無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 17 『修行』


 「・・・ミ・・・タクミ。もう朝だよ!」

 スコットに体を揺らされ起きるタクミ。

 「・・・ああ。・・・・あ!しまった!護衛の立場で熟睡しちまってた!」

 慌てて起き上がるタクミ。

 「ハハハ。そんなに焦らなくても大丈夫だよ。僕はいたって無事だよ。それに寝る前にタクミが僕に守護魔法もかけてくれてたし心配することはないだろう?」

 「いやそれでも立場ってもんがあるわけだしな・・・次からはもう少し気をつけるよ。悪いな。」

 申し訳なさそうに頭をかくタクミ。

 「そんなに気にしないでくれたまえ。それで今日はどうするんだい?ウインズは外出はしないでくれって言っていたけど?」

 「うーん、そうだなー・・・。正直何も考えていないんだけど、この館で出来ることって何があるんだろうな?」

 「そうだね・・・あ、そうだ!タクミは魔法に関しては相当な力を持っているって聞いたけどどうせなら僕に魔法の鍛錬をつけてくれないか?」

 「魔法?それは別にいいけどスコットも魔法使えるのか?」

 「まあね。タクミほどではないけど僕の家系・・・アズミナル家に代々伝わる降魔術があるから僕もそれを受け継いではいるんだが、なかなか上達しなくてね。」

 「降魔術か・・・ローゼの家と似たようなもんなのかな。いいぜ!俺で良ければスコットの魔法の練習を手伝ってやるよ!」

 「本当かい!?そうと決まれば中庭に行こう!この屋敷の中庭はかなりの広さだからいい練習場所になるだろう!」

 「オッケイ!行くとするか!」

 こうしてタクミとスコット着替えて中庭に移動した。

 「さて、まずはスコットの魔法を見せてもらって良いか?」

 中庭で対峙するように立っているタクミがスコットに言った。

 「うん。それじゃあ行くよ・・・スコット・アズミナルが命ずる。我がアズミナル家を代々護りし力よ、この場においてその力を示せ!」

 スコットが詠唱をした次の瞬間スコットの足元に緑の魔法陣が浮き出てオーラを放った。

 「どうかな?」

 スコットがタクミに質問してきた。

 「え?えーっとこれは・・・」

 スコットの問いにタクミは言葉を詰まらせた。

 なぜならスコットが詠唱して確かに魔法陣が出現してそれなりの魔力も感じのだが、圧倒的に何かが足りなかった。

 降魔術と聞いていたのに今までタクミが見てきた他の降魔術とは違っていた。

 それは何を降魔させたのかがタクミにはわからなかったのだ。

 今まで見てきた中でもジュエルならオーディン、ベルモンドならゴーレムと言った感じで何を降魔させたがわかったのだが今回は全くタクミにはわからなかった。

 そんな言葉を詰まらせたタクミの様子を見てスコットは一旦魔術を解いた。

 「ふう・・・。タクミが驚くのも無理はないよ。今見たように僕が使うのは降魔術なんだけど、なぜだか何の力を降魔させているのか自分でもわからないんだ。」

 「自分でもわからないって・・・。え?スコットの降魔術は代々継がれてきたもんなんだろ?それなら何の力を降魔させているのかも同じなんじゃないのか?」

 スコットの言葉に驚きを隠せないタクミ。

 「それが僕の家系、アズミナル家では驚くことにその代ごとに降魔させるものが変わるんだ。それも完全にランダムにね。しかも降魔させたものが相手の事を認めなければその正体は知ることが出来ないんだ。つまり僕はまだ認めてもらってないってことになるんだ。本当に恥ずかしながらね・・・」

 落胆したような様子のスコット。

 「そんな何を降魔させるかも自分で選べないなんて。ちなみにスコットの父ちゃん・・先代の皇帝は何を降魔させていたんだ?」

 「すまないがそれもわからないんだ・・・」

 「え!?なんでだよ!?」

 「なんでも僕の家系ではそれぞれが降魔させたものを自分の力で認識できるまでは、他の者は自分が何を降魔させているかを教えてはいけない決まりになっているんだ。他の力の事を先に知ってしまうと本人の降魔させるものに影響が出てしまうとのことでね。僕が父から教わったのはこの詠唱呪文だけなんだよ。」

 「マジかよ・・・。ってことは、まずスコットがしないといけないことはその降魔させている相手にスコットの事を認めさせてそいつの正体を知ることから始めないといけないんだな?」

 「そういうことになるね。正体を明かしてもらえさえすればこの降魔術の魔力は今よりもずっと強力なモノになるはずなんだ。」

 「なるほど。ちなみにその認めてもらうための条件ってのはわかるのか?」

 タクミの問いにスコットは無言で首を横に振った。

 「・・・だよな。なんとなく想像してたけどな。」

 「だからまずは僕自身の力が弱いせいだと僕は考えたんだ。だからタクミに僕が魔法を上達する手助けをして欲しいんだ!」

 スコットがタクミを真っすぐ見つめている。

 「わかったよ。そういうことなら遠慮しねーからな?俺も死ぬようなしごきを乗り越えてこの力を手に入れたんだからな!スコットにも同じような鍛錬してもらうぜ!覚悟はいいか?スコット!」

 「もちろんだとも!思う存分やってくれ!」

 タクミの脅しのような言葉にもひるむことなく即答したスコット。

 「フッフッフッ・・・その言葉忘れんなよ?」

 こうしてタクミによるスコットの為の魔法修業が始まった。



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