性もあった。だからワシはお主の本当の魔力を抑え込むためにこの刻印を刻み込んだのじゃよ」

 「なんでそんなことを・・・?」

 「お主の心は脆い部分があったでな。いきなり強い力を手に入れた人間はどうなるかわからんもんじゃ。お主がエレボスのようになるのを恐れておったが、今日再会してわかったわい。今のお主にその心配はないとな・・・。だから刻印を取りのぞくことにしたのじゃ」

 「その刻印を取りのぞいたら俺はエレボスに勝てるのか?」

 「それはわからぬな。だが可能性は随分上がるはずじゃ。しかし簡単ではないぞ?いいか?刻印を取りのぞいたらお主の中にある魔力が暴走する可能性がある。お主はそれに打ち勝ち自分のモノにしなければならないんじゃ。出来るか?」

 エドワードが深刻そうな表情でタクミに問いかける。

 「出来るかって・・・そんなもんやるしかねーんだろ!?どんな力か知らねーけどよ、ここでエレボスを止めなきゃ皆が危ないんだ!絶対に負けねーよ!」

 「フフッ・・やはりお主は変わったの。ならばあまり時間がない!早速取り掛かるとしよう!ここに座るのじゃタクミ。」

 エドワードに指示された所にあぐらをかいて座るタクミ。胸元の刻印を露出させその刻印にエドワードが手を当てた。





 

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