無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
三章 30 『念願の再会』
「今回の一件、本当にかたじけない。なんと感謝の気持ちを伝ええればよいものか・・・」
部屋に入ってきたガタイのいいエルフの男は深々と頭を下げた。
「頭を上げてくれ。私たちは当然のことをしたまでだ。感謝を伝えるのならばこの事を私達に伝えたダジン夫妻に伝えてやってくれ。」
「なんと、そのような事があったのですか。それでダジン達は姿が見えないようですが・・・?」
「彼らには今は私の家で留守番を頼んでいるのだ。無事だから安心してくれ。それで私たちは今回の件について詳しく知りたいのだが・・・えーっと、あんた名前は?」
「おぉ、そういえば自己紹介がまだでしたな。私はこのエルフの村で戦士長をしているフーリンという。それで今回の件についてだが具体的に知りたいことというのは?」
このフーリンという男。まさに戦士長というに相応しい見た目だ。フーリンも呪術にかかっていたがそれでも動けるほどのタフさを持っているということであろう。
「フーリンか。私はアイズ。こっちの治療をしていたのがサリスで、そこの男がタクミと言う。それで私達が知りたいことだが今回のこの現象が起きたことについて、貴方達エルフ族の方は原因について心当たりが何かあるのか?」
「原因についてはまだわからないのだが、この病が初めてこの村で発症したのは2週間ほど前だったな。それから日が経つほどに一人、また一人と被害者は増えていった。幸いなことに死者は出なかったが、貴方達が来てくれなかったらそれも怪しかったであろう。」
「二週間前ねえ・・・その前に何か不審なことや変わったことはなかったのかい?」
サリスが煙草を咥えたまま尋ねた。
「変わったことと言うか、この病気が起きる少し前にこの村に一人の旅人が迷い込んできたな。」
「旅人?」
「ああ。滅多にエルフの村に来客なんてないからはっきり覚えているよ。その旅人は飢えた様子の老人のようだったな。私たちは2,3日その老人を保護したんだ。それからその老人は元気になった様子でこの村を去っていったよ。それから一週間ほど経ってこの病が村に広まりだしたんだ。」
「老人か・・・」
フーリンの話を聞いてアイズが考え込んだ。
「・・・狂魔六将だ。」
タクミが思い出したように呟いた。
「なぜそう思う?」
「前に聞いたことがあるんだ。狂魔六将に毒系の魔法を得意とする老魔人がいるって。たしか名前がゲルニクスって言ったかな。確証はないけどこんなことするのは邪神教徒の奴等しかいないだろ!」
なぜ自分でもそう思ったのかはよくわからなかったがタクミの直感がそう訴えてきた。
「ゲルニクスか・・・。なるほどな、私も噂は聞いたことがあるな。だとしたらその老人がこの村に何かしらの呪術を仕掛けた痕跡があるはずだな。調べてみるか。」
「アイズそんなのわかるのか?」
「私自身は魔法の類を使うことは得意ではないが、魔法の気配を察知することは出来るのだよ。」
「アイズの探知能力は常人の域を超えてるぞ。」
「マジかよ・・・アイズってマジで何者だよ?」
「フフッ。異世界人で私の親友だ。」
「サリス・・・親友と言ってくれるのは嬉しいが異世界人と呼ぶのはやめてくれ。」
サリスに異世界人呼ばわりされたことが不満そうなアイズだった。
「冗談だよ。アイズがどこから来たなんて私には関係ないさ。さて、そうと決まればまずは村を調査しようとしようか!」
タクミ達はエルフの村の中心に移動した。アイズが目を閉じて辺り一帯の気配を探っているようだった。
「・・・ふむ。いくつかの怪しい気配を感じるな。タクミ、そこの石像のふもとに何かないか?」
アイズの指さした方にエルフの先人を祀ったものだろうか、石で象られた像を調べるよう指示を出された。タクミが指示に従い石像の近くを探した。
「えっーっと・・・・あっ!なんか小さい魔方陣のようなものがあるぜ!」
石造の目につきにくいところに小さな赤い魔方陣が描かれてあった。サリスがその魔方陣を調べた。
「これは・・・・うん。間違いな!これこそが今回の騒動の原因だ。ドス黒い気配がプンプン感じるよ。まだ他にもあるはずだ。」
「なんと・・・・そのようなものが隠されたいたなんて。」
フーリンも驚きを隠せない様子だった。それからタクミ達はアイズの探知を頼りに次々と魔方陣を見つけていった。そして見つけた魔方陣をサリスが消していった。
「よし、もう魔方陣は隠されていないようだな。全部消し去れたようだ。」
アイズが再び探知を行い消し忘れが無いことを確認した。
「ふうぅーーー。それにしても手の込んだことをするもんだね。そのゲルニクスって奴も何がしたかったのかね?エルフ族にちょっかい出すなんて。」
「あいつら邪神教徒の奴等のすることは俺らには理解できねーよ。ホントにこんなことしやがって・・・許せーねよ!」
怒りを露わにするタクミ。その様子にアイズもサリスも少し驚いた様子だった。
「・・・まあ、ひとまずはこれで呪術が再び発動することはないだろう。これからは来客については細心の注意を払うことだな。それでタクミは聞きたいことがあったのではないか?」
「え?・・・あっ!そうだ!フーリンさんはこのペンダントの魔石に描かれているフェルって神獣について何か知っていることはないっすか!?」
タクミがペンダントを胸元から取り出しフーリンに見せた。
「フェル様について知りたいのか?それならば私よりも大長老様に聞いた方が良いだろう。貴方たちに礼もしたいから大長老様の所に案内しよう。ついて来てくれ。」
タクミ達はフーリンに案内されて村の中の神殿を象ったような建物に案内された。フーリンに奥に連れられた先にそうとうな年齢を重ねているであろう老人が姿を現した。
「大長老様。この方たちが今回私たちの村の危機を救ってくれた方々です。どうやらフェル様について知りたいとのことだったのでよければ大長老様からお話し頂けないでしょうか?」
フーリンが大長老に敬意を示すように片膝をついて話をした。
「ホッホッホッ。今回我らの村を救ってくれたそうじゃな。本当に感謝しているよ。それでフェル様について何が知りたいのかな?」
エルフ族の大長老は長く生やした白い髭を撫でながら言った。
「俺はそのフェルって神獣に会いたいんだが、どこに行ったら会えるんだ!?」
「フェル様に会いたいとな。それは何のためにかね?」
「あって色々と聞きたいことがあるんだ!」
「ほう。聞きたいことか。フェル様は気まぐれな御方だ。会いたいからと言って早々会えるものでもない。私も200年は生きているがまだ2度くらいしか会ったことないからの。だがそれでも会える可能性があるとしたら・・・キャンペルの神殿に行けば可能性が無いこともないと思うが。」
「キャンペルの神殿?それはどこにあるんだ?」
「キャンペルの神殿はここからさらに北に行くとある神殿だ。大長老様この者たちを神殿に案内してもよろしいですか?」
「ホッホッホッ。構わんよ。フーリンが案内してやりなさい。」
「ホントか!?ありがとよ!」
こうしてタクミ達はフーリンに案内されてキャンペルの神殿に向かうことにした。一時間ほどグリドラに乗って移動したらそれらしき建物が見えてきた。
「ここがキャンペルの神殿だ。」
フーリンに案内された神殿は大長老がいた建物と同じ造りをしていた。もっとも大きさは比べものにならないほどこっちの方が大きかった。
「なるほど。たしかにこの神殿からはすごい魔力を感じるな。」
「タクミを異世界から連れて来た神獣ね。是非私も会ってみたいもんだ。」
「ここにフェルの野郎がいるのか・・・?」
「貴方たちは命の恩人だが、一応言っておくぞ。これから会うのは私たちが神と崇める御方だぞ?会えるとは思えないが万が一の時は失礼のないよう頼むぞ。」
フーリンがタクミ達にクギをさした。
神殿に入っていくタクミ達。一番奥の広間の入り口に到着した。
「この奥が神殿の中枢部だ。開けるぞ?」
そう言うとフーリンが人丈の2倍はあるであろう両開きの扉をゆっくり開けた。
「やあ!やっと来たね。ここにいれば会える気がしてたよ。」
この少年のような声。そしてしゃべり方にタクミは覚えがあった。
「よう。随分久しぶりだな!会いたかったぜ、フェル!」
タクミ達の入った部屋の奥にある玉座にフェルはタクミと初めて会った時と同じように、その全身に白い光を纏わせそこに座っていた。
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