無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 40 『アーバンカル総力戦 9』


 「さて、それでは次はこちらから行かせてもらうとしよう」

 エレボスがタクミに手を向ける。黒い禍々しい魔力がみなぎっていく。

 「団長!ジュエルを頼む!」

 「わかった!」

 タクミに言われクリウスが地面に倒れていたジュエルを担いで避難させた。

 「アイズ!来るぞ!」

 「ああ!わかっている!」

 アイズも剣を構え、エレボスの攻撃に備えていた。

 エレボスの禍々しい魔力は、その姿をまるでしなる鞭のように姿を変化させタクミ達に襲いかかってきた。その一つ一つが十分な威力を持っているのは鞭の当たった部分が物語っていた。

 「くそっ!なんつー威力だ!こんなもんくらったらたまったもんじゃねーよ!」

 タクミは自分自身の身体能力を高める魔法を使いなんとか攻撃を交わしていた。アイズもその剣で迫りくる鞭を斬り落としながら凌いでいた。

 「まだまだこんなの序の口さ。次はこんなのはどうだい!?」

 そういうエレボスは左手を薙ぎ払った。その動きに合わせるようにまるで強風にでも飛ばされたかのようにタクミとアイズが弾き飛ばされた。

 「ぐっ・・!何をしやがった!?」

 「別にちょっと仰いであげただけなんだがね・・・力加減が上手くいかなかったようだな」

 「コノヤロォ・・・そのスカした顔すぐに泣き顔に変えてやるよ!」

 「ほう。それは怖いな、ならばこうするとしよう・・・」

 次の瞬間、タクミとアイズの体が上から地面に圧されるような体勢になった。

 「これは・・・バズドーと同じ重力魔法か!?」

 「同じ?それは違うな。私とバズドーとでは魔術の格が違い過ぎる。同じ扱いにするのは失礼極まりないことだな」

 エレボスの言う通り、圧される力はバズドーのものとは桁違いだった。

 「確かになかなかの魔法だが・・・そろそろ慣れてきたところだ」

 アイズがゆっくりと立ち上がった。

 「これはこれは・・・。驚いたな。この魔術を受けて立ち上がるとはな。どうやら魔法耐性がずば抜けて高い様だな」

 「私も自分ではわからないが、魔法が使えぬ代わりに効きにくい体質のようだ。こちらから行かせてもらうぞ!」

 立ち上がったアイズが相変わらずの速さでエレボスに斬りかかった。一瞬でエレボスの近くに間合いを詰めたアイズ。剣を上からエレボスに振り下ろす。

 「面白い・・・魔法が効かぬか。ならばこれでどうだ」

 そう言ったエレボスはどこからか右手に剣を出現させてアイズの剣を防いだ。剣を出現させたと同時にタクミを押さえつけていた重力魔法が解けた。

 「・・・戻った!今アイツ何もないところから剣を出したな?」

 体が軽くなり立ち上がるタクミ。アイズと激しい剣戟を繰り広げているエレボス。

 「あのアイズと剣で互角かよ・・どんだけの力を持ってんだよ!」

 「あのシーバスが魅了されるほどの強さを持っているのだ。やはりそう簡単には行かないか・・」

 タクミの元にクリウスが来た。

 「団長!ジュエルの奴は!?」

 「近くにいた者に介抱を頼んできた。本部に治療の為に連れて行ってもらったからひとまずは安心だ。」

 「そっか。なら良かったぜ。」

 「だがそれもここで私たちが負ければ無駄になってしまう。私たちの敗北はアーバンカル皆の命に関わるのだ。絶対に負けられないな。」

 「ああ!もちろんだ!」

 「では、私も加わろうとしよう。行くぞ!タクミ!」

 クリウスも聖剣を抜き、アイズの援護をしようとエレボスに向かった。

 「今度は魔法騎士団団長ですか・・・私は3対1でも構いませんよ?貴方達の全力を見せなさい!その全てを砕いてあげましょう!」

 クリウスとアイズが初めてとは思えぬ連携でエレボスに攻撃を繰り出す。しかし、未だに一撃たりもエレボスに攻撃は当たってなかった。

 しかし、アイズ達の猛攻にさすがのエレボスも若干押されつつあった。アイズの剣の切先がエレボスの二の腕に当たった。かすり傷程度だがエレボスの腕からうっすらと血が出てきた。

 「私に血を流させるとは。一体いつ以来の事でしょうか・・・。これは本当に楽しくなってきましたね」

 一旦アイズ達から距離を取ったエレボス。

 「良いでしょう!私の本当の魔術見せてあげましょう!これがこの世界の全てを支配するに相応しい力だ!その目に刻み込むがいい!」

 雄叫びをあげるエレボス。全身を黒い魔力が包み込んでいる。ただならぬ様子だった。

 「真の力を解放ってやつか。アイズ!クリウス!気をつけろ!」

 「ああ!」

 「わかっている!」

 少ししてエレボスを包み込んでいた魔力は、エレボスに吸い込まれるように消えていった。姿を現したエレボスはさっきまでのような紳士のような雰囲気とはかけ離れた野獣のような雰囲気を漂わせている。

 「ふぅ・・・では行くぞ。」

 エレボスがそう言った瞬間、今度は両手に禍々しい剣を出現させた。そして一瞬でクリウスの目の前に移動した。

 「遅いっ!」

 「ぐっ・・!」

 エレボスの剣をかろうじて防御したがクリウスの体は、その勢いで吹き飛ばされてしまった。間髪入れずに今度はアイズの目の前に一瞬で移動するエレボス。

 「ほらほら!どうしたっ!」

 「何・・!?」

 その圧倒的な力でアイズも防御などなかったかのように吹き飛ばすエレボス。そしてエレボスは両手の剣を消すと今度は背後に巨大なゴーレムを造り出した。

 「仕上げだ!」

 「うあぁーー!」

 ゴーレムの拳がタクミに襲いかかってきた。これも同じようにタクミの体を殴り飛ばした。

 一瞬で三人ともエレボスの攻撃によってダメージを負ってしまった。

 「クッソ・・・!次から次へと出したり消したりしやがって。しかも最後のは俺のと同じゴーレムじゃねーかよ!一体どういう事だ?」

 ダメージを受けながらも何とか立ち上がるタクミ。

 「フフッ。私の力に驚いているようだな。せっかくだから教えてやろう!この力こそが私にだけ許された魔術、その名も錬金魔術だ!」

 「錬金魔術だと・・?」

 「そうだ。この魔術によって私はありとあらゆるものを生み出すことが出来るのだ!それは武器でもゴーレムのような神の化身でもな!」

 「なんでも生み出すだって!?そんな魔術ありかよ!」

 「私だからこそ可能なのだよ。こんなものだって生み出せるのだよ?君には見覚えがあるだろう?」

 そういうエレボスは右手に今度は、拳銃を生み出してタクミに見せた。その拳銃は以前、リリックがスコットを撃った物と同じだった。

 「それは・・!?ってことはお前がリリックの野郎に銃を渡したんだな!?」

 「その通りだとも。リリック副官にこれを授けたのは私だ。この世界に銃というものは珍しくてな。なかなかに便利なものだぞ。」

 「てめぇ!お前がそんなもん作るからスコットは・・!絶対に許さねー!」

 

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