無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
三章 37 『アーバンカル総力戦 6』
「ローゼ・・?なんでここにいるんだよ?」
思わぬ再会に驚きを隠せないタクミ。目を丸くして聞いた。ローゼがタクミの元に近づいてきた。
「ウルガンドの復興でたすけてもらったじゃない?それで復興に目途がついたからお礼を言いに訪ねてきたところだったのよ。そしたら急にこんなことになってるし・・・それで遠くから炎が見えたからまさかと思って来てみたのよ。そしたら予想通りだったみたいね」
ローゼが視線をラザリーに向ける。
「ラザリー姉さん!こんなバカなことはやめて!いい加減目を覚まして!」
ローゼの叫びにもラザリーは何も言わなかった。ただ冷たい瞳をしている。
「ローゼ、ラザリーは誰かに操られているみたいなんだ。それを解くにはラザリーの体内に直接浄化魔法をかけるしかねえんだ。」
「・・・そう。やっぱりそうなのね。それなら私はタクミがラザリー姉さんに近づけるように援護すればいいのね?」
「ああ。俺一人じゃさすがに厳しいみたいなんだ。だからローゼの力を貸してくれ!」
「むしろ私が姉さんを取り戻すのにタクミの力を貸してもらう立場よ?だからタクミ・・・どうか姉さんを無事に元通りにしてくれる?」
少し不安そうにローゼが聞いた。
「ああ!任せろ!絶対にラザリーを元に戻してみせるよ!」
「うん!それじゃあ行くわよ!ベルトールの名において命じる!我が中に眠りし業炎の力よ、その力をここに示せ!」
ローゼもラザリーと同じように紋章術の力を解放した。ローゼの周りに無数の炎が生まれる。
「ラザリー姉さん!ここで目を覚ましてちょうだい!」
「・・・無駄よ」
ローゼとラザリーの炎がぶつかり合う。やはり魔力はラザリーの方が勝っているようだった。少しづつローゼが押されつつある。
「この威力・・・さすがラザリー姉さんね。でも私だって今まで何もしてこなかったわけじゃないんだから!」
ローゼの叫びに反応するように炎も勢いを増していった。ラザリーの魔力に見劣りしないものだった。
「タクミ!今よ!」
「ああ!」
タクミがラザリーに素早く近づく。さすがのラザリーも二人を同時に相手にするのは苦労するようだ。先程よりもスキが多くなっている。
「ラザリー!眼を覚ませ!」
タクミがラザリーに右手を伸ばした。
「ちっ!この程度・・・!」
ラザリーがタクミの右手を避けようと後ろに飛んだ。その隙をついてさらにローゼが炎で追い打ちをかける。
これらを素早く後ろに飛びながら避けていくラザリー。それをタクミが追っていく。そしてラザリーを壁際に追い詰めた。
「ラザリー!もう諦めるんだ!今その眼を覚ましてやるからな!」
「調子にのるなぁー!!」
次の瞬間、ラザリーの全身を炎が覆った。そこには炎の鎧を纏ったラザリーの姿があった。
「うわぁああー!!」
炎の勢いに吹き飛ばされるタクミ。ローゼが吹き飛ばされたタクミに駆け寄る。
「大丈夫!?タクミ!?」
「イテテ・・・大丈夫だ。それよりもあれは一体・・・?」
「あれはベルトール家に伝わる業火の鎧。攻防一体の魔法よ。あの姿の姉さんに直接触れるのはかなり難しいわよ」
「だろうな。でも、どんなに難しくてもやるしかねーんだよ!そうだろ!?ローゼ!」
「そうね・・・やるしかないわね!私達しかラザリー姉さんを元には戻せないのだから!」
「もうこれ以上貴方たちに付き合ってる時間はないのよ。ここでまとめて燃やし尽くしてあげるわ!」
ラザリーが全身の魔力を高めている。炎の鎧から炎の翼が生まれゆっくりと空に浮いていくラザリー。
「これで終わりよ。」
右手を掲げるラザリー。巨大な火の玉が生まれる。
「おいおい・・・本気かよ!ローゼ一旦引くぞ!」
ラザリーの魔力にさすがに身の危険を感じたタクミは、その場を離れようとローゼの手を引っ張ろうとした。
しかしローゼはその場を動こうとしなかった。
「・・・ローゼ?」
「ダメよタクミ!ここで逃げてもあの威力ならこの辺りが一瞬で燃え尽きるわ。私がここでラザリー姉さんの魔法を全力で食い止めるから、その間にタクミはラザリー姉さんの呪縛を解いてあげて!」
「食い止めるって、そんなこと出来るのかよ!?単純な魔力ならラザリーの方が上なんだろ!?」
「そうね。・・・でも、私がラザリー姉さんの魔法を受け止めてあげなくちゃ。じゃないとまたラザリー姉さんが沢山の人を不幸にしてしまうわ。だからお願いタクミ。私を信じて」
ローゼがタクミを見つめる。その表情からローゼの決意は明らかだった。
「ああ、わかったよ!俺はローゼを信じるからな!だからローゼも俺を信じてくれ!絶対にラザリーを元に戻すからな!」
「うん、ありがとう。ラザリー姉さんのことよろしくね」
「お別れの挨拶は終わったかしら?ここで二人仲良く燃え尽きなさい!ベルトールの業火よ!その全てを燃やし尽くせ!メテオフレイム!」
ラザリーの業火がタクミとローゼに向けて放たれた。凄まじい勢いで向かってくる。
「ラザリー姉さん・・こんな冷たい炎、ラザリー姉さんの魔法じゃないわ!眼を覚まして!お願い!」
ローゼが対抗してラザリーの炎に自分の炎をぶつけた。
ラザリーとローゼの炎が激しくぶつかっている。
それでもラザリーの方が魔力が勝っているので少しづつローゼが押され始めた。
「ローゼ!!」
タクミがたまらず叫ぶ。
「さすがラザリー姉さんね。でも私も負けないんだから!!」
ローゼも負けじと魔力を高める。
逃げなさい・・・
その時ローゼの脳内に直接声が聞こえてきた。それはラザリーの声だった。
「え?ラザリー姉さん・・?」
・・・今貴方の魔法とぶつかり合ってることで直接語りかけているの。ローゼはよく頑張ったわ。少しの間だけ私がこの呪縛を押さえるからその間に私を倒しなさい!
頭を押さえ苦しそうなラザリー。どうやら内側から本当のラザリーが抵抗しているようだった。
「ラザリー姉さん!!」
・・・そう長くは持たないわ。こんなお姉ちゃんでごめんね。
「ダメよ!姉さんには元に戻ってもらうんだから!」
相変わらず優しい子ね。でもダメよ。私はたくさんの罪を犯してしまったわ。だからローゼの手で私の罪ごと燃やしてちょうだい・・・ね?
次の瞬間ラザリーは魔法を解いてしまった。炎の鎧を解いたラザリーは気を失ったように落ちてきた。
「いやぁあああーーー!!ラザリー姉さん!!」
突然の出来事にローゼが魔法を解いても間に合わず、ローゼの炎がラザリーに向かって行った。
「そんな終わり方させるかぁーー!!」
ローゼの炎がラザリーに襲いかかろうとした間一髪のとこでタクミが浮遊術でラザリーの身を助けた。
「タクミっ!」
「ちゃんと元に戻すって約束したんだ!眼を覚ましてもらうぜ!ラザリー!!」
タクミの手が直接ラザリーの体内に入った。
「ヘリオス!お前の出番だ!しっかり浄化しろよ!」
「わぁああああ!!」
「ラザリー姉さん!!」
タクミの浄化の力を受けて苦しそうなラザリー。その様子をローゼが不安そうに見ていた。
「悪いな!もう少しの辛抱だ!」
しばらくしてラザリーの体内から黒い蒸気が出てきた。
これで浄化は完了だ・・・
タクミの脳内に太陽神ヘリオスの声がした。
「もうこれで大丈夫みたいだ。」
ラザリーの体内からゆっくりと手を抜き出すタクミ。ラザリーをそっと地面に横にした。ローゼが慌てて駆け寄りラザリーを抱きかかえた。
「ラザリー姉さん!!大丈夫!?目を覚まして!」
ラザリーの瞳がゆっくりと開いた。その瞳は今までの冷酷なものではなかった。愛情に満ちた瞳だった。
ラザリーの右手がローゼの頬を撫でた。
「ローゼ・・・本当にごめんね。こんなダメなお姉ちゃんで・・・。本当に・・・」
ラザリーの瞳から涙がポツポツとこぼれてきた。
「もういいの!ラザリー姉さんが無事に戻ってきてくれたらそれでいいから!だからそんなに自分を責めないで!」
ローゼがラザリーを優しくも力強く抱き寄せた。
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