無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
三章 1 『魔装武具』
「起きてください!タクミさん。もう朝ですよ!」
「・・・う・・・あぁ。もう朝か。」
体を揺さぶられ目を覚ましたタクミ。目を開けるとシュウがそこにはいた。
「あれ?シュウか?俺なんでこんなところで寝てるんだ?」
シュウに起されて周りを見るとそこはどうやら宿のようだった。よく見るとアトスも寝ていた。
「覚えてないんですか?昨日は飲み過ぎですよ。タクミさんもアトスさんもすっかり酔いつぶれちゃって運ぶの大変だったんですからね。まったく・・・」
どうやら昨日は酔いつぶれてこの宿にアトスと一緒にシュウに運ばれたようだった。
「マジか。それは悪かったな。久しぶりのお酒でテンション上がってしまってさ。」
「ホントですよ。二人ともすっかり意気投合しちゃってましたもんね。まさかアトスさんもあんな風になるなんて意外でしたよ。あーもうアトスさんも起こさないと・・・」
そう言いながらシュウはいびきをかいているアトスを起こしていた。タクミもベッドから立ち上がり身支度を済ませた。
三人とも身支度を済ませて宿を出た。アトスは二日酔いといった感じがしていた。
「私としたことがすっかり飲みすぎたようだ。シュウにも迷惑かけてしまったね、申し訳ない。」
「僕は大丈夫ですけど、アトスさんそんな状態で本部に行って大丈夫なんですか?」
「ああ。それなら大丈夫だよ。エリーに頼めば回復魔法で二日酔いは治るからね。あまり得意気に言えたもんでもないが。アハハ・・・ドズール隊長には内緒にしといてくれよ?」
この世界では二日酔いも魔法で一発で治るらしい。やはり魔法とは便利なんだなとタクミは思った。
「そういえば、エリーさんとレミはあの後どうしたんだ?」
「レミさんはエリーさんの家に泊まるって一緒に帰っていきましたよ。あの二人もすっかり仲良さげにしてましたもん。」
「なるほどな。レミもすっかりエリーさんの事をお姉さんみたいにしたってるよな。」
「そうですね。レミさんは一人っ子みたいでお姉さんが欲しかったって昨日も言ってましたもん。」
「エリーにもレミくらいの妹がいるからな。だからエリーにとってもレミは妹と変わらない感じなんだろうな。エリーはかなり優しいからな。」
「そうですね。でも束縛魔法を使っているエリーさんはなんだか怖かったですけどね。」
「確かに。」
シュウとアトスが声をそろえて答えた。
そんなやり取りをしているうちに魔法騎士団本部に到着した。制服に着替える三人。
「お?タクミも来たな。昨日は楽しめたか?」
着替えを済ませたタクミを呼び止める声がした。ドズールだった。
「ども。おかげさまで楽しめましたよ。」
「そうか。それは良かったな。アトスは飲み過ぎてなかったか?あいつはいつも任務は真面目だが、酒が入るとはしゃぎ過ぎるところがあるからな。」
「アハハ・・・そうですねアトスさんも楽しそうでしたよ。」
ドズールに内緒ってほとんどバレてんじゃん!ていうかいつもあんな感じなのかよ・・・
内心アトスにツッコみを入れるタクミだった。
「それよりもタクミも準備は出来ているな?ウルガンドの件で話があるから俺と一緒に来てくれ。」
ドズールに連れられて向かった部屋にはクリウスとウインズが待っていた。
「昨日は初任務ご苦労だったね。ゆっくり休めたかい?」
ウインズがタクミに聞いてきた。
「ええ、おかげさんで。それよりも話ってなんですか?」
「それはなによりだ。今日来てもらったのは君がウルガンドで討伐して連れ帰ってきた狂魔六将の一人ベルモンドとその部下を昨日から色々取り調べをしたんだが、なかなか有力な情報が得られなくてね。ただ一つ気になることがあってね。」
「気になること?」
「ああ。どうやら邪神教徒の奴等はウルガンド同様にいくつかの街を占領しようと侵略行動をしているらしい。ウルガンドは無事に守ることが出来たが。そしてそれと同時に奴らはこの世界にある魔装武具を集めていることがわかった。」
「魔装武具って?伝説の武器とか?」
「魔装武具というのはそれ自体に魔力が宿っている物の事だ。ジュエルの扱うあの槍も魔装武具の一つだ。あれも相当な魔装武具だ。」
ドズールが補足的に説明を入れてきた。
「へぇ。やっぱり凄いものだんだんだな。」
「そしてこの魔装武具には様々なものがあり中には伝説的な魔力を持っている物もあるんだ。そしてこの魔装武具の中の一つ、幻水の指輪というものがあるんだ。これを狙っているという情報を得ることが出来た。」
「幻水の指輪?それってどういうものなんすか?」
「幻水の指輪というものはその透き通るような魔石でどんなものも操ることができるとされている魔装武具だよ。これを邪神教徒の手に渡すのは非常にマズイ。そしてこれはエスミル山という山の頂上付近にある祠に祀られているということがわかっている。」
「じゃあその幻水の指輪ってやつを奴等より先に持ってくればいいんすね?」
「簡単に言えばそうなるね。ただこのエスミル山には幻水の指輪を守っているとされる神獣がいるとされているんだ。」
「神獣!?それってどんな奴なんすか?」
タクミが恐る恐るウインズに尋ねた。
「その神獣は水龍と呼ばれている。巨大な体に鋭い牙と爪を持ち、水を自由に操ることが出来ると言い伝えられているんだ。一度この指輪を欲しがった貴族が3千の軍を率いてエスミルに向かったそうだが水龍によって全滅させられたといわれているよ。」
「3千の軍を全滅させるって・・・それって俺が行かなくても邪神教徒の奴らも入手できないんじゃない?」
「確かに。その辺の軍だったらこの水龍の守りを突破するのは難しいだろうね。ただ今回の指輪を狙っている者の中に狂魔六将の一人魔剣使いのシーバスがいるんだ。シーバスが指輪を狙っているのならおそらく水龍の守りも突破されるかもしれない。」
「また狂魔六将かよ・・・。三千の軍でも無理だったものを突破できるかもってそのシーバスってそんなに強いのかよ?」
「シーバスはクリウス団長と対等に渡り合える力を持っているとされているんだ。」
ドズールがタクミの後ろから割って入ってきた。
「団長と!?」
ドズールの言葉に驚くタクミ。 ここでずっと黙っていたクリウスが口を開いた。
「シーバスは私の兄弟子にあたる者だ。幼い時一緒に剣を修行していたのだ。その時は私はシーバスに一度も勝てなかった。もちろん私もあの時よりは力をつけているのだがシーバスが一体どれほどのものになっているのかは私にもわからない。なので今回の任務には私も同行することとする。」
「えぇ?団長も一緒にって!?しかも団長の兄弟子ってなんでそんな人が邪神教徒なんかに?」
「シーバスが邪神教徒に入った理由か・・・」
タクミの問いにクリウスは腕を組み目をつぶった。何かに思い耽っているようだった。
「・・・まあ、それは今は関係のないことだ。今回はウルガンドの任務のメンバーと私が加わることにする。それと一般兵を千ほど連れてエスミル山を目指すこととする。それで良いか?ウインズ。」
「ええ。それでは昼には準備ができるでしょう。ではタクミも用意を整えてくれたまえ。」
こうして新たな任務を言い渡されたタクミは部屋を出て準備をすることとなった。
部屋から出て歩いているとアトスとシュウがいた。エリーとレミも合流しているようだった。
「タクミ。話は聞いたよ。今度はエスミル山に団長と一緒に行くそうだね。」
アトスが話しかけてきた。どうやらエリーさんに二日酔いを治してもらったのか元通りの姿だった。
「みたいっすね。団長も一緒とかなんか大事すよね。」
「そうだね。まあ狂魔六将のシーバスが関わってくるのなら仕方のないことなのかもしれないよ。シーバスと団長は私怨のようなものもあると聞いているからね。」
「そういえば団長の兄弟子とかなんとか言ってたな。」
「私も詳しくは知らないんだけどね。ただ団長が来てくれるならこんなに頼もしいことはないよ!私たちは団長を信じてついていくだけさ。」
「それにタクミもいるしね!」
レミが茶化すように言ってきた。
「そうね。すでに狂魔六将を倒した一人としてこの本部でも話題になってるみたいだしね。頼りにしてるわよ?酔っ払いさん?」
エリーもタクミを茶化すように笑っていた。若干アトスもバツが悪そうだった。
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