無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

一章 7 『4大?魔法』

 ローゼが荷車からヒョイっと身軽に地面に飛び降りてきた。

 その少女は身長はタクミの肩辺りぐらいで、艶々しい赤髪が印象的でその全身に白いローブをまとっていた。その言動から育ちの良さを感じさせる雰囲気をまとっていた。 

「あなた・・なんだか見たことないような服装してるわね。どこの国からやってきたの?」

 ローゼが尻もちをついているタクミをまじまじと見つめ不思議そうに問いかけた。どうやらこの世界にはジーパンやポロシャツは物珍しい様子だった。

 「俺は・・・日本っていうところから来たんだ。ヨイショっと」

 タクミは起き上り、汚れてしまったお尻を両手ではたきながら答えた。

 「にほん・・・?なんだか聞いたことないところね。どのあたりにあるのかしら?」

 タクミの答えを聞いて、ローゼの瞳には好奇心の色が強く映った。

 「うーん・・・どのあたりって聞かれてもな。たぶんこの世界にはないんじゃないか?」

 この答えにローゼは目をキラキラさせながら、さらにタクミに詰め寄り質問を投げかけてきた。

 「え!?なにそれ!?まるで違う世界からでも来たかの言いようね?でもあなたからは魔力を感じるのだけど・・・それはどーいうことなの!?」

 ぐいぐいとタクミに迫るローゼ。ローゼの顔がタクミの近くまで近寄ってきて、その純粋な瞳にタクミは照れから思わず視線をそらしてしまった。なんだかいい匂いもした。

 「そ、そんなこと聞かれても俺だってわかんねーよ!今この状況だってまだ理解出来てねーんだよ!」

 「そうなの?変な人なのね。さっきのモンスターだって魔法が使えるなら簡単に追い払うことだって出来たと思うのだけど?」

 明確な答えが得られなかったのが不満だった様子のローゼがさらにタクミに聞いた。

 「だからわかんないんだって!その魔法だって俺は使い方がわかんねーんだよ。お前なんかしら・・・」

 「ローゼ!!私はお前じゃなくてローゼよ。ローゼ!わかった?」

 お前呼びが気に入らなかった様子のローゼがムスッとした様子でタクミに詰め寄った。

 「うぐっ・・わかった!わかった!で、ローゼは何かその魔法とやらについて知らないか?知ってたら教えてくれよ!」

 タクミはその勢いに圧倒されながらも何か情報をつかもうと必死だった。 

 「本当に魔法について何も知らないのね。いいわ!ちょうど次の町に行くまで暇だし馬車の中で色々と教えてあげるわ。いいわよね!?マルク?」

 ローゼが馬を撫でているマルクという男に振り返り聞いた。

 「ローゼお嬢さまがそれでよろしいなら。」

 マルクは優しく微笑み答えた。どうやらローゼは名家のお嬢様といった感じだった。マルクは執事のようなものだろう。

 「ありがとう!それであなた名前は?」

 「それは助かる!俺はタクミって言うんだ。よろしく頼むよ」

 とりあえず悪い奴じゃないようだ。それがタクミがローゼに対しての第一印象だった。

 こうしてタクミはローゼと一緒に荷台に乗り込み、マルクは馬を次の町に走らせた。

 タクミは昨日から起きた出来事を一通りローゼに説明した。

 その話を聞いてローゼはふーんっといった感じだった。

 「まぁ、あなたの言うことは正直信じられないのだけど、嘘をついてる感じはしないわね。それにあなたが魔力をまとっているのに魔法が使えないのも説明がいくものね。それにそのフェルっていう生き物も聞いたことがないし・・・だけど言ってることはホントよ」

 タクミが異世界から来たということも意外にもすんなり受け入れていたようだ。さらにローゼは続けた。

 「確かに精霊の加護を受けているというのは魔法使いの中では高位の位になるわよ。それは使い勝手が良いからなの。精霊の加護を魔力として使って様々な力を発揮することが出来る人のことを指すわ。」

 「ふーん・・・やっぱりすごいのか」

 タクミはフェルが見せてみた魔法を思い出し、改めてその凄さを実感した。

 「そうよ!単純に魔力をつぎ込めばつぎ込むほど魔力があがるんだから!ただこの精霊の加護をうまく使うのはなかなか難しい行為なの。それには才能や努力が欠かせないものね」

 才能・・・努力・・・どっちも俺にはないじゃん!!

 タクミはローゼの話を聞きながら一人勝手に落ち込んだ。

 そんなタクミの様子をよそにローゼは続ける。

 「この世界には大きく分けると4つの魔法が存在するわ。まず一つがあなたのその精霊の加護を魔力とする魔法。精霊術とも言われているわ。次に降魔術と呼ばれるものがあるわ。これはこの世ではない世界、例えば冥界、魔界、霊界など様々な異世界からその力を自分自身に降魔させてその力を使うことを言うわ。これは精霊術とは違いどっちかというと特化した魔力が特徴的ね。そして次が・・・」

 そういうとローゼは自分の右手の甲をタクミに見せた。

 ローゼの手の甲には家紋というかなにやら円に描かれた赤い紋章のようなものが刻み込まれていた。

 「そしてこれが三つめの紋章術というものよ。これは主に代々その一族に引き継がれている魔術よ。その家柄をあらわすかのような魔法が特徴的ね。ちなみに私は炎を得意とする紋章術をつかうわ」

 ローゼは右手の紋章をタクミに見せるとニコッと無邪気な笑顔を見せた。

 「おぉーなるほどね!わかりやすい説明だよ!それであと一つはなんなんだ?」

 感心しながらタクミはローゼに質問した。

 「あとひとつはこのそれにも属さない魔法のことを指すわ。」

 「どれにも属さない・・・・?」

 「うーん・・・なんというか・・・まさに特異な存在といったものかしらね。このどれにも属さない特殊な魔法を考え出しちゃう人がたまにいるのよね・・」

 ローゼはなんだかバツが悪そうに答えた。

 「ローゼ様。まもなく到着しますぞ」

 外からマルクの声が聞こえてきた。

 荷台の隙間からそっと外をのぞき込むタクミ。そこには大きな門が見え、その奥に栄えている町が目に入ってきた。

 「ありがとうマルク。さぁタクミ!ここがアーバンカルよ!」

 ローゼはまた普段通りの活き活きとした様子へと戻っていた。






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